デート・ア・ライブ 凜祢アナザーリバーション 作:でぃすぺあー
頻繁に過去のやり取りを挟みながらひたすら会話というよく分からないスタイルに挑戦。
まあなんとか………なるのか?
―――『しょうらいのゆめ』
―――いちねんさんくみ いざよいみく
―――わたしはうたうのがすきです
―――だーりんにきいてもらうのがいちばんだいすきです
―――わたしがおうたをうたうと、だーりんはいっぱいほめてくれます
―――だからわたしのしょうらいのゆめはかしゅになることです
―――せかいでいちばんのかしゅになってだーりんにいっぱいほめてもらいます!
「えへへー、懐かしいなぁ。あとちょっと恥ずかしいですー」
「美九、どうした………、って、なに拡げてるんだよ。整理してるのに、典型的な片付かないパターンだろそれ」
「まあまあいいじゃないですかー。これでしばらく見納めかもですし」
「……そう、だな」
「アルバムが多くて、でも文集とかも挟まってます。こうしてみるとけっこうごちゃごちゃしてますねえ」
「頻繁に出し入れするもんじゃないしな。だから整理……も何も、くつろぎ体勢で既に開いてるし、全く」
「あ、こっちの写真とか更に昔のやつですよ!一緒に札幌まで旅行に連れてってもらった時のですー!」
「ああ、雪まつりだっけ?」
「はいー。ふふ、だーりんが滑って転んじゃって、泣いて甘えてきたんです。
…………きゅんきゅんするくらい可愛かったなぁ」
―――びえええぇぇ、だぁりいぃーーーんっっ!!つめたいよぉぉっ!!
―――だ、だいじょうぶ?いたい?
―――うぐっ、えぐっ、いたい、つめたい……っ。
―――あわわ、ど、どうしよっ
―――……よしよし
―――え?
―――よしよししてっ!ぐすっ、よしよししてぇっ、だーりん!!
―――!!これで、いい?なおる?
―――ぅ。もっと。もっとよしよしぃ……っ
―――わかった。いたいのいたいの、とんでけー
「…………ん?」
「私だーりんより一つおねーちゃんですから。今でもあんな風に甘えてくれてもいいんですよぉ?」
「いや、まあ。別にいいんだけどな」
「!!ほんとですかぁ!?いつになくだーりんが素直ですー、では早速―――」
「え?あ、違、そういう意味じゃ……!」
「大丈夫です遠慮しなくてー。ほら、ぎゅーって来て?」
「…………えっと」
ぎゅー。
(で、体勢が座った俺の背中に乗っかって首に腕を回す美九になる訳だが……これは俺が美九に甘えてるのか?)
「ふふ、だーりんの甘えんぼさん。そんなだーりんも、大好きですよ?」
「俺も好きだよ。美九が幸せそうでなによりだ」
「ああんもう、だーりぃーーんっ!!」
「うわ、待て、胸ですりすりする……わぷ!?」
「やあんだーりんのえっちぃ」
―――だーりん、アイドルですよ、アイドルっ!!
―――天海春香?
―――ええ、春香ちゃんと同じアイドルです。………候補、ですけどー。スカウトされちゃいました!!
―――すごいじゃないか!受けるのか?
―――もちろんですー。アイドルって言ったら歌ですからー。私の、夢だもの
―――そっか。そうだよな。応援するよ、美九の一番のファンは俺だからな!
―――はい!だーりんは、一番近くで応援してくださいねー
「…………」
「この辺りは、俺たちが中学生になるくらいから先だな」
「……だいじょうぶです。私には、だーりんがいます。だーりんが、いれば」
「………そうか」
「でも―――ちょっとだけ。手をぎゅって、握ってください」
「ああ」
―――だーりん、だーりんっ!バックダンサーでほんのちょっとだけど、私ライブに出るんですぅ!!
―――うん、聞いたよ。もちろん見に行くよ。
―――嬉しいですー。いっぱい頑張りますね!
「下積み期間って、そんなに長くなかったですよね。アイドル業界だからで、劇団とかじゃないからかもですけど」
「そうだな。覚えてるよ、これが美九が初めて出したCD。俺が初めて自分のおこづかいで買ったCDだった」
「そうでした。ただであげられるって言ったのに、だーりんってばわざわざ発売日にCDショップ回って買ってきて。練習も出来てないサインなのに、入れて、って」
―――だーりん、ソロライブです!こればっかりは、招待されてください!すごくいいところから、私の歌う姿、見てもらうんですからぁ!!
―――ありがとうな。でも、ファンの前でだーりんとか言うなよ?マネージャーにも釘刺されたんだろ?
―――ぶー。だーりんはだーりんなのにぃ
―――こらこらアイドル。しっかりしろって
―――ふーんだ、わかりましたよ“しどーさん”
―――あはは、なんか新鮮だな
「すぐに二枚目、三枚目と出せて。ユニットが幅を利かせてる中で、今思えば異例の躍進でしたねー」
―――だーりんだーりん、今見ました?朝のニュースで、私の歌がランキングに入ってたんですよぉ!!
―――そうなのか?悪い、一瞬だから見逃した
―――…………むー。こうなったらもっと有名になって、特集コーナーになって私しか映らないようにしてやりますー
「…………調子に乗ってたのかな」
―――………え?
―――クスリ?マクラ?ごめんなさい、言ってる意味が分からないです
―――とぼけるな?そんな、違います
―――違うっ、聞いてっお願い!!待って!!
―――してない。そんなこと絶対してない、する筈ない、のに。
「夢なんて、見なければよかったのかもしれない」
―――なんで………あれだけ笑顔で応援してくれたのに
―――なんで信じてくれないんですかぁッ!!
「―――夢なんて見なければ、こんな思いをすることはなかったかも知れないんだ、って」
―――その時、私にはそうとしか思えなかった。
――――。
『美九、美九ッ!俺だ、士道だ!頼む、ドアを開けてくれ……っ』
『…………』
『心配なんだよ………っ。俺は美九のこと知ってる、誰よりも信じてる!でも、あんなことされて、ひどい事言われて、美九がどんな辛い思いしてるか想像できちまうんだ!!』
『だーりん………』
『頼むから、顔だけでも見せてくれ。一人にならないでくれ!』
『………』
『ほんとに優しい。優し過ぎますよ、だーりん』
『でもだめ。絶対だめ。そんなだーりんだから、世界で一番になって、輝いてる私を見て欲しかった
―――そんな私を、いっぱい褒めてほしかった。よしよしって……して、欲しかった!』
『そんな夢を見てた…………だから、だからせめてっ』
だーりんだけは、今のこんなカッコ悪い私を、見ないで。
『嫌だ』
『せめて美九の顔を見るまで、俺は諦めない。例え美九の頼みだって――――美九の泣き顔を見ないふりなんて、できるか』
…………。
…………。
…………。
(三日、経った)
(だーりんはやっぱり私の部屋の前にいる)
(判る、離れたのは本当にどうしようもない用事で数回だけ)
(ろくに食べても飲んでもない、眠ってもない―――判っちゃう、だってだーりんのことなんだもの)
(よくない、このままじゃ、だーりんが体を壊す)
(ううん、もう遅過ぎるくらいなのに………私の馬鹿。絶望に沈むのなんていつでも出来る。その前に)
だーりんに嫌われないと。だーりんに見捨てられないと。私の為に、彼が犠牲になっていい訳が無い。
『いつまで私の部屋の前に居座るんですかあ?』
『………久しぶりに、口きいてくれたな』
『だって言わないと分からないみたいなんですもの。あなた今自分のしてること理解してます?ストーカーですよストーカー、マジで気持ち悪いですー』
痛い、心がザクザク裂かれてるみたい。
逆に笑いが出そう、あれだけ心の殻に籠った私に、まだこんなに傷つく心があったなんて。
でも、今だけでいいから。
ほんの少し頑張って―――だーりんに、嫌われる。
『ちょっとやさぐれちゃったか?でも、悪態つけるだけの元気は出たんだな。よかった』
そんな、そんな優しいこと言わないで。
決心が鈍りそう。
『はあ?よかった?あなた罵られてるんですよぉ?マゾなんですか不感症なんですかそれともそれすら理解出来ない低脳なんですかぁ?ああもう気持ち悪い、ほんと気持ち悪いの一言しか出て来ません。怖気が走ります』
『効かないな?ちっとも心に来ないだけだよ、美九は口げんかに向いてない』
『何ですかそれ、見下してるんですか?』
『悪口だって言葉だ、心に響かせたいなら―――せめて相手の顔見て言えよ。基本だぞ?』
『…………っ』
そんなこと出来る訳が無い。
声だけでも限界なのに、だーりんの顔なんてみたら、簡単に振り切れてしまう。
縋って甘えてしまう。
『うるさい……うるさい!!消えて、どっか行って!!いなくなってしまえッ、だ……、“しどーさん”なんか、しどーさんなんか、だいっきら――――』
『俺は大好きだぞ、美九のこと』
――――。
『カッコ悪くたっていい、そんなこと関係なくて、俺は誘宵美九っていうたった一人の大切な幼馴染のことが、ずっと大好きなんだ』
待って。
ねえ、待ってって言ってるの、わたしの手。
なに勝手に、ドアの鍵開けてるの?
『私だって………だーりんのこと、好き』
なにを口走っているの、わたしは。
ずっと大切に暖めてた告白を、人生で一番素敵な日にしようと決めてた告白を。
お風呂にもずっと入ってない、ぼさぼさの髪と隈だらけの酷い顔で。
罵詈雑言をまき散らしたばかりのその口で。
『そっか。ありがとな』
『…………っ!?』
なんで――――だーりんは、そんな最低の女にキスしてくれるの。
………認めるしかない。
私の負け。最初から勝てる筈が無かった。
私にはまだ、彼がいる。
絶望することだけ絶対に許してくれない、愛しい人がいる。
幼い頃からの夢はもう叶わないけれど―――頑張って生きてみようって、そう思った。
―――アイドル、辞めるのか?
―――さすがに、ですねー。見る目も厳しいですし、そんな中盛大にいろいろサボりまくりでしたからー。世間はそんなに甘くないです。
―――………美九。
―――だーりん?
―――強がるな。アイドル辞めるっていうのなら、ファンの前でだって、どれだけ泣いたっていいんだ。
―――お疲れ。
―――……………ぅ、ぁ。
―――ああああああああああああああああぁぁぁあああぁぁぁぁっっっっ!!!!!!
雑然とした思い出を、整理した最後の段ボールにガムテープで封をする。
対して重くはないそれをスチールの棚に放り込んで、彼女は思い切り伸びをした。
かつてアイドルだった頃の薄紫の長髪は一度ばっさりと切っていたのだが、今はもう肩を覆うくらいには伸びている。
それをたなびかせながら、誘宵美九は後ろにいる幼馴染に、これからもずっと共に歩いてくれる大事なひとに向き直った。
「これでよし。新生活に向けて、整理終了ですぅ」
「よかったのか?結局、何一つ持っていかないで」
「何言ってるんですかー?………だーりんを、持っていくんですよぉ?一番大切で忘れちゃいけなくて、頑張ってずっと持っていかなきゃいけないものじゃないですか」
「あはは………」
かっこよくて、決めるところに決めてくれて、でもたまに愛情表現に照れる士道に。
美九は背負う影など欠片もない笑顔を見せた。
もう何一つ心配することなんていらないんだと、証明する為に。
「過去は、ここに置いていきます。世界一の歌手にはなれなかったけれど―――――世界で一番素敵な私のだーりんが、いてくれるから」
“捨てる”ではなく“置いていく”。
いつか、ただ純粋な懐かしさで拾いに来れる、その日まで。
「これからもよろしくお願いしますね、だーりん……………いいえ、あなた?」
笑顔で掲げるその左手薬指。
約束の銀色が、汚れない光を放ち続けていた。
「――――やっと、二人目」