「偵察隊が、全滅……⁉︎」
二週間ぶりのグランザム。血盟騎士団本部に戻ったキリト、アスナ、ユウを待っていたのはそんな知らせだった。淡々とヒースクリフは続ける。
「昨日のことだ。75層迷宮区のマッピング自体は時間は掛かったが、なんとか犠牲者を出さずに終了した。だがボス戦はかなりの苦戦が予想された……」
話を聞くキリトとアスナ。ユウはウルトラマンの人形で遊んでいる。
「そこで我々は五ギルド合同の20人パーティを偵察隊として送り込んだ。偵察は慎重をきして行われた。十人が後衛としてボス部屋入り口で待機し……最初の10人が部屋の中央に到達して、ボスが出現した瞬間、部屋が閉じてしまったのだ。ここから先は後衛10人の報告になる。扉は五分以上開かなかった。鍵開けスキルや直接の打撃、何をしても無駄だったらしい。ようやく扉が開いた時、部屋の中には何もなかったそうだ。10人の姿も、ボスも消えていた。転移脱出した形跡もなかった。彼らは帰って来なかった。念の為、基部フロアの黒鉄宮までモニュメントの名簿を確認しに行かせたが……」
そこから先の言葉はなかった。
「10………人も………。なんでそんなことに……」
「結晶無効化空間……?」
キリトが聞くと、ヒースクリフは小さく頷いた。
「いよいよ本格的なデスゲームになってきたわけだ……」
「だからといって攻略を諦めることはできない」
ヒースクリフはきっぱりと言った。
「結晶による脱出が不可な上に、今回は今回はボス出現と同時に背後の退路も絶たれてしまう構造らしい。ならば、統制の取れる範囲で可能な限り大部隊をもって当たるしかない。よろしく頼む」
ヒースクリフがそう言うと、三人はグランザムから出た。
*
75層コリニア市のゲート広場。すでに何人かの攻略チームが集結していた。
「しかし、ユウのアホはどこに行ったんだ……?」
「え、一緒じゃなかったの?」
アスナとキリトはそんな話をしながら広場に向かう。
「困ったな……ユウがいないと勝てるものも勝てねぇぞ」
「うーん……」
二人でキョロキョロしていると、後ろから声がかかった。
「よう!」
エギルとクラインだ。
「なんだ…お前らも参加するのか」
「なんだってことはないだろう!今回はえらい苦戦しそうだって言うから、商売を投げ出して加勢に来たんじゃねえか。この無私無欲の精神を理解でき」
「そんなことよりユウ知らないか?」
「あの、話くらい最後までさせて?」
エギルの台詞をまったく無視してキリトが聞いた。
「クライン、知ってるか?」
「見てねえな。なんだ、一緒じゃねえのか?」
「ああ。いなくなっちまっ……」
その時、ウオオオオオオッッ‼︎‼︎と男の歓声が聞こえた。その男達の中央にはどこかで見た女の子が立っていた。
「いいか!我々は全プレイヤー解放のために戦っている!これまではその想い一心で戦ってきた!だが、これからのボス戦は前情報がない。つまり、死ぬ確率がこれまでに比べ遥かに高まっている!それでも、我々は戦わなければならない!全プレイヤーのために、そして未来のためにッ‼︎恐れるな、挫けるな、妥協するな‼︎自分の限界まで闘い抜けッ‼︎」
そして、ウオオオオオオオッッ‼︎‼︎と歓声が上がる。
「なにあのグダグダな演説とその主のバカ」
キリトは思わず毒をぶちまけた。
「さぁ……でも、指揮は高まってるからいいんじゃねえか?」
「あれ、俺の妹なんだぜ……」
心底嫌そうにため息をつくキリトだった。すると、ヒースクリフがユウの元へ。
「いい演説だったぞ、ユウくん」
微笑むヒースクリフ。
「ぐっじょぶ」
「いい感じに緊張感もほぐれたし指揮も高まった」
で、ヒースクリフは盛り上がっている全員にいった。
「欠員はないようだな。よく集まってくれた。状況はすでにユウくんも言ってくれた通りだ。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。解放の日のために!」
そして、ヒースクリフは軽く片手を上げた。
「では、出発しよう。目標のボスモンスタールーム直前の場所までコリドーを開く」
回廊結晶を使用し、攻略組メンバーはボス部屋前に向かった。
*
ボス部屋の中。
「………何か……やな感じだね……」
アスナが声を漏らす。
「ああ……」
「気味悪いぜ……」
「この緊張感、たまらないっ」
最後のユウだけ言ってることが違うが、中は禍々しい雰囲気になっていた。全員が緊張気味に中を見回る。
「上よ!」
アスナの声が響き、上を見上げると天井に百足がいた。
「固まるな!距離を取れ!」
「大鎌は俺たちが食い止める‼︎みんなは側面から攻撃してくれ!」
「おお!」
戦闘開始だ。
*
小一時間後、ボスモンスターがパキィィンッと四散した。全員が全員疲弊していて、ユウですらキリトに膝枕してもらっている状態だ。
「お疲れ、ユウ」
ユウの頭をなでるキリト。
「おにい……疲れた……こんな苦戦久しぶり……」
「ああ、俺もだ」
そのままキリトはクラインに聞いた。
「何人やられた?」
「………14人、死んだ」
「……うそだろ……」
エギルも声を漏らす。このままあと四分の一、25層もあるのだ。このままでは攻略組もドンドンと減っていくだろう。参ったようにキリトは息を吐き、ユウの頭を再び撫でる。そのユウは無表情でジィーっととある方向を見つめている。その先にはヒースクリフ。そいつは何食わぬ顔で疲弊しきっているプレイヤー達を見下ろしていた。まるで、檻の中で遊ぶねずみを見るような目だ。HPもイエローになっていない。
その様子を見ながらユウとキリトは前のデュエルの時を思い出した。あのとんでも反応だ。
「………おにい」
「ああ………」
そのままキリトがヒースクリフに向かってレイジスパイクを放つ。それに反応し、ガードするヒースクリフ。
「き、キリトくん⁉︎」
「なんの真似だね?」
アスナとヒースクリフが聞いた瞬間だ。ヒースクリフの背後から斧が直撃した。
「っ⁉︎」
「ユウちゃん……⁉︎」
そして、【Immortal Object】の文字が出る。不死存在。それを確認するなり、キリトとユウは距離をとる。
「システム的不死……?……って、どういうことですか……団長?」
アスナが厳しい顔で聞いた。それに構わずキリトとユウはあえてその場にいる全プレイヤーに聞こえるようにいった。
「これが伝説の正体だ。この男のHPはどうあろうとイエローまで落ちないようにシステムに保護されているのさ」
「不死属性をもつ可能性があるのはNPC以外だとシステム管理者以外ありえないっ」
「……この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった。あいつは今、どこから俺たちを観察し、世界を調整してるんだろう、ってな」
「ユウ達は単純な真理を忘れてた。どんな子供でもしってること」
で、二人は声を揃えて言った。
「他人のやってるゲームを横から見てるほど退屈なことはない」
「他人のやってるRPGをはたから眺めるほどつまらないことはない」
「「そうだろう、茅場晶彦」」
微妙に言ってることは違ったが、最後だけ合わせてなんとかカッコつける2人だった。
「まったく合っていなかったことはあえて突っ込まない。なぜ気付いていたのか参考までに教えてもらえるかな……?」
答えたのはキリトだ。
「最初におかしいと思ったのはデュエルの時だ。最後の一瞬だけ、あんた余りにも速すぎたよ」
「やはりそうか。あれは私にとっても痛恨事だった。君の動きに圧倒されてついシステムのオーバーアシストを使ってしまった」
で、ヒースクリフはゆったりとした口調でこたえた。
「……確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上階で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」
「ユウ的には最終ボス見るの楽しみだったから、ネタバレして残念」
「予定では95層に達した時にバラすつもりだったのだよ。それがまさか、4分の3地点でバレてしまうとはな……。君たちは兄妹はこの世界で最大の不確定因子だと思ってはいたが、ここまでとは。特にユウくん、君には驚かされてばかりだ。あそこまで将棋で追い詰められたのは初めてだ」
その時だ。1人の血盟騎士団のプレイヤーが立ち上がった。そして、巨大な斧を持って地を蹴った。
「貴様……貴様が……俺たちの忠誠、希望を……よくも……よくも……よくもーーーっ‼︎」
だが、ヒースクリフがパチンッと指を鳴らすと、ユウとキリト以外に麻痺毒が生じ、全員が地面にひれ伏す。
「……どうするつもりだ。この場で全員殺して隠蔽する気か………?」
「それは、ナンセンス」
「その通りだよキリトくん。そんな理不尽な真似はしないさ」
ヒースクリフはゆっくりと口を開いた。
「こうなってしまっては致し方ない。予定を早めて、私は最上層の紅玉宮にて君たちの訪れを待つことにするよ。だが、その前に……キリトくん、ユウくん、君たちは私の正体を看破した報奨を与えなくてはな。チャンスをあげよう。今この場で私と一対一、もしくは二対一で戦うチャンスを。無論、不死属性は解除する。私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる。……どうかな?」
「やる!」
『少しは悩めよお前ッ‼︎』
ユウの即答に全員が声を揃えて突っ込んだ。
「いいだろう。キリトくんはどうする?」
「妹にだけ戦わせて兄が逃げるわけにもいかないな。やるよ」
「………決まりだな」
最後の決戦だ。