言われた通り、キリト、アスナ、ユウは取り巻きの狩り漏らしを片付けた。だが、ぶっちゃければこの三人は次元が違う強さを持つ。だからこそ、ユウは飽きやすかった。
「つまんない…おにい、あとよろしく」
「はぁ⁉︎ち、ちょっ…ユウどこに行く気だよ!」
「少し遅めの、てぃーぶれいく」
「お前どこからホットドッグなんて……って、いってる場合じゃねぇ!何してんだ早く手伝っ……」
「がんば」
そのまま黙々とホットドッグを齧るユウ。
「このガキャ……」
「スイッチ!」
アスナに言われ、キリトは渋々コボルト狩りに戻った。そして、ユウを除く二人で仕事をしてる時、キリトの背中から声がした。
「アテが外れたやろ。ええ気味や」
「……………なんだって?」
キバオウの声だ。
「ヘタな芝居すなや。こっちはもう知っとんのや、ジブンがこのボス攻略部隊に潜り込んだ動機っちゅうやつをな」
「動機……だと?ボスを倒すこと以外に、何があるって言うんだ?」
「何や、開き直りかい。まさにそれを狙うとったんやろうが!」
おそらく話が噛み合ってない。キリトは意味がわからずただ黙りしていた。が、その答えをすぐにキバオウは言った。
「わいは知っとんのや。ちゃーんと聞かされとんのやで……あんたが昔、汚い立ち回りでボスのLAを取りまくっとったことをな!」
「な………………」
思わず息を飲むキリト。だが、なんとか堪えてキリトは聞き返した。
「………キバオウ。あんたにその話をした奴は、どうやってベータテスト時代の情報を入手したんだ」
「決まっとるやろ。えろう大金積んで、鼠からベータ時代のネタを買ったっちゅうとったわ。攻略部隊に紛れ込むハイエナを割り出すためにな」
キリトは押し黙った。すると、キバオウは仲間の元へ戻っていく。…………どうする。キリトは悩んだ。このままだと、ボス攻略後に自分が吊し上げられる可能性がある。恐怖で焦っていると、またまた後ろから声がした。
「おにい。気にしない」
「! …………ユウ」
「多分、あのサボテンは誰かに何かを唆されてりよーされてるだけ。気にしない」
「………ああ。サンキュー」
「それに、今の口ぶりだと、この中におにいとユウ以外のベータテスターがいることになる。そして、そいつはキバオウを使ってボスのLAを取りに行こうとしてる人物。相手が誰だか分かれば怖くない」
「………そうだな」
すると、アスナがこっちに戻ってきた。
「…………何を話してたの?」
「さ、さあ……なんか、文句言われてた」
「おにい、嘘が下手。アスナの顔が可愛いって言ってた」
「んなあっ⁉︎なっな、何を……!」
と、顔を真っ赤にするアスナを無視してキリトはユウに言った。
「いや、俺はアスナの顔見てないよ。ずっとフード被ってるし」
実際は、昨日家で風呂から飛び出してきたときに見ていたのだろうが、急な出来事で覚えてない。そんな事を考えながら戦っていると、キリトは見た。ディアベルが落ち着いた動作でボスの初撃を捌こうとしている。
「………まさか、な」
「おにい、余所見してないで働く!」
「ティーブレイクしてた奴に言われたくねぇよ!」
だが、その時だ。キリトとユウは何か違和感を感じてディアベルとボスの方を見た。違和感の根源はボス本人ではなく、武器だ。
「アレは…………!」
ユウが声を漏らす。
「だ……だめだ、下がれ!全力で後ろに跳べェェェッッ‼︎」
キリトはボスのあのスキルを思い出し、叫んだ。だが、その声はソードスキルのサウンドエフェクトにかき消された。そして、ボスはジャンプし、空中で体をギリリと捻り、落下すると同時にソードスキルを放った。それがディアベルに直撃した。
そのままさらにボスの追撃。思いっきりぶっ飛ばされたディアベルはドシャッと遠くで落下した。急いでキリトはポーションを握ってディアベルの元へ走ったが、遅かった。
「………後は頼む、キリトさん。ボスを、倒」
最後まで言い終えることなく、パキィィィン……とディアベルは消えていった。
その瞬間、うわああああ、と悲鳴が聞こえた。リーダーが最初に死ぬ。絶望的な空気がボス部屋を包んだ。キリトまでもがどうすればいいのか分からず、ただディアベルが消えた方向を眺めていた。
「何で………何でや……。ディアベルはん、リーダーのあんたが、なんで最初に……」
キバオウが膝をついた。そんなキバオウの頭に手が置かれる。ユウだ。
「まだ、ボス戦は終わってない」
そう言うと、キバオウは目を見開いた。
「なっ………」
「絶望しても、ボス戦は終わらない」
ガキに言われたくねぇよ。普通ならそう返すだろう。だが、ガキの言うことだからこそ、裏表のない素直な言葉だとキバオウは受け取った。そして、当のユウはキリトに振り返った。
「おにい、全体への指示、よろしこ」
「あ、ああ!」
「全員、武器、構え!」
そこで、ようやく機能するプレイヤー達。すると、アスナがキリトとユウの隣に立った。
「わたしも行く。パートナーだから」
「………解った。頼む」
そして、アスナはフードを取った。出てきたのは栗色のロングヘア。そのままアスナ、キリト、ユウはボスに向かって突撃した。
「全員、出口方向に十歩さがれ!ボスを囲まなければ、範囲攻撃は来ない‼︎」
その瞬間、最前線のプレイヤーたちがザッ!と音を立てて従った。
「アスナ、手順はセンチネルと同じだ!行くぞ!」
「解った!」
そのままアスナが先に突っ込む。キリトはユウに言った。
「ユウ!ボスの左手からの攻撃を全部頼む!出来るか⁉︎」
「らくしょう」
そのままユウは言われるがまま、ボスの左手からの野太刀の攻撃をソードスキルで相殺した。
「ちょー遅い」
そのままさらにバカでかい斧を振り回し、三回左腕を斬った。今更だが、幼女が自分の倍の大きさの斧を軽々振り回してるのはやはりシュールだった。
だが、ボスもまだ負けてない。左手の野太刀を大きく振り回す。ユウは捌ききれずに思わず躱してしまい、それがアスナに直撃しそうになった。
「あっ」
「!」
だが、その前に黒い巨体が斧を持って入り込む。その野太刀の攻撃を防いだ。エギルだった。
「大丈夫か」
「ご、ごめんなさい……」
「いいってことよ。ダメージディーラーにいつまでも壁やられちゃ、立場ないからな」
そのままアスナは回復のため下がった。
「ユウ、やるぞ」
「りょーかい」
キリトに言われ、ユウも乗った。そのまま二人は、ものっそいコンビネーションでボスを二人だけで袋叩きにする。キリトが素早くダメージを浴びせ、ユウが重い一撃を喰らわす。
「お、おお……」
「スゲェ……」
なんて声が上がる中、エギルが声を張り上げた。
「ボヤッとするな!あの2人が回復してる時は俺たちがタゲを取るんだ!」
その声に、「おおッ‼︎」と全員が声を出す。そのままキリトの指示に全員が従い、見事にボスを撃破した。
*
ボスが消えると共に、後方に残っていたセンチネルもキィィィンと散っていった。
そして、部屋の中央に出る【Congratulations】の文字。その瞬間、ワァァァッッ‼︎と歓声が上がった。両手を突き上げて叫ぶもの、仲間と抱き合う者と喜び方は人それぞれだったが、とにかく勝利した。すると、エギルがキリトとユウの前に立った。
「……見事なコンビネーションだったぞ。コングラチュレーション、この勝利はあんたらのものだ」
「グッ」
言われてユウはエギルに親指を立てた。すると、エギルも微笑んで親指を立てる。その瞬間だった。
「なんでだよ!」
声が響いた。そいつはディアベルの隊の者だった。そいつはユウを睨んでいる。
「なんでディアベルさんを見殺しにしたんだ!」
「見殺し……?」
ユウが呟いた。
「そうだろ!お前、ベータテスターなんだろ⁉︎だから、ボスの使う技、知ってたんだろ⁉︎お前が事前にディアベルさんに伝えてれば、死なずに済んだんだ!」
すると、「そういえばそうだよな……」「なんで……?攻略本にも書いてなかったのに……」と、声を漏らす面々。
「そうだ!だから、ボスの攻撃パターンとか、上手い狩場とか、全部知ってて隠してるんだ‼︎ガキだからって、なんでも許されると思うなよ‼︎」
ここで、普通の子供なら泣き喚くところだろう。だが、ユウは違った。
「別に、ユウは隠してない。そもそも、こんな異常なゲームが始まったら、他人に気を遣える人間なんているわけない」
「なっ……‼︎」
「むしろ本当に助かりたいなら、そっちからベータテスターにお願いしに来るべき。ベータテスター側からすれば、ベータテスターだからこそ、自分がさっさと他の人達を救うために頑張ろうと努力しようとしたはず」
「ちょっと、ユウ………」
アスナは止めようとしたが、ユウは止まらない。
「むしろ、攻略本を作ったりとこっちはサポートもしていた。そっちの努力不足」
「このっ……ガキだからって……‼︎」
「そのガキより弱いのは、オマエ」
それが向こうの限界だった。剣を持って斬りかかってきた。
「こんのおおおおおっっ‼︎クソガキがぁぁぁぁッッ‼︎」
が、その剣をキリトが弾いた。
「おいおい、人の妹に手を出すなよ」
「お前はっ……!」
で、キリトはユウの頭を撫でる。
「よくやったユウ。打ち合わせ通りいい演技だった」
「は………?おにい?」
意味は分からないが意図を察したユウは心配そうにキリトの顔を見るが、キリトは不敵に笑ったままプレイヤー全体を見ていた。
「おい、お前……演技ってどういうことだよ」
「まだ分からないのか。ユウにベータテスト時の情報を教えたのは俺だ。そうしておけば今回のボス攻略が随分と楽になるからな」
「なっ……!」
「他のベータテスターが必死こいて攻略本を作ってるの見て俺は反吐が出たぜ。余りにもレベルが低過ぎるもん作ってたからな」
「ど、どういう意味だよ……!」
「俺はベータテスト中に、他の誰も到達できなかった層まで登った。ボスのカタナスキルを知ってたのは、ずっと上の層でカタナを使うMobと散々戦ったからだ。他にも色々知ってるぜ、アルゴなんか問題ならないくらいな」
「………なんだよ、それ……」
「そんなの……ベータテスターどころじゃねぇじゃんか……もうチートだろ、チーターだろそんなの!」
すると周囲から声が上がる。チーターだ、ベータのチーターだ、その呼び名はやがて、ビーターと呼ばれるようになった。
「ビーター、いい呼び方だなそれ。そうだ、俺はビーターだ。これからは、元テスター如きと一緒にしないでくれ」
それだけ言うとキリトはユウの手を取って二層へと足を運んだ。そして、二層に足を踏み入れた。
「さて、ユウ。どうする?」
「………………」
「……………ユウ?」
「おにい、バカ」
「は?」
「ユウのためなんかに、自分で全部背負い込むなんて」
「あー……悪い……」
「もう、二度とあんな真似しないなら、許す」
「分かった。もうしないから」
「なら、パフェいっぱいで許す」
「結局パフェなの⁉︎」
「一杯じゃないよ?いっぱいだよ?」
「分かりにくいわ!」
そんな事を言いながら、歩いてると、後ろから声がかかった。
「待って」
「………アスナ」
「エギルさんと、キバオウから2人に伝言がある」
「へぇ……なんて?」
「エギルさんは、『二層のボス攻略も一緒にやろう』って。キバオウは『今日は助けてもろたけど、ジブンのことはやっぱり認められん。わいは、わいのやり方でクリアを目指す』だって」
「………そうか」
「それと……これは、わたしからの伝言」
「は………はい?」
「………その子、ちゃんと教育しなさいよ」
「えっ」
「ロクでもない育ち方してるから」
「は、はあ……」
「それだけ、じゃあね。ユウも」
「すぃーゆー」
「待って」
今度はキリトが声をかけた。
「なに?」
「君は、強くなれる。剣技だけじゃなく、もっとずっと大きくて貴重な強さを身につけられる。だから……もしいつか、誰か信頼できる人にギルドに誘われたら、断るなよ。ソロプレイには絶対的な限界があるから……」
「…………ええ」
そのまま、別れた。