「兄貴いないか?」
言われてユウは固まった。そのまま1分、言った。
「私に家族はいない。いるとすれば私の心の中だけだ……」
(それで誤魔化したつもりかユウ!バレてる!バレてるよー!)
もうバラしちまおうか、そうも思ったが「いやっ」と否定をする。
(もし自分の立場だったらどうだ。キャラ作りをしたものを兄、いや俺の場合は妹か。妹にバラされたら死にたくなるどころか死にたくなる!)
そう判断するとキリトはなんとか笑顔を取り繕って言った。
「そ、そうか……。や、なんでもない」
「それより君は試合だろう。早く準備したまえ」
「は、はい」
イラッとしたが頷いておいた。キリトはそのまま試合に向かった。
*
試合を終わらせてキリトは戻って来た。なんっ……とか勝てたぁ……と、思いつつもユウの元へ向かおうと思った。その時だ。
「おまえ、本物、か」
「……っ⁉︎」
後ろから声がして、反射的に飛び退りながら振り向くと、ボロマントの服装のプレイヤーがいた。目深く下ろしたフードの中には眼だけが仄かに赤く光っていた。
「本物って……どういう意味だ?あんた、誰だよ?」
キリトは聞き返す。が、そいつは答えにならない返答をした。
「試合を、見た。剣を、使ったな」
「あ……ああ。別に、ルール違反じゃないだろ」
「………もう一度、訊く。お前は、本物、か」
キリトはなにも返さない。頬に冷たい汗が通る。すると、さらに尋ねてきた。
「この、名前。あの、剣技。……お前、本物、なのか」
言いながら、ボロマントはトーナメント表を取り出し、キリトの名前を指す。その瞬間、キリトには見えた。ボロボロの包帯を巻き付けた細い腕の中に、どっかで見たエンブレムが見えた。
「質問の、意味が、解らないのか」
言われて慌てて顔を上げるキリト。そして、慎重に頷いた。
「ああ、解らない。本物って、どういう意味だ」
「………………なら、いい。でも、名前を、騙った、偽物か……もしくは、本物、なら」
で、去り際に言った。
「いつか、殺す」
その後ろ姿を見ながらキリトは震えていた。
(あれは……あいつは……ラフコフだ……)
そう思うとキリトはハッとした。
(こうしちゃいられない。キャラ付けなんか気にしていられるか!ユウに知らせないと……!)
そのままユウの元へ走ろうと思ったが、後ろからポンっと肩を叩かれた。
「ウオッヒァギャッ!」
「きゃっ」
振り返るとシノンが立っていた。
「な、何よ……。今の悲鳴……ていうか奇声?」
「し、シノンか……」
「なんて顔してるのよ」
「あ……い、いや、なんでも……それより、ユウは何処だ⁉︎」
「さ、さぁ?私は一緒じゃないけど……どうしたのよ」
「………いや、なんでもない」
「なんだかよくわからないけど、たかが一回戦でそんな有様じゃ決勝なんて夢のまた夢よ……って、どこに行くのよ!キリト!」
キリトは走ってユウを探しに行った。
*
結局、ユウは見つからず(ユウは女子更衣室で鼻くそほじってた)、キリトは次の試合となった。そのままほとんど放心状態で鬼のような強さを誇って敵をボッコボコにしていった。シノンもユウも順調に勝ち進んでいって、無事に決勝に進出した。