魔法少女リリカルなのは ~悪を断つ剣~ 作:ダラダラ@ジュデッカ
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満月の夜―——。
数日前に平穏を取り戻した海鳴市。いきなりの大騒動に人々は当初戸惑いを見せたものの、今ではすっかり落ち着いている。
本日の夜も、町の方は明るく、何も知らない無知な人々は其処で生活している。仕事が終わり、飲んでいる者やカップルで歩いている者もいれば、家族連れも。
皆がそれぞれ、思い思いの生活をしている。それは当たり前の事であり、当人たちも変わらぬ毎日だと“決めつけている”。
――――だが、この世界に生きている者全てがそのような生活を送れている訳ではない。
街中にあるビルの屋上。其処に、一人の少女が杖のようなものを持って佇んでいた。
強い風が少女に吹き付け、髪が揺れる。二つに結んだ髪と漆黒のマントが同時に揺れていた。
「……ロストロギアは、この付近にあるんだね?」
少女はぼそりと呟くように声を出したが、少女の辺りに人影は見られない。
あるとするならば、それは後方に控えていた狼のようなレンジ色の生物だけ。
恐らくは少女と何か関係があると思われるが、少女とはある程度距離を取っているためにいまいち分かり辛い。
「形態は蒼い宝石。一般呼称はジュエルシード」
“ジュエルシード”―――そう、彼女は言った。
なのは達が探している宝石と同じ事を言った彼女は、どうやらこの世界にジュエルシードが散らばっている事を知ってやってきたらしい。
それは、ユーノが恐れていたもう一つの事態。ジュエルシードの噂を聞きつけ、ここにやってくるという事。
「―――そうだね。すぐに手に入れるよ」
また、少女は耳には聞こえない声を聞いたのか、それに応える。
―――いや、声は確かに少女に届いている。しかし、それが常人には出来ない事であるため、少女には聞こえている声が聞こえないのだ。
それは、ユーノとなのはも行っていること。なのははレイジングハートを介して行っている行為であり、俗に“念話”と呼ばれる。
テレパシー、とでもいえば分かりやすいのか。だが、その念話が使えるという事は、この少女もまた、なのはと同様に魔法を使用できるという事だ。
其処まで呟いた彼女は、少しだけ視線を下方に向ける。
街中にいる家族の姿を見ていた少女の目は、何処か悲しげであった―——。
■
「あ、ありがとうございました!」
「うむ」
元気のいい声が道場のような場所から聞こえる。
高町家が所有する道場の中に、ゼンガー・ゾンボルトはいた。高町家から借りたのか、胴着に着替えており、その手にはいつもの木刀ではなく竹刀を持っている。
彼の前には、高校生くらいの少女がおり、彼女の手にもしないが握られている。しかし、その姿はやりきったといったような感じであり、息もまだ整っていない。
何故、ゼンガーが此処にいるのかと聞かれれば、それは高町士郎の誘いだろうか。
先日、翠屋に招待されたゼンガーであったが、その時にゼンガーに興味を持った。そして、休日である本日に道場に招待し、ゼンガーの力量を測ったのだ。
まあ、やる事もなし、相変わらずジュエルシード探しも滞っている現状で断る理由もなかった。更に、このような立派な道場で剣を振るうことなど、滅多にない機会でもあるからだ。
「いい太刀筋だった。これからも精進すれば、もっと強くなれるだろう」
「は、はい! 頑張ります!」
少女は嬉しそうに礼を述べる。
しかし、本当にいい太刀筋だ。が、やはり若さが出ている。しかし、それをゼンガーは彼女には伝えなかった。
若さが出るのも、今の段階では致し方がない事であろう。寧ろ、この歳で熟練者のような太刀筋をされても困惑する。
(……若いころ、俺も師によく言われたか……)
師―——リシュウ・トウゴウに、ゼンガーも何度も言われた事を思いだす。
彼との手合せは、まるでゼンガーが遊ばれているかのように全く抜けず、また追い詰めたこともない。今より何年か前には、「まだまだ青い』と言われて何度脳天に一撃をくらった事か。
恥ずかしい話であるが、今でもリシュウには適わない。どんなに年老いても鮮麗な動きをする師の姿に、ゼンガーといえども勝つことは不可能であった。
そのような事を考えていた矢先、今度は後ろから声をかけられる。ゼンガーが振り向くと、其処にいたのは彼を此処に招いた張本人である高町士郎の姿があった。
「いやあ、流石ですね。見ていて惚れ惚れするような動きでしたよ」
「いえ……。自分などまだまだ師に比べれば力不足ですので」
「お師匠さん……ですか? ちなみに、お名前はなんと?」
「―――……リシュウ・トウゴウといいます。我が流派である示現流剣術の達人です」
「示現流……? もしかして、あの示現流ですか?」
「恐らく、想像している通りかと」
士郎も剣に精通しているのは明らかだ。ならば、示現流の存在も知り得ているだろうとゼンガーは判断し、そう言った。
―――ちなみに、この示現流と呼ばれる剣術は昔の薩摩藩を中心に伝わって行ったとされている。
特徴は『一の太刀を疑わず』、『二の太刀いらず』と云われ、髪の毛一本でも早く打ち下ろせと教わるそうだ。まさに一撃必殺の心得に近いもので、これまでのゼンガーの戦いを思い出してみても、彼は一撃でジュエルシード暴走体を打ち砕いている様子が多い。
「なるほど……。まさか、貴方があの示現流を使う方だったとは。正直驚いていますよ」
「……左様ですか」
「ええ。私も名前は聞いたことがあるのですが、実物を見るのは初めてでしたので」
士郎や少女―——本名を高町美由希というらしい―—―が使用する剣術も相当だが、ゼンガーが使う示現流も今の時代となっては使う者が珍しいとされている剣術だ。
勿論、示現流を伝えている団体もあるし、その家系はまだ続いている。しかし、昔のような勢いは既になく、知る人ぞ知っているかのような代物であるといった方が正しい。
時代が流れるにつれて、こうした剣術が廃れていくのは悲しきことだ。だが、今のこの時代が剣術を求めていないという以上、致し方ない事なのかもしれない。
「しかし、本当にいい太刀筋ですね。よろしければ、今度は長男の恭也とも手合せ願いたいものです」
「是非に。俺に出来る事であれば、それぐらいは」
士郎の言った恭也といった人物は、なのはの兄の事であろう。どのような人物なのかは知らぬが、恐らくは士郎の剣術を一番に受け継いでいる子であるのだろう。
現在はなのはと一緒に出掛けているとの事だが、時間があれば、という事だろう。
「では、機会があればその時に。今日は私の我儘に付き合っていただき、ありがとうございます」
「……構いませぬ。此方も、このような立派な道場で剣を振るえる事は喜ばしい限りですので」
それは紛れもなく彼の本心だ。それを悟ったのか、士郎は微笑むように笑む。
またこの場所が使えるのならば、ゼンガー個人としても歓迎だ。士郎の好意的な態度に感謝しながらも、ゼンガーは胴着からいつもの服装へと着替えに行くのだった。
「……なのはも凄い人と知り合っちゃったねー」
「ああ。流石はお父さんの娘だよ」
士郎は嬉しそうに笑んでいたが、父が何処か喜ばしげなのも美由希にはなんとなく理解できた。
普段、高町家は他の剣術と相対せず、独自の手法で鍛錬を積んできた。示現流よりも衰退しつつある御神流であるため、鍛錬の成果を見せる場所もないといえばそうなるが。
美由希の成長も喜ばしいが、なによりゼンガーの動きを見れた事だ。雰囲気からも感じていたが、予想以上の剣士だという事が先ほどの様子からも伺える。
といっても、途中からはゼンガーが美由希の稽古をしているような感じになっていたのだが。
「どうだった、美由希。ゼンガーさんは」
「どうって?」
「剣を合わせてみての感想だよ」
「うーん、感想ねぇ……。なんというか、全体的に速かった印象かな?」
「速かった? 剣の一撃の事かい?」
「いや……うん。全部だよ。私が全然ついていけないくらいに」
示現流は一撃必殺の心得。それに加えて、全ての動きが早いとは。もはや、手が付けられるレベルではない。
勿論、美由希も何年も修行してきた身であり、その辺りの常人よりは剣の腕に関しては一人前である。しかし、ゼンガーの場合は、それ以上―——いや、もはや美由希では手が届かないくらいの領域にいるのではないのか。
だとすれば、美由希がついていけないと感じたのも納得だ。それほどの剣士なら、士郎自身が手合せしてみたいものだが、生憎体がいう事を聞いてくれない以上、断念せざるをえない。
(せめて恭也がいてくれればなぁ……)
この場に息子がいないのは非常に残念に思いながらも、果たして次はいつごろ彼の太刀筋を見れるのかを期待する士郎だった。
■
ゼンガーが高町家から離れた丁度その頃だったであろうか。
月村家敷地内―——。この場所において、一つの現象がおきていた。
「にゃー」
「…………」
「…………」
「にゃー」
いや、別にふざけているわけじゃない。今現在、眼前にいる生命体―——いや、猫だ。大きな猫が可愛らしく鳴いているのだ―——を見たなのはとユーノは、呆然と立ち尽くしていた。
彼等がここにいるのは、月村すずかに御呼ばれされたから。其処には友人であるアリサも同席していたが、話の途中でジュエルシードの気配を察知し、この場所に結界を張った。其処まではいい。
だが―——結界を張った直後、出現したのは大きな猫だ。のっしのっしと馬鹿みたいに大きな音を立てながらその場を歩き、特に襲ってくる様子もない。
「え、えっと、これって……」
「う、うん。多分、あの猫の大きくなりたいって願いがきちんと叶えられた結果じゃないかなー? あ、あはは……」
笑いたくなる気持ちは分からない訳ではないが、これまでの現状を見ている手前、きちんと願いが叶えられたことに驚きが半分と戸惑いが半分だった。
いや、あの猫が願った理由が単純明快だったのも幸いしたのかもしれない。強くなりといったどの程度まで強化していいのか曖昧なものではなく、ただ単純に大きくなりたい、と。
しかし、このまま巨大化させたままでいいわけがない。首をブンブンと振って我に返ると、なのははレイジングハートを取り出す。
「ともかく、元に戻してあげないと……」
「うん……。それがいいよ、多分」
「にゃーお」
なんとも言葉にし辛かったが、なのはの判断は正しい。
それに、あんな姿で追いかけられるような事があれば、ユーノはペシャンコになってしまうだろう。なのはも同様だが。
しかし、猫は戸惑った様子もなく辺りをキョロキョロとしているのみ。すずかも困るだろうし、早く戻してやろうとしたその時―——。
突如、黄色色の閃光が飛来し、それは一直線に猫へと向かって行ったのだ。
「にゃあああ……」
大きな声を上げ、猫がふらつく。
それは猫を殺傷する様なものではなかった。しかし、やったのはなのはではないため、なのはは驚いて後方を確認する。
そして、目を見張った。彼女の瞳に映ったのは、漆黒と衣服を纏い、金髪の髪をした少女。
黒色の杖を掲げ、それを猫の方に向けている。どうやら猫に光の閃光を放ったのは彼女のようだ。
「……バルディッシュ。フォトンランサー、電撃」
『Photon lancer. Full auto fire.』
少女が何かを唱えると、バルディッシュと呼ばれた杖から何本もの光の閃光が放たれる。
その閃光全てが猫に直撃すると、猫は痛みに絶えられなくなったようにその巨体を転ばせる。もはや動く事も出来ず、ぐったりとした様子の猫を見て、なのははすぐさまレイジングハートを握りしめた。
「行くよ、レイジングハート!」
『Stanby ready.Set up.』
見ていられないと思ったのか、なのはは変身した。レイジングハートもいつもの宝石の形状から杖の形をとる。
そして、彼女は猫の方に近寄っていく。その道中でレイジングハートが何事かを発した。
『Flier fin.』
フライアーフィン―—俗にいう飛行魔法である―——を使用し、なのはは靴の部分に羽を出現させて空を舞う。
このようなこと出来る魔法というのは本当に便利な物だと感嘆せざるをえないが、なのはは猫を守るようにその前に向かい、光の閃光から猫を護る為に防御魔法を発生させる。
「……? 魔導士……? 私以外にもこの世界にいたんだ……」
突如現れ、少女の攻撃を防いだ存在。そのような芸当ができるのは、やはり魔導師しかいない訳だ。
少しだけ驚きを見せたが、だからといって攻撃をやめる訳ではない。フォトンランサー—――先ほどの黄色い閃光の名である―——は防いだようだが、それは自分の正面にしか防御フィールを張っていない。
ならば―———。
(下方はがら空き、という事になる)
少しだけ軸線をずらし、猫の足元に向けて射撃を行う少女。
それは見事に猫の巨体に命中する。当たり前のように軸線をずらした様子を見て、なのははハッとした。
「下の方に……!?」
いきなりバリア範囲の外を狙ってきた事に、なのはは驚くと同時にもしも自分があの少女の立場ならば同じ事をやるだろうと思う。
なにも強引になのはを狙う必要などない。対象物は後方にいる猫自身なのだから、なのはを突破するよりも猫にダメージを与える事が本命なのだ。
その事を頭に入れていなかったなのはは、まだまだ実戦不足だという事を痛感させられる。
防御魔法を解いてレイジングハートを構えたが、少女は途端に攻撃をやめ、なのはの方へと猛スピードで迫りくる。
「えっ!?」
「…………」
無言。驚くなのはとはまるで対照的であると同時に、なのはよりも戦闘慣れしているのだろう。
近づくと同時に、漆黒の杖をなのはに向けて振り下ろす。なのはもハッとなってレイジングハートで受け止めたが、力は向こうの方が上のようであり、なのはが力を入れても押し切られてしまいそうだった。
「う……ううっ!」
「貴方も私と同系の魔導士……。ロストロギアの探索者か」
「だったら、なんだっていうの!?」
「……それを貴方に渡すわけにはいかない。だから―——」
少女が杖を力一杯に振り下ろしたが、なのはは空を蹴るようにして後退する。
力で負けていたのは先も感じていた。だからこそ、後退する準備を進めていたのだが。
しかし、漆黒の少女はそれを待っていたようで、杖―——バルディッシュを握り直すと、その杖の形状を変化させる。
『Scythe form.Setup』
主が指示したのであろうか。バルディッシュの先端部分が四十五度開き、開いた場所から黄色の色をした鎌状の光が溢れだす。
あの光は、少女の魔力光なのだろう。髪と同じく金色のような黄色を放った光の切っ先は、間違いなくなのはに向けられている。
「……っ!?」
「申し訳ないけど、ジュエルシードは私が頂いていきます」
「そんな……。あれは、危険なものなんだよ!?」
「知っている。でも―——」
其処まで言って、少女は口を結ぶ。代わりに飛んできたのは、少女の鎌だった。
(は、速い……!)
そう、速いのだ。なのはの肉眼でも確認は出来るが、とにかく動作が速く、隙を見せないように迫ってくる。
それに、なのはには近接格闘系の呪文を覚えていないという弱点も存在する。先日の大木事件の時のような遠距離攻撃のような呪文は少しだが覚えたが、このような場合に対抗する術を知らない。
だが、少女が早くてもどうした事か、ゼンガー程の速さはなかった。普段見慣れた速さよりも遅い事は確かだが、それでも見ている事と実際に迫られるのでは訳が違った。
『Protection.』
己が主が避けられないと判断したのだろう。レイジングハートはなのはの周りに防御フィールドを張り、直撃はなんとか免れる。
「あ、ありがとう、レイジングハート」
お礼を言いはしたが、この位置はまずい。なのはは防御フィールから出て、体勢を立て直す。
一方、少女もなのはが出たことを確認するや、すぐさま追撃にかかる―———と思いきや、少女は一瞬だけ杖を掲げると、その杖を振り下ろす。
『Arc Saber』
構えていた鎌の部分がまるでブーメランのように回転しながら迫ってくる。
それも、本物のブーメランのように横から飛んでくるものでない。何処か変則的な動きをしながらなのはに襲い掛かってくるため、なのはも避けようがなかった。
(なに、これ……? 軌道が読めない……)
元々そういう魔法なのかもしれない。ともかく、これもまた防がなければならないと感じたなのはは、今度は自分の意思でフィールドを展開する。
が、フィールドを展開して一安心―——という訳にはいかなかった。黄色い刃がなのはのフィールドに直撃した瞬間、まるでフィールドを“噛んでいる”かのような感覚がなのはを襲う。
「なに、なんなの、これ!?」
このままではフィールドを抜かれる。やむを得ず、なのははフィールドを捨ててもう一度後ろに後退する。
だが。それを予期していたかのように、少女がなのはの後ろを取っていた。表情を全く変えず、少女はなのはの後方で杖を握っている。
「嘘……?」
「“――――”」
気が付いた時には、もう遅かった。
バルディッシュによる渾身の一撃。それがなのはの背中より叩き込まれた。防衛用として全体にフィールドを張るのも間に合わず、その一撃が加えられたのだ。
これまでにない痛みと、脱力感がなのはを襲う。体に力が入らず、段々と体が地表に落ちて行く―——そんな感覚だった。
(なに、これ……。全然力が入らない……)
なのはは、落とされたのだ。紛れもなく、漆黒の少女の手によって。
「なのは!」
なのはが落ちた――――。それは、ユーノも見ていた。すぐさま彼女の落下場所に急行すると、蜂の暴走体の時にゼンガーの足場として利用した魔法“フローターフィールド”を使用して、なのはが地表に落下する前に受け止める。
ぐったりとして気を失った様子のなのは。彼女を心配そうに見つめた後、ユーノは警戒心を露わにした顔色を窺わせながら、漆黒の少女の方を見る。
「…………」
「君は……何を企んでいる!? ジュエルシードを使って、一体何をする気なんだ!?」
「…………。答えたところで、意味なんてない」
ユーノの問いに、少女は淡々と答えた。
意味がない、とはどういう事なのか。知る必要がないといった意味なのか、それとも―——。なんにせよ、これ以上なのはを傷つけさせないとユーノは身構えた。
しかし、少女の標的はもうなのはではない。ジュエルシードを発動させた猫を護る者はもういないのだから、標的が移るのも当たり前の事だった。
―――もしも、本当に残忍な人物であれば、気を失ったなのはを仕留めるぐらいはするだろう。本当に悪人であるならば、の話だが。
『Sealing form..Set up.』
シーリングフォーム―——なのはのレイジングハートのシーリングモードとほぼ同じ位置の形態であろう―——へとバルディッシュを変形させた少女は、その杖からとどめの電撃を放つ。
「にゃあああ……」
大きく、そしてか弱い声を上げながら崩れ落ちる猫。今度こそ気を失うと、その猫から弾きだされたようにジュエルシードが飛び出してきた。
ジュエルシードからは英数字で14の文字が浮かぶ。
『Order.』
「ロストロギア、ジュエルシード。シリアル14―――封印」
『Yes sir.』
本来ならばなのはが行うはずだった好意を、少女が行っている。
今でこそ気を失っているなのはがこの光景を見たら、どう思うのだろうか。彼女は、何を思うのだろうか。
ほどなくして封印が終了すると、少女はバルディッシュを持ったまま立ち去ろうとする。が、その前にもう一度気を失っているなのはとユーノの方を向いた。
「…………」
警戒心を露わにしているユーノと、なにも応えないなのは。そんな二人の様子に、少女は少しだけ目を伏せたが、そのまま背を向けて立ち去る。
突如現れて、ジュエルシードを持って立ち去っていく彼女の姿に、ユーノは更なる不安を覚える。
(また……厄介ごとが増えた、っていうべきかな)
そんな厄介ごとに、後ろにいる少女も巻き込んでいる―———。
巻き込んでしまったという罪悪感を感じながらも、ともかく人を読んでくるべきだと感じたユーノは、なのはに悪いと思いながらもその場から駆け出すのだった。
一方。あの場から立ち去った筈の少女は、未だに月村家の敷地内にいた。
別に止まるような場所でないところで止まっているのだから、勿論理由がある。というのも、それは眼前にいる人物のせいだろうが。
「…………」
「…………。気配がしたと思い、来てみれば―——まさか、なのはとは別の魔法少女がいたとはな」
「なのは……?」
「あの子の名だ」
それまで目を閉じていた人物は、ゆっくりと目を開いてから漆黒の少女の事を見る。
なのはと同年代であろうその少女は、悲しき瞳をしながら此方を向いている。彼女にも理由があるのだろうが、だからといってこの場を易々と通すほど彼も甘くない。
「貴方は……あの子の仲間?」
「―――ああ。だからこそ、あの宝石―――ジュエルシードを持ったお前を、見過ごすわけにいかぬ」
木刀を抜き、静かに構える。
見ただけで分かる、彼の気迫。油断していれば、確実にやられる。そう、少女は悟った。
「……邪魔、しないでください」
「それは出来ぬ相談だ。この場を通りたければ、俺を倒してから行くがいい!」
そう―———ゼンガー・ゾンボルトは言い放つのだった。
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