魔法少女リリカルなのは ~悪を断つ剣~   作:ダラダラ@ジュデッカ

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第十二話 決意

「あの杖や衣装、魔法の使い方を見ても間違いはないと思う。あの子は―——僕と同じ世界からやってきた住人だ」

 

「うん……」

 

 敗北の夜。家に戻ったなのはは、ユーノの憶測を聞いている最中でも、その顔色は暗かった。

 脳裏に焼き付いたように鮮明に思い出される光景。なのはよりも遥かに手慣れた魔法の扱い方や戦闘術。ああも簡単にあしわられ、少しだけ悔しかった。

 だが、それ以上に強く残った事は―———何処となく残った、悲しさだった。

 

「ジュエルシード集めをしているうちに、またあの子とぶつかっちゃうのかな……」

 

「考えたくはないけれど、多分……。相手も狙ってくる以上、こればかりはどうしようもないよ……」

 

「…………」

 

 ユーノに聞かなくても、それぐらいは理解できる。

 別に、なのはがあの漆黒の少女に対して恐怖を抱いたわけではない。寧ろ、先ほども感じたような悲しさが溢れてくる。

 同年代の女の子。互いに似たような力を持っているのに、どうしてぶつかってしまうのか。

 目的が違う? では、彼女の目的はなんだ? それはなのはにとって協力できるような理由なのだろうか?

 何も分からないのに、ただ敵対しているから戦う、なんて事はしたくない。少なくとも高町なのはという心優しき少女にとって。

 

(話してみないと、何も分からない。伝わらない―——)

 

 なら、どうしたら伝わるのか? どうしたら、彼女と対等に話が出来るのか。

 

(どうしたら―———いいのかな?)

 

 こればかりは、学校の問題を解くような事柄ではない。正確な模範解答というのはないのだ。

 寧ろ、解答があればどんなに良かったことか。どんなに楽な事か。でも、そんな事じゃいけない。

 

 たくさん悩んで、たくさん考えて。その上で、答えを導きださなければならない。

 

 九歳の少女には、酷な事であろう。だが、その答えを導きだすのも、この少女自身なのだ。

 

(…………私は)

 

 

 

 

 

 

 周囲は禍々しい色に覆われ、空間がウネウネと歪む。

 その中に吸い込まれたら最後、もう二度と日の光すら見る事の出来ないような空間の中に、一つの建造物が浮かんでいた。

 名を『時の庭園』。外見からしてみれば、もはや庭園などという言葉は相応しくない。いや、過去にはこの庭園も美しい緑や花々に囲まれた時期もあったというべきか。

 しかし、時は残酷である。その頃の名残というものは皆目であり、見るに堪えなかった。

 その中の一室に、一人の女の姿があった。広い広間に椅子が一つだけあるという一見殺風景な場所。女はその椅子に座り、肘掛けに手を乗せている。

 無表情で座っているのが逆に恐怖を感じるが、その内心では若干であるが苛立ちを見せていた。その原因は、今現在彼女の目の前にいる黒いローブを被った人物がもっともな原因である。

 普段ならば時の庭園へ入る事も許さず、問答無用で追い返すところだが、今回ばかりは話が違う。ローブを被った人物は、彼女の協力者であり、無下にすることは出来ない。

 だからこそ、苛立ちが止まらないのかもしれない。何処から嗅ぎつけてきたのか、他人の領域に入り込んでくる輩など。

 

「どうやら、本格的に動き始めたようだな」

 

「ええ、そうよ。それが何か?」

 

「いや……。此方の提示した依頼に飛びついてくるあたり、相当焦っているのは見えていたのでな。寧ろ、最初は断られると思っていたが」

 

「ふん……。私が焦っている? 冗談はやめていただきたいわ」

 

 冷めた目でローブの人物を見やる女。

 こいつに自分の何が分かるのか。―――焦っている事は本当の事であるが、だからといって行動しない訳がない。

 そして、やや上から目線で話しかけてくるこいつの存在が、女にとっては煩わしい。見返りが欲しいのか、それとも。

 

「それで、皮肉を言うためにわざわざこんな場所までやってきたのかしら? ご苦労な事ね、貴方も」

 

「フッ、違うな。今回は我々の方でも“イレギュラー”を観測したのだよ。とてつもなく、面倒な“イレギュラー”を」

 

「“イレギュラー”? それが何か問題でも?」

 

「ああ、大いに問題だ。『次元漂流者』――――それが、第97管理外世界に出現したのを“我々”は確認した。それも、ジュエルシードを狙って動いている事も確認済みだ」

 

「――――なんですって?」

 

 女の眉が、ピクリと動いた。

 ジュエルシード。それは、今回もっとも重要視されているロストロギアであり、魔法関係者にしか理解できない話だ。

 こんな異質の場所を構えている点を見てからしても、この女は魔法関係者―——それも、ジュエルシード絡みだろう。

 そして、この男も。深々とローブを被っているおかげで口元しか見せていない。

 だから、女もこいつがどんな人物なのか、という事を知らない。いや、興味というものが沸かないために意味を成さないのだが。

 

「『次元漂流者』――――。一体、何が目的でこの世界に?」

 

「……さあな。意図的に“此方側”に来たか、それとも“飛ばされた”か……」

 

「“飛ばされた”?」

 

「いや―———此方の話だ。気にしなくていい」

 

 “飛ばされた”。このフレーズに女は反応した。

 彼等が語っていた次元漂流者というのは、簡単に説明すれば異なる世界からやってきた人間だということ。

 次元世界が多々あるこの世界では、そういった特殊な人物が迷い込むようにやってくる事も珍しくない。

 “飛ばされた”、という言葉はそういう意味だ。しかし、その人物の目的が目的だけに厄介極まりない。

 

「それで、そんな話を伝えにまた来たというの? 例えその次元漂流者がいようと、管理局の連中が来ようと、考えは変わらないわよ」

 

「分かっている。我々としても、お前に諦めて貰っては困るのだよ。だから―——邪魔者は我々が排除する。お前たちは、引き続きジュエルシード集めに専念してくれれば、それだけでいい」

 

「…………」

 

 都合が良すぎる。そう、女は思った。

 ただの情報屋ではないと思っていたのだが、まさか其処までするとは。いや、何かの組織絡みだという事も感付いてはいたが、それを答える輩だとは思えない。

 ここはやはり、見返りを求めているという事なのだろうか。しかし、女に提供できる情報など―———。

 

(――――――ああ、なるほど。そういう事……)

 

 考えるまでもなく、思いつく。彼等に有意義かどうかは判断しづらいが、求めているのであろう技術は。

 

「ふふ、そういう事ね。“あの技術”が欲しいのならば、勝手に持っていくといいわ。もう、私には必要のないものだから」

 

「……察しが良くて助かる。私も“彼等”の要求通りに事を進めなくてはならないからな。彼等も必死なのだよ。牙を向けられないために、な」

 

 ふっ、と初めてローブの人物が口元を歪めた。それよりも気になるワードは彼等であるが、それは敢えて気に留めなかった。

 だが、やはり狙いは女が完成させた“技術”。より詳細なデータが欲しいと考えたのだろうか。しかし、もうあんなものに頼る事もあるまい。

 そう、ジュエルシードがあれば。あれがあれば、女の願望は適うのだから。

 

「では、貴方の研究の成果は後程、私がありがたく持ち帰らせていただく。彼等も少しは満足するだろう」

 

「貴方が、じゃなくて?」

 

「…………フッ、どうだろうな」

 

 口を歪にしたまま、ローブの人物は答える。本心を明かさない辺り、これ以上追及したところで無駄な努力であろう。

 

「では、失礼させていただく。邪魔者は我々に任せ、安心して事を進めるといい。――――“プレシア女史”よ」

 

 そういって立ち去っていくローブの人物。

 視界から見えなくなるのを待ち、やがて消えたところで女―——プレシアと呼ばれた女は怪訝そうに顔を顰めた。

 

「今更、余計なお世話よ……」

 

 そう、プレシアは一言だけ呟いた。

 

 

 

 

 

 

 翌日、早朝。

 

 高町家の道場内。本来ならば恭也や美由希の気合が籠った声が聞こえてくるであろう時間であったが、今朝は声すら聞こえない。

 では、誰がいるのかと問われれば、それは高町なのはとユーノ・スクライア、そしてゼンガー・ゾンボルト。

 二人と一匹は道場内にて正座をし、向かい合っている。こんな朝早くから、一体どうしたのかと家族たちも心配したのだが、なのはから「絶対にのぞかないでね」と念を押されたために、入る事すら出来ない。

 

「なのは、ゼンガーさんと何を話しているんだろうね?」

 

「……さあな。俺にも分からないよ」

 

 膝を抱えて座りながら、美由希は恭也に問う。

 が、恭也も知る由はなく。寧ろ、腕組みをしながら待っている様子だった。が、美由希には恭也が若干苛立っている事も感付かれている。

 恭也にとって、ゼンガー・ゾンボルトという男は何処ぞの馬の骨に等しい。そんな男が大事な妹と話をしているなど―——気になって仕方がない。

 しかし、中の様子を覗く訳にはいかない。―――しっかりと右手に竹刀を持ち、いつでも突撃していける体勢はとっているが。

 

 勿論、恭也の心配は杞憂に等しい。しかし、道場内は比較的静かなものだった。いや、緊張感も織り交じった言い難い雰囲気に近く、この場に侵入する事すら恐れ多い。

 

「……なのは、俺に話とは?」

 

 まず、口を開いたのはゼンガーだ。いきなり呼び出しておいて、何もないという事はないだろう。

 問われ、なのははゼンガーの方を見る。ゼンガーを見やるその二つの幼い瞳は何処か決意の混じったような瞳のようにゼンガーは捉えられた。

 なのははすぅと息を宇井、軽く吐き出す事で心を落ち着かせる。そして、彼女はこのようにゼンガーに言うのだった。

 

「ゼンガーさん、私を……私を、鍛えてください!」

 

「な、なのは……!?」

 

 驚きを見せたのは、ユーノだった。

 まるで信じられないと言った表情でなのはの表情を見たが、なのははそれでも尚、ゼンガーの方を見続けた。

 

「鍛える、とは? 更なる力が欲しいと―———お前はそう望むのか?」

 

「力とか、そういうのじゃないんです」

 

 力ではない―———。ならば、なんだというのか。

 

「では、何の為だ?」

 

「それは……あの子と、話がしたいから。でも、今の私じゃ到底適わないから―——だから、あの子までの実力までは無理かもしれません……。でも、戦い方だけでも知りたいんです!」

 

「…………」

 

 それは、今までの経験から出ている言葉だろう。

 ジュエルシードを集める段階で、なのはとユーノはゼンガーに相当無理を強いた。自分たちが未熟だから、ゼンガーが前に出て戦うのだと。

 それを負い目に感じた事もある。だが、いつしかそれが当たり前の事だと心の何処かで思ってしまう自分が嫌になった。

 そして、ゼンガーを抜いた先日の漆黒の少女との闘い。――――なのはは、何も出来ずに惨敗した。だけど、あの時彼女は聞いたのだ。

 

“ごめんね”と。

 

 敵対している人間に、あのような言葉は普通はかけないものだ。そして、それがなのはの心の中に印象付けられた。

 一体、彼女がどうしてなのはにそんな言葉を掛けたのかが、知りたい。でも、今のなのはにあの子と対等に戦える力もない。

 だから、彼女は決めた。

 

“彼女と話す為に、もっと力が欲しい”と。

 

 それは幼いなのはが必死に考えた結果だ。

 この考えは危ういと他人はいうかもしれない。ゼンガーも反対するかもしれない。それでも―———それでも、決めたことだった。

 

「なのは」

 

「はい」

 

「――――その言葉、本気か?」

 

 なのはを見る目が、一層鋭くなった。

 今までに感じたことのない感じに、なのはの体が一瞬だけピクッと動く。そして、彼はなのはがどの程度決意を固めているのかを試しているのだとも思った。

 本気でない者に、教える事は何もない。だが、なのはも自分が言い出したことは、決して本気じゃない訳じゃない。

 

 だから、彼女は立ち上がる。そして、右手を自分の胸に持っていくと、大きな声で言い出す。

 

 

「私……本気です! 本気じゃなくちゃ、こんな気持ちにならないから……だから、お願いします!」

 

 

 言いきる。力強く、彼女は言いきった。

 ゼンガーは一瞬だけ目を閉じたが、ユーノには彼が少しだけ笑ったかのように見えた。

 小娘と思っていたが、中々筋がある、と。無表情の中にそういった雰囲気を感じ取れたんも驚きだが、ゼンガーという男からそのような気を察せられるのも驚きであった。

 

「――――いいだろう。ただ、無理はさせん」

 

「はい!」

 

 なのはの顔が若干輝く。言い出した時は断られる、なんて事も考えていた。

 だが、彼女も本気だ。その熱意が、彼に伝わってくれたのならば、それでもいい。少しだけ胸を撫で下ろすのと同時に、なのはの眼差しも徐々に変わっていく。

 

 ゼンガーにとって、この選択肢は決していいものではない。

 少女を鍛える―———修羅の道を辿ってきたゼンガーにとって、それは考えたこともない話だった。

 彼女の決意、想いを垣間見た今、それを無碍にすることはゼンガーの意に反する。

 幼子に戦わせるなど言語道断。だが―———現状、止む無しなのか。

 

(…………)

 

 果たして、これでいいのだろうか。

 何度も考えてきたことが、ここでもゼンガーの中で渦巻くのだった。

 

 

 

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