魔法少女リリカルなのは ~悪を断つ剣~   作:ダラダラ@ジュデッカ

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お久しぶりです。最近、全く更新できずに申し訳ありませんでした……。

文章の方は……まあ、お察しです。すいません……。


第十三話 刺客

 

 

 鍛える、と口にするのは誰でも出来る事に違いない。だが、それを継続していくという事は当初考えていた自分を愚かしく思うほど、大変且つ難しい事であるという事を、高町なのはは今更ながらに痛感していた。

 

 先日、高町なのははゼンガー・ゾンボルトに対し“自分を鍛えて欲しい”と言った。

 その願いをゼンガーは承諾したわけだが―——高町なのはが現状持てる体力というものを、ゼンガー・ゾンボルトは見誤っていた。

 

 まず初めに。高町なのはは極度の―——とまではいかないが、本人も自覚しているほどの運動音痴であるということ。

 

 後の世代にこのような事を言えば、誰もが「まさか」と半笑いして否定するに違いないのだが、現状の彼女にとっては誰にも変えようのない事実である。

 これにはさしものゼンガー・ゾンボルトといえども頭を悩ませる。

 そもそも彼の周囲には体育会系の女がほとんどだった事も相まって、女という生き物に対して勝手に彼がそのように思い込んでいただけかもしれないが、あの連中とこの子を比べたところでどうしようもないのである。それはゼンガーも弁えていた筈だが、彼だって予想外という言葉を使うのだ。

 かくいうゼンガーも体育会系―――それも超のつくほど―——―—の男であり、彼の一番弟子であるブルックリン・ラックフィールドも似たようなところがある。

 いや、師であるリシュウ・トウゴウも似たような部類であるため、その環境で生きてきたゼンガーにとって、なんともいえないような気持ちになるのも事実。

 そもそも、ゼンガーに鍛えてもらうという時点で、それなりに覚悟していたなのはであったが、まさか彼女も最初の初日で息を荒げながら大の字になって地面に倒れ込むとは思っていなかったが。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

「な、なのは……? 大丈夫……?」

 

「はぁ……はぁ……な、なんとか……」

 

 大の字になって寝転んでいる彼女の右隣で心配するユーノに対し、笑顔を見せるなのは。

 ―——―—だが、その笑顔にも元気というものは何処にも存在せず、ぜーぜーと絶えず息を荒げる彼女にユーノはなんともいえない表情に変わっていた。

 

「…………」

 

「ぜ、ゼンガーさん。わ、私……」

 

「構わん。10分間の休憩をとる」

 

「み、短い……」

 

「不服か?」

 

「いえ、あの……なんでもないです……」

 

 ギロリと、ゼンガーの視線がなのはを捉えた気がしたので、ううと顔を引きつりながらなのはは小さくなってしまう。

 しかし、彼女が不満を漏らすも無理はない。なのはにしてみれば体育の授業でも走ったことのないような距離をいきなり走らされたのだ。それにも関わらず、表情一つ変えずにけろりとしているゼンガーが彼女の瞳からすれば異常というか、まるであり得ないものでも見たかのように見えている。

 やはり鍛え方が違うのか。いや、あんなとんでもない動きを見れば鍛え方なんてまるで違うだろうとと自問自答するものの、魔法を使わずにあれだけ動けるのだから当然だとも思う。

 

 それだけ、彼の異常さを物語っているように改めて感じた訳だが。

 

「あの、ゼンガーさん。いきなり無理をさせない方が……」

 

「……俺なりに無理はさせぬ、と思っていたのだがな。少し予想外だった」

 

「それは……」

 

「分かっている。彼女に見合ったメニューを組んでおこう」

 

 ユーノの言いたいことは分かる。だが、言葉で語らず、背中で語る様な事が多いゼンガーにとって、これがなのはにしてやれる唯一の方法だ。

 彼自身も言ったが、ゼンガーに魔法の知識はない。そして、今の彼女にゼンガーの戦法などを教えたところで、それがなのはにとっては難しく、また実行するには大変難しい。

 彼の考えを理解できるようなものといえば、それはなのはではなく、彼女の兄姉たちであろう。剣術をしている彼等にとってしてみれば実際に剣を振るうゼンガーの考えを理解できるであろうから。

 

「魔法に関してはお前が適任だろう。それに関しては、俺は口を挟まぬ」

 

「……ですが、巻き込んだ身としてはあまりに気乗りできません。なのはは、これからも普通の生活を送っていくはずだったのに……」

 

「それを承知の上で望んだことだろう。ならば、彼女のしたいようにさせればいい」

 

 心の何処かではゼンガーを疑っていても、子供だからか負い目を吐露してしまう。巻き込んだという事に関しては、どうしても自責の念に駆られてしまうのがユーノの心情だ。

 しかし、ゼンガーは言い切った。彼自身、人の決めたことに口を挟まぬ性格であるが故。

 

(しかし、一度手合せした感じでは、なのはが手も足も出ないのは致し方ない。あの少女、なかなかの手練れであるのは違いない)

 

 なのはの戦う理由―——あの、一度は追い詰めた漆黒の少女の事を思いだすゼンガー。

 少し手を抜いていたとはいえ、ゼンガーの剣戟についてきた実力は本物だ。最終的には魔法を行使されて逃げられてしまったが、その点はゼンガーも評価できるほど。

 彼女もジュエルシードを回収している時点で、次も相対する事は必然。現状では漆黒の少女に比べて技量も体力においても劣っているなのはにとって、話をする前に撃墜させられるのがオチだ。

 

(焦ったところでどうしようもない……。が、あまり時間はないか……)

 

 ちら、となのはの方に目線を移す。

 はしたなく大の字になっていた彼女も、ようやく座り込む事が出来ている。とはいっても、まだ息が荒い彼女が、ゼンガーが与えた休憩時間内で回復するとは思えない。

 無理はさせない。だが、甘やかすわけにもいくまい。これはかなりの難題だとゼンガーは改めて思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日が経過し、世間は連休を迎える。

 年に何度かしかない連休を謳歌するのは実によい事。そして、それは高町なのは達にも同じようにいえる事である。

 

「…………」

 

 他人は連休であるが、現在のゼンガーは毎日が連休に近い。―――決して、ニートという訳ではない。決して。

 

 今日もこうして、水面に浮かぶ釣り糸を見ながら、腕を組む。

 いつもならばなのはの鍛錬に付き合うはずなのだが、今日は違う。というのも、なのは達は海鳴市の中に存在する温泉旅館に行ってしまい、今は町内にはいない。

 実を言うと、ゼンガーも招待されはしたのだが、折角の家族や親戚との小旅行に自分がついていったところでどうしようもないと固辞し、今に至る。

 しかし、温泉という単語には何処か心躍るものがあったと自分でも思う。無論、一瞬だけそう思っただけだが。

 

「…………」

 

 しかし、釣りはいいものだ。こうして心が無心になれるような事が好みのゼンガーにとって、ただ水面を眺めて精神統一するのも悪くない。

 例え、魚が一匹も釣れなくても、それはそれで釣りの醍醐味であろう。

 

「おや、お前さん。今日はどうだい?」

 

「……ご覧の有様です、ご老人」

 

 ゼンガーが釣りをしていると、いつものように現れる老人―——先日、釣り糸と餌を分けてくれた老人だ―——が、彼の隣へと来る。

 もう顔なじみの関係になっており、ゼンガーが釣りをしていると必ずと言っていいほど現れ、迷うことなく隣に座る。

 なんでも、ゼンガーが来てからはよく自分の竿に魚がかかるようになったとの事。かくいうゼンガーはほとんど釣れないときが多いので、老人に横取りされるような形になっているのだが。

 

「お前さんはいつも釣れてないねぇ……。ついてないのかもしれないねぇ……」

 

「…………。そうかもしれません」

 

 少しの間を置き、ゼンガーは呟く。

 ついてない―——こんな場所にいる時点で、ついてないどころの話ではないのは確かなのだが。

 この世界に来て、果たして何日経過したか。元の世界の皆は何をしているのか、いきなり消えて、捜索しているのか……。それとも、「親分なら大丈夫」という何の根拠もない自信で、捜索などとうの昔に打ち切っているのか。

 

(……捜索したところで、俺が此処にいる時点で無駄な話か……)

 

 帰る方法がない時点で、現状は諦めるほかない。そして、元の世界の皆が此方の世界に来ることも適わぬ。八方塞の状態に、ゼンガーといえども嘆息する。

 

「おや、溜息かい? もっと幸せが逃げるぞ?」

 

「その分、ご老人の方に行くかもしれません。自分などので良ければ、ですが」

 

「いやいや、嬉しい事を言ってくれるね。この老いぼれ、最近は調子がいいのもあんたのおかげかもしれないねぇ……」

 

 しみじみと語り、何度も頷く老人。本当に全て持って行かれるのは流石に勘弁だと思いつつも、ゼンガーはもう一度水面に目を戻す。

 

「…………」

 

 相変わらず、ピクリとも動こうとしない釣り糸にゼンガーは内心で小さく息を吐いた。

 

(…………)

 

 ―――――それと同時に、気配を殺し、まるでゼンガーの事を監視している者の存在も見つけていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ。

 老人と別れ、帰路に着くゼンガー。今日の収穫も散々で、此方に来てからはほとんど釣れた覚えがない。海鳴市とゼンガーの相性が悪いのかもしれないと考えたこともあったが、だからといって今更釣り場を場所を変えようとも思わなかった。

 釣り竿を片手に持ち、木刀ももう一方の手に持ち。一見シュールな光景―——職質されないのがまずおかしいが―——をしている彼は、真っ直ぐに人気の少ない山道へと入っていく。

 彼の現在の住処と化している止めhと続く道。最近この辺りに外人が住み始めたと近所の人がうわさをしているようであり、それをきいたなのは達もなんとも言えない表情をしていたとか。

 当の本人は全く気にはしていないのが更に問題であるのだが、彼なりに楽しんでいるという事だろう。現状のサバイバル生活を。

 

 ―――と、余談は此処までいいだろう。

 

 人の気配が完全に消えたところで、ゼンガーは思い立ったように足を止め、今まで肩に乗せていた釣り竿を遠くに投げ捨て、木刀を構えた。

 両手で木刀を握りしめた彼の目は、既に武人の目へと変化している。人を殺せるかのような鋭い目付きで辺りを見渡し、気配を探る。

 

(……あの二人がこの場にいなくてよかった、というべきか)

 

 寧ろ、あの二人の存在こそが、今のゼンガーにとって足手まといになりかねない。

 この辺りを漂うのは、紛れもない殺気。その殺気を放っているのも、四六時中ゼンガーを監視していた連中に違いない。

 最近になってゼンガーの周囲を嗅ぎ出してきた輩であるが、ゼンガーも気配を察しながらも放置してきた。少々危険だと判断はしていたが、あえて泳がせる事で彼等の真意を知りたくもあった。

 そして、彼等はなのはでもなく、ユーノでもなく、ゼンガーだけを注視しているという事が分かった。高町家の周囲に彼等の気配はなく、向けられた視線もゼンガーに対してのみ。

 彼等はうまく隠れているつもりだったようだが、ゼンガーも警戒心は人一倍強い。その程度で隠れたなど、彼からすれば笑わせてくれる。

 だが、ゼンガーを監視しているということは彼等は自分の事を知っているという事になる。という事は、元の世界へ戻るカギを持っている可能性も十分に考えられる。

 

(もっとも、話が通じる相手でもなさそうだが……)

 

 ならば、力ずくで吐かせるしかない。

 

「……さっさと出てくるがいい。俺は逃げも隠れもせんぞ」

 

 人気もなく、薄暗くなっていくこの場所ならば、人一人殺めるならばちょうどいい場所であろう。

 だからこそ、ゼンガーはこの場所を選んだし、此処ならば周囲の木々に邪魔されることも、人目につくようなこともない。少しは大胆な動きも許されるという訳だ。

 さて、後は相手が出てくるだけだが―———ゼンガーの発言に触発されたのか、正面に一人、後方に二人出てくる。

 顔も見えないくらいに黒いマントを深くはおり、手には鋭利な短刀が握られている。やはり、複数であったかと思った瞬間、マントの人物たちは一斉に動き出す。

 

(―――! 意外と速いか!)

 

 タタタと微かに音を立ててゼンガーまで迫ったかと思うと、三体の影は一斉にゼンガーに対して短刀を突き刺してくる。

 予想よりも速い行動にさしものゼンガーも驚いた―——かと思えば、彼は地を蹴って上空に飛び上がると、難なく刃を避ける。

 振り向く際に珍しく振り上げて一人目の頭を蹴りつけ、ふらつかせる。足技など殆ど使用しないが、三対一の状況下である現状では使用せざるを得ない。

 しかし、一体目を蹴りつけたとき、彼は違和感を感じざるを得なかったのも事実だった。

 

(この感触……もしや)

 

 顔をしかめ、蹴りつけた時の違和感を考えようとするが、それよりも先に体が動く。

 ふらついた一人の脇を残る二人がすり抜けるように突進してくる。今度は突き刺すのではなく、斬りつけてくる体制を取っていたので、ゼンガーは木刀にて防ぐ。

 微かに右腕が痛むものの、前程ではない。少しばかり力を入れて押し返すと、今度はゼンガーが彼等に向かい、一人の短刀を木刀にて叩き落とし、もう一人は担当の斬撃を避けてみせると、脇腹に一撃を見舞う。

 それなりの力を入れて一撃を叩き込んだが、相手は呻き声を上げる訳でもなく、軽く吹っ飛んだだけですぐに立ち上がって体勢を整える。“人間”には出来ない行動に、ゼンガーは小さく歯を食いしばった。

 

(小手調べでは通用しないのならば―——仕方があるまい)

 

 ならば、本気を出すしかないか。

 彼はまるで弾丸でも飛んできたかのような速度でに一人に近付くと、渾身の一撃を喰らわす。それは“人のような存在”―――いや、もしかすると人間そのものも砕けるかのような力で木刀を振るうと、右肩から左わき腹にかけて文字通り“砕く”。

 

(やはり、な)

 

 真剣ならばまだしも、木刀で此処まで砕けるという事は、そういう事なのだろう。

 ―――無論、常人にこのような事が出来る筈もなく、彼のような人間にしか出来ない芸当であるが、それは置いておく。

 残りは二人。いや、“二体”というべきか。仲間が再起不能になったのにも関わらず、見向きもしない点は評価した方がいいのかもしれない。

 そう、彼等には仲間を想うという心など必要ない。そんなものなど、彼等には不要であり、必要でもない代物。

 だからこそ、ゼンガーに対する恐怖心もなく、痛みも感じない。ただ、目標を殺す事のみを目的とした人形―————。

 

「……っ!」

 

 向けられた短刀を避け、右腕を砕くように斬り裂き、首元からバッサリと斬りつける。バキッと鈍い音だけをその場に残し、胴体から頭部が離れてその場に転がる。

 頭部が破壊された事により、胴体はもう動かないのか、膝から崩れ落ちるようにして倒れ込む。もはや動かない姿を見ると、どうやらそういう部分だけは人間に似せているのかもしれない。

 ますます悪趣味に感じながらも、残りの一体へと視線を向ける。

 一旦後退して様子を伺っていたが、流石に危険だと判断したか。微かに後ろへと後退している様子があった。

 逃がしては手がかりを失ってしまう。―――――それは、元の世界に帰還する方法だったのかもしれないし、ゼンガーに彼等を向かわせた人物の正体だったのかもしれない———―—それを逃すわけにはいかないと判断し、逃がすまいと駆け出す。

 が。ゼンガーが駆け出した瞬間、今度は真横からもう一体の気配を感じた。

 

(……!?)

 

 木々の影から飛び出してきた一つの影。それは迷うことなくゼンガーに飛びかかり、手にした巨大な剣で斬りつける。

 咄嗟に防御の構えを取ったが、その巨大な剣を受け止めるには不十分だったか。ゼンガーの木刀に披裂が入り、ゼンガーもこれ以上は無理と判断したか、後ろに飛んで後退する。

 

「貴様は……!」

 

「…………」

 

 突如現れた人物もまた、先ほどの者たちと同じくマントで胴体から顔を隠していた。ならば、彼等と同じくこいつもまた同じ存在なのであろうか。

 しかし、それよりも気になるのが右腕に聳えたつようにして立てている巨大な剣。

 その剣に、ゼンガーは何処か覚えがあった。

 

(あれは、“斬艦刀”……? しかし……)

 

 斬艦刀―———それを持っているのは、この世ではゼンガーのみ。

ならば、あれは誰だ? いや、もう一人思い当たる。だが、“彼”はあの時に―——――—。

 

「貴様、もしや……」

 

「…………」

 

 ゼンガーの問いに、何も答えないマントの人物。そのマントの下からは、微かに何かが光るのが見えたような気がした―——。

 

 

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