魔法少女リリカルなのは ~悪を断つ剣~ 作:ダラダラ@ジュデッカ
今回も更に短く、ちょっとあんまりかな……という内容。おまけに久々の随筆な為に文書がおかしいです。
それでもよければ↓の方にどうぞ。
「貴様、もしや……」
「…………」
突如として現れた“四人目”は、他の三体同様に大きなマントで自身の身を隠すような格好をとっていた。
そこまでして顔を見られたくないか。いや、姿を見られるとまずい理由でもあるのか。
考えるたびに疑問しか浮かび上がってこないが、それよりも重要なことがある。その四人目が手にしている刀のことだ。
いや、それは刀というよりは西洋の巨大な両刃の西洋剣のようなもの。柄だけで人間一人分あるかないかといったその大きな大剣を、ゼンガー・ゾンボルトはよく知っている。
―——知らないはずがない。それは、自分にそっくりの仇敵が使用していた剣なのだから。
そして、あの刀―———この形の斬艦刀を使用できるのは、この世にただ一人しかいないということも。だが、それを使用していた“彼”は死亡したはず。それも、ゼンガーの目の前においてだ。
(では、あの斬艦刀を使っている者は……? 俄かには信じられん……。だが、あの打ち込み……奴以外に考えられん)
ゼンガーへの当てつけか? だとすれば相当趣味が悪い。
そう、趣味が悪いだけと思えればよいのだが、現実はそうでもないらしい。それは、先ほどの太刀筋から動きなどを鑑みても明らかだろう。
あの、空間をも裂くような鋭い斬撃。ゼンガーを前にして、不意打ちとはいえ木刀に披裂を入れるほどの一撃。
ただのパワー馬鹿ならば脅威はない。ただ斬艦刀を無理やり握らされているだけならば、どんなに楽だったか。
―――この世には数奇な事もある。そう、ゼンガーが思った時。
「――――ッ!」
まるで強風でも吹いたかのような感覚がゼンガーを襲ったかと思えば、今度は大地が震動するほどの一撃がゼンガーを襲う。
その衝撃を噴き起こしたのが、他ならぬ斬艦刀においての一撃。その刃がゼンガー目掛けて襲い掛かるが、ゼンガーも雑念に身をゆだねていた訳ではない。すぐさま木刀で受け止めるが、相手が斬艦刀では性質が悪い。
おまけに木刀の方も限界が近づいている。披裂はますます大きく入るのが目に見えており、あまりの力にゼンガーといえども顔を歪める。
「ぐっ……!」
「…………
相変わらず、何も答えない。他の人形共が同じような形であった為、期待はしなかったが。
だが、もしも“彼”ならば。果たして、ゼンガーを目の前にして言葉を発しない事はないだろう。
では、別人か? そう問われれば、答えは―———否である。
この力強さをゼンガーは知っている。この斬撃の重さを、ゼンガーは過去に感じたことがある。
このマントの下にいる人物は―——間違いなく、“彼”だ。斬艦刀を見たその瞬間から、ゼンガーは確信していた。
だからこそ、ここで負ける訳にはいかない。
「ぬおおおおっ!」
「…………」
渾身の力をもって、相手を押し出す。相手も流石にこのままゼンガーとぶつかり合う事を嫌ったか、一度後ろに退いて間合いをとった。
間合いを取り、互いに刃を向け合う。まるで合わせ鏡でも見ているかのように、二人の格好は一緒であると、傍から見ればそのような状況下であろう。
さらに、両者が発する気も相当なものだ。誰も近寄れないようなオーラを充満させながら、両者は向かい合う。
ここになのはとユーノがいれば、二人は一体どうなったであろうか。―――いや、子供にこのような場をみせるものではない。
「……生きていたか」
「…………」
「あくまで喋らないつもりか。久しぶりに相対したというにも関わらず」
「…………」
(俺と話す舌などもたぬということか……)
相も変わらず、相手は一言も言葉を発しない。この実力は間違いなく彼のものだが、それは果たして“彼自身”が残っているか、という疑問が新たに生まれる。
と、ゼンガーが口を止めると、相手は斬艦刀を握りしめ、再びゼンガーに向かってくる。ゼンガーが軽く一蹴した他の三人など、この者に比べれば赤子のようなもの。恐ろしいスピードでゼンガーとの距離を詰め、斬艦刀を振り下ろす。
もはや、木刀も斬艦刀を受け止めるだけの耐久力などない。むしろ、今までよくもったほうだったが、唯一の武器をこの時点で失う訳にもいくまい。
本来ならば真っ向から受け止めて斬りあう、いわゆる真っ向勝負がゼンガーのスタイルであったが、この一撃は分が悪いと振り下ろされた斬撃をすかさず右に避ける。
振り下ろされた斬艦刀は、ゼンガーが立っていた場所を一閃する。地に大きな刃の痕跡が残り、その威力を物語っている。
しかし、そんなものなど見てはいないのか、ゼンガーは相手の左手側の下方より木刀の一撃を叩き込むために木刀を振るう。
右腕の痛みが未だひかない為、ゼンガー自身も本調子ではない。全くあの思念体も厄介な傷跡をゼンガーに遺してくれたものだ。
「…………!」
だが、相手も流石にその程度の考えはお見通しか。ゼンガーも恐ろしく速いのだが、相手もゼンガーと同じか、それ以上。振り下ろした斬艦刀をすぐさま左側に持っていき、木刀を受け止める。
「くっ……!」
―――斬艦刀さえあれば、互角に戦えるのだが。
このような小細工をしなければならないほど、剣の圧倒的差が生まれている。
相手は斬艦刀でこちらは木刀。言い訳などしたくはないのだが、ここまで差がつけられれば文句を言いたくもなる。
元はといえば空間転移に巻き込まれる際に愛用の真剣を手放した自身の未熟さ故か。しかし、ゼンガーもこんなところで死ぬわけにはいくまい。
難なく受け止められた木刀に、ゼンガーは一瞬だけ目を向けた。
(もってあと一撃、といったところか……)
木刀の損傷具合を一目見て、そのように判断する。
あと一撃。あと一回でも斬艦刀とまともに打ち合えば、この木刀は間違いなく真っ二つに折られる。素人目から見ればもはや使い物にならないほどに酷い有様になっているが、ゼンガーはまだ一撃はもつと判断した。
さらに斬りかえしてくる前に、ゼンガーは自分から身を引いてもう一度間合いを取る。
それを察したか、相手も一度崩れた姿勢を立て直すかのようにゆっくりと、そして鋭く斬艦刀の刃を向けた。
ふう、と一息吐き、呼吸を整える。別段緊張している訳ではないのだが、相手が相手だ。それに、次の一撃がこの勝負最後の太刀であるという事も理解している。
そして、それは相手も同様だろう。表情こそマントの下に隠れて見えないものの、明らかに先ほどまでと全く違う気を漂わせていた。
(やはりな……)
既に確信はしていたが、こうも分かりやすいと笑えてくる。
例え、“彼”ではなかったとしても、立ち振る舞いや姿勢は全く変わらぬ。
いや、当然であろう。何故ならば―———自分自身を相手にしているも同然なのだから。
「いざ……」
「…………」
ゼンガー、そして相手も同様に構える。その姿勢もほぼ同じ。強いて言えば、得物が違うという点か。
「参るッ!」
踏み込んだのは、同じタイミングだった。互いの持てる力を叩き込む。今は、それだけしかなかったのだとゼンガーは思う。
それは、相手も同様だろう。眼前にいるゼンガーを打ち倒す。それが、恐らくは相手の頭の中にあった内容だろうから。
ただ―――――この勝負、勝者は明白だった。
■
「…………」
マントに身を包んだ人物は、右手に巨大な斬艦刀を手にしながら下方の何かをじっと見ていた。
その下方にあるものは、人。それは先ほどまでこの人物と剣を打ち合わせていたゼンガー・ゾンボルトである。
仰向けに倒れている彼はどうやら斬艦刀との打ち合いに負けた後に弾き飛ばした際、一本の木にぶち当たっていた。
どうやらその時に頭を強く打ちつけたのか、気絶してしまったようで、頭部からは多少の出血が確認される。そして、その右手には刀身が折られた木刀の柄部分が握られていた。
折られた刀身の方は、何処に飛んで行ったかすら分からない。それほどまでに意識を集中していたのだが、それはさておき、どうにも腑に落ちない点があった。
(……何故、とどめをささない?)
この者にも感情があったのか、ということはこの際置いておく。
この者に与えられた指令は『ゼンガー・ゾンボルトの抹殺』。しかし、それをせずに何故か彼の姿を見下ろす自分の姿が、何処か滑稽に見えた。
己が使命を果たさなければならないという考えと、それは自分自身が納得できないという二つの考えが渦巻く。
それが分からなくて、戸惑う。そして、この男の実力は、まだこんなものではないという根拠もない確信が、何処かにあった。
「…………」
そのように考えに耽っていると、すぐ傍で気配を感じる。
そちらの方に少しだけ目を向ければ、其処にいるのはゼンガーが仕留め損ねた最後の一体の姿を確認する。そして、それは自身が助けた機械人形であるとも。
機械人形といっても、この者達は明確な頭脳を持たない。ただ、設定されてあるAIの指示通りに従う、文字通り使い捨ての機械人形。
本来ならば、この人形と同様の感情を持ち合わせていなくてはならない筈であるにも関わらず、手を止めてしまった自分は一体何なのだ?
(……知っている? こいつを……)
先ほどは何も答える事などなかったが、ゼンガーは自分の事を知っているような口ぶりであった。
知り合い……なのか? だがしかし、対象目標であるゼンガーのデータは入っているが、未だかつてこの男と戦った覚え、ましてや出会った記憶すら“ない”。
だが、この男は何かを知っている―———。それは、一体なんだというのか。
「…………」
斬艦刀を握る手が、一層力強くなった。
そう、そのまま大剣を振り下ろしてしまえばいい。余計な感情は不要である。
――――いや、元々このような葛藤自体が不要なのだ。何を躊躇している。“任務”こそ絶対だ。
「…………っ」
分かっていても、それが実行できない自分自身に苛立ちを覚える。
知らない筈であるにも関わらず、湧き上がる感情。怒りか? 悲しみか? 失望か?
(感情など……)
そんなもの、必要ない。ならば―——。
ブン、と得物を突き動かし、斬り裂く。
しかし、斬り裂く対象であるゼンガーには傷一つついておらず、未だに地に伏せたまま。
では、何を裂いたか。其処でようやく、自分が一体何を裂いたかを知る。
「…………馬鹿な」
この場において初めて呟いた言葉は、感情こそ含まれていないものの、この人物においては驚嘆に近い言葉であった。
斬り裂いたものは、傍らに控えていた機械人形の首元。綺麗に胴体から離れており、まさに一閃といったような感じか。
あまりに一瞬のことで、人形の方もまともに反応すら出来なかったのであろう。その場に崩れるようにして倒れてこみ、首から上の部分は少し遠くの方に飛んでいた。
ゼンガーではなく、味方を斬った自分。一瞬理解に苦しんだが、何を思ったかゼンガーに背を向け、歩き出す。
一体何をしているのか。そういった考えがなかったわけじゃない。だが、この場にいたところで埒が明かない―——そのように判断したのだ。
そのまま、彼の方を振り返る事はなく。彼はその場を後にしたのだった。
何故負かしたか? と問われれば、そりゃ木刀でどうやって斬艦刀に勝つんだよ、という話。
納得いかない方も多いとは思いますが、今回はこれにて。