魔法少女リリカルなのは ~悪を断つ剣~   作:ダラダラ@ジュデッカ

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今回も短めで申し訳ありません……。

それでもよければ↓をどうぞ。


第十五話 刀

「う…ん…」

 

 某日。連休明けの朝であるこの日に高町なのはは、自宅にて目が覚めた。

 しかし、いつものならば決して目覚めのいい朝とは言い難いものの、それなりの寝起き姿を見せていた彼女の姿は何処にもなく、起き上がるのも妙に足取りが重い。

 洗面所に行き、自分の姿を確認する。

 

(―――――)

 

 鏡の前に立っても、彼女の考える事は一つだけ。

 

 ――――それは、先日彼女が出会った、金髪の女の子。

 

 ――――名前も知らないけれど、恐らくはなのはと同じぐらいの年齢で、深くて綺麗な目をした子。

 

 彼女の考える事は、その事につきた。

 月村邸で初めて出会った。そして、旅行先の温泉近くにも、彼女は現れた。

 そのどちらも、ジュエルシードを巡って、彼女達は戦った。結果―——そのどちらも、なのはは負け、ジュエルシードはあちらの手に渡った。

 ジュエルシードがなければ、出会う事などなかっただろうし、そもそもユーノが現れなかったら、高町なのはという少女は、今でも普通の小学三年生といて過ごしていたに違いない。

 それでも、決まってしまった運命を憎むつもりはない。しかし。

 

「だけど……」

 

 ―――――本当に、彼女と戦わなければいけないの?

 

 高町なのはという少女の中に、そのような思いが張り巡らされる事は、いわば必然であったのかもしれない。

 また二人が出会えば、争いは避けられない。分かっている。そんな事、分かっている。だが、割り切れていない自分が此処にいる。

 突きつけられた現実は、まだ九歳のいかない少女にとっては、あまりにも残酷すぎるものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 負けた、といえば、この男も同様か。

 場所は高町家の道場内。朝早くからこの場所を訪れ、精神統一でもしているのか、座禅を組んでいる。

 そのただならぬ雰囲気に、なのはの姉である高町美由希と兄である高町恭也も顔を見合わせ、どうしたものかと考え込む。

 

「ん? どうしたんだ、お前達」

 

「ああ、父さん。父さんの知り合いのゼンガー……さんだったかな。その人が道場にいるんだけど……」

 

「ゼンガーさんが?」

 

 恐らくは二人の鍛錬でも見に来たであろう高町士郎が、恭也の言葉を聞いて少し驚く。

 ゼンガーが道場を借りたことはあったが、こんな朝早くからこの場所を訪れる事は今までない。来るとしても、夕方や休日の昼間など、日が照っているうちであった。

 それなのにも関わらず、こんな朝早くから一体どうしたのか? と士郎は少々驚いたと共に、首を傾げたのであった。

 

「ゼンガーさんはまだ中にいるのかい?」

 

「うん。今は座禅を組んでいるようだけど……」

 

「ふむ。ちょっと父さんが様子を見ていよう。お前たちは、気にせず鍛錬に励みなさい」

 

 そういって、士郎は一人で道場に赴き、少しだけ扉を開けて中を伺う。

 道場の様子としては、いつものロングコート風の服装にて道場の真ん中で座禅を組み、異様な雰囲気を発する彼の姿は、正直にいって近寄りがたいものであった。

 しかし、そのただならぬ雰囲気から察するに、恐らくはゼンガーに何かあったのであろう。

 失礼と承知しながらも、士郎は扉を開けて道場の中に入る。靴を脱ぎ、素足となり、道場の中を進んでいく。

 そして、ゼンガーがいる場所より少し離れたところに座り込む。しかし、士郎は座禅ではなく、正座であったが。

 そして、座った瞬間にゼンガーの方が気付いたか、彼からの声が聞こえてくる。

 

「……士郎殿か」

 

「ええ、おはようございます、ゼンガーさん。今日は随分と早いですね」

 

「少し心を落ち着けるために、借用しております。無断で使用していることには、詫びを入れさせていただきたい」

 

「いえいえ。使いたい時はいつでも使っていただいて結構ですよ。その為に、道場のカギはいつでも空いているのですから」

 

 士郎はにこやかに、彼にそういった。

 もっとも、それはゼンガーの実力を認めていると共に、娘の命の恩人という二つが重なっているからである。他人がこの家に上がり込もうものならば、それは恐ろしい目に合う事は一目瞭然か。

 

「お心遣い、感謝いたします」

 

「お気になさらずに。何か、考え事ですか?」

 

「自分とて、考え事の一つや二つはあるもの。決して、万能とはいかないものなので」

 

「ははは、それは確かに。考え事なんて、誰にでもあることですからね」

 

 無論、ゼンガーとて人間である。そして、考えている事は今はただ一つ。

 先日の襲撃の件。恐らくは、旧知の仲であり、顔こそ見ていないが、あの太刀筋からしてみれば、間違いなく“彼”であろう。

 またしてもゼンガーの前に立ち塞がり、勝負を挑んでくる。両者の運命は、まるで決められたかのようだ。

 それでも、現れる以上は相手をするしかない。ゼンガーと“彼”は、もはやそういう関係に近かった。

 

「……では、俺はもう行きます。重ね重ね、感謝いたします」

 

「先ほどもいいましたが、お気になさらずに。ああ、そうだ。少し待っていただけますか?」

 

 ゼンガーが立ち去ろうと立ち上がれば、それを制止する士郎。

 そして一体何をするかと思えば、士郎は道場内の横に立てかけてあった竹刀を二本手に取り、その一本をゼンガーに差し出す。

 

「これは……?」

 

「どうやら久しぶりに体が疼きましてね。もしよければ、お相手していただけますか? もっとも、私も年老いた身ですので、貴方とまともに打ち合えるかは分かりませんが」

 

 笑顔で竹刀を差し出してくる士郎の提案に、ゼンガーは如何するものかと悩む。

 士郎からそのように誘ってもらえるのは嬉しいが、果たしてこれ以上この場に留まっていいものか。そして、今の心境で、ゼンガーの方こそ士郎とまともに打ち合えるかが問題であった。

 恐れはない。しかし、このような心境で剣を合わせるというのは、逆に士郎に対して失礼だ。彼の実力如何よりも、其方の方がゼンガーにとって許されざることである。

 

「どうされました? もしや、遠慮されているのですか?」

 

「いえ……。自分としては大変うれしい提案でありますが、今の状態で剣を合わせたところで、士郎殿に失礼かと」

 

「なるほど。ですが、だからこそ貴方と剣を合わせてみたいと私は思っています」

 

「……?」

 

「私は構いません。思いっきり打ち込んでください。といっても、私も今もてる限りの本気を出させていただきますが」

 

 そういって、ゼンガーに竹刀を持たせる。其処までされれば、ゼンガーが断れるはずもなく、彼は少しだけ首を動かして承諾する。

 その返事を見ると、再び士郎はにっこりと笑んだ。

 

「では、私は着替えてきます。ゼンガーさんはいかがしますか?」

 

「いえ。俺は、これが普段のスタイルですので」

 

「それは失礼しました。では、少し待っていてください」

 

 そういって、士郎は奥の方に向かって行く。

 先日も思ったが、この男は油断ならない相手である。木刀を持っているのはともかく、立ち振る舞いから一瞬のうちにゼンガーの実力を見抜いた男だ。

 剣士同士は引かれ合うとでもいうのか。ともかく、ゼンガーは深く息を吐きだし、士郎が出てくるのを待つ。

 それから何分ぐらい待ったか。着替え終わったのであろう後ろから士郎が声をかけてくる。

 

「お待たせしました、ゼンガーさん」

 

 その言葉にゼンガーが振り返ると、そこには剣道着を着こんだ士郎の姿。

 しかし、先ほどのようなおっとりした雰囲気はまったくと言っていいほど感じられず、寧ろ、闘志が前面に出ているように感じられた。

 自分では年老いたといっていたが、これは大したものだ。もしかすると、ゼンガーの師であるリシュウの覇気にすら匹敵するかもしれないとゼンガーは思う。

 

「士郎殿、本当によろしいのですか?」

 

「構いませんよ。しかし、私も久しぶり過ぎてとてもではありませんが、ゼンガーさんの相手にならないかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 今更この男は何を言っているのだろうか。

 しかし、本気でぶつかってこそ剣士としての礼儀。恐らくは気にかけてくれたであろう士郎に対する、せめてもの恩返し。

 

「では……参る!」

 

 ゼンガーが力強く左足を前に出して踏み込んだ瞬間、士郎の目付きが一瞬のうちに変わる。

 真の意味で、剣士としての姿なのであろう。即座にゼンガーの打ち込みを竹刀で受け止めると、素早くゼンガーの剣を打ち払い、今度は士郎が斬りかかる。

 そのスピードは、ゼンガーが予想していたよりもずっと早かった。もしも、彼が全盛期の実力であったとしたらと考えると、背筋が寒くなる。

 しかし、ゼンガーも見切れないほどではない。その斬り込みを防ぎ、今度は士郎と同じように打ち払った上で斬りつける。

 その後も、一進一退の打ち合いが続く。傍から見れば、二人の動作が速すぎて真似できるものではないし、当人達は互いの太刀を見切った上で打ち合う。

 もはや、二人に遠慮という二文字は存在しなかった。実力は拮抗―—といいたいが、ややゼンガーが押され気味か。

 ゼンガーからすれば防戦に回る事が多く、なにより士郎の攻撃が全く緩まない。

 飛ばし過ぎといわれればそうなる。しかし、この打ち合いはどうしたことか、ゼンガーにとって、あの時と同じように思えた。

 “彼”と同じ得物ならば、このような勝負も出来たであろうか。いや、得物の差もあったであろうが、それよりもゼンガー自身の油断が一番の問題であったかもしれない。

 “彼”が生きていたという多少の動揺、一度倒した相手だという油断。この二つこそ、ゼンガーの敗因に等しいと考える。

 慢心――――ああ、そうだ。ゼンガーの心の奥底で、そのような心理状態が働いたに違いない。

 剣士はいついかなる時でも本気で相対するものと、リシュウに教わっていたにも関わらず。

 

(―――――――!)

 

(むっ……?)

 

 今度は、ゼンガーの目付きが変わった事を士郎が感じ取った。

 いや、考え事など晴れたといった方がいいのかもしれない。やはり、彼はそうでなくては彼らしくない。

 そう思った矢先、二人の竹刀が離れて少し間合いがとられる。

 そうなったとき、ふっと士郎の闘気が掻き消える。ゼンガーはピクリと眉を動かしたが、士郎は竹刀を降ろし、ふっと肩の力を抜いて微笑んだ。

 

「今日はこのぐらいにしておきましょう。これ以上すると、私も仕事に支障が出てしまいますので」

 

「――――感謝いたします」

 

「いやいや。私も久しぶりに剣を振るえて楽しかったですよ」

 

 ははと笑っていた士郎の姿は、いつも通りの彼であった。

 しかし、あれは凄い気迫であったと今思い返してもそう感じる。

 

「では、俺はこれで」

 

「そうですか? 家でコーヒーでも淹れますが?」

 

「いえ、少し考え事もありますので。此度はこれで失礼したい」

 

「そうですか。ああ、そうだ。もう少し待ってください。ぜひ、ゼンガーさんに渡したい者がありまして」

 

「俺に、渡したいもの?」

 

「はい。私どもが持っていても、もはや使わない代物ですので。少し待っていてください」

 

 そういって、再び引っ込んでいく士郎を、ゼンガーは待った。

 一体、彼のいう渡したいものとはなんなのか。もしや彼の勤める翠屋と呼ばれる場所で使われているコーヒーでも譲ってくれるのだろうか。

 確かにそれはありがたいが、ゼンガーは今もサバイバル生活を送る身。湯を沸かすのも一苦労なのだが、果たして。

 そのような事を考えていると、士郎が奥の方から戻ってくる。その右手に持っている物を見て、ゼンガーは少なからず、内心で驚く。

 何故ならば、士郎が手にしているのは、一本の刀。黒い鞘にその刃を包み込ませているそれを、ゼンガーに差し出したのだ。

 

「どうぞ、受け取ってください。といっても、今の貴方に必要かどうかは分かりかねますが」

 

「しかし……」

 

「貴方は娘の命の恩人です。あの時はコーヒー一杯で構わないといっていましたが、それでは私の心が許さないんですよ。ですから、是非受け取っていただきたい」

 

 少し、ゼンガーは迷い、考える。

 もしや、士郎はゼンガーの心を見抜いたのであろうか。と。そんな超人的な事が出来るとは到底思えないが、木刀が真っ二つに折られた以上、新たな得物を新調しなければならない。

 だからこそ、ゼンガーが扱っていたあの刀が必要なのだが、それが見つからないので苦労している。

 むしろ、この刀は今のゼンガーにとって願ったり適ったりであるが―——どうにも出来過ぎているような気もする。

 しかし、士郎の提案を無視する事も出来ない。だからこそゼンガーは、その剣を手に取る。

 

「ありがたく頂戴いたします」

 

「そう畏まらなくて大丈夫ですよ。古いものではありますし、恩人への敬意という事で」

 

 両手で刀を受け取り、早速、その剣を確認する為に鞘から刀を引き抜く。

 古い物とはいっていたが、それは美しく手入れされている刀身に、ゼンガーの顔が映り込む。形を見れば日本刀で、あまり使いこまれていないのか、新品同様の感覚さえ感じる。

 このようなものを、ゼンガーに送るとは。果たして、士郎の考えがまたしても読めなくなる。

 そして、ゼンガーは刀を両手で持ち、構える。研ぎ澄まされるこの感覚は、間違いなく手に馴染み、懐かしい感覚である。

 そして、彼はその刀を勢いよく振り抜く。

 まるで空間でも切れたかのような、そんな感覚。扱いやすく、軽かった。

 

「―――お見事」

 

 その姿をみた士郎は、もう一度笑むのだった。

 




本気で二人が戦えば、道場とかあっという間に壊れるので、今回はこの辺で。
いつかはそうさせたいですが……まあ、無理かも。
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