魔法少女リリカルなのは ~悪を断つ剣~   作:ダラダラ@ジュデッカ

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ちょっと展開が速いかもしれませんが……何かございましたら、ご指摘お願いいたします。


第一話 忘れられない、出会い

「くっ……! 一体、何が起こったのだ……」

 

 ゼンガーが目を開けた時、己が瞳の中に映ったのは薄暗い暗闇だった。

 先の黒い穴の中で目が覚めたか? いや、それにしては不思議と居心地が悪くなく、またあの時感じた異様な気配もない。

 では、ここは何処なのか。ゼンガーはゆっくりとした動作で立ち上がると、周囲を警戒しながらも見渡して様子を探る。

 空を見上げればやけにドス黒い雲で覆われた空が見え、少し遠くの方には暗闇を照らすかのように街灯が灯っている。

 ゼンガーのいる場所はやや薄暗い場所であったが、少し歩けば道は街灯が照らしてくれる。しかし、ゼンガーの頭の中では別の事が考えられていた。

 

(周囲から察するに、ここは艦の中ではなく地上か……。あの穴は、空間転移の類だというのか……?)

 

 自身の経験上、そう理解する他なかった。

 ゼンガー自身も一度空間転移というものは体験しているものの、今回の一件にはあの時と同じような感覚が得られなかったため確証こそなかったが、事態を察するにそういう事らしい。

 そうでもなければ、今までクロガネの中にいたはずのゼンガーがいきなり地上に飛ばされたという事態が説明できないのだ。

 

(通常転移ならばクロガネと連絡を取ればよいだけだ。が……嫌な予感がする)

 

 試しに、念のため持っていたレーツェルとの通信機を稼働させ、彼との接触を試みてみる。

 だが、稼働させた通信機はうんともすんとも言わず、耳を当てても反応すらしない。この辺りで電波障害でも発生しているのか? と聞かれれば、このような何の変哲もない場所でそれはないだろうということは容易に判断できる。

 この事態に、ゼンガーの眉間が僅かに寄せられる。嫌な予感というものが—――こういう形であるが、どうやら当たってしまったようだ。それと同時に、さてどうすると自分に問う。

 

 今、自分は追われの身にある。もっとも、それは表向きの理由なのだが、地球連邦軍からは裏切り者のレッテルを張られている以上、彼等に助けを求めるという手段は無理な話だ。

 ここが何処なのかも未だはっきりせず、更にはクロガネとの連絡手段もない―――。これは、相当参った事だ。更に。

 

「むっ、不覚……! まさか、我が剣がここにはないとは……」

 

 苦虫を潰したような、そんな表情を浮かべて悔しさを露わにするゼンガー。

 それもそのはずで、穴に吸い込まれる前に確かに持っていた愛用の真剣が、今彼の手元にはないのだ。

 幸いな事に、木刀だけは己が手の中にあるが、常に持っていた真剣だけが見当たらない。辺りを見渡すが、それらしきものすら見当たらない事態だ。

 

「…………」

 

 真剣がない事は、確かに痛い。ゼンガーにとっては由々しき事態な事も間違いないだろう。だが、だからといっていつまでもその事を引き摺っている訳にもいかなかった。

 ゼンガーは木刀を左手に持ち、ようやく歩き始める。

 何はともあれ、ここが一体何処なのかを調べなければならない。真剣の事は確かに気になるが、無い物を強請ったところで仕方がない。未練がない、といえば嘘になるが。

 

「む……?」

 

 ようやく歩き出したと思いきや、ゼンガーはまたしても足を止めた。

 一体何があったのか、と聞かれれば、目に映りこんできたのは一人の少女が走っていくのが見えた。年はまだ小学生くらいの、至って普通の少女が。

 周囲の様子から察するに―――いや、地上で暗いと言えば夜に間違いないのだが――こんな時間帯に出歩くような年頃ではない筈だ。ましてや、少女などと。

 確かに少し不思議には思ったが、だからといって少女を追うなどという考えには至らない。至ってしまっては、非常に危ない臭いがプンプンするが。

 それはともかく、あまりあり得ないかもしれないが、ゼンガーの経歴上、無暗に他人と接することは非常に危険な行為だ。ましてや、一般人を巻き込むなどと。

 ゼンガーは、再び歩き始める。少女が走り去っていった方向とは別の方向に。しかし―――。

 

「……!」

 

 ゼンガーが咄嗟に振り向く。理由は、近くで轟音が鳴った為だ。

 地震? 違う。あれは、大木が倒れたような鈍い音だ。

 更に悪い事に、ゼンガーが振り返った方角は、先ほどの少女が走り去っていった方。まさか、少女と先ほどの轟音が関係あるとでもいうのか?

 

「……行ってみるか」

 

 再び、嫌な予感がゼンガーの中で駆け巡る。

 しかし、行かなければならないという声もまた、ゼンガーの中には存在するのだった。もしも、あの少女に何かあったのならば、放ってはおけまい。

 ゼンガーは、木刀を片手に握り、走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 少女には、確かに聞こえた。

 「僕に少しだけ、力を貸してください」と。

 夢でも見た、そして昼間にも聞こえた謎の声。最初は空耳でも聞こえたのかと思った。だが、先ほど家にいた時、その声ははっきりと少女の耳に届いたのだ。

 後は、無我夢中で走った。家族を心配させる事は分かっている。でも―――どうしても、自分がいかなければならない気がした。

 

 少女は、真っ直ぐな子だ。そして、優しかった。誰かが自分に助けを呼んでいるのならば、少女が動かない訳がないのだ。

 危険といっていたが、それは一体何なのか。それすら分からないまま、少女は気が付けば「槙原動物病院」の前まで来ていたのだ。

 ここまで一切立ち止まらず、全力疾走。元々体力に自信のない彼女は、少し息を荒げていた。

 早く行かなくちゃ―――。そう思い、槙原動物病院へ近づこうとした時だ。

 

「ううっ…!」

 

 耳がキーンとなって、不快な音が少女を襲う。

 風がざわつき、木々が揺れる。なおも収まらない耳鳴りに、少女は耳を押さえていた。

 

「また…この音?」

 

 不快な音は更に続く。

 その時だ。今までざわついていた筈の風がぴたりと止む。そして、あり得ない事に周囲は薄紫の色へと変色していく。

 とてもではないが、自然の中で起こる現象としては不可思議極まりない。そして、周囲に電気も、風も、生き物も。全ての気配が消えるような感覚が、少女にはどうしてか理解できた。

 それと同時に、耳鳴りがとうとう止む。はっと気づき、少女が顔を上げた瞬間、今度は妙な声が聞こえてきた。

 人ではない、何か異質な声。理解できずに立ち尽くしていると、今度は激しい音と共に、病院の中から何かが飛び出してくる。

 

「あ、あれは!」

 

 飛び出して来たものを、少女が確認した途端、咄嗟に声を出した。

 病院の中から出てきたのは、小さいフェレットのような生き物。首のあたりに赤い宝石のようなものを付け、四本の足で素早く動く。

 少女はフェレットに駆け寄ろうとしたが、その前に高速で動くものがフェレットに襲い掛かる。

 その“黒っぽい何か”は、凄まじい勢いで病院の敷地内にある一本の木に突撃すると、木をいとも簡単にへし折ってしまう。

 

「な、何!?」

 

 驚く少女。驚かない方がおかしいので、これは普通の反応といえよう。

 しかし、少女の目に映ったのは、木が折れた衝撃で投げ出される形で空中に浮かぶ一匹のフェレットの姿。このままでは危ないと思い、少女は無意識のうちに手を伸ばしていた。

 すると、フェレットは折れた木を足場にして、跳躍し、少女の胸の中に飛び込んでいく。瞬間、今の今までフェレットがいた場所が凄まじい音と共に壊れる。

 

「一体なんなの!?」

 

 状況が理解できない少女。無理もない話であるが、先ほどの“黒っぽい何か”は壊れた残骸の中で身動きが取れないのか、もぞもぞと動いている。

 その様子を見る限り、あまり知世は高くないようだ。しかし、あの巨体からしてあの場所から這い出てくるのは時間の問題であろう。

 

「来て…くれたの?」

 

 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

 いや、もはや目の前にあること自体がいまいちよく理解できないでいた少女であったが、またしてもその“理解できないこと”が増えたのだ。

 なんと、急に少女に話かけてきたのは、あのフェレットだったのだ。その声を聞くなり、少女は固まってしまったが、すぐにハッとなり、またしても驚く。

 

「しゃ、喋った!? な、なんで!? どうして!? マジックか何かなの!?」

 

「いや、どうしてと言われても……」

 

 あまりの驚き様に、フェレットは何処か困っていた様子だった。いきなり動物が喋り始めるという事自体、驚かない訳がないのだが。

 

「ともかく、今はこの場を離れよう。また、あいつが動き出す前に……」

 

「う、うん!」

 

 言われて、少女は立ち上がり、フェレットを手にしながら病院を後にする。

 門を潜って再び走り始めた頃、後方でこの世のものとは思えない呻き声のようなものが聞こえたが、少女は構わず走り続けた。

 とてもではないが、逃げるほかない。だが、何処に? あんな化け物から、一体何処に逃げればよいのか。ともかく、遠くへ、遠くへと走り出す。

 

「一体、何がどうなってるの!? 私、全然理解できないよ~!」

 

「確かに、いきなりの事で混乱していると思う。でも、僕の声が聞こえるということは、君には資質があるという事なんだ。だからこそ、少しだけ君の力を借りたいんだ」

 

「資質? それってどういう―――」

 

 事、と続けようとした矢先だった。

 

「危ない、逃げて!」

 

「え……?」

 

 フェレットが気付いた時には、既にあの“黒っぽい何か”が少女たちに向かって突撃してきている最中だった。

 もう追いついたのか、という事など思う事が出来ず、少女はあまりの速さに息を吞む。そして、恐怖からか足が動かなかった。

 当たり前だ。まだ、小学生の少女である。恐怖に体が怯えてしまうのは、必然の出来事だ。

 

 死ん―――じゃうの……?

 

 あの体当たりをまともに当たってしまっては、とてもではないが子供の体など一溜まりもない。

 家族の皆に、金髪と黒髪の少女達の笑顔が、少女の脳裏に鮮明に思い出される。

 

 ――――こんなところで死ぬなんて、絶対に嫌!

 

 そう、少女が思った瞬間だった。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

 “何か”が、吠えた。

 瞬間、それまで近づいてきていた“黒っぽい何か”の前に見たこともない男が現れ、手にしていた刀のようなもので“黒っぽい何か”を真っ二つに斬り裂く。

 斬り裂かれた“何か”の残骸は少女の左右両方向へと墜落していき、激しい音と共にその場へと転がっていた。

 

「え……ええ~!?」

 

 戸惑いに近い声を上げ、キョロキョロと左右を見渡す少女。

 いきなり何かの声が聞こえたかと思えば、今度はあの“黒っぽい何か”が真っ二つになり、落ちてきた。またしても理解できない事態が増え、少女の頭は更に困惑する。

 

「ど、どういう事なの~!?」

 

「そんな……。生半可な攻撃じゃ、“―――”にはダメージが与えられない筈…。いや、それよりどうして生身の人が結界の中に……?」

 

 困惑しているのは、どうやら少女だけではないらしい。

 事情を知っていそうなフェレットまで、今回の事態は想定外だったらしく、何事かを小さく呟いていたが、フェレットの目線は突如として現れた人物へと向けられていた。

 

「……無事か?」

 

「は、はいっ!?」

 

「無事か、と聞いている」

 

「は、はい! 私は大丈夫です!」

 

「そうか……。ならば、いい」

 

 自分でも恥ずかしいくらいに素っ頓狂な声を上げたのが自覚できたが、男は気にせず、少女の無事を確認しただけだった。

 

「むっ……?」

 

 しかし、男は異変に気付いたらしく、手にしていた刀―――いや、よく見るとあれは木刀だ―――を構え、少女の前に立つ。

 少女は男の構えに、何事かと辺りを見渡す。すると、先ほど男によって真っ二つに斬り裂かれた筈の“黒っぽい何か”が、もぞもぞと不気味に動きだし、再び一つに集まっていくのが、少女の瞳の中に映りこんできた。

 

「この気配―――妖魔のものか……?」

 

 気配から察するに、そう思う他ない。

 斬っても再生する能力――なるほど、これは厄介極まりない。しかし―――。

 

「何度蘇ろうと、我が一刀にて斬り裂くのみ!」

 

 男が“黒っぽい何か”に言い放つと、大地を蹴りつけ、とても人間とは思えないスピードで突撃し、もう一度“黒っぽい何か”を木刀にて一刀両断する。

 両断された“黒っぽい何か”は、奇妙な液体を散らして両断されたが、まるで攻撃など聞かないとばかりにもう一度再生する為に体を寄せ合っていく。

 

「くっ……! 埒が明かないか……!」

 

 斬っても再生していく。ならば、また叩き斬るしかない。

 強烈な一撃を食らわせ続けるが、またしても再生していく。いたちごっこの様にも思えるそれをしばらく見ていた少女と一匹のフェレットだったが、フェレットは少女の顔をもう一度見上げ、語りかける。

 

「あの人は、確かに強い。でも、ただ強いだけじゃ駄目なんだ」

 

「じゃあ、どうすればいいの?」

 

「うん……。あまり、君に迷惑はかけたくないんだけど……資質を持った君なら、あれを封印する事も出来る筈なんだ」

 

「ふう……いん?」

 

「そう。あれの名前は“ジュエルシード”。その一つ一つが強い「魔力」の結晶体で、放っておいたら大変な事になる。だから……」

 

 フェレットの言いたいことを簡単に要約すると、“ジュエルシードを封印できるのは君しかいない”、という事だろう。

 いくらあの男が強くて、何度も何度も斬り裂いたところで、それでは駄目なのだ。キチンと、あるべき姿に返さねば、あれが収まる事は永遠にないに等しい。

 少女はフェレットを見直すと、彼に尋ねる。

 

「それは……私だけが出来る事なの? 私じゃなくちゃ……駄目な事なの?」

 

「本来なら、僕が封印する筈だったんだ……。でも、今の状態ではどうしようもないんだ。だから、君の力を借りたい。お礼なら、何でもするっ! だから……!」

 

 現状では、自分にしか出来ない―――。だったら、私も何かしなくちゃいけない。

 少女の決意は固まり、こくりと一回だけ首を縦に動かす。承諾の意だ。

 少女が承諾してくれた事に、フェレットはほっと内心で胸を撫で下ろす。いや、どうしても嫌だというのならば、この体がどうなろうと、フェレット自身で封印を行っていただろう。

 いわば、これは賭けだ。それも、今後を左右する大きな賭け。

 しかし、少女が“力”を使うためには少し時間が必要だ。フェレットは、男の方に向き直り、彼に向けて現状だせる声を振り絞って言い放つ。

 

「そこの貴方! もう少し……もう少しだけ、それを引き付けてください! 勝手なお願いには違いないのですが…どうか、もう少しだけ、僕たちに時間を!」

 

「……承知!」

 

 フェレットの声に動ずることなく、男はただ一言だけで了承の意を伝える。

 そして、彼は少女とフェレットの前に仁王立ちすると、木刀を固い筈のコンクリートに突き刺し、“黒っぽい何か”を睨みながら、高々に名乗る。

 

「聞け、この世の物ならざらぬ妖魔のものよ!」

 

 彼の咆哮に、“黒っぽい何か”は何も答えない。ただ、彼から発せられる凄まじい覇気に、やや押されているのか、今までのように突撃しないでいた。

 

 

 

「我はゼンガー・ゾンボルト! 悪を断つ剣なり! この先を通ろうというのならば、我が木刀にて一刀両断に斬り伏せてくれよう!」

 

 

 

 男―――ゼンガー・ゾンボルトは木刀を両手で持ち、高らかに構える。

 

 

 これが、少女とゼンガーの忘れられない最初の出会いとなった―――。

 

 

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