魔法少女リリカルなのは ~悪を断つ剣~   作:ダラダラ@ジュデッカ

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前回の続きですが、あまり話は進みません。二話連続でこんな話を投稿してしまって申し訳ない……。


第二話 初めての実戦

 

「我はゼンガー・ゾンボルト! 悪を断つ剣なり! この先を通ろうというのならば、我が木刀にて一刀両断に斬り伏せてくれよう!」

 

 高らかに名乗りを上げ、悠然と木刀を構えるゼンガー。

 眼前に存在するのは、ゼンガー曰く「妖魔」なるもの。というのも、これはゼンガーの経験上に似たようなもの―――正確にいえば、姿形は違うのだが―――に遭遇しているからである。

 それは、人間側は妖機人と呼んでいるこの世ならざらぬ怪物の事もその一種。一度、テスラ・ライヒ研究所にも出現した事もあるそれは、多大なる被害をもたらして去って行った。

 更に、アインストと呼ばれた異形の化け物共。これらとの戦闘を行ったという経験があるからこそ、ゼンガーは決して臆せずに立ち向かえた。

 

 ―――いや、そんな事がなくともゼンガーは立ちはだかっただろう。

 

 経験など、二の次。今は、眼前に存在する異形の化け物を叩き斬るのみ。

 

「いざ……参るッ!」

 

 両足に力を入れ、強く踏み込む。そして、地を蹴り上げると共に“黒っぽい何か”へと突進し、渾身の一撃を叩き込む。

 “黒っぽい何か”には、知性がない。更に、身体の耐久度もないに等しいらしく、ゼンガーの一撃を喰らった後は必ずと言っていいほどに砕け散るのだ。

 しかし、砕けたからといってこいつが死んだわけではない。すぐにバラバラになった体を動かして体を再構築すると、ものの数分で元の姿へと戻る。

 その行為を繰り返して、一体何度目になるのか。指では数えられないくらいに斬って見せたが、それでもこの化け物の再生能力は異常ともいえる。

 もっとも、それまで木刀を振るっているゼンガーも、息切れ一つせず、ケロリとしているのも十分おかしいのだが。

 

「…………」

 

 何度斬っても埒が明かない現状。しかし、あのフェレットには何か考えがあるらしく、ゼンガーに「時間を稼いでくれ」と頼み込んできた。

 何か勝機があるのならば、それに賭けてみるのも面白い。いや、それ以外に方法がないのならば尚更だ。

 ちら、とフェレットと少女の方に視線を送る。

 少女たちは、座り込んで何かをしているが、恐らく勝つための手段を講じているのだろう。

 ならば、尚更ここから先を通すわけにはいかない。ゼンガーは木刀を握り直し、再び“黒っぽい何か”の真正面に立つ。

 

『――――!』

 

「まだ立つ、か。よかろう……何度でも斬り捨てるのみ!」

 

 この世のものとは思えない声を上げて飛びかかってきたが、ものともせずゼンガーは再び“黒っぽい何か”を斬って見せた。

 突撃だけしか出来ないものなど、ゼンガーにとってはどうぞ斬ってくださいと自分から自己主張しているようなものだ。言うまでもなく斬ってやるが、やはり残骸が散らばるのみでここから先には進展しない。

 

(機動兵器を斬り捨てるのならば簡単な事だが……。これは、少し骨が折れるな)

 

 そう、ゼンガーが思った時だった。

 

「……!」

 

 突如、ゼンガーが後ろを振り向く。其処にいたのは、先ほどの少女なのだが、その少女を桜色のオーラが包み込んでいたのだ。

 

「これは……」

 

 オーラが晴れるのは、本当に一瞬の事だった。

 立っていたのは、先ほどの少女。しかし、その姿は白を基調とした服装へと代わっており、更に左手には杖のようなものを持っていた。

 顔を見る限り、同じ少女で間違いない。ただ、先ほどの彼女とは全く違う―――。気配だけでそれを察知するゼンガー。

 

(なるほど……。あれが、『時間稼ぎ』の理由か)

 

 気配が変わった、というよりも、何か特別な力が少女の周りに存在している、といった方がいいのだろうか。

 ともかく、同じ少女でも全く違うという事。だが、少女はいきなり変化した自分の服装を見るなり、やや戸惑った声を出していた。

 

「な、なんなの、これ?」

 

「それは、『魔法』の力。君が持つ資質の力が具現化した形なんだ」

 

「ま、魔法……?」

 

 フェレットの口から発せられた「魔法」という言葉。

 魔法なんて、昔母親に読んでもらった絵本の中でしか聞いたことがない。確かに、魔法があればいいな、なんて思った事ぐらいはあるが、いざ言われるとどうしていいのか分からなくなる。

 状況も理解できず、自分にしか出来ないと言われて、フェレットの言葉通りに難しい言葉を発した後、いきなりこんな姿になった。

 別に、現状を悲観している訳ではない。ただ、与えられた情報が少なすぎて、少女の頭では理解するのに時間が掛かっているだけだ。

 

「ともかく、今はあれをあるべき姿に戻さなくちゃいけない」

 

「でも、どうやって? 私、何にもわかんないよ?」

 

「攻撃や防御みたいな基本魔法自体は、君が心に思うだけで発動する。でも、より強力な魔法……それこそ、強力な魔法を使う場合は、呪文が必要なんだ」

 

「呪文……?」

 

「心を済ませて。そうすれば、君の呪文が浮かんでくるはず」

 

 簡単に言ってくれるが、やってみるしかない。少女は、ふうと深く息を吐くと、集中する為に目を閉じる。

 だが、気になるのはゼンガーという人が自分を守るために今も戦ってくれている事。だから、早くしないと、という焦りの気持ちが、少女の心の中を支配していた。

 そのためか、集中したくともゼンガーの事が気になってしまい、中々集中できない。

 

(早く……早く……!)

 

 そんな状態では、浮かんでくるものも浮かんでこない。思い通りに行かない事に、少女は更に焦りを覚え、いつしか左手に持っていた杖をギュッと強く握りしめていた。

 なかなか目を開けない少女に、フェレットもまた、これはどうしたものか、と考えていた。

 この少女は、焦っている。早くなんとかしなければという思いが強すぎて、集中できずにいることくらいはフェレットの目からしてみても容易に理解できた。

 だが、こちらから彼女にかけてやれる言葉が見つからず、祈るような気持ちで少女を見る事しかできなかった。資質はある。後は彼女の心が落ち着けば、それだけで全てがうまくいくはずなのだ。

 

(早く……早く、しないと……!)

 

 焦燥。そんな言葉が少女には相応しかった。

 集中できない自身への苛立ち。その事から生まれる焦り。悪循環が少女を襲う。

 なんとかしたくても、集中できない。焦ってしまい、心が酷く落ち着かない。そんな状態が、今の少女には襲い掛かっていた。

 そんな状態がしばらく続いただろうか。いや、そえは少女が感じるのは体感だけで、実はほんの数秒だったのかもしれない。ふと、少女の肩がポンと軽く叩かれた。

 

「きゃっ」

 

 小さく悲鳴を上げ、少女は自身の肩を叩いてきた人物の方を見る。

 其処にいたのは、当然というべきか、ゼンガー・ゾンボルト。彼は少女の横に立っており、優しく少女の肩を叩いたのだ。

 今までゼンガーが相手をしていた“黒っぽい何か”は散々ゼンガーに痛めつけられたのか、向こうの方で再生活動を行っている最中。タイミングを見計らい、少女に近付いたのだろう。

 

「何を焦っている」

 

「だ、だって……早くしなくちゃ……ゼンガーさんが危ないと思って……」

 

「俺が、か?」

 

「は、はい」

 

 少し緊張しているのか、少女の声が上ずっているように聞こえた。

 だが、ゼンガーは少女の肩から手を離すと、彼女の前に背を向けて立つ。その後姿を、少女は見上げる形となった。

 

「案ずるな。俺は、この程度では倒れぬ」

 

「で、でも……」

 

 不安なのだろう。声が弱弱しく、震えていた。

 だが、ゼンガーは決して少女の方を振り返らない。自分の性格上、振り返って少女に慰めの言葉を掛ける事の方が難しい。

 だが、それが出来ないからこそ、彼は少女に敢えて背を向けた。そして、彼女にこう告げる。

 

「一意専心だ」

 

「一意……専心?」

 

「左様。俺の事など気にするな。お前は、自分の事だけに集中すればいい。俺は……妖魔のものなどには決して負けん」

 

 一意専心―――。その言葉を聞いた時、少女はハッとした。

 確かに、ゼンガーの事は気になる。早くしなければならないという焦りも当然のようにある。

 だが―――。少女を護るかのように立っているゼンガーの姿を見て、どうした事か、それまで酷く焦燥を覚えていた少女の心がすっと落ち着いた。

 少女は、こう思ったのかもしれない。「まるで、お父さんみたいな人だな」と。

 それが嬉しくて、頼もしくて。そして、心も落ち着いていく。

 

「あの……ゼンガー、さん」

 

「……なんだ?」

 

「私、うまく出来ないかもしれません。でも……もしよかったら、私に力を貸してくれませんか? 不安だけど……ゼンガーさんが一緒なら、なんだって出来るような気がするんです! お願いします!」

 

 もう、少女に迷いはなかった。

 杖を両手でギュッと握り、頭を下げてゼンガーに協力を頼む。少女一人ならば、何も出来なかったかもしれない。

 だが、この男とならば。この人と一緒なら、どんな不可能な事だってできそうな気がする。そう、思えたのだ。

 

「……無論だ」

 

「あ……ありがとうございます!」

 

 ゼンガーの答えは、承諾だった。

 少女は彼の答えに表情が明るくなり、同時にホッと胸を撫で下ろす。この状況下でゼンガーが断るとは考えにくいが、それでも可能性がない訳ではなかったのだ。

 ホッとしたのもつかの間。少女は、瞳を閉じて心に意識を集中させる。

 ゼンガーから言われた一意専心の言葉を思い出しながら、少女はもう一度心を集中させるのだった。

 

「あの、ありがとうございます」

 

「……俺は別に何もしてはないが」

 

「それでも、貴方のおかげですから。僕からもお礼を言わせてください」

 

 フェレットに礼を言われるのは、普通の人間からしてみれば不思議な感覚に違いないのだろう。

 だが、ゼンガーにとっては喋る動物というのは決して珍しくない。なにせ、仲間の一人に喋る猫を連れていた人物がいるのだから。

 こういう場面に限って、常人とは違う反応を見せる。あの部隊の感覚も十分におかしいのだが、その空気に自然と染まっていたゼンガーも、常人とはまた違った感覚になっているのかもしれない。

 ―――もっとも、喋る動物などよりもゼンガーの行動の方がよっぽど非常識であり、見ているだけで腰を抜かすような行動ばかりしているのだが。

 

 さて、少女が集中している間、ゼンガーが何もしない訳がない。

 既に再生が完了している“黒っぽい何か”。真紅の瞳をぎらつかせ、血走った目をこちらに向けている。

 何度もやられているにも関わらず、性懲りもなく突撃してくるのは明白。しかし、ゼンガーは悠然と木刀を構え、対峙する。

 すると、今までゼンガーの後ろにいた筈の少女が、杖を両手で握りしめたまま、ゼンガーの真横に立った。

 その顔は、決意に満ちていた。分からない事は多い。今も、まるで夢でも見ているんじゃないか、という現象が続いている。

 だが、その中でも自分がやらなければならない事がある。それを理解したのか、少女はゼンガーの真横に立ったのだ。

 

「もういいのか?」

 

「はい。初めてだからうまく出来ないかもしれないけど……でも、ゼンガーさんと一緒なら、絶対にうまくいくって信じてますから!」

 

「そうか」

 

 ゼンガーの方を見て、ニッコリ微笑む少女。対して、ゼンガーは瞳を閉じ、何かを待っているようだった。

 微笑む余裕があるのならば、心配など無用だ。

 機は熟したと判断したゼンガーは、カッと力強く眼を開けるや、地を勢いよく蹴り上げ、“黒っぽい何か”へと突撃していく。

 ゼンガーの強い踏み込みに、硬く出来ている筈のアスファルト性の道路にひびが入る。もはや人間業では考えられない力で踏み込んだ彼は、突撃しながら吠える。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

『――――!』

 

 それが合図だったかのように、“黒っぽい何か”もゼンガーに対して突っ込んでくる。更に、今まで出し惜しんでいたのか、それともゼンガーがださせなかったのかは定かではないが、二本の触手のようなものを出し、ゼンガーに向かわせる。

 両者とも恐ろしくスピードが速い。タイミングを少しでも間違えれば正面衝突をし、いくらゼンガーといえども己が体が持たないほどの衝撃を喰らうだろう。

 しかし、歴戦の戦士がタイミングを狂わすわけがない。絶好のタイミングでゼンガーは渾身の力を込め、木刀を振り下ろす。

 

 

「チェストォォォォォ!!!!」

 

 

 彼は大声で叫んだ。いや、吠えたといった方が表現としては的確だ。

 迷いのない、そして完璧なタイミングで振り下ろされた太刀は、今までと同じように、そして今度は触手ごと“黒っぽい何か”の体を打ち砕いた。

 しかし、今回太刀は今まで以上の力を込めたのか、太刀の衝撃によって大地が割れ、胴体が真っ二つではなく粉々に吹き飛んで行った。

 

「す、すごい……」

 

 呆気にとられたのは少女の方。まだ、これだけの余力を残していたゼンガーの動きに、先ほどの自分の心配や焦りが杞憂だったのだと気付く。

 そして、その事に気付いてしまった少女の顔がやや赤くなった。あんな事で悩んでいた自分が恥ずかしく、そして馬鹿馬鹿しくなったのだ。

 と、今はその事を恥じている場合ではない。少女は杖を掲げ、“黒っぽい何か”へと向けた。

 

「リリカル、マジカル!」

 

 少女の心の中で浮かんできた言葉。それが、彼女の力―――「魔法」を発動するキーであった。

 

「封印すべきは忌まわしき器、ジュエルシード!」

 

「ジュエルシード、封印!」

 

 少女は杖を空高く掲げる。

 杖の先についた真っ赤な球体にエネルギーが集まり、それは段々と収束していく。

 

『sealing mode.set up』

 

 真っ赤な球体から英語の様なものが浮かんでくる。

 すると、杖が少しだけ伸びたかと思うと、伸びた部分から光の羽のようなものが出現する。

 一本は短く、もう二本はまるで天使の羽のよう。桜色に染まった羽が杖から飛び出し、少女は杖をクルクルと器用に回転させ、構える。

 すると、杖から光の帯の様なものが伸びていき、またしても再生を開始していた“黒っぽい何か”を的確に捕える。

 それはまるで拘束具(バインド)。厄介であったスピードを拘束された事によって封じられ、成す術をなくす。残された手段は声を上げる事だけだったが、今の状態からしてみれば、情けなく映った。

 その瞬間、“黒っぽい何か”の額に「XXI」の文字が浮かぶ。№21――額に映し出された数字は、それを示していた。

 

『stand by ready.』

 

「リリカル、マジカル。ジュエルシード、シリアル21……封印!」

 

 瞬間、拘束されていた“黒っぽい何か”が、呻き声の様な声を上げ、光の粒子となって消滅していき、残されたのは小さな宝石のようなものだった。

 あれだけ斬っても、砕いても再生を繰り返していた化け物が、こうもあっさり消滅するとは。意外と言えば意外だが、少々拍子抜けしてしまう。

 だが、これでひとまず事態は落ち着いたといってもいいだろう。

ゼンガーは、これ以上この場に留まるのは得策ではないと考え、何も言わずにその場から背を向けて歩き出す。

 少女の名前も知らないが、もう彼女と会う事はないだろう。それに、彼女もゼンガーとこれ以上関わるのは危険に違いない。

 

(事情は知らんが……あの少女ならば、心配ないだろう)

 

 寧ろ、ゼンガーがいなくてもあの場はどうにかなったに違いない。今更になってそんな事すら思ってしまうほど、終わってみれば非常に呆気なかったのだ。

 ゼンガーは、暗闇を利用して姿を消す。少女に悟られないよう、気配を消しながら。

 そして―――二度と、自分と関わらない事を切に願いながら。

 

 

 

「……あれ?」

 

 小さな宝石――ジュエルシードの事だ――を回収した後、少女はようやく気付いた。共に戦った、あの男がこの場から立ち去っているという事を。

 辺りを見渡すが、彼の姿は何処にも見当たらない。どうやら、少女たちがジュエルシードに意識を集中させている間に、ゼンガーはこの場から立ち去ってしまったらしい。

 

「改めてお礼が言いたかったのになぁ……」

 

 肩を落とし、しゅんとなる少女。

 彼の言葉のおかげで勇気づけられた。自分一人だけじゃなく、あの人も一緒に戦ってくれると思っただけで、自然と勇気が沸いたのだ。

 そんな彼―――ゼンガーに、もう一度お礼が言いたかったのに。

 

「ゼンガー・ゾンボルトさん……か。凄い人だったね」

 

「う、うん……」

 

 少女の呟きに、フェレットも首を縦に動かして同意する。

 

(でも……あの時、結界の中に入れたという事は、あの人も少なからず魔力を持っているという事になる。まさか、管理局関係の? いや、それにしてはあの人から魔力の波動を感じられなかった……。覇気みたいなものは前面に出ていたけど……)

 

 フェレットが不思議に思ったのは、その事だった。

 あの時、周囲の人間に被害が及ばないよう、フェレットは結界とよばれるフィールドをこの周囲に張った。そして、それは魔力を持つものしか見えないような特別な結界である。

 それなのにも関わらず、ゼンガー・ゾンボルトはあの結界の中にいた。結界の中に民間人が迷い込むという可能性はなくはないが、それは本当にごく僅かな例だ。

 なりふり構わずに結界を張った訳ではない。キチンと、自分の魔力を行使した上で作った結界だ。

それに、生身の体でジュエルシードの暴走体を圧倒するほどの力を持った人物。

 

(ゼンガー・ゾンボルト……。彼は、一体……?)

 

 この闇夜の何処かに消えた男を、フェレットは訝しむのであった。

 

 

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