魔法少女リリカルなのは ~悪を断つ剣~   作:ダラダラ@ジュデッカ

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年内の投稿は恐らくこれで終わりかと。

なのはの話し方が少しおかしい気がしますが……。なにか変なところがございましたら、ご連絡ください。


第三話 高町なのは

「…………」

 

 昨夜、不思議な現象に遭遇し、見事それを撃退―――といっても、事態を収拾したのは幼い少女であったが―――したゼンガー・ゾンボルトは今、釣りをしていた。

 眼前に広がるは広大な海。青々と輝き、少し耳を澄ませばやや遠くの方で鳥が鳴く声が聞こえる。また、辺りを見渡せば彼と同じように釣りをしている老人達がちらほらと。

 彼等に混じり、釣り糸を海上に垂らし、釣りに耽っているゼンガー。彼の周りだけ妙に浮いて見えるが、当人は決してふざけている訳ではない。

 考えてみれば、現在のゼンガーに所持金なんてない。彼が常に持ち歩いているのは木刀のみ。それに、クロガネの中にいたのだから、それなりの生活は出来ていたのだ。

 更に言えば、クロガネは軍艦であるが、「軍属」ではないという特徴もある。中でもゼンガーは艦長であるレーツェルの親友であり、皆の親分だ。そんな彼から金をとるなんてとんでもない。

 ゼンガーが直接言ったわけではないが、それだけの事を言わせられる実力がある。ゼンガー・ゾンボルトとは、そういう男なのだ。

 

 だからといって、この人物が完全無欠のとんでも超人だという事はない。彼だって、立派な人間である。―――行動はともかくとして。

 勿論、人間だから腹は減る。ただ機体に乗って剣を振り回し、敵機をあれよあれよと壊滅させるだけ、なんて事は決してない。更に言うならば、「腹が減っては戦ができぬ」ということわざも存在する。

 これは、ゼンガーの師であるリシュウ・トウゴウから教わった言葉だ。とんでも超人ゼンガー・ゾンボルトを鍛えた人間だけあって、彼もまた人間離れした行動を取る事もある。いや、取る。

 ―――師も弟子も、揃いも揃って人間離れしてしまうという宿命でも定められているのだろうか。全くもって不思議な現象である。

 

 ともかく。昨日から何も食べていないゼンガーにとって、食糧調達は急務だ。

 その気になれば数日間は何も食べずに過ごす事も不可能ではないが、流石にそれでは移動することも間々ならない。

 ここが日本だという事は昨夜歩き回った結果から判断できている。周りはほとんど日本語で、通常の言語も日本語ばかりだ。ゼンガーも師であるリシュウから日本語を教わっていたので、それほど苦ではなかったが。

 しかし、どうやって自分の居場所をクロガネに伝えようか。それが一番の問題であった。

通信機は故障か何かで役に立たず、静岡にある筈の伊豆基地には寄りつけるはずもない。

 ならばレーツェルの協力者―――彼は、ゼンガーよりも顔が広いのだ―――を探して連絡をとってもらうということも頭の中にはある

 ―――だが、探そうにも現状では何もできない。ならば、まずは腹ごしらえだ。そう思った彼の行動は早かった。

 この町の裏山であろう場所に赴き、まずは竹を見つけた。意外にも竹自体はすぐに見つかり、その中の一本を木刀でなぎ倒した。

 傍から見れば、木刀で斬り裂かれる竹を見ただけで腰を抜かすだろう。しかし、ゼンガーならば造作でもない事だ。

 その竹を手頃な長さに調節して即席ではあるが竿を作ると、ゼンガーはそれだけを持って釣り場へと赴いたのだ。

 餌も糸も持っていなかった彼だが、ちょうどゼンガーと同じタイミングで釣りに来た老人が、ゼンガーの様子を不思議がって話かけてきたのだ。

 其処でゼンガーが現状を話すと、どうした事かゼンガーに釣り糸と餌を分けてくれたのだ。心優しき人もいるのだな、とゼンガーは老人に感謝し、現在に至る。

 

「…………」

 

 胡坐をかいて地面に座り込み、腕組みをしながら獲物がかかるのをジッと待つ。

 しかし、待てども待てども獲物は中々釣れず。こうして待っているだけで、既に四時間は経過しているだろか。

 

「お前さん、なかなか釣れないねぇ」

 

「……ええ。しかし、これも釣りというものです」

 

「そうかい、そうかい。おっ、またかかったようだ」

 

 そういって、ゼンガーの隣で釣り糸を垂らしていた老人―――ゼンガーに釣り糸と餌をくれた老人だ―――が、竿を持ち、獲物を引き上げる。

 この光景も何度見たことか。既に老人のクーラーボックスには何匹もの魚が泳いでいる―――悲惨な結果になっている魚もいるが―――が、ゼンガーは未だにゼロ。

 老人ばかり釣れて、ゼンガーが釣れないという事はどういう事なのか。しかし、だからといってゼンガーが怒る訳でもなく、ただじっと腕組みをしながら待っているのみだった。

 釣りといっても、所詮は時の運。隣が大量だからといって、自分の方にまで来るとは限らない。

ゼンガー自身、何度も釣りは経験している。今更そんな事を考えずとも分かり切っている事なのだ。

 

「…………」

 

「ほっほっ、今日は大量じゃなあ。お前さんも、早く釣れるといいんじゃがのう」

 

「ええ」

 

 隣の老人が得意げに笑んで見せたが、ゼンガーが彼の言葉に動じることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 ジュエルシード―――それは、「ロストロギア」と呼ばれる古代遺産の一種である。

 厳密に言えば、「過去に何らかの要因で消失した世界、ないしは滅んだ古代文明で造られた遺産」。その数多くが、現存技術では到底たどり着けないような高度な技術で作られている。

 昨晩、ゼンガーやあの少女たちに襲い掛かってきたのは、このジュエルシードの暴走体。というのも、このジュエルシードには周囲の生物が抱いた願望により発現するという特性を持っている。

 “黒っぽい何か”――今後は暴走体と表記する―――も、ジュエルシードを発現させてしまった一つの結果。願望、といえば聞こえはいいが、果たして当人の願望が本当に叶えられているのかと問われれば、そうではないというしかない。

 必ずしも、当人が望んだ結果になるとは限らない。それが例え、超古代の技術であったとしても、本質的には何一つ変わっていないのかもしれない。

 

 場所は学校。小学校であろう校舎の中には数多くの生徒達が、授業を受けている真っ最中であった。

 この学校の生徒達は向上意識が強いのか、大半の生徒が教師の話に耳を傾けている。たまに教師の話など聞かず、ノートなどに落書きしている生徒も見受けられるが、それもほんの一部に過ぎない。

 というのも、この小学校―――聖祥(せいしょう)小学校という―――では、それなりの学力が求められている。

 大学までエスカレーター式の学校となっているので聞こえはいいが、その中での競争は中々に厳しい。勉強を少しでも疎かにすれば、当然皆についていけなくなるし、遅れを取り戻すのはかなり大変だ。

 また学費もそれなりに高い。しかし、それだからこそ、学校側は生徒達の未来への可能性を高めるという役割を求められている。

 いわば、名門校だ。そして、その名門の小学校にあの少女もまた在籍していた。

 学校の制服を身に纏い、彼女もまた授業を受けている様子。

 しかし、彼女は耳では教師の話を聞き流す程度にしか聞いておらず、その心は一つの事に集中していた。

 

『―――昨日見たジュエルシードっていうのは、古代遺産の一つというのはさっきも説明したよね。本来は、手にしたものの願いを叶える魔法の石なんだ』

 

 少女の心の中に声が聞こえてきている。

 これは、昨夜も感じた声。あのフェレットの声だ。彼が少女に対して、心の声で話をしている。

 通常ならば考えられない事。それこそ超能力者か何かかと疑われそうだが、別にフェレットとしては難しい事をしている訳ではない。これは、フェレット達のいた世界では当たり前のように行われてきた行為なのだ。

 しかし、少女がそれをやろうにも出来る筈がない。そこで、フェレットは少女に持たせた杖を介して会話を行っている。

 勿論、少女が現在も杖を手に持っている訳ではない。あんな大きいものが彼女の手にあったら、流石に周りが不審がるのは明白だ。

 では、何処にあるのかと問われれば、それは彼女が首から下げている赤い宝石のようなものが“それ”だった。表面上からは見えないが、服の下には確かに赤い宝石がぶらさげてある。

 というのも、あの杖―――名称を『レイジングハート』というらしい―――は、変形する事も可能で、普段は宝石などアクセサリーに姿を変える事で持ち運びが便利になるように作られている。

 杖が宝石に変化してしまった事に、少女は目を丸くした。が、フェレット曰く、「これが普通」との事。

彼の基準を少女側に求めるのは大変酷であったが、それ以上追及する事も出来ず、ただただ現実を受け入れるしかなかったのだが。

 

『願いを叶える……? じゃあ、昨日見た怪物も願いを叶えた結果なの?』

 

『いや……恐らく、あれはジュエルシードが単体で暴走した結果なんだと思う。ジュエルシードは力の発現が非常に不安定で、所有者を求めて力を勝手に使ってしまう事もあるんだよ』

 

 確かに、昨日の怪物はどう見ても願いを叶えた結果ではないだろう。

 あのような怪物になってでもいいから力が欲しい―――なんて願う人間が、この地球上にいるだろうか。

もしかしたらそのような物好きもいるかもしれないが、少なくとも少女にとっては考えられない事だ。

 

『でも、所有者を求めてって事は……誰が触っても暴走しちゃうって事?』

 

『きちんと扱い方を分かっている人が触れば問題はないけど、たまたま触った人や動物なんかがジュエルシードに取り込まれて暴走してしまう、っていうのは大いにある。だから、そうなる前に早くジュエルシードを回収しなくちゃいけないんだ』

 

『結構大変そうだね……』

 

『うん……。僕もこの世界に来られたのはいいんだけど、やっぱり生半可な力じゃ到底かなわない。……今の僕の状態も、ジュエルシードの暴走体にやられた結果だからね』

 

 ――今の状態とは、恐らく怪我をしている事だろうと少女は自分なりに解釈する。

 実を言えば、フェレットが言いたかったのは怪我の事も含めはするが、“何故このような形態状態になってしまったのか”という事だ。

少女の方はフェレットの事実をまだ知らないために、この時は「怪我の事か」と思ってしまったが。

 

『でも、なんでそんなに危ないものが家のご近所に?』

 

『…………僕のせいなんだ』

 

『“ユーノ”君の責任……?』

 

 少女の問いは当然の疑問であった。今までは何も起きなかった筈なのに、何故いきなりそんなものが存在するようになったのかと。

 この問いに、フェレット—――どうやら、名をユーノというらしい―――は、やや間を置き、溜息を吐いてからその事情を話し始める。

 

『僕は故郷で遺跡発掘を仕事としていて、ある日――偶然ではあったけど、調査を依頼されていた古い遺跡の中でジュエルシードを見つけたんだ。それで、調査団に依頼して全てのジュエルシードを保管してもらった……。そこまではよかったんだけど……』

 

『だけど?』

 

『……でも、運んでいた時空艦船が事故か何か―――にあってしまって、ジュエルシードが全て放り出されてしまったんだ』

 

『じゃあ、その放り出された先っていうのか……』

 

『そう。この地球――それも、この“海鳴市”だったんだ。数は21個。2個はどうにか回収できたんだけど……』

 

『じゃあ、あと19個か……。先は長いね』

 

『うん……』 

 

 ユーノは途中で何かを言いかけたが、それは言わずに話を進めた。

 本来ならばこの部分に「人為的災害」と付け加える筈だった。しかし、まだ小学生である少女に人間の歪な部分を聞かせるという事に渋ったのであろう。

 ユーノ自体も、この事故は想定外だった。調査団に頼めば大丈夫。管理局までの護送任務とはいえ、預けてしまえば問題はないはずだ―――という思いが、彼の中にはあったのかもしれない。

 しかし、その考え自体が甘かった。ジュエルシードは“ロストロギア”なのだ。あれを欲するもの、組織は数多くいる。例え、それが自らをも滅ぼすであろう代物だったとしても、魅力を感じないものはいない。

 そういった事もあってか、結果は最悪の方向に転がって行った。そして、今では少女に力を借りる羽目になっている。

 

『でも、話を聞く限りだと、ジュエルシードが散らばった原因ってユーノ君のせいじゃないんじゃない?』

 

『だけど、それを見つけてしまったのは僕だ。それに、あれがロストロギアだという事をもっと自覚していれば……こんな事にはならなかった筈なんだ。だから、僕が見つけなくちゃいけない。そう、思ったんだ』

 

『ユーノ君……』

 

 ユーノの声は、震えているように思えた。

 確かに少女の言う通り、ユーノは正しい手段を踏んだ上でこのような結果になっているため、彼に非はない。しかし、「見つけてしまった」というのが最大の原因となっている。

 責任感が強い子なのだろう。恐らく、自分の体が満足に動くのならば今にでも飛び出していきそうなほど。

だからこそ、ここが異世界だという事を分かっていても飛び込んできた。

 

『真面目なんだね、ユーノ君は』

 

『真面目……? そうかな?』

 

『うん、そうだよ。私だったら怖くてできないよ』

 

 くすりとほほ笑み、教師が黒板に書いた項目をノートに写していく。

 と、暫くペンを走らせたとき。ふと、少女の頭の中に昨日の男――ゼンガー・ゾンボルトだったか――の事が思い浮かび、ユーノに問う。

 

『そういえば、昨日の男の人はなんだったのかな……?』

 

『……正直に言えば、僕も分からない。いや、寧ろびっくりしているといった方がいいかもしれない』

 

『それは私も。だって、あんな怪物を本当に斬っちゃったからね。こう…ズバズバーって』

 

 ユーノも驚いたという事は、こればかりは本当に想定外だというべきだろう。

 いや、誰が予想するだろうか。颯爽と現れ、暴走体を斬りまくるというとんでも行為をした後に、何も言わずに立ち去って行った人物。

 唯一判明しているのが、ゼンガー・ゾンボルトという名前のみ。後は、剣の腕が立つという事ぐらいか。

 

『ちゃんとお礼を言いたかったのになぁ……』

 

(でも、これ以上誰かに迷惑をかけるわけにはいかない……。確かに、あの人がいれば心強い存在にはなってくれるだろうけど……でも、それじゃ駄目なんだ)

 

 残念がる少女とは対象に、ユーノはブンブンと頭を振って「頼る」という選択肢を打ち消す。

 本来ならば、ジュエルシードの後始末はユーノがやらなくてはいけない事なのだ。これ以上、他人に迷惑をかけるという事は、ユーノにとってあってはならない事。

 

 

「……まちさん。“高町なのは”さん?」

 

「は、はいっ!?」

 

 その時、誰かが少女の事を呼んだかかと思うと、少女は驚いた様に顔を上げた。

 瞳に飛び込んできたのは、不思議そうに少女の方を向いている周囲の生徒達。その全ての視線が少女に集まっており、正直恥ずかしい。

 

「え、えっと……」

 

「高町さん、大丈夫ですか? もしかして、具合でも悪いのかしら?」

 

「い、いえ、大丈夫ですっ。ちょっとボーッとしていただけで……」

 

 どうやら何度も少女の事を呼んでいたらしく、教師は心配したような顔で少女の顔を覗きこんできたので、少女は慌てて否定した。

 彼女の慌てふためきように、周りからはクスクスと微かな笑い声が聞こえてくる。

自然と、少女の顔も恥ずかしさからかが赤く染まっていた。

 

「本当に大丈夫ですか? もし具合が悪いのなら、保健室に行ってもいいんですよ?」

 

「いえっ、本当に大丈夫ですから!」

 

「そうですか? でしたら、この問題の答えは何か分かるかしら?」

 

「えーっと……これは―――」

 

 やや顔を赤く染めたまま、少女――――高町なのはは、教師から出された問題の回答を答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後。

 ようやく一日の修業が終り、帰路につくなのは。今日は通っている塾も休みの為、少しは体を休める事が出来るのではないか―――と思ったが。

 

(でも、ジュエルシードも探さなきゃ……だよね)

 

 肝心な事を忘れるところだった。ユーノが動けない今、ジュエルシードを探し、それを食い止めには、なのはの力が不可欠。

 ユーノが動けない現状、なのはの力は大いに役に立つ。ユーノとしては心苦しい事に違いないのだが、それでも今は彼女の好意に甘えるしかないのだ。

 

「よーし、やるぞーっ!」

 

「何がやるぞー、よ。なのは、さっきからおかしいんじゃないの?」

 

「たしかに、今日のなのはちゃんはちょっと変かも」

 

 そういって呆れたように話しかけてきたのは、金髪の少女だった。呆れている少女とは違って、クスクスと小さく笑っているのは黒髪の少女。

 金髪の少女の名は、アリサ・バニングス。彼女は、いわゆる名家のお嬢様である。

 いつもは如何にも高級そうなリムジンに乗って通学しているが、こうして歩いて帰る事もある。名家という事もあって、親には少々心配されるものの、友達とこうして歩いて帰る事も必要だと言い張る娘には、流石に勝てなかったようだ。

 そして、黒髪の少女は月村すずかという。彼女もアリサとなのはの親友であり、彼女の家は工業機器の開発製作を営む会社社長の娘である。

 つまり、二人とも金持ちの家の子だ。なのはの家も別に質素という訳ではないが、流石にこの二人には到底及ばない。

 

「えー、別に変じゃないよー。いつもと変わらないと思うけど?」

 

「いや、どう見てもいつもと違うでしょ。授業中は先生に当てられていても上の空だし、今だっていきなりやるぞーっていきなり叫び始めたし」

 

「うーん……言われてみると、そうかも」

 

「でしょ。一体どうしちゃったのよ、なのはは」

 

 訝しげな表情でなのはの顔を伺うアリサ。なのはは彼女に笑い返しながらも、内心は冷や汗だ。

 原因といえば、ユーノと会話していた事か。まさか、あそこまで意識を集中させていたとは思わず、あの時はなのはも驚き、そして恥ずかしかった。

 まだ慣れていないというのが一番大きいな要因だろうが、いつまでもこうだと流石にごまかし切れない。いや、理由を話したところで誰も信じてはくれないだろうが。

 

「で、本当のところはどうなのよ? 一体何が原因よ、なのはをこんな風にした原因っていうのは!」

 

 興奮しているのか、それとも友人であるなのはがこんな事になるとは到底思えないのか、なのはの方に近付いていき、やや強い口調で問い詰めようとするアリサ。

すずかが「まあまあ」といってアリサを宥めているが、なのはは彼女に苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

理由―――話せるものなら、とっくに相談している。しかし、なのはにも「こんな危ない話に関係のない人を巻き込むわけにはいかない」と心の中で思っている。

それは、家族、そして友人。大好きな人たちが危険な目にあうかもしれないなんて考えたくもない。だから、なのはは理由を話せない。話さない。

 

(もっとしっかりしなくちゃな、私……)

 

 迂闊に声に出してしまっては、墓穴を掘るのと同じだ。

 あの場はどうにか収まり、アリサ達とはまた明日といって別れた。しかし、終始アリサからは疑いの眼差しを向けられていた。さて、彼女をどう説得しようかと思っていた矢先である。

 

「あれ…?」

 

 ふと、一人の男の姿がなのはの目の中に飛び込んできた。

 銀髪の髪型に、鋭い眼差し。手には木刀と、何故か竿のようなものまで持っているが、あの姿は間違いなくゼンガー・ゾンボルトの姿だ。

 どうやら、釣りはもう終わったのだろう。これから彼が何処に行くのかは不明だったのだが、なのはの足は気付いた時には彼の方に向かっていた。

 

「あ、あのっ! ゼンガーさん!」

 

「……む?」

 

 ゼンガーの後ろから、誰かが声を掛けてきたことに気が付き、ゼンガーはゆっくりと振り返る。

 振り返ると、正面に人影はない――いや、少し見下ろせば幼い少女がゼンガーを見上げている姿があった。

 

(この少女、昨晩の……)

 

 はぁはぁと息切れしている様子を見ると、どうやらゼンガーを見るなり全力疾走してきたようだ。今は両ひざに手をつき、呼吸を落ち着かせようとしている。

 ゼンガーは彼女が息を整えるのを待った。自分に何か用があるから、こうして走ってきたのだ。それを無碍にすることは出来ないし、またゼンガー・ゾンボルトという男は出来ない性格であった。

 そして、ようやく息を整えたなのはは、ふうと深呼吸をすると、ゼンガーに向かって頭を下げる。

 

「あの、昨日は助けていただいて、本当にありがとうございました!」

 

「その事か……。だが、俺は礼を言われるような事は何一つしていないぞ」

 

「でも、私は貴方に命を助けて貰ったから……そのお礼がしたかったんです。だから……」

 

「そうか…」

 

 何事かと思えば、そんな事かとゼンガーは思う。

 あれはゼンガーが好きで介入しただけで、少女から礼を言われるような覚えはない。確かに、少女が危機に陥っていたのは確かだったが。

 それに、礼を言われて悪い気はしない。が、その言葉に対する答えをうまく導き出せなかった。

 彼は真面目な男であると共に、不器用な男でもあった。こういう時、少女に何をいっていいのか分からない。だが、少女の想いは十分に伝わった。

 

「…………」

 

「え、えっと……」

 

 ゼンガーは沈黙。なのはは、ゼンガーの反応が予想以上に少なくて更に来困惑するしかなかった。

 そういった時間がしばらく続いただろうか。ふと、ゼンガーが口を開く。

 

「そういえば、名前を聞いていなかったな」

 

「な、名前ですか?」

 

「ああ。いつまでも「お前」では嫌だろう」

 

 ―――自分は何を聞いているのか。ゼンガーは、心の中で自らの失言を悔いていた。

 名前を聞いたところで、これ以後ゼンガーと関わることはないだろう。いや、ない方がいいに決まっている。

 だが、少女は自分の目を真剣に見ており、視線を逸らす事も不可能。

 そうこうしているうちに、少女はゼンガーの目を見ながら名乗る。自らの名を。これから―――ゼンガーが関わっていくことになる、少女の名を。

 

「私は……高町なのは。なのはです!」

 

「なのは……か。よき名だ」

 

「ありがとうございます。えへへ、ちょっと嬉しいかな…」

 

 素直に褒められ、少女―――なのはは、照れたように右頬を人差し指でかく。

 

「……すまんが、俺は行く。あまり、この場に留まっている訳にもいかないのでな」

 

「あ……。すみません、引き留めちゃって…」

 

「いや、いい」

 

 なのはは少し残念そうだったが、それだけ言うと、今度こそゼンガーは踵を返して歩き始める。

 やはり、彼女とは住む世界が違う。彼女が何らかの事件に巻き込まれていても、それは彼女が解決するだろう。ゼンガーが関わり合う必要は、あまりない―――。

 そう思った矢先だ。

 

(あ……!)

 

(むっ……?)

 

 それは、なのはとゼンガーが同時に感じた気配だった。

 何か変な感覚が自分の中を突き動かす感覚。それは一瞬の出来事であっただろうが、その一瞬で世界が止まってしまった様な感覚を覚える。

 歩き出していた筈のゼンガーの足が、ピタリと止まる。そして、彼は後ろにいるなのはの方を振り返ると、彼女に問う。

 

「……なのは、お前も感じたのか?」

 

「は、はい。……って、ゼンガーさんも?」

 

「ああ。奇妙な感覚が一瞬ではあったが、俺の中を過ぎ去って行った……。まさか、同じ感覚を覚えたとはな……」

 

「私達、似た者同士ですね。ふふっ」

 

「……そうかもしれないな」

 

 少し嬉しそうな表情を浮かべ、ゼンガーに語りかけてくるなのは。

 ―――本音を言えば、これ以上彼女に関わるのはどうかと思う。

 しかし、この感覚は昨晩感じたものとほぼ同じ。いや、昨晩はあまり感じなかったが、今は確実に感じたものがある。

 それに、昨日暴れていた怪物と似たようなものが再び暴れるのならば―――ゼンガーは、それを斬らねばならない。

 

 何故ならば、彼は「悪を断つ剣」だからだ。

彼が悪と判断したものは、迷いなく斬る。それも、ゼンガーという男だった。

 

「……見過ごしてはおけん。なのは、お前は……」

 

「私も行きます。それに、私が行かなくちゃ、あれを……ジュエルシードを封印出来ないですから……」

 

「…………」

 

 一理ある。例え、化け物を斬ったとしても、また再生されては元も子もない。

 ならば、彼女に任せて“ジュエルシード”とやらを封印してもらった方が速いのではないか。

 ならば、彼女を護る事もまた一つの使命なのかもしれない。駄目だとわかってはいるが―――見過ごすわけにもいくまい。

 

「……行くぞ」

 

「はい!」

 

 元気よく返事をし、ゼンガーの後ろを走るなのは。

 そんな彼女のスピードに合わせながら、ゼンガーもまた走る。

 

(……果たして、俺の選択は正しかったのだろうか)

 

 レーツェルが聞けば、どんな顔をするだろうか。

 「お前らしい」といって笑うか。それとも、やや渋い顔をしてゼンガーを窘めるか。恐らくは前者ではあろうが、果たしてそれが正解なのだろうか。

 

(いや、今は何も考えまい)

 

 雑念を振り払い、走るゼンガーとなのは。

 懸念はある、しかし、動かずにはいられないゼンガーであった―――。

 

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