魔法少女リリカルなのは ~悪を断つ剣~ 作:ダラダラ@ジュデッカ
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「我はゼンガー・ゾンボルト! 悪を断つ剣なり! これ以上の蛮行、決して許しはせぬぞ!」
木刀を悠然と構え、蜂型のジュエルシード暴走体と対峙するゼンガー。
昼間に受けた右腕のダメージは勿論完治したわけではない。むしろ、あれだけの傷を負って動ける方がおかしい。
しかし、なのはを放っておくわけにもいくまい。ゼンガーは右腕から感じる痛みを黙って押し殺し、静かに目を閉じる。
『――――!』
暴走体が奇声を上げる。
何度斬り裂いても蘇る化け物―——まるでアインストと戦った時のよう。あの化け物共も、コアを完全に破壊するまで再生し続ける、まさに異形の化け物であった。
このジュエルシードの暴走体もまた然り。しかし、アインストの時のように数で攻めて来なければ、図体が大きいからといって彼等から感じた異質な気配はさほどしない。
(しかし……だからといって、油断出来る相手ではないのは確かだ)
精神を集中させながらも、ゼンガーは思う。
これまでゼンガーが相手にしてきたものが異質であっただけで、このジュエルシード暴走体も生半可にかかっていっては危険だ。
慢心こそ最大の敵。常に全力で相手にかかるべし。
師の言葉を自分の心に言い聞かせ、ゼンガーはカッと目を力強く開き、暴走体を睨む。
「……いくぞ!」
『――――!』
暴走体はゼンガーの咆哮に応えるかのように、両腕の針を振り上げ、突く。
その攻撃は、確かに速かった。当然、素人ではとてもではないが避けきれるはずもないスピード。それは後方にいるなのはが何度も苦しめられた攻撃。
「ゼンガーさん!」
暴走体の攻撃が迫ったとき、なのはが声を上げる。
あの攻撃を何度も受け止めたからこそ、声を上げずにはいられない。いくらゼンガーが強いとはいえ、生身であんな攻撃を受ければ一溜まりもないからだ。
しかし。鋭い攻撃のように見えるジュエルシード暴走体の突きも、ゼンガーから見れば遅い。寧ろ、遅すぎて話にならないレベル。
だから、彼は薙ぎ払うように剣を振るった。回数は一回。それでも、暴走体の両腕が破壊されるような力を込めて。
「むん!」
『――――!?!?』
刹那、暴走体は何が起きたのか分からなかった。
ただ一刀、ゼンガーは木刀を振るった。目にも留まらぬ速さにて一閃し、それはまるで当然のように暴走体の両腕を斬り裂き、残骸が地に落ちる。
自慢の突きが、一介の人間にこうも簡単にやられるものなのか。相手が人間ならば、こんな事を思っただろうか。
これまでの暴走体に、意識―――いや、感情というべきか―——という概念は存在しなかった。彼等は本能のままに動き、その全てがゼンガーによって叩き斬られてきた。
この蜂型もまた同様なのか。斬り裂かれた場所をプルプルと小刻みに動かしながら、情けなく奇声を発する事しか出来ない。
なのはに襲い掛かっていたときは打って変わって、この頽落である。見ている方が先ほどのギャップを感じてしまうほどであり、また、同じ相手にも関わらず実力が違いすぎる事を証明しているようであった。
「やっぱり、ゼンガーさんは凄いね……」
「なのは!? まだ動いちゃ駄目だ! 君の怪我は……」
「……だからって、じっとしている訳にはいかないよ、ユーノ君。ジュエルシードを、封印しなくちゃ、いけないから……」
無理に笑顔を作って笑うなのは。その痛々しさに、何も出来ない自分がユーノは非常に悔しかった。
なのはが無理をしているのは明らかだ。彼女は隠し通せているつもりなのかもしれないが、彼女は倒れてもおかしくない。それほど、結構なダメージを受けているのだ。
それを知っているからこそ、ユーノはなのはを休ませたかった。だが、それは出来ない。現状、あの暴走体を封印できるのはこの子しかいないのだから。
ユーノが出来ない事もないが、なのはに比べれば力が随分と落ちる。更に、力が全然戻っていない事からしても、果たして封印という結構な魔力を使用する大技を使用できるだろうか。―――無論、答えは否だ。
「でも、なのはが……」
「私は、大丈夫。ユーノ君と……ゼンガーさんが、いるから……。二人がいてくれるから……だから、ね?」
「なのは……」
もう、彼女を止める事など出来ないようだと悟る。
ユーノは、もうなのはを止めようとはしなかった。止めたところでどうしようもない。聞いてくれないのだからしょうがない。
強情な子だ。でも―——その子が、自分を頼ってくれる。だったら、自分は―——。
(僕は―――)
ユーノは、覚悟を決めた。
必死に戦ってくれる人がいる。見ず知らずにも関わらず、協力してくれる人がいる。そんな人がいるのに、自分だけ何もしないなんて出来ない。
確かに魔力量は完璧ではない。だが、そんな事は言い訳に過ぎないのだ。今、やらなければならないときに動かないでどうする。
気が付けば、ユーノはゼンガーの隣に立っていた。剣士とフェレットという謎の組み合わせであるが、そのことにゼンガーは特に言及する事もなかった。
彼は、ただ木刀を構えるのみ。暴走体も斬り裂かれた両腕を修復し、仕切り直しといった感じか。
「中々、しぶとい相手だな」
「でも、確実にダメージは与えられている筈です。といっても、肉体はどんどんと再生されているので、微弱なものですが……」
「だが、何もしないよりは幾分かましだ、と?」
「はい」
ゼンガーの問いに、ユーノは首を縦に動かして肯定する。
意識がない以上、肉体が修復されてしまえば終了だ。ゼンガーもアインストとの戦闘で十分経験している事で、そういう相手こそ一撃で決めなければならない。
だが、あの暴走体のコア―——ジュエルシードとやらは“封印”しなければならないのだ。文字通り、そのままの意味で。
『――――!!!』
再び、暴走体が襲い掛かってくる。
性懲りもない奴だとゼンガーは心の中で感心し、木刀を構えたが、その瞬間に右腕から全身に痛みが襲う。
「くっ……!」
そう、今まで余裕そうに木刀を振るっていたゼンガーであったが、実を言えばこの右腕の痛みとずっと戦ってきた。
寧ろ、暴走体との闘いよりも、いつこの右腕が使い物にならなくなるか、という事の方が不安であった。それが、今になってどんどんと痛みだし、昼間に巻いてもらった筈の包帯から血痕が滲み出していた。
(……まさか、これほどとは!)
普通に大怪我だったにも関わらず、ここまで動けること自体がはっきり言っておかしい。
しかし、右腕の痛みは刻一刻とゼンガーに襲い掛かっており、それはゼンガーの反応を幾分か鈍らせる事にも繋がる。
暴走体も、それを知ってか知らずか、相も変わらず両腕の針で突き刺そうと襲い掛かる。右腕の痛みに若干気を取られてしまったゼンガーは、ほんの少しだけ避けるタイミングを見誤ったのだ。
「むっ、しまった……!」
これは不覚を取ったか。ゼンガーがそう思った刹那、突如として隣のフェレットの足元になのはの時と同じような魔法陣が出現したかと思えば、突っ込んできていた暴走体が鎖の様なもので拘束されてしまう。
『――――!』
「はぁ、はぁ。ま、間に合った……」
辛そうに膝をつき、息を荒げるユーノ。
どうやら、暴走体を拘束したのはこの小動物の魔法らしい。拘束された暴走体は必死に暴れていた。が、鎖の強度が強いのか、そう簡単に壊れそうにはなかった。
「今のは、お前が?」
「はい。一応、拘束(バインド)魔法です。本当ならそれほど魔力を使用する事もなく使う事が出来るんですけど、まだ、力が戻っていなくて……完全にはいきませんでしたけど」
「いや、助かった。礼を言う」
素直に礼を述べ、左腕に力を込め、振り下ろす。
左腕一本でも、暴走体の体ぐらい砕くことは出来る。胴体を真っ二つに斬り下ろしたゼンガーだったが、やはり両腕で斬った時の様な威力はないと思う。
(だが、このままでは持久戦になるのは必然。ならば―——)
やはり、手っ取り早く封印するのが早いのか。ゼンガーはそう思い、なのはの方をちらと見る。
すると、なのはもゼンガーの視線に気づいたのか、彼女もまた首を縦に振って肯定した。どうやら自分の出番のようだと察したなのはは、レイジングハートを空高く掲げた。
「レイジングハート……行くよっ!」
『all right.sealing mode.set up.』
暴走体はまだ修復中で、好機は今だと踏んだ。
なのはもそれを分かっていたのだろう。レイジングハートをシーリングモードと呼ばれる形態に変形させ、構えた。
このシーリングモードの狙いは、ある一つの魔法に魔力を全て向けるというもの。
かなりの上級魔法を使用する際に使用される形態であり、これまでもジュエルシードを封印するときの様な大きな魔力を使用するときはこの形態にしてきた。
『stand by ready.』
レイジングハートが起動を完了した事を告げる。
後は、なのはがコードを述べるのみ。そう、後はそれだけだったのだが―—。
「リリカル……マジ……うっ!」
彼女は、辛そうに膝に両手を置く。
呼吸は荒く、立っている事もやはりやっとの状態に見えるなのは。もはや言葉を口にするのも限界に近いのか、顔を歪ませながら苦しげの様子であった。
「なのは!」
「むっ……。再生するスピードが速まっている……? いや、こいつは今までとは違うという事か」
まだ二分も経っていないのにも関わらず、暴走体はもう胴体を再生させていた。
ゼンガーは眉間を寄せ、ユーノは顔を強張らせながら構える。両者ともなのはを庇うような場所に陣取り、決してなのはに手出しはさせぬようにしている。
その気遣いが嬉しかった一方で、なのはの意識が薄れてきている事をなのは自身自覚していた。
辛い、苦しい。でも―——でも、やらなければいけない事がある。恐らく、なのはが経っていられる理由としては、それで十分だった。
しかし、暴走体はなのはの回復を待ってはくれない。すぐさま修復を完了させると、なんと暴走体は巨大な羽を出現させ、上空へと羽ばたいていく。
「と、飛んだ!?」
「……! 用心しろ! 来るぞ!」
何かを感じ取り、ゼンガーが警戒を呼び掛けた瞬間、暴走体は体中から無数の針を出現させる。
一体何処にそんな数の針を隠し持っていたのかは定かではないが、その針たちの標的は当然のようにゼンガー達であった。
暴走体は逃げるために飛翔したのではない。針による波状攻撃を仕掛ける為、わざわざ空に上がったのだと気付いた時、既に針は彼等に襲い掛かっていた。
「くっ……! 流石にこれは……」
「これは僕が防ぎます! 間に合えーっ!」
さしものゼンガーも、これだけの針の雨を掻い潜るなど不可能だ。
だからこそ、ユーノの補助魔法が光る。疲労感に包まれている体を必死にこらえ、ユーノはもう一度魔法陣を展開させ、なのはとゼンガー、そしてユーノ自身を護る為に半球型のバリアを張る。
「くうっ……! 結構、キツい……!」
「頑張って、ユーノ君……」
「う、うんッ!」
なのはの声に、ユーノは歯を食いしばって堪える。
尚も止まない針の雨。一秒間に一体何本の針が襲い掛かっているのか、数える事すら出来ないような数の針が降ってきていた。
ユーノが耐えている間は構わないが、問題はそれが破られた後だ。果たして、ユーノの魔力切れが早いか、それとも針の雨が止むのが先か。我慢比べに近かった。
「ううっ……! うっ、おおお!」
気合を入れる為か、ユーノが咆哮を上げる。
もはや、フェレットが上げていいような声でもなかった訳だが、現状でそんな事を気にするものなど一人もいない。
尚もユーノを励まし続けるなのはとは対象に、ゼンガーは一心に暴走体を睨みつけていた。
機が来れば、すぐにでも飛び上がる。しかし、いくらゼンガーが超人染みていたとしても、あの距離まで届くものか、と。
何か、足場の様なものがあれば。―――いや、そんな魔法のような事なんて。
(……魔法、か)
魔法―——ああ、そういえば、彼等が使用しているのも魔法だという。
俄かには信じがたかったが、この目で何度も目撃していれば信じるほかない。それに、魔法ではなくても、これ以上のヤバいものを何度も見てきたため、彼等の魔法を見たところで、驚きなどさほどなかったのだが。
「……ユーノ、といったか」
「は、はい? 僕に何か、用ですか?」
「うむ。少し、頼みがあるのだが……」
「た、頼み……ですか?」
ちょっと今、それどころじゃないという気持ちを押し殺しつつ、ユーノはバリアを張りつつもゼンガーの言葉に耳を傾ける。
彼の提案を聞いたユーノは、確かに“あの魔法”を使用すればできなくもないと思う。
といっても、あれは遺跡などの足場が悪い時などに使用する作業用結界魔法の為、果たしてゼンガーの踏み込みに堪えられるのかが懸念材料といったところか。
「だけど、方法はそれしかなさそうですね……」
「―――ああ。やれるか、なのは」
「はい。今度は、もう……失敗しませんから」
やや力こそなかったが、しっかり頷くなのはを見て、ゼンガーも頷く。
少々不安はあるが、やってもらわなければ困る。更にいえばユーノを酷使するような真似であるが、彼の補助魔法は非常に役に立つ。あれに勝つためには、全員が全力を尽くさねばならない。
そう、決めた時であったか。ようやく、無数の針の攻撃が止む。上を見上げれば、暴走体がその場で鎮座しているようにも見えたが、ゼンガーはすかさずユーノに目線を送った。
「はい! これで……なんとかっ!」
今の今までバリアを張っていたユーノであったが、休みまもなくフローターフィールドと呼んでいる魔法―—その姿は、白い魔法陣で、それが空中に浮かんでいる状態―—を出現させる。
念には念を入れ、四つ同時に展開。すると、ゼンガーはすかさずその魔法陣に飛び乗ると、それをバネにするかのように高く飛び、木刀を構える。
『――――!?』
此処まで飛んできたことが意外だったか、暴走体の血走ったような赤い目がギョロリと気味悪く動いた。
対するゼンガーは木刀を両腕で握りしめる。痛む右腕も何のその。彼は下方から蜂型の胴体を一刀両断に叩き伏せた。
「一刀ッ! 両断!」
まるで漢字のカットインでも入っているかのような絵ではあったが、斬り裂かれた暴走体は姿勢を失って重力にひかれて落ちて行く。
しかし、それでも尚再生しようとする暴走体の執念はハッキリといって清々しいものだ。ただ、暴走体は完全に修復することはなく、地表から飛び出してきた鎖によって捕えられたのだが。
「なのは、今だ!」
「……うん!」
鎖を出現させたのは、当然ユーノ。なのはに無理をさせられず、尚且つ魔法に長けているとなれば彼しかいないからだ。
ユーノの顔色が相当優れなくなっていたが、彼は十分やってくれた。ゼンガーが斬り、ユーノが捕え、最後になのはが封印する。―――個々の役割はこうだった。
ゼンガーの提案とはいえ、なんて事はない。ただ、互いに負傷している以上、こうしてそれぞれが特化した分野で攻めるしかない。
(今度こそ……絶対に成功させる!)
もう、失敗は許されない。重い体を動かし、なのはは今度こそ呪文を口にする。
「リリカル……マジカル! ジュエルシード、シリアル17、シリアル20……封印!」
同時に二つの封印。これは、なのはにとっても今までにない魔力量を発動せざるを得ない。
でも、なのはは負けられなかった。限界まで―—いや、限界を突破してまでも、このジュエルシードを封印しなくてはならない。
無理してくれたユーノに、また助けてくれたゼンガー。彼等の頑張りを、無駄にしたくはないから。
「だから、私は―——!」
強く、そう願った時、辺りは光に包まれた―——。
気が付いた時、なのはの視界には夜の星空が映り込んできた。
もう、こんなに夜遅いのか。改めて気づかされる事態に、また家族に見つかって怒られるのだろうな、と思いながらも、彼女はゆっくりと起き上がる。
既にバリアジャケットは解除されているらしく、服装もバリアジャケットを身に纏う前の姿だ。レイジングハートも待機形態の宝石の姿に戻っており、なのははやったんだと改めて実感する。
「……目を覚ましたか」
「ゼンガーさん……ずっと、ここにいてくれたんですか?」
「ああ……」
どうやら、なのはが気を失っている間、ずっと傍にいてくれたのだろう。ゼンガーは地面に腰掛け、先の戦闘で扱っていた木刀を眺めていた。
所々に傷がある木刀であったが、今となってはゼンガーの愛刀に等しい。もしも戦場でこれが折れるとしたら、もはやゼンガーに成す術はなくなってしまうだろうが。
「その……ゼンガーさん」
「む?」
「あの、私……うまく出来ていましたか? ちゃんと、上手に……魔法が使えていましたか?」
スカートをギュッと握りしめ、ゼンガーに問うなのは。
不安なのだろう。誰かに迷惑をかけていないか。失敗していないか。そういった不安も当然あるだろうとゼンガーは思ったが、彼はゆっくりと頷いて肯定する。
「ああ……。お前は、俺の目から見てもうまくやっているだろう」
「ほ、ホントですか?」
「ああ」
そんなことで嘘などつくまい。しかし、なかなかストレートに言われたため、なのはも恥ずかしくなったのか、聞いておきながら目を伏せる。
勿論、なのははうまくやっている。だが、最終的にこんな幼子の力が失くしてはジュエルシードの暴走体が封印出来ないとなると、情けなくなる。
(彼女と同等の力があれば、あるいは……)
―――いや、それこそ夢物語だろう。そう分かっていながらも、そのように考えざるを得ないゼンガーであった。