魔法少女リリカルなのは ~悪を断つ剣~ 作:ダラダラ@ジュデッカ
それでも良いという方は↓をどうぞ。
「ジュエルシード……。願望を叶える石、か」
「はい。それを見つけてしまったのは僕で……。だから、僕が見つけださなくちゃいけないんです。この世界に散らばった全てのジュエルシードを」
蜂型の複合型暴走体を封印し、なのはが目を覚ます少し前。ゼンガーは、フェレット―——否、ユーノ・スクライアから事の事情を聞いていた。
しかし、おかしな話である。これまで幾度もなのは達を助けてきたゼンガーであったが、彼等の事情を知らないまま手を貸し、封印の手伝いをしていたなど。
もっとも、これはゼンガーがなのは達と極力関わろうとしなかった結果である。
というのも、ゼンガーはこの時間軸の人間ではない。よって、深く関わることは危険であろうと判断したためであったが、もうその言い訳も通用しないだろう。
元の世界に帰還する方法が分からない現状、化け物相手に剣を振るうしかなかった。ただ、ユーノの話を聞き、ゼンガーはジュエルシードの能力を知り、思ってしまう。
―——もしかすれば、この石を使えば元の世界に戻れるのでは? と。
(いや、それは愚かな考えだ。今までの現状を見てきた以上、迂闊にもそのような事は言えまい)
誰もが考えそうな意見を、ゼンガーはすぐに頭の中から打ち消した。
あれだけの化け物が、ゼンガーやなのはに襲い掛かってきたのだ。それに、これも先ほどユーノから聞いたのだが、ジュエルシード自身も果たして所有者の願いをその通りに叶えてくれるとは限らないのだ。
その結果、生まれたのがこの二日間で戦った化け物共。現地の生物も取り込むなど、まさしく魔石が暴走した状態となっている。
「ユーノ、現在ジュエルシードは幾つ集まっている?」
「……まだ、五つほどしか。早く集めないと、またジュエルシードが暴走して、先ほど以上の事態を招く事もあります」
「五つ、か」
それはまた、時間のかかりそうな事だ。
ジュエルシードは全部で21個と聞いた。まだ三分の一も集まっていない現状、やはり時間を意識して探さなくてはならないだろう。
今回の複合型の更に上が出てくるというならば、それはゼンガーといえど苦戦するかもしれない。
―――なのはと同じような自分にも備わっていれば、また違ったかもしれないが。其処までゼンガーも夢を見ている訳ではなかった。
「それにしても、どうしてゼンガーさんは僕たちの手伝いを?」
「……黙って見ていられなかった、というのが一番の理由だろうな」
「僕たちだけでは不安だ、と?」
「違うな。幼子があのような化け物と戦っているのを、黙って見過ごすなど、俺には出来ないという事だ」
それも、ゼンガーの本心である。
元を辿れば異変を感じて来ていただけだが、其処にいたのは小さな女の子。おまけに異形の化け物に襲われている姿に、ゼンガー程の男が見捨てるわけがない。
その過程で魔法なんて摩訶不思議なものまで目にしたが、それでもなのははまだまだ経験不足。今回もゼンガーがいない間は暴走体に押されていたのだ。
「……そう、ですか」
「ああ」
「…………」
ゼンガーの答えに、嘘偽りなどはなさそうだった。
というのも、ユーノとしてはゼンガーを多少なりとも疑っている。それはゼンガーも気付いていたが、あえて彼に追及する事はなかった。
ただ、疑われる事も当然だろうとは思った。ユーノとなのはが最初に出会った時から現れ、封印の手伝いをして颯爽と去っていく。
おまけになのはに自分の事情も話さない。あの時はユーノもなのはを慰める役割に回ったが、どうにも疑わしく考えていたのだが。
そして、今回もまた同様だ。彼は、またしてもなのはの前に現れて超人的活躍をして封印の手伝いをしていた。
もしも彼がジュエルシードを狙う者の一人だというのならば、ユーノ達を手伝うのも合点がいく。しかし、そうは思いたくない自分もいる。
(なのはには悪いけど、もう少し様子を見る事が必要なのかもしれない。もしも、彼が敵に回る様な事があれば、僕は……)
――――その選択肢は、なのはを悲しませる事に違いないだろう。
だが、ジュエルシードを悪用させない為にも、そうなった場合は覚悟を決めるしかないと心に誓ったユーノであった。
■
「あの、ゼンガーさん。今日は本当にありがとうございました。私、ゼンガーさんが来てくれた時、すっごく嬉しかったです」
「……そうか」
現在の場所は高町家前。家の電気は既に消えており、なのはの家族は全員寝静まっている頃だろう。
まさか、なのはが魔法少女なんてしているとは思ってもいないだろうが、もし真相を知ればどう思うだろうか。
ともかく、ゼンガーはなのはの身を案じてか此処まで送ってきた。ユーノもいるから一人ではないが、ユーノもまた先ほどの戦闘で疲れきっているために、役に立つとは思えないからだ。
「では、“また”」
「あ……」
言って、ゼンガーはその場を離れていく。
なのはも改めてお礼を言いたかったが、疲れが溜まっているのかうまく体を動かせない。少しだけ手を伸ばしただけだったが、少し嬉しそうに笑顔を見せ、ユーノに話す。
「また、だって。ゼンガーさん、また私たちを手伝ってくれるのかな?」
「……多分、そうだと思う。そうだと思うけど……」
ユーノは歯切れ悪く、少し余所を向いて呟いた。
「ユーノ君?」
「……いや、なんでもないよ、なのは。今日はもう体を休めよう」
「うん……」
ユーノの反応を不思議に思いながらも、なのはは家の中へと入っていく。勿論、家族には決してばれないように、重い体を押して裏口に回り、こっそりと入って行ったのだが。
さて、なのはを見送ったゼンガーといえば―——これからどうするかを考えていた。
事情を整理すれば、現在なのは達はジュエルシードと呼ばれる魔石を探している。
この魔石には願望を叶えるという効果があるが、それが所有者の想像しているような願いとは違った形で発現されるという事。
勿論、これだけの石を放っておく事は危険に違いない。だが、例えゼンガーが見つけ出したとしても、それを封印する事は出来ないという事だ。
(ならば、ジュエルシードを見つけ出したとしても、どうする事も出来ないのは明白か)
封印する力を持っていない現状、ゼンガーが例え見つけ出したとしても、どうする事も出来ないのだ。なのはに連絡すれば容易い事なのだろうが、それがもしも昼間だったりすればなのはも迂闊には動けない。
彼女にも彼女の生活がある。その中でジュエルシードを回収しているのは立派な事ではあるがな、それでも。
(元の世界に帰還するにしても、今の俺にその術はなし。ならば、今は俺が出来る手段を講じるしかない、か……)
ジュエルシードを全て回収したところで、ゼンガーに何の見返りがあるのかも分からない。
ただ集めるだけか? いや、あのような異形の化け物が出現する時点で、答えはもう決まっている。
「…………」
春先の冷たい風を受けながらも、ゼンガーは無言で二本の足でしっかりと歩く。
答えが決まっている現状、動くしかない。封印出来なくても、足止めくらいにはなれる。己が剣で敵を薙ぎ払う事ぐらいは出来る。
「俺は……」
事の一件が収まるまで、彼女達に協力する。
今、ゼンガーが導き出せる答えは、それしかなかった。
■
それから、一週間近くが経過しようとしていた。
町は今日も穏やかであり、これといった変化はなし。ジュエルシードの暴走体の出現、あるいは個体の反応もなく、回収に至っては滞っていたのだが。
「今日もありませんでしたね……」
「そう簡単にはいかない、という事か」
深夜に出歩いてジュエルシードを捜索しているのは、なのはとゼンガー、そしてなのはの肩にユーノが乗っている。
中々見つからない現状にガックリとうな垂れるなのはであるが、ゼンガーは腕組みをしながらその場に仁王立ちし、呟くのみ。
しかし、こうも見つからないとなると、内心焦りを覚えてくる。暴走していないという事はチャンスに違いない。しかし、反応が微弱な事もあってか、固体の時は見つけ出すのが難しいというのが本当のところか。
平和な日常なのはいいが、あれを使用して更に混乱が広がるのは頂けない。だからこそ、回収を急ぎたいのだが。
「でも、本当によかったんですか? こんな遅くまで協力して貰っちゃって」
「構わん。他に、することもないのでな」
「それならいいんですけど……」
その言葉は本当なのかな? となのはは思う。
ゼンガーがこうして協力してくれる事は嬉しく思う。頼もしくて、挫けそうな時も助けて貰った。
だが、昼夜問わずに彼は捜索しているようであり、本当に大丈夫なのか、迷惑をかけているようではないのか、という事が不安であった。
彼にも生活がある筈である。といっても、なのははゼンガーの事をほとんど知らないし、ゼンガー自身も自分の事については相変わらず何も語ってくれない。
それが寂しくもあったのだが、言いたくない事情もあるのだろうと黙っていた。
「……どうした、なのは」
「え? な、なんですか?」
「……いや、何もないのならば構わん」
いつの間にか、なのははゼンガーの事を注視していたようだ。
指摘されてから恥ずかしくなって顔を微かに赤く染めたが、どうしても彼の事を見てしまう。
一体、彼は何者なのだろう。どうして、自分たちの協力をしてくれるのだろう。
何も話してくれないから、彼の事が分からない。少し強引かなと思ったが、津休してみたこともあるが、彼は黙ったままであった。
ユーノも口に出してはいないが、ゼンガーの事を疑っている節がある。彼自身は気付いていないだろうが、すぐ傍にいるなのははユーノの鋭い目線が時折ゼンガーの方を向いているのを知っている。
折角協力してくれているのに、どうしてそんな目をするのか。これもまた、ユーノに質問した事がある。 彼にそのような質問した時、ユーノは一瞬顔を渋らせたが、急に真剣な眼差しでなのはを見ると、彼はこう言った。
「……あんまり言いたくないけど、僕はなのはと違ってあの人―——ゼンガーさんを疑っているんだ」
「どうして? ゼンガーさんは私たちの協力をしてくれているんだよ? それに、怪我をしてまで私の事を助けてくれたし……」
「確かに、彼は体を張って僕たちの事を守ってくれた。でも、それは僕たちの事を都合よく利用している形なのかもしれない。―――考えたくはないけれど、彼もジュエルシードを狙っているという可能性は決して低くはないと思うんだ」
「そんな事ない! ゼンガーさんは!」
と、こんな形で言い合いをしたりもした。
その後、一日中口をきかなかったりしたが、ともかくなのははゼンガーを信じているという結論に達した。
ユーノもその時こそ口を紡いだが、やはり彼はゼンガーの事を気にしている。
今も、彼に鋭い目付きを浴びせているのを見ると、何処か悲しくなってきた。
(どうして、ユーノ君はゼンガーさんを疑うんだろう……?)
ゼンガーが何も話してくれないからか? でも、彼は自分の事情を話す事を子も飲まない。決して、自分の本心を話してくれないのだ。
と、そんな事を考えているうちに、なのはは自分の家の前に帰ってきた事に気付く。
今日も成果なし。一週間もあっという間だな、と思っている矢先、ユーノがなのはの肩から素早く降りていき、ゼンガーの足元で制止する。
「ユーノ君?」
「ごめん、なのは。僕はもう少し捜索を続けてみるよ」
「なら、私も……」
「いや、お前はもう休むといい。後は俺達で続ける」
何か、ユーノの意図を察したのか、ゼンガーまでもなのはにこういってくる。
なんだかのけ者にされたようで流石になのはも反論するように二人に食ってかかる。
「私、まだ疲れてません! それに、二人に任せて私は休むだなんて!」
「気持ちは嬉しいけど、もう夜中だ。ゼンガーさんもいるし、後は僕たちだけでも大丈夫だから」
「でも、ジュエルシードの封印は……」
「もしそうなったら、なのはに助けをよぶかもしれない。でも、今は少しでも体を休めた方がいい。この一週間、ほとんど休めてないでしょ?」
「でも……」
ちらとゼンガーの方を見る。
ユーノの言う通り、休めていないのは事実だ。そして、それによって睡眠不足に陥っている事も。毎朝起きるのは辛いし、身体も重い。
でも、やはらなくちゃいけない事だから、自分にしか出来ないと思っているからこそ、こうして頑張れる。
「……なのは」
「は、はい」
「ユーノの言う通りだ。休めるうちに休んでおいた方がいい、今、お前に無理をされてはこちらも適わん」
「う……。で、でも……」
「―――気にするな。行くぞ、ユーノ」
「はい」
なのはに背を向け、歩き出していくゼンガーとユーノ。
二人を追いかけたいが、追いかけたところで追い返されるのだろう。其処まで判断し、なのはは溜息を吐く。
二人の気遣いは嬉しいが、だからといって二人に無理をさせる訳にはいかない。休んでいないのは二人も同じであるし、特にゼンガーの方だ。
「…………はぁ」
―――しかし、なのはは諦める方針を選んだ。深い溜息を吐いて、そのまま家の方に歩き出す。
本心からすれば、引き続き捜索に参加したい。それでも、先ほどのようにあしらわれてしまうのだろう。
なのはは、二人にとって切り札にも近い存在だ。前の戦闘の時のように無理をされても困るし、またユーノもゼンガーについていったという事は何か思うところがあったのだろう。
「でも…………はぁ」
もう一度深い溜息を吐きながら、なのはは疲れ切った顔で家の中に入っていく。
今日は、あの二人に任せよう。気遣ってくれたことに感謝しながらも、なのはは疲れた体を動かすのだった。
さて、なのはと別れたゼンガーとユーノであるが、二人は無言であった。
特に会話する事のない二人であるが、この一見動物と人間のコンビは傍から見ても異様なオーラを感じる。いや、微妙な空気というのか。
ユーノはゼンガーを今も疑っているが、ゼンガーに至ってはまるで気にしていない様子。思えば、この二人だけで行動したことは今回が初めてかもしれない。
「…………」
「…………」
両者共に喋らず、ただ歩く音が微かに響くのみ。
結局、この日もジュエルシードを発見できず、成果は上げられないのだった。