王立ビブリア学園。そこは魔道を学ぶために用意された極秘施設である。一般人はもちろん国の上層部くらいしかその存在を認知していない。当然外部からは隔絶されており、そこに新たな何かが来るようなことはありえない。のだが、
「号外──号外ですよーっ」
まだ学生が登校中の朝。元気よく走り回り一枚の紙をばら撒く少女が一人。金髪ツインテールで新聞部所属のその少女はセリナといい、どこから手に入れたのか不明な情報を大声とともに周囲に伝えていく。
「なんとこの学園に転校生がやってきます!噂じゃおっかない能力の持ち主で力は魔王レベルに匹敵するとか!!」
どうやら非常に珍しいことに魔道の学園に転校生が現れたようだ。多くの生徒はその内容に興味を示しセリナがばら撒いていった紙を手に取りそれを読んでいる。しかし、一人だけ周りとは違い、落ちている紙には目もくれずその発信源である少女のほうへと向かっていった。
「久しぶりだな、セリナ。なにやら面白いネタを持っているようだが俺にも教えてくれ」
「おはようございます、天馬さん。お久しぶりって、昨日あったばかりですよ。もしかして、また使ったんですか?」
天馬という名の少年に対し、セリナは咎めるような口調で返した。どうやら天馬の言葉から何かを察したらしい。唇を尖らせて怒っていることをアピールしている。
いかんな。セリナの前であの術の話は出さないようにしていたんだが。まさか今の一言で使ったのがばれるとは思ってなかったぞ。厳密には違うとはいえ、セリナにとってアレは姉を閉じ込めた術と同じものだからな。問題ないと知っていてもまだ抵抗があるか。もう少し発言には気をつけるようにしよう。
「ちょっとした実験だよ。大したことじゃない。それより転校生の話を聞かせてほしいのだが」
多少強引ではあるが話を戻すことにした。セリナもそこまで咎める気はなかったのかすぐにそちらに食いついてきた。
「ああ、そうなんですよ!実はここに魔王クラスの──」
しかし、セリナが興奮気味に話そうとしたところでタイミング悪くチャイムが鳴ってしまった。チャイムに邪魔されたからか先ほどより不機嫌そうにしながらセリナは佇んでいる。
「ふむ、始業の時間か。セリナ、遅れる前にさっさと行くぞ」
「むー、仕方ないですね。では、行きましょうか!」
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「というわけで、転校生の春日アラタさんです」
教室に入り、席に着いたところで教師であるリリスと黒髪赤目の男がやってきた。
なぜか、転校生のほうは疲れたような表情をしており、リリスのほうは変わらず無表情である。
「はいはーい!質問ですっ!!」
「はいセリナさん。どうぞ」
「好みの女性のタイプを教えてください」
セリナよ、なぜ最初の質問がそれなんだ。
「胸の大きい女だな。まあ、なくても愛せるとは思うが」
そして転校生よ、もう少し言葉を選ぼうとは思わなかったのか。ここに在籍する多くは女生徒だぞ。見ろ、質問したセリナですらちょっと引いてるではないか。
「女の敵ですね。了解しました!」
ふむ、メモしているところを察するにまた号外だとか言ってばら撒く気か?転校初日で敵だらけにならなければいいが...まあ、俺には関係ないな。
「魔王候補にしかできない世界構築をしたって本当ですか?」
「あれくらい誰でもできるんじゃねえの?」
「おーー!本物だー!!本物の魔王候補だーーー!!!」
本当にそう思っているのか、それとも何も考えていないのか、どちらにせよ魔導に精通しているわけではなさそうだ。だが、この魔力...魔王候補か。これから先の楽しみが増えたな。せいぜい俺を楽しませてくれ、転校生君。
side アラタ
今俺は学園長室にいる。それで、リリスが事の顛末をその学園長に話したんだが、何かめっちゃ笑ってるぞ。ノリはよさそうだな。にしても、胸元開いてるし、目は狐みたいに細いけど顔は整ってるし、ぶっちゃけホストにしか見えない。
「あははははっ。転校初日から魔王呼ばわりとはね」
「笑い事じゃありません!今日は授業にならなかったんですから!!」
「何か凄そうでいいじゃないか」
だって魔王だぜ?こう、心にくるだろ?男なら誰しも一度は経験があるはずだ、うん。
「あなたは黙っていてください!」
なぜか怒鳴られた。何故だ。
「はっはっは!あー、面白かった。さて、はじめまして、春日アラタくん。この学園を代表して君を歓迎するよ」
そう切り出してから学園長は簡単にこの学園のことと、魔導士(別名メイガスとも言うらしい)について教えてくれた。だけど、そんなことは重要じゃない。俺が聞きたいのはひとつだけだ。
「それになれれば、聖は取り返せるのか?」
「さあ、どうだろうね?魔導はすべての可能性を否定しない。出来るか否かは君次第って訳さ」
「...近道ってねーの?」
正直、チンタラやってる暇はない。出来ることは全部する。なおかつ手を抜けるとこは全力で抜く。それが俺だ。
「近道なんてものはありません!どんなことでも日々の努力が大切なのです」
正論だな。でも、
「"すべての可能性を否定しない"なら、近道もあるんじゃねえの?」
「うぐっ。そっそれは...」
「あっはっはっは。うん、その通りだね」
この人さっきから笑ってばっかだな。笑いの沸点だいぶ低くないか?
「ま...近道って訳じゃないが、この学園には7人のボスキャラみたいな人がいてね」
「ボスキャラ?」
おいおい、スタート地点が魔王城からかよ。いや、魔王は俺だったか。
「トリニティセブン──そう呼ばれる各分野の頂点を極める7人の魔導士の女の子たちさ」
ふむ、いかにも強そうな名前だ。一体どんな子たちなのか。かわいくて胸が大きい子なら最高だな。
「ちなみに、リリスちゃんもその一人でね」
「そうなのか。確かにスタイルいいしな」
「なっ...スタイルは関係ないでしょう!?」
「はっはっは!まあ、そんなわけでそのトリニティセブンの子らと知り合い、戦ったり手込めにしたりすれば「手込めっ!?」魔導士の何たるかがわかるかもね?」
たしかに、魔導士の頂点と知り合うのはこれから先のことを考えればプラスに働くだろう。ぜひとも仲良くしたい。
「なるほどなー」
「アラタも納得しないでください!」
なぜかいきなりハリセンで叩かれた。どこから出したんだそれ。
「ああ、それともう一人。トリニティセブンすら圧倒する、規格外な少年がいるよ」
「ん?ボスキャラのほかにもまだいるのか」
強さのインフレが激しすぎじゃないか?これが魔導士の世界か...。
「パラファナリア。すべての分野を極めた世界最強の男。かつ、君と同じ魔王候補さ。本人は否定しているけどね」
「そいつがいれば、聖に近づけるのか?」
「彼の力があるのとないのとじゃあ、大きく違うことは否定しないけど、彼に協力を要請するのは中々に難しいと思うよ?」
「まさか...男嫌いか!」
「あはは。彼は男女差別なんてしないさ。まあ、そこら辺は自分で知ることだね」
一体どういう奴なんだろう。結局、その後ははぐらかされて学園長室を出てしまった。そういえば名前聞いてないな。...ま、どうにかなるだろう。