インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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ツクリ手ニナイ手トラブルメイカー

「さーってと…始めますかね」

 

放課後の第一アリーナ整備室…職員室で軽く挨拶を済ませた後、俺はこの場所を借りた。

いくつかあるアリーナの中でも格別大きいこの整備室は機材も他のアリーナに比べて豊富にある。

整備用ハンガーの前に立って持ってきたトランクを乱暴に放り投げて開けると

中から数対の人形が資材を担いで出てくる。

よしよし…トゥー(根暗)の奴はきちんと用意してくれてたみてぇだな。

根暗…トゥーゲントと呼ばれるそいつはこう言った機械工学に精通した変わりもんだ。

基本的に部屋に引き篭もって、菓子を食うか寝るかのどちらかしかしねぇ…。

もうちょい、まともに仕事してくれりゃ良いんだがなぁ。

ゆっくりと手を舞わせて人形を一斉に操作、まずはフレーム部分の組み立て作業に入る。

最近のISは搭乗者のアイドル性もあってか旧式機に見られる全身装甲ではなく、腕部、脚部、そして背面の非固定浮遊部位及びスラスターの三ポイントだけを組み立てれば良い。

身体を護る機能をシールドエネルギーと絶対防御に依存させるのも不安っちゃー不安だが、ISの扱う武装からすれば相当分厚い装甲でも用意しなきゃ紙っぺらと大して変わんねぇ…寧ろある方がヤベェ。

装甲がへこんで圧迫…なんて考えたくもねぇからな。

俺の作るISは本体だけで見れば非常にシンプルな構造をしている。

そこまで多機能を盛り込む必要はねぇ…本体の不具合で機能不全起こされちゃ困るからな。

 

「アモン、此処にいた…か…」

「応、千冬…ごくろーさん。どした?」

 

千冬が整備室にやってくるが、俺は作業に集中している為に振り向く事ができねぇ。

ただ、背後に居る千冬の様子が何処かおかしい。

一体なんだってんだ…?

 

「おい、アモン…お前、何時部外者を入れた!?」

「はぁ?部外者なんて何処にもいね…あー…千冬は見たこと無かったな」

 

一端作業の手を止めて、千冬へと振り返りながら作業を行っていた人形達を整列させる。

一糸乱れねぇ行動ではあるが、それぞれに個性があるようにも見えるように人形を操作する。

小走りだったり、鈍かったり…きちっとしていたり、だらしなかったり…そう言った行動ってぇのは人間性を見せる。

 

「どういう事か説明しろ」

「どうもこうも…言ったろ人形制作がメインの仕事だってな」

 

軽く手を振り払うと人形達が間接ごとに外れてバラバラになる。

自分で作っていてなんだが、一つ一つが精巧精緻の芸術品…人間のそれと変わらない外観を持ったものがバラバラになる瞬間は、猟奇的なものがあるかもしんねぇ。

案の定、千冬は目を見開き俺へと詰め寄る。

 

「な、なんなんだ!?人が!!」

「良く見ろって…これが人に見えるか?」

 

人形の首を持ち上げてその断面図を見せる。

所謂球体間接が仕込まれていて、非常に無機質だ。

そこに生命があるわけじゃねぇ…生命を宿させるのは俺の両手よ。

 

「バカな…あの動き…気配は人の…」

「人形遣いの人形劇は真に迫るもんなんだぜ?本物は偽者にゃなれねぇが偽者は本物に限りなく近づける」

 

手を舞わせれば再び人形達が組み上がり、フレーム組み立て作業へと戻っていく。

何ごとも無かったかのようにだ。

この人形達には自立思考能力を与えていねぇ…だから、俺がそうと振舞わせなけりゃ機械的に動き続ける。

 

「これが…お前の…」

「金は取らねぇよ?見せ物でやってねぇからな」

 

世界を渡り歩きながら、俺はこの人形劇で色んな地域の子供達を驚かせ楽しませてきた。

なんせ、この世界じゃ見れないものだしな…表情をコロコロ変えていくのを見るのは愉快だったぜ。

 

「公務員はバイト禁止だ。それよりアモン、泊まる場所は確保できているのか?」

「できてっと思うのか…?」

 

俺はジト目で千冬を睨みつける。

元々来る予定になかった場所だ…ホテルにしろ、アパートにしろ手配できるわけがねぇ…。

あの束がそう言った事に気が回るとも思えねぇしな…。

 

「そうか…丁度良い。お前の身柄を学園で保護する事になった」

「そりゃ、どうも…って言っても寮は女子だらけだろ…どうすんだよ?」

 

学園の資料の中に教員寮の存在は確かに書いてあった。

ただ、この学園…基本的に教員は女性だけだ。

用務員とかの雑用係りには男性も混じっているみてぇだが…。

女性職員の中に男一人…トラブルの匂いがプンプンしやがる…。

 

「問題ない、私と生活するからな」

「はぁ!?」

「なんだ、不服か?」

 

千冬は、むっとした顔で腕を組み此方を睨みつけてくる。

いやいや、ちょっと待てよ…もっと適任がいるんじゃねぇか!?

 

「一夏とじゃねぇのかよ?普通男同士だろ!?」

「教師が学生と寮生活を送るわけにはいかんだろう?それに他の者にお前を任せられないからな。知己である私がお前の面倒を見るのは当然の事だ」

「おまえなぁ…この学園の生徒の大半がお前のファンだって言うのに、野郎と同棲してますなんてなったら面倒な事になんぞ?」

 

世界最強、ブリュンヒルデ、ドイツ特殊IS部隊元教官…これらが千冬の肩書きなわけだが、こんな肩書きが広く浸透していると言う事はそれだけファンがいるってこった。

まして此処はIS学園…IS操縦者なら誰しもが憧れるような人間だ。

だと言うのに、千冬は訳が分からないと言う顔をしていやがる。

 

「言いたいやつは言わせておけば良いだろう?やましい事はしていないのだからな」

「いっそ清々しいなテメェは!」

 

千冬は鼻で笑いながら事も無げに言ってみせる。

実際その通りなんだが、そう言った考えが思わぬところに危害が及ぶとは思ってねぇな…。

 

「千冬…ちっとは他人の視線を真面目に考えろ。引退騒動で一夏が酷い目にあってたの知らねぇわけではないだろ?」

「ぐ…それを言われると弱いんだがな…仕方がなかった事とは言え、な」

「ったく…後先考えねぇで俺を助けたからそうなってんだからな?」

 

一夏誘拐事件の情報提供と俺の身元引受人…そのどちらもドイツ軍から得た代わりに千冬は引退してドイツ軍の教官だ。

しかも日本とドイツは真相を知っていて尚、隠蔽した…結果がアレだ。

責任を取りたくねぇ責任者ってのは面倒な連中だよな。

 

「…だが、私にはああするしか恩に報いる事ができなかったからな」

「不器用め…」

 

実直、なんだろうなぁ…親父さんとお袋さんが行方不明になってから一人で必死に一夏の面倒を見てたみてぇだし…。

懐から煙草を取り出し咥えて、火を点ければゆっくりと煙を吐き出す。

 

「ふー…ちっとは不真面目になったって誰も文句は言わねぇよ」

「なら、同棲状態でも問題は無いな」

 

何か、意地になってねぇか…?

つってもこのまま押し問答してても仕方ねぇしな…折れてやるか…。

…妙なドヤ顔が腹立つけどな…。

 

「分かった…負けだよ…好きにしやがれ」

「なら、話は決まりだな…ところでアモン、いつも吸っているそれはそんなに良いのか?」

「いいや?クッソまじぃ」

 

この世界にはない煙草…フィルターも銘柄も何もないこれらは俺の居た世界でも不味くて吸えたもんじゃねぇと酷評を喰らった逸品だ。

だが、吸ってるうちに癖になって手放せなくなってしまう…そんなバカなファンが多いのか未だに製造が終わってなかったりする。

…麻薬じゃねぇよ?

口に咥えていた煙草を千冬が掻っ攫い勢いに任せて吸いはじめる。

 

「バッ!!やめろって!!」

「ゲッホ…!!なんだこれは!?ゲホッ!!」

 

千冬は、思い切り煙を肺にまで入れたみたいで咽てしまい咳き込み続ける。

俺は千冬の体を支え背中を擦る。

ったく、吸った事ねぇやつが吸う様にできてねぇつーんだよ。

 

「よく、こんなものを…吸えるな…ぅ…」

「いきなり吸う馬鹿が何処に居るってんだよ!ったく…」

 

千冬から煙草を取り上げて、代わりに飲みかけだがお茶のペットボトルを渡して飲ませる。

口の中がすげえ不味い味で埋め尽くされてるだろうからな…。

千冬は渡されたペットボトルの中身を一気に飲み干し、漸く一息つく。

良い飲みっぷりだこと…。

 

「ふぅ…アモン、今すぐあんな煙草やめてしまえ!」

「ヤなこった…何年吸ってると思ってんだ…」

 

ケケケと笑いながら、取り上げた煙草を咥えてゆっくりと吸っていく。

あまずっぺぇなあ…何か…。

 

「まったく…あまり生徒の前で吸ってくれるなよ?」

「基本的に喫煙所でしか吸わねぇよ…愛煙家ってのは禁煙家に目の敵にされてっからねぇ…」

 

旅している最中に立ち寄った店で、店の中で吸ってねぇのに『喫煙者はこの店に来るな!』とか言って追い出そうとしてきた客がいたり、とかな。

リスク回避してぇんだったら家に引き篭もってろってんだよ…マナー守ってんのによ。

 

「それで…用件は今ので終わりか?」

「む…ま、まぁ…そうなるな。あー…なんだその…」

「歯切れワリィな…どうかしたのか?」

 

千冬は、しどろもどろと話しながら此方をチラチラと見てくる。

ウブな乙女じゃあるめぇし…一体なんなんだかな?

中々話し出さないので、俺は千冬に背を向けて作業に集中する。

今まで話はしていたが、人形達の手は止めさせていねぇ…突貫で作らねぇと間に合わねぇからな。

 

「ふぅ…また、会えて嬉しかったぞ…アモン」

「そうかい、俺も会えて嬉しかったぜ、千冬」

 

千冬が今どんな顔をしているか分からねぇが、俺は口角を吊り上げ笑みを浮かべる。

もう会わねぇだろうなと思っていた奴らと会えたんだ…嬉しくねぇ訳がねぇ。

千冬とは何度か飲んでいて、それなりに気心知れた仲だと思っていたからな。

 

「邪魔してすまなかったな。私は一年寮の寮長もやっている…部屋は寮長室になるから作業が終わったら其処に来い」

「あいよー」

 

背中越しに軽く手を振ると、何か投げつけられる。

俺が使ってた携帯…?

 

「今度は忘れていくなよ?」

「…善処すらぁ」

 

今度こそ用事が無くなったのか千冬は整備室から出て行く。

久々に起動させた携帯の壁紙には、あのクリスマスのときに撮った写真が設定されていた。

 

 

 

 

日付が変わる前に作業を切り上げて、一年寮へと向かう。

飯を食いっぱぐれちまったが…まぁ、その分朝食えば良い訳だしな。

学園の海沿いの道を歩きながら、暗闇に浮かぶ月を見上げる。

…どの世界も月は其処にあり続ける。

変わらず地を這う俺を見続けてやがる…。

…所詮は堕ちた太陽だからな…仕方ねぇ。

 

「『あなたは なぜ ないているのですか ?』…か。なんでかなんて知らねぇよ…リ…誰だ!?」

 

突如、俺に向かって殺気が放たれる。

周辺に生物の気配なんざ感じられなかったが…やり手が居やがるな。

この一帯の街灯が消え、辺りを真の暗闇が包み込む。

あるのは月明かりだけだ…夜目は効くから問題ねぇけどな。

 

「出てきな…まさか、ビビって出て来れねぇわけじゃねぇよなぁ?」

 

両手に革手袋を嵌めながら挑発して暫く待つと、カツカツと足音が響いてくる。

現れたのは綺麗な金糸のようなブロンドの美人さんだ…作り物だけどな。

ありゃ、体の殆どが弄くられてるな。

 

「試すような事してごめんなさい…アモン・ミュラーさん?」

「何が目的だよ…俺ぁ疲れててとっとと寝たいんだが?」

 

なんせ、徹夜明け…普通の人間よりは頑丈だが、それでも睡眠を取らないとイラついて仕方ねぇ。

ブロンド美人はクスクスと笑い此方へと近づいてくる。

俺は腕を横に払い、ブロンド美人の足元のアスファルトに横一文字の傷を付ける。

 

「そこがデッドラインだぜ、お嬢ちゃん…其処を越えるなら覚悟を決めな」

「あら、怖いわね…用件は一つ…貴方の持つコアを譲ってくれないかしら?」

「壁に耳あり障子に目ありか…テメェ何処の…っつっても言う訳ねぇよな?」

「えぇ、もちろん…」

 

ブロンド美人は余裕の笑みを浮かべて此方を見つめてくる。

何をされたのか分からねぇが、対抗策はあるって顔だ…IS使いと見て間違いねぇな。

 

「嫌ならばそれでも構わないわ…別の手段で手に入れるだけだもの」

「殺しでもするか…?やめとけ…アンタ等じゃぁ俺は殺せねぇよ」

 

アンタ等…人間なんかじゃ悪魔は殺せねぇ。

精々が追っ払うくらいしかできねぇ。

同じ悪魔でもなきゃ殺せねぇのさ。

 

「随分自信があるみたいね…それじゃ、お手並み拝見といきましょう」

 

パチン、と指が鳴る音がした瞬間、海から殺気が生まれて狙撃ライフルの銃弾が撃ち込まれる。

何れも丁寧に急所を狙ったものだ。

だが、俺に届く事はねぇ…鋼線の結界が俺に触れる事を許さねぇからだ。

何れの弾丸も塵芥になるまで刻まれてしまい、俺には届かない。

 

「何かしたのか、お嬢ちゃん…?」

「バカな…ISを持っていないという話なのに!」

 

今建造中だからなぁ…肝心のISは。

だが、俺はそんなものが無くても充分に強いという事を向こうは知らねぇ。

ブロンド美人は信じられないモノを見た様に目を見開き、狼狽している。

 

「俺ぁ、疲れてるっつったよな?…五秒で失せねぇとみじん切りにすんぞ!?」

「チッ…今日は退きます。また近々お会いしましょう…アモン・ミュラー」

 

ブロンド美人は忌々しげに舌打ちし、ゆっくりと振り返らずに後退して闇に紛れて気配を消す。

何事もなかったかのように学園内に静寂が戻り、街灯が点く。

 

「ったく…面倒な事に巻き込まれてんな…いつもの如く…」

 

俺の仕事はトラブルと紙一重…異物が動けばそれだけ摩擦も起きるからな。

何とも言えないブルーな気分になりながら、再び寮を目指して俺は歩き出した。

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