インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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悪魔と女と少女

――始めに海を喰らう。

 

全ての命の源、力の根源。

等しく生命は海から成り、世を満たす。

俺は全てが欲しかった。

 

――次に大地を喰らう。

 

世界を満たす豊穣の源、力の根源。

等しく大地から成るモノを口にし、世を満たす。

俺は力が欲しかった。

 

――最後に天を喰らう。

 

世界を照らす支配の証、力の根源。

天に座すその光は、遍く全てを照らし出し、世を満たす。

俺は…何が欲しかったのだろうか…?

 

いつも誰かのモノが欲しくて、奪い続けて。

そしていつか知ったのだ。

奪われる事の痛みを…。

 

 

 

「んぁ…あー…良く寝た…徹夜明けは堪えるぜ…」

 

謎の機械女襲撃から明けて翌日。

大した問題でもないので、襲撃を受けたことは黙っている。

次は亀甲縛りにでもして捕縛してやろう…。

俺はベッドからムクリと体を起こし、隣のベッドを見る。

千冬が背中を向けて静かな寝息を立てている…時刻は四時三十分か。

静かにベッドから出てシャワールームへと向かう。

 

「IS学園ってのは、設備に金かけすぎじゃねぇかな…」

 

ぼそりとボヤキながら頭からお湯を被り、意識をはっきりとさせる。

いや、驚いた…学園の生徒は凡そ六百人程…その全員が学園敷地内の寮で寝泊りしている。

これは、外部のスカウトや、犯罪組織から生徒を護るための措置だ。

学園の生徒…特に専用機を持っている生徒と言うのは、取り分け優秀な人材だ。

そんな人材を企業や軍隊…または昔のアニメや特撮に出てくるような秘密結社が知らん振りしているわけがねぇ。

早い時期だと一年の頃からスカウトがあるって言うんだから、如何にIS操縦者が注視されているのかが分かる。

無論早い時期でのスカウトとなると金銭も絡む…そうなると個人の成長にも悪影響が出るとも限らない。

学園としては優秀な人物を排出し続ける必要があるので、日夜そう言った連中とも戦ってるって話だ。

で、少し話を戻してだ…IS学園に居る人間の殆どは女だ。

と、なると色々とケアが必要になるわけだな…色々あっからな…女は。

そうなると、各寮の調度品から内装…更にはレクリエーションルームやら売店まで用意しなきゃならなくなる。

結果、高級ホテルの様な寮が完成した、と…まぁ、そう言うわけだ。

理事長も頭痛ぇ問題だろうな…サービスを始めた以上途中で取りやめるなんぞ、外聞悪すぎるし。

今俺の居る一年寮寮長室も、負けず劣らずに豪勢な内装だったりする。

 

「あーたらっしいーあーっさがきったーっと」

 

シャワールームから出た俺は、体を拭いてズボンだけ履いてキッチンへと向かう。

昼飯の弁当作りだ…昼休み中もなるべく開発進めておきてぇからな…飯食いながら作業せにゃならん。

昨夜売店…と言う名のコンビニで買った食材を取り出す。

しょうが焼きと温野菜と…適当にフライをチョイスしてちゃっちゃと作る。

 

「…んん…なんだ…?」

 

口笛吹きながら飯の準備を進めていると、漸く千冬が目を覚ます。

タンクトップに下着だけっつー、完全に俺を意識していない格好が千冬の今の格好だ。

…言ってて悲しくなってくるな。

 

「おはようさん、とっとと顔洗ってシャキっとしてこい」

「…アモン…?」

 

千冬は所謂アヒル座りでベッドの上に座り、ぼーっとした目でカウンター越しに俺の事を見つめている。

意外にもこの世界最強…朝が苦手である。

 

「応、アモンさんだ」

「そう…か…Zzz…」

「寝るんじゃねぇよ!」

 

俺は左手を軽く払ってトランクの中から緋人形を動かし、部屋に出現させる。

片手で卵焼きを作りながら、片手でスカーレットを操作して千冬の身体を揺する。

 

「あと…五分…今日も忙しいんだ…」

『後五分もありません…千冬様、起きて下さい』

 

スカーレットは言葉を発しながら―スカーレットは自動人形(オートマタ)時、自発的に喋れる―千冬の身体を抱き起こし、シャワールームへと連れて行く。

着ているものが少ないので裸にすんのもかなり楽だ。

ささっと千冬を裸に剥いてシャワールームに突っ込み、冷水を頭からかけさせる。

良い子の皆は真似しちゃ駄目だぞ!アモンおじさんとの約束だ!

 

「っ!!冷たっ!!き、貴様何を!!」

『千冬様が起きないため、冷水作戦を実行しました。おはようございます。本日も良い天気です。マスターが朝食を用意していますので』

 

スカーレットはすまし顔で千冬に言えば恭しく頭を下げ、扉を閉めればトランクの中へと戻っていく。

見慣れた光景で、自分でやらせておいてなんだが結構シュールだな…。

テーブルに朝食を並べて椅子に座る。

本日のメニューは、トースト、ベーコンエッグ、コンソメスープ、レタスサラダ。

実に爽やかだ…この調子で千冬の食生活を改善して行くとしようじゃねぇか。

朝食の準備を終えたタイミングで、千冬がシャワールームから出てくる。

 

「目ぇ覚めたか?」

「おかげさまでな…まったく、もう少し優しく起こしてくれても良いのではないか?」

「だったらキチンと目ぇ覚ますこった」

 

スーツに着替えた千冬は俺の対面に座り、朝食に手をつけ始める。

美味そうに口に運ぶ姿を見て満足して自分も手をつけ始める。

目玉焼きはやっぱ半熟に限る…トーストの上にベーコンエッグを乗せて齧り付く。

 

「今日の予定だが…お前は午前中は授業の補佐、午後はフリーだ」

「一日教室に居なくていいのか?」

 

一応立場上は教育実習生だからな…それっぽいことはしておかねぇと拙い気がするんだが…。

千冬は俺のそんな心情を見透かしたかのようにニヤリと笑みを浮かべる。

 

「どうせ、大した事なんてやらないんだ…その分IS開発に力を入れろ。どんなものを作るのか楽しみにさせてもらうさ」

「へーへー…期待にゃ応えましょうかね?」

 

妙なプレッシャーかけてきやがるな…まぁ、やれる事はやってイイもん作ろうじゃねぇか。

朝食を食べ終えれば、早速着替えを用意する。

昨日はいきなりぶち込まれたからマトモな服じゃなかったからな…。

 

「一張羅だけは勘弁してくれよ?」

「スーツくらいは用意してあるっつの…一応マシなところくらいはアピールしとかなきゃな」

 

トランクの中へと腕を突っ込み、ゴソゴソと中を探る。

暫く中を漁っていると漸く目当てのものを見つけて引っ張り出す。

ISのフレーム組み立てと並行して仕立てた新品のスーツである。

好みの問題でネクタイ込みで真っ黒…葬儀屋とか言われそうだな。

さっさと袖を通し、ゴムで長ったらしい髪の毛をポニーテールで結う。

いっそ切ってもいいんだが、切った後片付けんのが面倒なんだよなぁ…。

 

「……」

「んだよ…何か可笑しいか?」

 

千冬は俺の事をボーっと見つめて黙りこくる。

なんだってんだか…若干顔も赤ぇしな。

ゆっくり近づいて額に触れる…熱はねぇようだ。

 

「っ、なんのつもりだ!?」

「いや、黙りこくったから体調悪ぃんじゃねぇかと思ったんだよ」

 

慌てたように千冬に手を振り払われ、俺は怪訝な顔をする。

…いやいや、まさかなぁ…?

自惚れかもしんねぇし…とりあえず、保留で。

 

「じゃ、俺は授業開始直前まで粘るから先出るわ。食器は流しに入れとけ。後弁当作ってあるから食えよ?」

「あ、あぁ…分かった」

 

何となく居心地が悪くなって俺はまくし立てるように言うと、自分の弁当を引っつかんで寮長室を出て行く。

時刻にして七時…まぁ、一年寮の連中に騒がれたのは言うまでもない。

 

 

 

午前の授業は予想以上にハードだった…っつーのも、俺がキチンと正装してきたことが原因だ。

教室で山田と顔を合わせるなり何故かパニックを起こして目を回し、クラスの生徒は生徒でミーハー状態に陥り、一夏はターゲットが分散したとか声を上げて千冬の制裁を喰らってた。

…どーせいっつーんだか。

まぁ、それでも千冬の一喝で統率が取れている辺りカリスマ性は本物なんだなと再認識できたわけだが。

 

「んぐ…っと、ここは…」

 

整備室で弁当をかき込みながら、人形達を操作して内部装置の組み込み作業を突貫で行う。

内部装置に関しては、トゥーにやっておいてもらった…一々作ってらんねぇよ、あんなん。

頭の中にある図面を思い浮かべながらエネルギーバイパスを整理し、一度流れを確認する。

此処でへますると空中分解…悪くて爆発オチが待ってるからな。

コンソール画面の数値を眺めながら茶を飲み干し、一息つく。

一息ついたんだが、つけなくなった…誰かに覗かれてらぁ…。

 

「出てきな、嬢ちゃん…気配を隠すにゃ甘いぞ」

「…あ…う…」

 

こっちはこっちで相手の方を見ている余裕は無いので、背を向けたままテキパキと組立作業を行っていく。

…なーんか、どっかで聞いた事のある声だな…。

エネルギーバイパスのチェックを終えて、各部に小型のジェネレーターを仕込んでいく。

間接駆動を補助する為のものだ…此処まで小型のジェネレーターはこっちじゃ実用化されてねぇ…ただ、コイツを組み込んでおかねぇと俺には足枷になっちまう。

まぁ、技術革新っつーことで後で裏から手ェ回しておくかね…?

暫く作業に没頭していると、漸く覗き魔が此方へとやってくる。

 

「あっ、あの…!」

「用件は手短になー…来週のアタマにゃお披露目せにゃならねぇんだわ」

「えぇ!?そ、そんなの…無理…」

「無理でも学年主任殿がやれっつーんだよ。で、なん…だ……」

 

俺は一息入れようと手を止めてやってきた客人を見て、しくじったと思った。

っつーか、普通こんな再会するかね…?

まぁ、あの時は仮面つけてたから、コイツは分からねぇだろうが…。

俺の目の前には、日本に来たときに遭遇した誘拐事件の被害者…確か『簪』とか呼ばれてたな…兎に角、そいつがオドオドとした表情で立っていた。

 

「あ、あの…その…」

「……」

 

簪はオドオドとした表情で、此方をチラチラと見ながら不安そうにしている。

どうも人見知りするタイプらしい…IS乗りやっていけんのかね?

ISは身体の電気信号を読み取って動く一種のパワードスーツだ。

さらに女性しか動かせないと言う事もあってか、専用のスーツは所謂レオタードとか、スク水みてぇなデザインになっている。

ぶっちゃけ羞恥心煽りまくりだと思う。

 

「あの…ミュラー先生は…あの時の…」

「あの時ってぇのはどの時のこった?」

 

ISハンガーに腰掛け足を組んで簪を見つめる。

まぁ、仮面つけてても声でバレるわぁな…何だか嫌な感じがするんだよなぁ…。

俺は整備室に備え付けられている監視カメラへと目を向け軽く肩を竦める。

 

「あの…私が、攫われた時の…」

「はぁ…随分と記憶力の良い頭してんな…少ししか喋らなかったろうが?」

「そう言うの…憶えるのは得意…」

 

俺はさっさと観念して、溜息を吐く。

まさか入学してるとはねぇ…何でこの道選んだんだか?

 

「更識 簪、です…。あの時は…本当に、ありがとうございました…」

「見て見ぬフリ出来なかっただけだ…俺が言った事憶えてるな?」

「は、はい…!」

 

簪はコクコクと頷いて満面の笑みを浮かべる。

憶えていてくれたと言う事が嬉しかったみてぇだな…。

ヒーローか何かかと思われてんのかねぇ…?

もしそうなら確実にダーマみたいなヒーローに思われてるな…間違いねぇ。

 

「ミュラー先生の前で攫われるな、です…!」

「上出来だ…で、この学園に入ったのは…?」

「攫われても…大丈夫なくらい強くなる事と…お姉ちゃんに追いつく為…」

 

向上心が故にこの道か…まぁ、色んな技術を身につけられる場所だからな…間違いじゃねぇだろ。

姉ちゃんに追いつく為ってのは良くわかんねぇけど…憧れてるんだろうな。

 

「へぇ…まぁ、頑張れよ?」

「はいっ…!そ、それで…お姉ちゃんに…ミュラー先生の事教えたいんですけど…」

「面倒事はパス…こっちゃクソウサギの所為で厄介事抱え込んでるみてぇだし…」

「クソウサギ…?」

 

簪は不思議そうな顔で首を傾げて此方を見上げてくる。

…名前を言ったらこの場に現れそうなんで黙っておこうそうしよう。

 

「なんでもねぇ。それより午後の授業始まるぞ?」

「あっ…大変…!」

「転ぶんじゃねぇぞー?」

 

俺は慌てて走っていく簪の背中を見送り、IS組み立て作業へと戻る。

デモンストレーションするのは良いが…何やりゃ良いんだかな?

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