インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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少しずつの変化

軽く身じろぎしようとして、身体が動かねぇことに気付く。

ボンヤリとした頭を軽く振って目を覚ますと、目の前に気持ち良さそうに寝ている千冬の顔が見える。

…OK…少し状況を整理しようか…。

昨夜遅くに月見と花見を二人で楽しんだ。

此処まではいい。

その後、千冬が酔っ払ったフリをして甘えてきたんだ…酔っているからと言い訳を続けながら。

自惚れでなきゃ、あの行動が千冬の本心だろう。

俺に、恋をしている。

この一点に尽きる。

生憎とこれでも鈍感ではねぇつもりだ…だったら真摯に想いに向き合わなきゃならねぇ。

ならねぇが…あんなグダグダな状況で受け入れるのは気が引ける。

何度もキスをしておいてだけどよ。

 

「あー…くそ…情けねぇな…」

 

深い溜息を吐きながら、ゆっくりと自由になっている手を動かして千冬の頬を撫でる。

服は着ているし、ただ同衾しただけだ…抱いちゃいねぇ…っつーか、まだ抱けねぇ。

キチンと、答えを口にしておかねぇとな…。

 

「…ヘタレめ」

「何とでも言えよ…酒入れた勢いでなんぞできるか」

 

千冬は目を覚ましたのか、ムスッとした顔で此方を見てくる。

流れで抱かなかったのが大変ご立腹みてぇだな。

流されんのが一番キライだからなぁ…俺って奴は。

 

「…私は、お前と言う男に惹かれているんだ」

「千冬にそう言われて悪い気はしねぇよ…応えてやりてぇが、まだだ…まだ応えらんねぇよ」

 

俺は漸く千冬から離れて身体を起こし、髪の毛を近くにあった輪ゴムで適当に纏めておく。

 

「先に聞くのも駄目か?」

「あぁ、駄目だ…せめて来週のデモンストレーションまで待てよ。ガキ共に俺の凄さ認めさせてからじゃねぇと、納得させられねぇだろ」

 

未だクラスの連中からの評価は、ただの教育実習生だ。

ISが扱えるからって言っても同じくらいの能力しか無い…そう思われてたんじゃ、釣り合わないと思われっちまう。

そうなると千冬の立つ瀬も無くなるからな。

 

「黙っていれば良いだけだろう?」

「壁に耳あり障子に目ありってな…そうそう隠せるもんでもねぇだろ?」

「お前はそうやって他人の立場を心配し続けるのか?」

「応よ。気に食わねぇか?」

 

千冬は静かに頷く。

まぁ、俺の逃げる口実みてぇなもんだし?

正直滅茶苦茶にしてやりたいとも思ってたけどよ…。

興が乗らなきゃ勃つもんも勃たねぇわな。

千冬にジト目で見られて何とも居心地が悪ぃ…。

 

 

「ったく、しょうがねぇな…」

「っぅ…ふ…」

 

千冬の顎を軽く掴み、覆いかぶさるようにして口付けをする。

軽く舌を入れ千冬の味を感じながら顔を離すと、唾液が糸を引いて途切れる。

千冬は少し残念そうな顔で此方を見つめてくる。

 

「此処までだ…こっから先は…まぁ、なんだ…その内、な」

「くっ…もう、良いではないか…そう言うのは…卑怯だろう?」

「酒の所為にして既成事実に持ってこうっつーのもどうかと思うがな」

 

千冬から離れてシャワーを浴びに行く。

あんな良い女、他人にくれてやりたかねぇし?

まぁ、モノにするわな…それが今すぐってわけじゃねぇけど。

とりあえず、だ…今はまず滾っている身体をどうにかせにゃなぁ…。

 

 

 

 

今日は丸一日フリーっつー事で、朝からずっと整備室で組み付け作業中だ。

午前の内に本体の外装の組みつけが終わり、更衣室でお手製のISスーツに着替えて戻ってくると簪が俺のISの前でしゃがみ込んでいた。

 

「応、どうしたガキんちょ。虐められでもしたか…?」

「ミュラー先生…」

 

頭をわっしわっしと撫でてやると、簪は目に涙を溜めながら此方を見上げてくる。

おい…マジかよ…マジで虐められてんのか…?

 

「おい、泣くなよ?泣くんじゃねぇぞ?落ち着けよ?マジで!」

「ぅっ…く…はい…ぃ…」

 

とは言ったものの泣くなんて事は無理みたいで、やっぱり大粒の涙を流して泣き始める。

どうも女の涙っつーのは苦手だ…どうにかしてやらなきゃとか思っちまうな。

…前の女の所為なんだけどよ…ひっでー泣き虫で。

俺は傍に置いておいたトランクからハンカチを取り出して簪に渡すと、簪はそれで涙を拭っていく。

暫く泣き止むまで時間がありそうなんで、トランクからテーブルと椅子、そして人形をあちら側で起動させてティーポットに紅茶を淹れさせてこっちに持ってこさせる。

 

「兎に角座れ」

「はい…」

 

嗚咽を漏らしながら簪が椅子に座ったのを見れば、ティーカップに紅茶を注いで簪に差し出す。

紅茶は良い…気持ちを落ち着かせるにゃ一番だ。

コーヒーは俺は飲めねぇ…どうにもあの苦味がな…。

俺は対面に座り、背後に給仕用のメイド人形をオートマタモードで控えさせる。

 

「で、何があったんだ…?」

「それ、が…私の…専用機…開発、中止って…」

 

専用機を獲得するってーのは国家代表になるのに次いで難しい。

そらそうだな…全世界で468個か。

その内一個は俺が持っていて、残りは各国のパワーバランスに沿って分配されてっから一国辺りの数なんざ高が知れている。

で、その少ないISコアはやれ研究だ、やれ国防だ、と彼方此方から国内で引っ張りだこ状態。

そんなコアを人一人の専用の物にするなんて無理がある。

一個使えないだけで、それだけ国の戦力がガタ落ちになるわけだ。

もちろん、操縦者の腕も必要だからこう言った学園が用意されてるわけなんだが…。

兎に角、そう言った競争に打ち勝って、簪は国家代表候補生の中でも特に優秀な成績を修めて専用機を手に入れた…はずだった。

 

「理由は?」

「なんか…男性操縦者…優先するって…解析とかで開発に人を割けないって…」

「…なんか、すまん…」

 

クソウサの所為で良い迷惑じゃねぇかよ…どうすんだよコレ…。

男がISを操縦できんのは、束の奴がロックをかけてる所為だ。

俺も中身を覗いてみたが、こん中ブラックボックスだらけで俺でもどうして稼動すんのか分からねぇ。

あいつはこの世界における神に等しい頭脳を持ってるって言っても過言じゃねぇ。

そんな物体幾ら解析したところで、ただの人間が分かる訳ねぇだろ?

 

「ミュラー先生、悪くない…きっと織斑君も…どうして来たのかって思っちゃうけど…きっと、誰も…悪くない…」

「…そか。で、どうすんだ?」

「…分からない…でも、私だって専用機…欲しいから…」

「姉貴と並ぶ為か?」

 

簪は静かに頷いて震える手でティーカップを持って静かに紅茶を飲む。

お嬢様ってだけあって、その所作は洗練されたものがある。

紅茶を飲んで気分を落ち着けた簪は静かに深呼吸して、此方を見つめる。

 

「…ミュラー先生にお願いが…」

「出来かけのISの組み立てを手伝って欲しい、か?」

 

簪は再び小さく頷く。

深く溜息を吐く…此処まで面倒を見てやる理由は俺にねぇからな。

 

「何で、俺に白羽の矢を立てんだよ…悪いけどな、手伝わねぇぞ」

「そう、ですよね…ごめん、なさい…」

「なぁ、簪よぅ…何で自分でやる前に他人を頼るんだ?」

「だって一人でなんて…お姉ちゃんは、一人でやったって言ってたけど…」

 

そりゃ、最初から人を頼る勇気を持つのも大切だけどよ…。

目の前の困難にぶち当たりそうになったとき、周りが直ぐに手助けできるとも限らねぇ。

自分だけでやらなくちゃならなくなる時が絶対に来ちまう。

 

「姉貴を越えるんだろ?だったら、自分でもやってみなくちゃ始まらねぇ。手を借りる事が悪いって言ってるんじゃねぇ…責めるつもりもねぇ…。ただな、最初から諦めてちゃ学生やってる意味がねぇだろ?」

「何が、言いたいんですか…?」

「当たって砕けろって言ってんのさ。まだまだ子供だから間違えたって良いんだ。間違えて失敗しそうになったとき、諭してやるのが教師とか大人の仕事なんだからよ」

 

そう、間違えたって良い…間違う事は必ずしも間違いじゃねぇ。

生きている奴の中で間違いを一つも犯さなかった奴なんて有史以来一人もいねぇ。

その中でも子供はまだまだ大人が導かなきゃならねぇ…だから、間違えたって助けてやれる。

けど、間違う事を恐れて何もやらずに居るのは勿体ねぇと思うんだよな…俺は。

 

「じゃ、じゃぁ…!」

「手は貸さねぇ…だけど…まぁ、口は出してやるよ。一応教師だからな」

 

俺がそう言うと、簪は満面の笑みを浮かべる。

ガキなんぞ突き放せねぇよ…くそったれ…。

 

「ありがとう…ミュラー先生!」

「やんのはテメェだ…テメェがしっかり組み立てて、間違えてたら注意してやる。そんだけだからな?」

「はい!」

 

簪は元気を取り戻したのか、テーブルに置いてあるクッキーに手を伸ばして美味しそうに食べている。

ったく、お茶菓子みてぇに甘い性格だねぇ…俺は。

少々憮然としながら紅茶を飲み、カップを置けばメイドが紅茶を注いでいく。

 

「ったく…」

「ミュラー先生…?」

「なんでもねぇよ…っと、時間が勿体ねぇな」

 

俺は椅子から立ち上がり、本体だけ完成させた機体に近づいて装着する。

計器、システム共に良好だな…。

漆黒の装甲に紅のライン…鋭角で細身なフォルムをした俺のISはハンガーの接続から逃れて、漸く立ち上がる。

 

「ちっと、アリーナに出てくる。飲んだら授業に戻れよ~?」

「えっ!…もう、良いです…今日はこのままミュラー先生の作業を見学しています…」

「不良だねぇ…」

 

軽く肩を竦めながら低空浮遊を行い、床を滑るように移動していく。

軽く頭で考えれば思うとおりに動くってのも便利なもんだな。

ISの通信機能を使い、一年四組の担任に連絡を入れる。

 

『どちら様でしょうか?今授業中で…』

「ミュラーです。そちらの生徒の更識 簪は自分の所に居ますので」

『そうですか…真面目な子だったので何かあったのかと…変な事してませんよね?』

「もう一回り歳食ったら分からなかったですがね?」

『あら…そうですか…フフフ…では、授業がありますので…くれぐれもよろしくお願いしますね』

「了解、通信終わり」

 

通信を切った瞬間、妙な冷や汗が流れる…なんつーか…蛇にロックオンされた的な…深く考えるのは止めよう…うん。

アリーナへと出ると、後ろから簪が小走りでやってくる。

どうも本気で俺から盗める技術を盗もうって腹らしい。

良いねぇ…そう言うのは嫌いじゃねぇ。

 

「これ、組み上げてから二日くらい…ですよね?」

「まぁなぁ…メインスラスターも第三世代兵装も出来てねぇけど」

「…絶対可笑しい速度…」

「悪魔なんでね…それよか、もうちょい離れてねぇと危ねぇぞ?」

 

シッシッと手で簪を追い払うようにすれば、ゆっくりと格闘モーションを繰り出す。

関節駆動部も無理な音を立ててないし、特に大きな問題はなさそうだ。

PICはオート機能はカットしてある。

あれじゃ直感で動くにゃラグができちまうからな…。

オート機能をつけていた場合、空中で天地が逆になったときに正しい位置にしようと機体が補正をかけようとする。

これが兎に角邪魔で仕方ねぇ…。

よって、多少動かしにくくてもマニュアル操作の方が良いって寸法だ。

ゆっくりと機体を浮遊させて上昇していく。

確か訓練マニューバーのメニューが…。

機体内のライブラリに突っ込んでいたと思って探っていると、アリーナ内に練習用のコースが表示される。

 

『アモン、そのコース通りに飛んでみろ』

「もう授業は終わりなのか、千冬?」

『六時間目は山田君の授業だからな。私がいなくても問題ない』

「あんま、山田に仕事押し付けんなよ?」

 

アリーナ管制室から連絡があったかと思えば、声の主はまさかの千冬だった。

どうも授業を山田に押し付けてこっちに来たらしい…それで良いのか学年主任…?

まぁ、コース表示は有難かったのでPICと脹脛と足裏に備えられているスラスターを用いて飛行テストを始める。

自身で飛ぶよりも感覚がちっと違うな…次第に慣れるだろうが。

それでもスラスターの制御が過敏すぎるので、訓練をしながらプログラムの書き換えを行っていく。

次第に好みにあった推力になり、安定した飛行を見せ始める。

 

『アモン、瞬時加速は出来るか?』

「スラスターが付いてっから、理論上は出来るな」

『よし、やって見せろ』

「ったく、今日が初めての起動だっつの覚えておけよ?」

 

俺は苦い顔をしつつも空中で止まり、各部の具合を確かめる。

怪我したくもないしな…深く息を吐き出し、エネルギーを取り込むイメージと爆発させるイメージを頭に浮かべる。

瞬間、周囲の景色を置いていく様に視界がブレ、すぐにハイパーセンサーが補正する。

通常の加速の二倍強って所か…メインスラスターもあったら更に早くなるな。

 

『上出来だ…お前は本当に何をやらせてもソツなくこなすな』

「ブリュンヒルデにそう言ってもらえて光栄だ。テストは充分だから、ピットに戻るわ」

『分かった、私もそちらに向かう』

 

PICをカットして落下すれば衝突する瞬間にPICを入れて止まり、ゆっくりと着地して歩く。

クレーター作るなんてヘマはしねぇよ?

大分コイツの操作のコツは分かってきたしな。

 

「ミュラー先生…初めて…ですよね?」

「初めてだなぁ」

「…初めてで瞬時加速…?私、結構苦労、したのに…?」

「悪魔だからなぁ…整備室に戻るぞ~」

 

落ち込む簪を尻目に、俺はある一点だけを見つめる。

ハイパーセンサーってのはよく見えるねぇ…俺が見つめる先にある観客席…其処には簪そっくりの女が頬をひくつかせながら此方を睨みつけている。

…確か、簪の姉ちゃんじゃねぇか…?

…とんでもない殺気を此方に放ってきて非常に居心地が悪くなった俺は、そそくさと整備室へと簪を伴って戻っていく。

…夜出歩くときは背中気をつけておくかね…?

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