インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
「あー、お前たちも知ってるように、今このISの世界では俗にいう第三世代…一組じゃオルコットの専用機『ブルー・ティアーズ』のようなイメージインターフェースシステムをFCS化したものの研究開発が盛んに行われてる。じゃぁ、オルコット何でそうなったのか答えられるか?」
「……」
「一応な、認めてなくても授業は授業だから生活態度の点数に響くからな…?」
整備室に集まった一年一組および四組の生徒たちの前で、空間投影型
モニターに俺のIS本体設計図面を表示しながら授業を行っている。
正直スゲェやりづれぇ…皆、俺の事を認めてるって訳じゃないからな。
生徒の中で真面目に聞いてるのは一夏と簪くらいなもんだ…大体が話半分くらいにしか聞いちゃいねぇ。
「…単一仕様能力を扱えないIS操縦者でも同等の能力を行使するためです」
敵意を滲ませながらセシリアは不満げに答えてそっぽを向く。
これが千冬相手だったら間違いなく懲罰送りだろうな…ちなみに千冬と山田にゃ、何が起きても諌める事はしない様に頼んである。
今のタイミングじゃ、出席簿ブレードが炸裂しまくって授業処じゃねぇからな。
とにかく今の俺にゃ信頼も信用も足りなすぎる。
とは言え一度も授業をしないって訳にもいかない。
本体だけが完成している今の状況で授業をやってみろと言う事で、今は俺が教鞭をとっている。
「応、その通りだ。じゃぁ、織斑…単一仕様能力ってのはどう言うものだ?」
「えーっと…第二形態移行を行ったISがIS操縦者と最高相性になった時に発現する、特殊能力、です」
一夏は右斜め上を見上げるようにして、思い出すように答えていく。
まぁ、付け焼刃で知識を蓄えたにしちゃ上出来だ。
「大体その認識で良い。正確にはコアと操縦者が最高相性になった時に発現する特殊能力だ。教科書にゃ467個って書いてあるが今は468個あるコアはそれぞれの操縦者に合わせた特殊な力を発現さ…」
「あもあもせんせ~、なんで468個なんですか~?」
「あも…」
ダボダボの袖で覆われた手を上げたおっとり少女…布仏 本音は、俺に変な渾名をつけてニコニコと笑いながら質問をぶつけてくる。
ちなみに山田は上から読んでもやまだまや、下から読んでもやまだまやな所為か『やまや』と本音に呼ばれている。
千冬は普通に織斑先生だ。
怒られる相手とそうでねぇ相手を見極める洞察能力に優れてるみてぇだな…どうせ、渾名を止める様に言っても止めねぇだろうし放置しとこ。
「クソウサに俺が一個直接渡されてんだよ。今は俺の背後にあるIS『アプリストス』に搭載してある。所属はまだ決まってねぇ」
「アモン、『クソウサ』は無いだろう…授業中くらいは篠ノ之博士と呼べ」
「へーい」
生徒たちの背後に控えていた千冬が、俺のクソウサ呼びに訂正を入れると生徒たちが一斉にざわつく。
まぁ、これで事実だと改めて認識したことだろう…そして、俺を憐れむような目で見るな一夏と箒!!
「あー、授業を続けんぞー。ISコアは操縦者に合わせた単一仕様能力を発現させる。これはコア側が使ってくれる操縦者を理解して、最も適した力を発現することによってサポートしようとしてくれるからだ」
「ミュラー先生、コアが理解する、と言う事は…コアは意志がある、と言う事…ですか?」
簪がおずおずと言った感じで手を上げて質問してくる。
なお、今回の俺の授業受け持ち事件の主犯(?)である。
こいつが千冬に師事してもらうなんて言うもんだから…まぁ、過ぎた事は仕方ねぇ。
「その認識で間違いはねぇが、正確にはコアと操縦者が同調し理解を深める過程で心を持つんだ。つまり、専用機持ちはISコアっつーガキのお守りをやってやるわけだな」
「ベビーシッターみた~い」
「強ち間違いじゃねぇなぁ…。クソウサ…篠ノ之博士が軍事民間問わずISコアを提供したのは、あらゆる環境でどのような成長を遂げるのかを見るためでもあったんだろうよ」
軽く手を振って空間投影モニターを消して、アプリストスへと近づく。
てめぇは俺を見てどう言う成長を遂げるのかねぇ…?
四時間目の授業終了を告げるチャイムが鳴り響き、俺は軽く安堵感を覚える。
「俺のアプリストスは第三世代を想定したISだ。武装の基本設計はできてっけど、お披露目まではまだ内緒だ…まぁ、楽しみにしとけ。それじゃ俺の授業は此処までだ…日直ー」
「気を付け、礼!」
「「「「「ありがとうございましたー」」」」」
学内放送委員会がいつものようにランチタイムの放送を開始し、生徒たちはそれに釣られる様にいそいそと整備室を出ていく。
俺は足元にあったトランクを足で軽く小突いて開けて、整備班代わりの人形部隊を展開する。
飯食う時間も勿体無いってね~。
口笛を吹きながら人形の操作を始めると、一夏と箒…それに簪と本音が此方にやってくる。
「なんか、質問か?」
「や、アモン兄…飯食わないのかよ?」
「飯食う暇ねぇんだよ…」
がっくりと肩を落としながら一夏の質問に答えてやると、放送途中にもかかわらずアナウンスのあのチャイムが鳴る。
『こちら、生徒会よりお知らせ致します。教育実習生のアモン・ミュラー先生、教育実習生のアモン・ミュラー先生。至急、生徒会室までお越しください。繰り返します、アモン・ミュラー先生。至急、生徒会室までお越しください。生徒の皆さまは、引き続き昼の音楽放送をお楽しみください。生徒会よりお知らせ致しました』
放送が耳に入った瞬間、何だか嫌な予感がして自然と煙草を口に咥えてしまう。
「今のおねえちゃんだ~」
「虚の声だったね…お姉ちゃんが何か良からぬことを…」
「む…お前の姉は…」
どうやら割り込み放送をしたのは、整備課の分解神と謳われる布仏 虚だったらしい。
本音は嬉しそうにゆらゆらと揺れ、簪は何とも気まずそうな顔になっている。
箒は簪の言葉が耳に入ったのか興味を持ったかのように簪を見ている。
「お前じゃない、更識 簪…。お姉ちゃん、楯無は生徒会長…」
「すまない、私は篠ノ之 箒だ。その苦そうな顔…苦労、しているみたいだな」
「アモン兄…姉に苦労している同盟が出来上がったぞ」
「仲良きことは何とやらってな…」
簪は、苦手意識って言うより…何て言えばいいんだ…?
ありがた迷惑っつーか…なんつーか…う~ん…?
兎に角、嫌いじゃねぇけど苦手って感じの雰囲気を纏っている。
対する箒は、今までの人生をクソウサに振り回された所為か心底嫌ってるみてぇだな…。
まぁ、あんだけぶっ飛んでると嫌いにもなるわな。
好き勝手に生きてるから説明も無かったんだろうしな。
「ミュラー先生、行くの?」
「行きたくねぇけど、生徒会って独立した越権組織なんだろ?行くしかねぇだろ…」
人形操作を止めて煙草に火を点ければ、思い切り肺に煙を入れていく。
ヤニが肺を満たし、立ち眩みを起こさせようとするが逆に頭を冷静にさせていく。
生徒会長…昨日の殺気女だろ?
勘弁しろよな…。
「うら、昼飯食う時間無くなるだろ。ガキどもはキチンと飯食って午後に備えな」
「…アモン兄と昼飯食いたかったんだけどな」
「…そっちのケはねぇよ?」
「ばっ!違うっつーの!!箒とのほほんさん、あと、更識さんだっけ?行こうぜ」
ちぃっとばあかしブラコンの気を見せ始めた一夏を追い払えば、一夏は他の三人を連れて頬を膨らませたまま整備室を出ていく。
さぁて…鬼が出るか蛇が出るか…ね?
「ミュラーだ、入っていいか?」
「どうぞ~」
言いつけどおりに生徒会室へとやってきた俺は、内心ため息をついている。
扉越しに敵意が感じられっからだ…俺が一体なにしたってんだよ…マジで。
扉を開いて中に入ると、其処は理事長室もかくやと言わんばかりの豪奢な内装の部屋が広がっていた。
『生徒会長』と札が建てられた黒檀でできたデスクの奥に革張りの椅子が背を向けて置いてある。
「それで、呼び立てられて来たんだけどな…?兵装の組み立てやりてぇから手短にして欲しいんだけど?」
「これは失礼したわ。私が生徒会長…更識 楯無よ」
椅子がクルリと回転すれば、簪が不敵な表情をした感じのそっくりな少女が扇子を広げて口元を隠しながら睨み付けてくる。
…マジでなんなんだよ…?
「篠ノ之博士たっての希望でこの学園にやってきたのは知っているわ。素人であることも、望んでやってきたわけでもないこともね」
「……」
素人、と言うのは反論する事もできねぇわな…。
だが、安堵もできる。
なんせ、本来俺は教師ですらねぇ…桜花の魔法で事実を根底から書き換えてなった紛いもんだ。
きっちり、世界の常識が書き換わっている事にホッとした。
「先生は今度デモンストレーションするのよね…?半端ものではないことを知らせる為に」
「まぁ、学年主任がやれってんだからやるしかないわな」
「で、私としてもやる気のない人間が教師になるのは面白くないの」
楯無はにっこりと笑みを浮かべて扇子を閉じてこちらに差し向ける。
さながら、死刑を執行するかのように。
「デモンストレーション…その日、織斑 一夏君とセシリア・オルコットちゃんの試合が終わった後、私と決闘をしてもらいます」
「はあ…それで?」
「負けたら、ISコアを置いてこの学園から出てってもらうわ」
「勝てば?」
「遺憾ながら、貴方と言う男を認めてあ・げ・る」
遺憾ながらの部分を強調しつつ、微塵も自身の敗北を疑っていない自信をこちらに見せつけてくる。
まだまだガキだねぇ…。
IS学園生徒会長はもう一つの肩書を持つ。
それが『学園最強』。
学園に所属する生徒の中で最も強い人物が、生徒会長の役職に就くことが許される。
だから、この学園の生徒会選挙は行われない。
決闘の果てに勝ち残ったやつだけが生徒会長になれる。
で、生徒会のメンバーも会長の独断で選出されるって寸法だ。
弱肉強食がこの学園のモットーらしい。
俺ぁ、嫌いじゃねぇな…むしろ好みの部類だ。
「で、話はそんだけか?」
「随分と余裕じゃない?」
「勝ちゃぁ良いんだろ?」
ハン、と鼻で笑いながら挑発するように肩を竦める。
大した問題でもねぇしな…教師が生徒に負けてちゃ世話ねぇよ。
例え実力で負けてるとしてもだ…気持ちで負けてちゃ勝てるもんも勝てねぇ。
それにこいつは俺に喧嘩を売ったんだ…言い値の三倍で買うのが礼儀ってもんだろう?
「そう、勝てばいいのよ…一生来ないでしょうけど」
「そーですか。じゃ、話は終わりみてぇだから出るぞ。こっちは喧嘩売るほど暇じゃねぇんでな」
俺は楯無から背を向けて、生徒会室を出ていく。
整備室に向かうために廊下を歩いていると、千冬が壁に背を預けて俺の事を待ち構えていた。
「アモン、喧嘩を売られたみたいだな?」
「喧嘩っつーよりじゃれ合いみてぇなもんだろ…。んだよ、心配なのか?」
軽く肩を竦めて千冬に笑いかけると、素直に頷かれてしまって軽くコケる。
この野郎…。
「あいつはアレで現役の国家代表だ。更識 簪から聞いてるだろうが。フルスクラッチの専用機も持っている」
「なぁに、俺も教師らしくやれるところ見せてやんなきゃいけねぇんだ…むしろ学園最強に勝ちゃぁ、箔が付くってもんだぜ」
俺は不敵に笑ってみせて、千冬を安心させる。
曲がりなりにも教師請け負ってんだ…やり遂げなきゃ男が廃るってね。
千冬の頭をポン、と撫でてからかう様に笑う。
「負けねぇし、何処にも行きゃしねぇよ」
「あぁ…」
やれやれと肩を竦めて、整備室へと向かう。
信用、信頼ってのは自然と勝ち取ることへの難しさを痛感しながら。
――――
「良いのですか、会長?」
「良いのよ、事実としてやる気のない教師なんて誰も必要としないもの」
虚は楯無のティーカップに紅茶を注ぎながら、どこか諌める様に口を開く。
内心、妹に嫌われるような手だと思いながら。
楯無は我関せずと言わんばかりに肩を竦めて、虚の淹れた紅茶を楽しむ。
「私の簪ちゃんにマンツーマンで指導するあの男がイケないのよ!簪ちゃんは私が師事するべきよ!そう思わない!?」
「いえ、まったく」
「きー!」
虚は軽い眩暈を覚える。
当初、楯無は自身の暗部の長と言う立場上、簪に危害が及ばない様に突き放すと言う接し方をしてきた。
しかし、そんな関係を大々的にアピールしていても簪が誘拐されると言う失態を犯してしまった。
結果的に、今や都市伝説となったダーマのお蔭で簪を無傷で奪還する事に成功。
簪も楯無が…遅れてきてしまったとは言え、先陣切って助けに来たことで誤解が解けて姉妹仲は良好になった。
が、これが良く無かった…。
長年突き放すように接してきた反動で、楯無は重度のシスター・コンプレックスを患ってしまったのだ。
楯無は簪のIS学園入学を大層喜んだ…手取り足取り腰取…ゲフン、指導できるからだ。
だが簪は正直有難いと思いつつも、時々楯無が見せるゲ○ター線を浴びたが如きグルグル目を恐れていた。
いずれ、私食べられちゃうんじゃ…と言う恐怖を感じるほどに。
虚は何度か路線修正を行ってきたものの、若干疲れをみせてしまった。
「むしろ簪お嬢様はミュラー先生の事を慕っていますし、ここで立ちはだかるのは逆効果かと…」
「そ、そんなことはないわ!きっと簪ちゃんは私の素晴らしさに気づいてくれる!華麗に勝利してあの男を排除して見せるわ!!」
(…一度痛い目見ないと駄目だ…。早く、なんとかしなきゃ…簪お嬢様が…)
生徒会室で不敵に笑う声の中に、深いため息の音が混ざっていたのは言うまでもない。
狼の合間に書くこれが癒しと化す今日この頃