インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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酒と悪魔と女とばーさん

武装のプラン及び制作も順調に進み、なんとか月曜日の決闘に間に合いそうで俺はホッとする。

『アプリストス』…強欲の名を冠したその機体は、本体による戦闘能力に依存しないものとなる。

恐らく、俺にしか扱えねぇ…まともに扱おうって言うなら、ISを同時に三機運用するだけの思考能力を求められることになる。

勿論、既存の技術でできる範囲内でのものだ。

変に技術を持ち込むと、世界に弾き飛ばされかねねぇ…今はまだその時じゃねぇ。

ある意味、事件は起きているが何も始まっていねぇ…そんなんでオメオメと帰ったんじゃぁ桜花に向ける顔がねぇ…それに…。

夜、試作した武装の組み付けを終えて整備室のあるアリーナを後にすると、千冬がソワソワとして突っ立っている。

…乙女って性格じゃあるめぇし…。

 

「よう…学年主任がこんな所でフラフラしていて良いのか?」

「む、漸く出てきたな…。明日は日曜日で休みなんだ…少し、付き合え」

「…まぁ、構わねぇけどよ。その前に一服させてくれ」

 

懐から煙草の箱を取り出し、今朝購入したオイルライターで火を点ける。

壁に耳あり障子に目あり…桜花から魔法をあんまり使うなって御達しがきてる。

どうも、そういった神秘と相性が悪いってぇ話だ…知らず知らずの内に消耗しちまうらしい。

多分科学技術が発達してるのが原因だろう…。

神秘と化学は基本的に相容れるもんじゃねぇ。

オイルライター特有の香りが煙草に載り、少しだけ香りが変わる。

これはこれで旨いっちゃ、旨い…ゆっくりと煙を肺に入れて吐き出していく。

 

「んだよ…また咽てぇのか?」

「いや…何でそんなに煙草を旨そうに吸えるのか不思議でな」

「かっこつけだっつの…まぁ、ヤニ中毒だから止められねぇってのもあるけどな」

 

懐から取り出した携帯灰皿に吸殻を捨てて、一息つく。

千冬は一通り、俺の行動をつぶさに観察してくる…居心地わりぃな…。

軽くため息を吐いて千冬を見る。

 

「で、何かあったのか?」

「いや、何かあったと言うほどではない…ただ、飲みに行かないか?」

「まぁ、悪かないな…」

 

俺は素直に頷き、歩き出す。

IS学園は本土から離れた洋上に作られた人工島の上にある。

本土へは学園に繋がるハイウェイか、モノレールを使って行き来をする形になる。

学園の周辺にあるのは公園くらいで、他にあるものと言えば駅周辺にある雑貨屋くらいだ。

飲み屋なんて無かったと思ったんだがなぁ…。

千冬の後についていき、他愛ない雑談をする。

 

「一夏も大分しっかりしてきて、姉ちゃんとしては少し寂しいんじゃねぇか?」

「ま、まぁ、な…参考書を電話帳と間違えて捨てるくらいはやると思ったが…」

 

…まぁ、一昔前のすっとぼけ状態だったら無いとは言えねぇな…。

何とも渋い顔しつつも笑みを浮かべる。

 

「実際はそんなこともなく、必死に勉強に喰らいついてる…まさか、俺の質問に答えてくるとは思わなかったしな」

「あんなものは基礎中の基礎だ…答えられて当然だろう?」

「それ言ったら身も蓋もねぇよ…」

 

ケラケラと笑いながら歩き、やってきたのはIS学園近くにある臨海公園だ。

夏場には水遊び場ができて、涼を取れたりするってんで結構賑わったりするらしい。

そうでなくても、日中は親子連れがよく遊びに来るそうだ…俺も『遊び』にいくかねぇ?

や、サボリはしねぇよ?

 

「今日も来ているはずだが…あぁ、居たな」

 

千冬が辺りを見渡すと、一軒の昔ながらの屋台を見つける。

成程…IS学園の教師目当てで屋台を引いてくる奴がいるわけか…。

焼き鳥屋『葵亭』と書かれた古ぼけた赤ちょうちんが、何とも年期を感じさせる。

 

「おや、千冬のお嬢ちゃんかい…隣に居る坊やはお嬢ちゃんのコレかい?」

「葵さん…いや、まぁ…」

「まだ保留中だろ…」

 

暖簾をくぐって古ぼけた木の椅子に座ると、屋台の主が気の良さそうな顔で出迎えてくる。

歳のころは…六十くらいか。

顔に刻まれた皺からはもうちょい歳を喰っているように見えるばーさんは、老獪さを見え隠れさせながらコップをさっさと二つ用意して日本酒を注いでいく。

駆けつけ一杯って事らしい。

 

「かーっ、男のくせに情けないねぇ、坊やは…。こんな美人自分のモノにしなきゃ、股間についてるものも泣いちまうってもんさ」

「ばーさん、飲んでんのか…?」

「あ、葵さん!」

 

葵のばーさんは既に飲んでいると思える様な話口でまくし立てて俺の前に乱暴にコップを置き、千冬のところには優しく置く。

…この野郎…良い性格してるじゃねぇか…。

 

「この店来たら先ずは飲むことだね…そうしたら美味いもの食わせてやるよ」

「アモン、この屋台の主の木之下 葵さんだ。葵さん、教師見習いのアモン・ミュラーだ」

「よろしくな、ばーさん」

「ばーさんじゃなくて、葵さんと呼びな…アモンの坊や」

 

にぃっと笑みを互いに浮かべれば、俺は一気に酒を飲みほしてッターン!とテーブルにコップを置く。

葵のばーさんは面白そうに笑みを浮かべて酒を注いでくる。

 

「坊やにしては良い飲みっぷりじゃないか…んん?」

「ザルですよ、ザル…いくら飲ませても酔わないんですから」

「水みてぇなもんさ…芳醇な香りのする命の水ってな…飯食ってねぇから何か適当に焼いてくれよ、ばーさん」

「このガキャ…まったく…」

 

葵のばーさんは呆れたように肩を竦め、ネギマに皮、カシラ、ボンボチ、白レバーと炭火で焼き始める。

たれの香りが俺の胃袋を強烈に刺激し始める。

 

「千冬のお嬢ちゃん、この坊やはおススメできないねぇ」

「いえ…これでも頼りになる男ですよ…この世界に居る誰よりも」

「持ち上げんなよ…俺は教師ってーより、ただの芸人なんだからよ」

 

注がれた酒で満たされたコップを手に持ち、今度は味わう様に酒を飲んでいく。

日本酒特有の辛みと甘味を堪能しつつ、皿に並べられた焼き鳥を手に取り一口食べる。

タレが焦げて良い香りが口の中いっぱいに広がっていく…ジューシーな肉汁も溢れ出し、すげぇ美味い。

 

「うめぇ…ばーさんやるなぁ…」

「だったら敬意をもって葵さんって呼ぶことだね!」

「いや、マジでうめーわ、ばーさん」

「クソガキャァ!!」

 

葵のばーさんをからかう様にばーさんと呼び続け、焼き鳥と酒を交互に胃に納めていく。

ばーさんは、ぶつくさと文句を言いながらもせっせせっせと焼き鳥を焼いていくが一向に皿に並ばない。

 

「葵さん、からかってるだけですよ…時々ガキみたいになりますから」

「おう、お片付けが壊滅的だったやつに言われたかねぇなぁ…んん?」

「む…!い、今は大丈夫だろう!?」

 

千冬は実際片付けがキチンとできるようになったし、簡単な軽食も作れるようになった。

男じゃねぇが、三日会わずば括目して見よって感じだ。

なんか、忙しい合間を縫って一夏に指導してもらってたらしい…だらし姉ェの烙印はこれで消えた…とでも言うと思ったか?

千冬はあまりにも忙しくなると、とたんに片付けが疎かになる…基本的には衣類が。

脱いだら脱ぎっぱなしだ…下着まで。

そんなだから束に盗まれんだよ…。

 

「まぁ、余裕があるときは問題ねぇけど…ちょくちょくヘマしてるだろ」

「ご、ごみを散らかしているわけではないんだぞ?」

「千冬のお嬢ちゃん、そんなに酷かったのかい…?」

 

葵のばーさんは、興味津々と言った感じで目を光らせて俺を見てくる。

俺は神妙な面持ちでゆっくりと頷く。

 

「千冬の弟…分かるよな?そいつの面倒見るときに掃除しに千冬の部屋に入ったんだけどよ…SAN値チェックして発狂待った無しってくらい…」

「千冬のお嬢ちゃん…しっかりしなきゃダメだよ?」

「い、今は片づけられますから!!」

 

千冬は酒だけでなく、羞恥で貌を赤くしてそっぽを向く。

…こういうとこ、本当に可愛いよなぁ…俺の手で鳴かせてみてぇなぁ…とか思っちまう。

そういうのするにゃ、まだ早ぇけどな。

千冬の横顔を肴にしていると、蓋のついたどんぶりが俺と千冬の目の前に置かれる。

 

「腹減ってるんだろ、坊や…今日だけの特別だからね?」

 

そう葵のばーさんが言ってどんぶりの蓋をとると、一気に濃厚なタレの香りが鼻を、本能を刺激してくる。

どんぶりの正体は焼鳥丼だ。

モモやムネ、ボンボチ、つくねと食い応えのある肉がこれでもかと海苔の敷かれたご飯に盛られ、中央には卵の黄身だけが乗っかっている。

どんぶりと一緒に急須も置かれる。

 

「アモン、まずは半分だ…半分だけ好きなようにかっ込め」

「お、応…いただきます」

 

黄身を割り、全体に馴染ませるようにして口に頬張っていく。

焦がされたタレの香りに黄身の甘い味がマッチして、いくらでも食えそうだ…。

本能に抗いながらゆっくりと咀嚼し、勿体無いと思いながら飲み込んでいく。

美味い…本当に美味い…御袋の味ってぇのはこう言うものなのかもしれねぇな。

俺には親ってのが居ない。

居るとしたらそれは最初に罪を持った人間の事だろう。

悪魔は概念的な存在だからな…自己を持った存在が認識しなきゃ生まれる事さえ許されねぇ訳だ。

だから、愛情なんて最初の内は分からなかったし知らなかった。

 

「で、だな…残った半分にこの鳥出汁をかけろ…」

「…おい、やべぇよ…ばーさん、あんたなんてもんを…!?」

「常連だけにしか出して無いんだ…ありがたく思いながら食う事だね」

 

葵のばーさんはニヤリと笑いながら、俺を見つめてくる。

このばーさん、マジでやりやがる…俺は恐る恐ると言った手つきで急須からどんぶりに鳥出汁を注いでいく。

鳥を煮て出た出汁がさっぱりとしかし濃厚な風味を以ってご飯に吸い込まれていく。

俺は熱いのも構わずに一気に出汁を飲み干し、残ったご飯を啜るようにかっ込んでいく。

 

「うめぇ…うめぇよ…葵のばーさん…」

「な、泣くほどなのか!?」

「大の大人がだらしないねぇ…まぁ、泣くほど美味いって思われるのは悪い気はしないけどね」

 

葵のばーさんは愉快そうに笑い、千冬は早々に焼き鳥雑炊を平らげて涙を流すほど感動している俺に若干引いている。

仕方ねぇだろ…昼から食ってねぇんだから…。

優しい味だったな…ばーさん侮れねぇわ…うん。

 

「ま、まぁ…気に入ったのなら連れてきた甲斐はあったか…」

「おう…葵のばーさん、酒~」

「ばーは余計だよ!まったく…」

 

葵のばーさんは口を尖らせながら不満げにしつつも俺のコップに酒を注いでくる。

飯の余韻にも浸っていてぇけど、飲みに来たからな…千冬が満足するまで飲まなきゃなぁ。

 

 

 

 

で、どうなったかってーと…。

 

「Zzz…」

「酔いつぶれかよ…マジか…」

「結構飲んでたからねぇ…あんた、一緒に住んでるって言っても送り狼は許さないからね!?」

「するかい!…無理矢理は好きじゃねぇよ」

 

会計を無事に済ませた俺は、日が昇る前に帰ろうと千冬をおんぶして歩き始める。

アルコールの匂いに混じって香る千冬の匂いが、俺の中の獣性を刺激してくる。

そりゃ…こんないい女に好きだと言われて何も思わねぇなんて無理だろう。

ヘタレても男だ…廃るってもんだぜ。

 

「アモ…ン…フフ…」

 

千冬は夢の中でも俺と一緒に居るらしい…最初に会ったときは鋼の女って感じだったんだけどな…。

実態はそこら辺の乙女と大して変わらねぇ…寧ろ、仕事中はそういった部分を公に出さないからギャップがマジでやべぇ…。

…仮に千冬と付き合うって一夏に言ったらどう思うかね?

あいつシスコンだからなぁ…決闘申し込まれたりしてな。

 

「んぅ…フフフ…」

「幸せそうだねぇ…まぁ、俺も役得っちゃぁ役得だけどよ…」

 

スーツ越しに感じる大きく柔らかな物体…とかな。

千冬は、スタイル良いからな…山田の嬢ちゃんみたいに、一部が突出しているわけじゃねぇ。

いや、山田の嬢ちゃんも十分に可愛いぜ?

ドジっ子だけど。

ただ、ああ言う性格だからマスコットみたいに思えんだよ…!?

 

「ん…っ…」

「ち、千冬!?」

 

ぼんやり考え事しながらIS学園の正門を潜った瞬間、首筋に思い切り吸い付かれる。

あまりにも不意打ち過ぎて背筋がゾワゾワとして仕方がねぇ…。

 

「お手付き…悪くないだろう…?」

「起きたんなら降りろよ…」

「甘えさせろ…お前に…甘えたいんだ…」

 

千冬は俺の首にキスマークを付けた後に耳元で囁く。

何かを期待するような…そんな熱の籠った声が俺の耳朶を打ち、誘惑してくる。

悪魔を誘惑って相当だぞ…いや、俺が強く意識してる所為か…。

だらしねぇし、ちょれーなぁ…俺…。

 

「ダメ、か…?」

「えっちなのじゃなきゃ良い…まだ、そういうのはしたくねぇ」

「ヘタレ…」

「積極的過ぎやしねぇか!?」

 

千冬は不満げに俺の耳を引っ張り、顏をうなじに埋めて思い切り匂いを嗅いでる。

あれか…狼とか言われてるから発情期が…いや、考えるのはよそう…。

寮についてベッドに放り投げれば、それはそれで絡まれたが…耐えきった俺の理性を誰か褒めてくれ!

 




そして千冬の(と、言うか俺の書くヒロインたちの)誰お前感は加速した
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