インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
翌週月曜日。
放課後に予定されている一夏とセシリアの決闘は学園中の話題になっていたようで、アリーナの観客席は学園中の生徒で埋め尽くされていた。
俺と千冬、それに山田は管制室で一夏の専用機…『白式』の到着の報せを待っていた。
白式の開発元…簪の専用機を作っていた日本の重工業企業である倉持技研は、何を手間取っているのかねぇ…?
「遅いですねぇ…」
「まぁ、利権求めて簪の専用機の開発中止しちまうくらいだしなぁ…」
「あまり遅いようなら、予定を繰り上げるか?」
管制室の椅子に座って三人で珈琲を飲みながら雑談をする。
俺?
緊張してねぇよ…負ける気もしねぇしな…初見の相手であっても。
ISスーツ姿の俺が気になって仕方ねぇのか、山田は俺の事をチラチラと見てくる。
俺のISスーツは前にも言ったがお手製だ。
人形の衣服を作る都合上、裁縫が得意でなぁ…。
基本のデザインは、一夏の物と同じ腹部分を露出させたアンダースーツって所か…。
黒に血のように赤いラインが入ったそれは、時折鳴動するように光が流れている。
表向きはバイタルデータ取得の為のセンサーと言う事にしてあるが、実際は緊急時において自身の魔力をIS用エネルギーに転換するためのものだ。
大勢の目の前で、本来の姿になる訳にもいかねぇしなぁ…これくらいのズルは良いだろ?
「なんか、あんのか?」
「い、いえ!き、鍛えていらっしゃるんっだなぁって…思いまして…」
言うまでもなく、山田はおっぱい魔人である。
クソウサと同等の胸の持ち主だ…そんな奴が、首を全力で横に振ったらどうなると思う?
身体の動きと連動しておっぱいがゆっさゆっさと揺れまくる。
男っつーか、青少年にゃ目に毒だぜこのセンセ…無意識であざとい行動してるし。
「人形一体五十〜六十キロあっからな…詳しいカラクリは企業秘密だけど、それを操り糸で自然に動かすにはそれなりに体力がいんのさ」
「ほえー…え!?ちょっと待ってください!!そんなのを同時に五体以上動かしてたんですか!?」
「まぁ、人形劇やんのに大掛かりのだと二、三十体くらい一斉に演技させるしな…」
「馬鹿げた思考能力と筋力だな…」
山田は口をパクパクとさせながら驚きに目を白黒させている。
実際のところ自動化させて簡略化させれば三千くらいなら余裕で操れる。
まぁ、自動人形に関しちゃこの世界の技術じゃねぇし、無人機もまだ世に出てない研究中の代物だ。
…な~んか、忘れてる気がすんだよなぁ…。
「とりあえずな、いてぇよ…千冬」
「気を付けろよ、山田君…この男は意外とたらしだからな」
「おう、名誉棄損で訴えんぞゴルァ!」
千冬は本当にご立腹な様で、俺の足をぐりぐりと踏みつけたまま腕を組んでそっぽを向いている。
マジで俺が何をしたっつーんだ…。
ため息吐きつつ珈琲を飲むと、何がおかしいのか山田はクスクスと笑う。
「織斑先生、ミュラー先生と仲が良いんですね」
「ばっ!?な、何を言うんだ!?」
「まぁ、何度も飲みに行ってるし…千冬の家に転がり込んでた時期もあったしなぁ」
「そうだったんで…えぇ!?」
山田は、俺が千冬の家に居たって事がそんなに驚きなのか、目を丸くして驚く。
しかもなんかすげぇ羨ましそうな顔されてるし…。
「いや、職員会議の時にそう言ったから共同生活をしているんだが…?」
「まぁ、つっても?一緒に暮らしてたのは一週間くらいで、本当は一夏の面倒見る為に居候っしてたんだけどな」
「は、はぁ…そうだったんですか。ミュラー先生は面倒見が良いんですね…この分なら此処で教師もきちんとやっていけますよ」
教師、ね…。
契約書には一学期の間は教育実習生として雇用し、生徒から不満が出ないようであればそのまま教師として雇用される旨が明記されてた。
つまり、今日俺がやる予定の決闘で少なくとも一組の生徒が俺を認めるようなら、学園での教師生活への道が開きだすって寸法だ。
まぁ、タイミング見計らって辞表出しゃぁ良い話だから何も問題ねぇ。
目の前の学年主任が握りつぶしそうだけどな!
うっかり話し込んでて一夏のISの事を忘れてたな…管制室に正門から倉持のトラックが来たと言う通信が来る。
「漸くか…山田君は私についてこい。アモンはどうする?」
「なんか、水色が因縁つけてきそうだからパスするわ」
「楯無か…お前、何かしたのか?」
「心当たりはねぇなぁ…」
軽く肩を竦めれば、千冬はそうかと一言だけ言って、山田を伴って管制室から出ていく。
俺はアプリストスと第一次形態移行は済ませてある。
知ってはいたが、その時その時の経験値で形を変えるってのは面白いもんだよな…。
ただ、第一次形態移行を行うには最低でも三十分の馴らし運転が必要だ…ふむ…。
俺は管制室の通信機を使って、セシリアに連絡を取る。
「あー、あー、聞こえてるか?」
『…試合前になんですの?』
「そう邪険にすんなよ…。まぁ、いいや。今しがた一夏のISが届いた…ただな、第一次形態移行にちと手間取るはずだ…待てるよな?」
『…良いでしょう。第一次形態移行してなかったから負けた、なんて言われては面白くありませんから』
セシリアは俺の声も聴きたくねぇのか、つっけんどんな声色で対応してくるが俺のお願いは聞いてくれるみてぇだ。
確かに言い訳になるが、俺がそれはさせねぇし、そういう教育を施してきたつもりもねぇ。
「一つ、忠告してやる。あいつは目が良い…お前の弱点も簡単に見破ってくるぜ」
『何を…!?』
「BT兵器の扱いに慣れてねぇのは、入試試験時の動きで知ってる。隠すのは上手かったけどな」
セシリアはPICによる慣性移動を利用して流される様にして動くことで、『BT兵器稼働中に動けない』弱点を巧みに隠している。
けどな…熟練操縦者なら一発で看破するし、一夏は俺相手に何度も挑みかかってきた実績がある。
どう動けばいいのか、相手はどう動くのか、何ができて何ができないのか…俺を打破するために出来る事を研ぎ澄ませていった結果が…言ってしまえば心眼とかそんな感じの視る能力だ。
『わたくしに素人相手に本気になれと?』
「応よ…獅子は狩りにも全力を尽くす。だったらテメェも全力で挑みな。『手加減してたから負けた』なんて言い訳したくねぇだろ?」
『っ!!…気に入りませんわ!!』
セシリアが一方的に通信を切ったところで、俺は漸く一息つく。
とりあえず、発破はかけた…ちったぁ本気で動くだろ…。
ピットに通信を入れ、千冬を呼び出す。
『どうした、アモン?』
「セシリアにゃ、事情を説明して第一次形態移行をするまで待ってもらってる。一夏のケツ引っ叩いてとっとと第一次形態移行させとけ」
『ほう、よくオルコットがお前の言う事を聞いたな?』
千冬は面白そうな声色で聞いてくる。
まぁ、実際そうだわな…オルコットは一週間、まともに俺と会話しようともしなかったし。
なんかトラウマ抱えてるのか知らねぇが、世情に染まり切ってる所為か男を毛嫌いしてる節がある。
恋でもすりゃ変わると思うんだがねぇ…。
「ちっとばかし挑発してやっただけだ。じゃ、そっちは頼んだぜ」
『フ…まぁ、それも一夏次第だろう』
今度はアリーナ内にアナウンスするためにマイクをオンにしつつ、スカーレットを自動人形モードで起動…鶯嬢代わりに使用する。
何だろうな…作ってて良かったとか思ったわ。
「アリーナ内、観客の皆さまにお知らせします。織斑 一夏専用機の準備の為、試合開始を三十分後とさせていただきます。試合開始まで、今しばらくお待ちください」
マイクを切って俺は漸く一息つく。
なんで、自分の試合の前にこんなに疲れてんだ…?
スカーレットが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「マスター、体調が優れないようですが…?」
「気にすんな、ガキのお守りで疲れてるだけだ…もう戻って良いぞ」
「了、マスター、失礼します」
スカーレットはトランクの中へと戻り、再び管制室は静寂に包まれる。
さあて…一夏のお手並み拝見といきますかね?
三十分後、アリーナ内には美しい蒼と鮮烈な白が並び立っている。
片や狙撃銃を手にした英国代表候補生のセシリア・オルコット。
片や一振りの刀を手にした、
俺は管制室の椅子に腰かけ、モニターを睨み付ける様に眺めている。
セシリアは自身の勝利を信じて疑わないと言う表情…対して、一夏は試合前だと言うのにセシリアのIS『ブルー・ティアーズ』をつぶさに観察している。
俺は学園にあるデータに目を通しているために、ブルー・ティアーズの情報は知っている。
因みに楯無のは見てねぇ…フェアーじゃねぇからな。
向こうは俺の機体の事は知ってるだろうが、本体に関する事だけだ…詳しいことは何も知らねぇ筈。
まぁ、どっちにしたって俺は勝たなきゃならねぇんだけどな。
試合開始と同時に、管制室に楯無がやってくる。
「なんか用か?」
「べっつに~、余裕ぶっこいて管制室で珈琲飲んでる人の面を見に来ただけよ」
楯無はISスーツの上に白いパーカーを羽織った姿で、俺の隣までやってくる。
俺はそれをチラ、と見ただけでモニターに意識を向ける。
一夏は慣れないISに戸惑いながら、狙撃ライフルから放たれるエネルギー弾の直撃だけは避けつつ円周機動で様子を見守ってる。
付属品の正体には気づいちゃいるみてぇだな…どのように扱うかは別として。
…セシリアは忠告を聞いてくれてんのかね…少なくともマジな顔で相対しているのは分かる。
「貴方…何者なのかしら?」
「悪魔だよ…皆信じねぇけどな」
「ふぅん…?」
楯無は俺の様子を伺う様に見てくるが無視だ。
セシリアはBT兵器を二基残して射出…一夏の死角を見極めて死角から丁寧に射撃を行っていく。
堅実な方法だが、一夏にゃ効果は薄い…それにBT兵器の内容が分かれば対応もしやすくなる。
事実として一夏は最初こそ戸惑って直撃を受けてしまっていたが、すぐに意識を切り替えて徐々に被弾を抑えていく。
攻撃しねぇところを見ると近接一本だけの男らしい機体みてぇだな…白式。
「ドイツでの事件…調べさせてもらったわ」
「そーかい…要点だけ言ってくれ…俺は弟子の活躍見るので忙しいんだ」
楯無は勿体ぶるように俺に話しかけてくるが、俺は我関せずって態度をとり続けている。
マジでなんなんだかな?
一夏もどうやらセシリア最大の弱点に気づいたのか、何やら喋っている…管制室のスピーカー入れりゃ良かったか…。
口唇術である程度唇を読む…内容的には、やはり弱点の指摘みてぇだ。
更に、射撃タイミングが一定のリズムで行われてるのも看破したらしい…千冬の弟ってだけはあるか。
「貴方…人を手にかけて置いて眉ひとつ動かさなかったって言うじゃない」
「一夏が誘拐犯の手に落ちてたしな…悪党に生きる価値あんのか?」
事さら冷たい口調で俺はモニターから視線を外し、楯無を見つめる。
楯無は俺に気圧された様に一歩下がってしまう。
「罪を犯した人間が…悪党だと言うなら、人はもう居ないわよ?」
「性悪説って奴か…まぁ、あの時のは正当防衛だ。先に手を出したのは向こうだったからな」
「そう…。…貴方、教師向きじゃない…恐い人よ」
「悪魔だっつってるだろうに」
目を離した隙に、一夏は覚悟を決めてセシリアに直進していく。
セシリアはとっておいた切り札代わりのミサイル発射型BT兵器を展開して撃ち込むが、一夏はそれらを冷静に刀の峰で弾き飛ばし、返す刀に光を纏わせる。
単一仕様能力…?
キナくせぇな…授業で言った通り、単一仕様能力はコアとの相性が最高状態…つまり互いに理解しきった状態じゃねぇと発動しねぇ筈だ。
…束が絡んでるくせぇな…千冬に確認とってみっか?
「教師向きか向きじゃねぇかはどうだって良いだろ…俺は契約の元でこの学園で教師をやる。教師になる以上は生徒導くし、危なくなったら身を挺して守る…そんだけだ」
「…そう、でも今日貴方は私に敗れて学園を去るわ」
あくまでも俺が負ける…そう言って憚らない楯無に肩を竦めて苦笑する。
自信満々で大いに結構だ…そういった奴と
一夏はあの光る刀を一閃させてセシリアに大打撃を与えるものの止めには至らず、返す刀でもう一撃入れようとするがそこで試合終了。
…締まらねぇ…。
どうもあの単一仕様能力…自身のエネルギーを大量に犠牲にしながら発揮するものみてぇで、一夏は自滅しちまったみてぇだ。
まぁ、実際英国代表候補性相手に良い所まで行ったんだ…反省点あれど、良い糧にはなったろ。
「さってと…楯無、おじさんの強さってのを教えてやんよ」
「加齢臭まみれの教えなんて必要ないわ」
互いに軽口を叩きあいながら管制室を後にする。
まずはピットで一夏を褒めてやるかね?