インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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淑女と人形遣い

「よくもまぁ、『俺は世界で最高の姉を持った』だの『千冬姉の名前を守る』だのと持ち上げてくれたな?んん?」

「はい…スミマセン、ゴメンナサイ…」

「武器の特性を把握せずに振り回すからああなるんだ…これからは訓練に励め」

「はい…スミマセン、ゴメンナサイ…」

 

次の準備があるので一夏を褒めるついでにピットへとやってくる。

アプリストスの最終調整を行う必要があっからな…。

しかし、ピットではどうやら千冬にとって相当恥ずかしいことを口走っていたらしい一夏が、ピットの冷たい床に正座して説教を受けていた。

千冬の背後では、箒が呆れたような惚れ直したような…そんな複雑な表情で見つめている。

 

「まったく、気を抜くからそうやって負けてしまうんだ!」

「はい…スミマセン、ゴメンナサイ…」

 

箒まで突き放す様に言うものだから一夏はすっかり気を落としてしまい、『スミマセン、ゴメンナサイ』しか言わないロボットと化してしまってる。

褒めるべきとこあったろーに…まぁ、調子づかせるのも癪なんだろうけどな?

 

「織斑は、今後訓練に励め…暇があったら少しでもISを動かして機体のクセを掴むんだ。いいな?」

「はい、ワカリマシタ…あ、アモン兄…」

「千冬に篠ノ之よぅ…そんなに怒るなよ?高速戦でミサイル起爆せずに弾き飛ばした手腕とか見事なもんだったろ?」

「アモン兄…」

 

俺は軽く手を振りつつ三人に近寄り、一夏の頭をワシワシと撫でる。

ずっと怒られてたせいか、一夏は嬉し泣きを始める始末だ…スパルタも程々にしねぇと潰れちまうっつーの。

ひとしきり撫でた後、千冬へと眼を向ける。

 

「あれは単一仕様能力だな?」

「あぁ…私と同じ単一仕様能力『零落白夜』。効果は自身のエネルギーを消耗して発生させる『エネルギー無効化』能力だ」

「…姉弟でも同じ単一ってのは相当な条件が重ならねぇと無理な筈だ」

「分かっている…」

 

千冬もどうやら同じ考えのようだ…篠ノ之 束は何かを企んでいる。

勿論、その何かってのは分からねぇ…だが、確実に一夏は渦中の人物になるんだろうよ。

肝心の一夏は箒に引っ張られて、ピットの隅っこでガミガミと御小言をもらって再び萎縮っしちまってる…あーらら…。

俺はコンソールに向かい、ハンガーの番号を入力。

レールに沿ってIS用ハンガーが移動してきて、俺の機体が露わになる。

 

「自分自身でも無茶振りしたとは思ったが…これがお前の『アプリストス』か」

「応、俺が設計して作り上げた新造機体…オンリーワンの機体だ」

 

あくまでも既存技術…しかし、人間が廃人になるほどの情報処理能力を求める『強欲者』故に『アプリストス』。

漆黒の細身の装甲は悪魔を思わせる様に禍々しく鋭角…両肩には棺桶を模した大型のシールド・バインダーを二基、腰部辺りに蝙蝠翼状のフレキシブル・ウィング・スラスターがついている。

武装は両腕にアメリカ第二世代ISの『アラクネ』の扱う『エネルギー・ストリングス』を改良、小型化したものを搭載させた。

本体の武装はそれだけだ…本体のはな。

 

「…肝心の武装は?」

「どうだかねぇ…今教えたらつまんねぇし、試合中にでも見せてやるさ」

「アモン、楯無はふざけて勝てるほど甘くは…!?」

 

俺は千冬の顎に触れて此方を真っ直ぐに見つめさせる。

気に食わねぇ…そうだろ?

俺って男が信用ならねぇと公言してるようなもんさ。

 

「俺は弱く見えんのか?」

「っ…少なくとも、素人ではあるだろう!?」

「だったら…世界最強の目に焼き付けてやる…魔王の強さってやつをな」

 

ゆっくりとアプリストスの装甲に触れ、機動シーケンスを開始。

アプリストスはハンガーから無人状態で動いて離れ、俺に頭を垂れる様にして跪く。

その様子を見た一夏達はこちらへと駆け寄る。

 

「アモン兄!一体何をしたんだよ!?」

「ISがひとりでに動くなんて!!」

「俺のは俺だけのスペシャルなんでな…行くぞ」

 

再び、アプリストスに触れれば全身にISが装着され、視界にハイパーセンサーが同期。

アリーナ内にISの反応があることを確認する。

 

「アモン…勝てよ?」

「負けると思ってたことを後悔させてやらぁな」

 

千冬が背中越しに俺に声をかけ、管制室へと立ち去っていく。

カタパルトから俺は弾き出され、アリーナ内に出れば背面のフレキシブル・ウィング・スラスターを目いっぱい広げ上空へと飛び上がる。

加速性、問題なし。

エネルギー問題なく循環。

スーツとの同期成功…。

 

「随分趣味的なデザインなのね…。『強欲』、ね…七つの大罪かしら?」

「まあ、そんなとこだ。…余裕がねぇからな…手加減してやれねぇからな?」

「結構…私が完膚なきまでに叩き潰してあげる」

 

試合開始のブザーが鳴ると同時に、楯無はポールウェポン『蒼流旋』に装備されているガトリングガンを斉射してくる。

だが、俺はそれよりも早く不可視のエネルギー・ストリングスによる糸の結界を張り、直撃弾をすべて切り刻んで無効化していく。

 

「AIC!?いえ…違うわね!」

「撃ってるだけじゃ俺には勝てねぇぞ?」

 

楯無は円周機動で俺を注意深く観察しつつ、ガトリングガンの斉射を続ける。

楯無の機体霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)は水を操り攻守をバランスよく保っている。

装甲表面は殆どが液体だ…液体は恐らく圧を掛けていて柔軟に動きつつも高い剛性…更には、修復機能も兼ね備えている。

つまり、水の装甲を攻撃したところで暖簾に腕押しになっちまう訳だ。

だが…。

楯無は糸の結界の効果範囲と威力の確認を終えた様で、ニヤリと笑う。

 

「学園最強を前に、よくもまぁそんな貧弱な機体で出てきたものね?」

「慌てんなよ…演目は始まったばかりなんだぜ?」

 

軽口を叩くようにして挑発するように手招きしてやれば、楯無は『蒼流旋』に水を纏わせて馬上槍を形成し、此方に接近してくる。

ビーム・ストリングスで雁字搦めにしようと『大げさに』腕を舞わせば、糸が楯無を捉えた瞬間に楯無が忽然と姿を消す。

どうやら、瞬時加速による急加速で一気に視界から消えたようだ…って言ってもハイパーセンサーは楯無の事を捉え続けている。

背後へと回り込んでいた楯無は、勝機を見たりと言わんばかりに俺に蒼流旋を突き出してくるが、それは横合いから伸びた『腕』に阻まれる。

 

「なっ…!?」

「『スティーリア』…お前の天敵だ…良い授業になるぜ?」

「ちぃっ!!」

 

棺桶型のシールド・バインダー『ショウ・ケース』が解放され、蒼を基調とした西洋甲冑を身に着けたブロンドの見目麗しい女性が楯無を睨み付ける。

睨み付けると言う行為でさえ、彼女の顔を醜くすることは無い…むしろ神々しさが増すと言ったところか。

スティーリアが触れた蒼流旋の水の部分が、触れている部分を中心に一気に凍結する。

楯無は破壊されることを恐れ、蒼流旋の残った液体部分を凍結している部分と切り離して難を逃れていく。

その顔には驚愕が浮かんでいる。

 

「そんな…凍結しない様に常時振動させているのに!」

「ワリィな…こいつの名はスティーリア。クセェ二つ名を与えるなら『氷界の支配者』ってところか?」

「成程…ISバトルに大道芸を持ち込むなんて…!?」

「勝ちゃぁ良いのさ…ルールに反さず、堂々と戦ってるんだからな?」

 

バッと左手を振るえばスティーリアは空気中の…恐らく楯無がばら撒いていたであろう水分を圧縮凍結させて大ぶりの大剣『アイスブランド』を作り出し、雄々しく構える。

その姿は、北欧神話に出てくるワルキューレの様にも見える…ってか、それをモデルにしたんだけどな。

スティーリアは肩に担ぐようにして大剣を振りかぶり、空中を文字通り縦横無尽に駆け出す。

並行して、俺も瞬時加速を行い楯無の背後へと回り込む。

 

「チッ!けれど本体を先に…!!」

「強情だな…ったく!」

 

楯無は、未だ戦闘能力が低いと思っている俺の方に向いてガトリングガンで蜂の巣にしようとするが、いつから俺のドールが瞬時加速できないと錯覚してたんだかね?

スティーリアは楯無が俺の方を向いたと同時に瞬時加速と同等の踏み込みを見せ、背中からアイスブランドで横薙ぎに払いぬけて楯無の液体装甲…『アクア・ヴェール』を凍結粉砕していく。

ガトリングガンによる斉射により銃弾に晒されていた俺だが、銃弾はすべて俺に届く前にすべて溶解して蒸発していく。

 

「『フランマ』…さて、これで三対一だな…」

 

スティーリアが此方に寄り添う様に左側に立てば、右側には褐色肌で銀髪、榛色のベリーダンスの衣装を身に着けたドールが炎でできた

球体を次々と作り出していく。

球体は号令を今か今かと待ち受ける様にゆらゆらと揺れている。

 

「機体のクリスタルで液体制御やってんだろうが…果たして炎を鎮火させるに足る量が残ってるかだな」

「…それでも私はIS学園生徒会長…この名は何よりも重く、退くことは絶対に許されない!!」

 

楯無はいきなり霧纏の淑女のアクア・ヴェールを解除し、残ったすべての液体を攻性転換して一本の巨大な槍を作り上げる。

…ちと、拙いな。

 

「えぇ、認めましょう…まさか三機分の制御を行って平気な顔をしているんですもの。だけど、私は負けない。例えそれが教師であっても!」

「あぁそうかい!!」

 

フランマに炎でできた球体による遠距離攻撃を指示、更に自身は瞬時加速をかけてあえて真正面から突っ込む。

楯無は勝機と言わんばかりに槍を振りかぶり、思い切り俺に向かって投擲する。

 

「『ミストルテインの槍』!!」

「間に合ええええ!!!」

 

ミストルテインの槍…あれは見た限りじゃ防御に回してるエネルギーもごっそり攻撃用に転化して放つ一撃必殺の攻撃だ。

効果範囲は水の量に左右されるだろうが…少なくとも自身も諸共にする攻撃だろう。

自爆を眺めるのは趣味じゃねぇんだよ…だから!!

 

「ちょっ!!何を!!」

「馬鹿が…生徒怪我させる教師がどこに居るってんだよ?」

 

左手のエネルギー・ストリングスでスティーリアを思い切り放り投げて、楯無を安全圏まで離脱させつつ、即興でフランマに分厚い炎の壁を作らせてシールド・バインダーとフレキシブル・ウィング・スラスターを盾代わりに防御。

ミストルテインの槍が直撃して――

 

 

 

 

「んぁ…」

「起きたか、負け犬?」

「起き抜けにひでーな、おい…」

 

どうも気を失ってたらしく、気付いたら見慣れた寮の部屋だ。

…派手にぶっ壊されたのは覚えてる…そっから先が記憶にねぇ…。

 

「生徒会長はお前の教師としての器量は認めるそうだ。よかったなぁ、んん?」

「ったく、後先考えねぇでぶっ放すから、庇わざるを得ねぇだろうが…」

 

最後に感じた爆発の威力からして、受けてたら大怪我間違いなしだったのは楯無の方だっただろう。

ガキはガキらしく青春謳歌してりゃ良いのに、やたらとムキになりやがってよ…。

ともあれ、学園に居残りは決定したらしい。

 

「だっせぇなぁ…きちんと勝ってドヤ顏で勝ち誇ってやろうと…」

「ガキじゃないんだから止めろ」

「アッハイ」

 

千冬は青筋立てながら俺の冗談を真に受けて睨み付けてくる。

恐ぇ…なんつー眼光だよ…行動回数増やしてこっちを全滅に追い込んでくるアレみたいな怖さがある。

…軽口言えるだけまだ余裕があんな…。

ゆっくりと体を起こして背伸びをする。

外を見ると、すっかり暗くなってやがる…大分寝込んでたな…嫌いな珈琲で騙し騙しの眠け覚ましにしてたのが仇になったみてぇだ。

スティーリアとフランマの制作で、昨日からまた徹夜状態だったからな…。

 

「アモン、最後に出してたあの人形はなんだ?」

「簡単に言えば有線式のBT兵器だ。セシリアのブルー・ティアーズのよりも古い技術だな」

「…その割にはその線が見えなかったが?」

「ま、それは本体側の細工でな…」

 

アラクネのエネルギー・ストリングス…これを操り糸代わりにすることでエネルギー供給を行いつつ、無線式よりも円滑な操作を行わせた。

エネルギー供給に関しちゃ自前で何とかなるしな…今回のバトルじゃ裏ワザの補給は使ってねぇけど。

今後の事を少し話した後、千冬は挙動不審気味に立ち上がり玄関の扉にカギとチェーンを掛けてくる。

話の邪魔っつーか…あの話か…。

 

「…そ、それで…だな…」

「…あのな、俺は今此処にいるけど言ってしまえば浮浪者だし、秘密にしていることも沢山ある」

 

千冬は期待の眼差しで俺を見つめてくる。

そりゃ…食えたら食いたいし、な…けどよ、俺はこの世界の人存在じゃねぇ。

無責任な事はしたくねぇってのもある…だからかねぇ…慎重にもなっちまってるのは。

 

「そんなもの…誰しもが持っているものだろう?私は…お前が良いんだ」

「…後悔すんなよ?」

「後悔するくらいなら…あっ…」

 

俺は千冬の腕を掴んで身体を引き寄せ、深い口づけをしていく。

千冬は驚きに目を丸くしつつも、期待感に胸を膨らませてるみてぇだ。

生物ってーのは、命の危機が迫ると種の存続の為にムラっとするらしい。

楯無の最後の一撃…どうもアレで結構なスイッチが入ってるみてぇだ。

 

「す、すまない…電気は消してくれ…」

「夜目利くから関係ねぇけどな…」

 

電気を消せば、部屋に布の擦るような音が響き渡る。

まぁ、なんだ…

その…

夜明けまで滅茶苦茶した。

 

 

 

 

――――――――

 

「不愉快」

「まぁまぁ…会長、彼の実力も測れた訳ですし…」

 

楯無は夜遅くまで生徒会長室に残っていた。

理由は単純にして明快…自身の家である、暗部の『更識』家のネットワークを用いてここ数年におけるアモンの足跡を追っているのだ。

あそこまで巧みにISを動かされるとなると国家代表としての名も泣いてしまう。

相手はIS歴三日程のド素人なのだから。

 

「いえ…彼はまだ本気では無かったわ。あくまで、私を試すかの様だったもの。最後のアレは…ま、まぁ?感謝しないでもないし?」

「ツンデレですねお嬢様」

「ち、違うわよお!!」

 

楯無は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり必死に否定する。

そう、あんな男に…まさか助けられるとは思わなかった。

最後の一撃はドローに持ち込むための苦肉の策だった…にも関わらず、アモンはあの攻撃が何であるのか一瞬で看破してあまつさえ自身を人形を盾替わりに守ったのだ。

それがつまらない。

本当に楯無はつまらないのだ。

真剣勝負にそんな情けはいらなかったのだから。

楯無はゆっくりと深呼吸して椅子に座り直す。

 

「なんにせよ、彼の情報が欲しいわ…第二回モンド・グロッソの時に歴史の表舞台にひっそりと立ち始めた彼の情報が」

 

楯無は思案する…思案するが、時折ちらつくあの困ったような笑いが思考を乱し…連絡が来るその時まで考えるのを止めた。




アプリストス

アモン専用機。
漆黒に赤いラインの入った、正に悪魔と言った風貌の機体。
棺桶型大型シールド・バインダー『ショウ・ケース』には二体のBTドールが納められており、これらを自在に操ることで戦闘能力を十全に発揮する。

スティーリア

氷のBTドール。
腰まで届くブロンドに透き通った白い肌、瞳の色はエメラルドグリーン。
蒼を基調とした神々しい西洋甲冑を身に着けており、大気中の水分を圧縮凍結させることで氷による武器の精製や遠隔攻撃を得意としている。
なお…もっとエゲツナイ使用方法もあるらしい。
自動人形状態だと融通が利かない性格らしい。


フランマ

炎のBTドール。
ポニーテールにした銀髪が活発さを物語っている褐色娘。瞳の色は赤。
榛色のベリーダンスの衣装を身に纏っている。
アモンの作る人形の構造上、関節が表面に露出しいていないため非常に艶めかしい臍周りが特徴。
やっぱりと言うか自動人形時は活発且つ人懐っこい性格。


二体とも千冬よりは胸が小さい。




BTドール

公開されているBT兵器のデータを元に、アモンがアレンジしたもの。
有線式としたのは、あくまで枯れた技術を使用してますよーと言うアピールの為。
基本的にはアモンが作成した人形と同等の物体。
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