インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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人形遣いと愛する女

翌朝、っつーかなんつーか…一時間ばかしの仮眠をとった後に二人でモーニングティーを飲んで気持ちを切り替える。

公私はキチンと別にしねぇと示しがつかねぇからな…最初にそう言ったのは千冬だが、俺も同意見だったので素直に頷いた。

…葵ばーさんよ、次は下ネタ言わせねぇぞ。

ともあれ、一度職員室へと向かい今日必要な書類や教材をチェック。

そのまま職員会議に同席することになる。

 

「アモンさんは、もう体調はよろしいので?」

「あぁ、無駄に鍛えていませんから。国家代表とは言え生徒にも怪我が無かったようで」

「彼女もムキになってたのでしょう…では、今後もアモンさんは織斑先生と山田先生で面倒を見ていく方向で調整をお願いします」

 

教頭とにこやかに会話をし、怪我がないことをアピールする。

『ミストルテインの槍』…アクアクリスタルで制御する液体を全て攻撃に転用して射出する、一撃必殺の魔槍。

完全な状態であれば気化爆弾三個分に相当する威力を誇っている。

あの時スティーリアがある程度液体を凍結していなきゃ、庇っていたとしても怪我しちまってたかもしんねぇな…俺、グッジョブ。

生徒会長だ国家代表だっつったって、国際基準の成人にもなってねぇガキだ…医療技術が発達してるって言っても治療で貴重な青春の一ページが潰れっちまうのは教師としての俺の本位じゃねぇ…。

人間生きられて精々百年…その短い時間に悔いがあったら死ぬに死にきれねぇさ。

 

「分かりました」

「ミュラー先生なら、すぐに一人前になってしまいそうですけどね、あはは…」

「教頭…一組ばかりで面倒を見るのではなく、他のクラスの授業にも参加させて経験を積ませてはどうでしょうか?生徒たちも多少はやる気を出すでしょうし」

 

異議ありと言わんばかりに手を上げたのは四組の担任を務めている横井って奴だ。

…正直、苦手っちゃぁ苦手だ…舐めまわすような視線で見てくるからな。

千冬は、ほう…と頷き何やら思案している。

米神がピクピクと痙攣してらぁな…。

うん、触らぬ神に祟りなし…元神が言う台詞じゃねぇけど。

 

「現状は一組だけとします。共同授業に関しては、今後は二組と一緒に授業を行っていく方針で行きます。夏までに何もなければ整備教科担当教諭として頑張っていただきますので」

「分かりました。IS操縦よりもそちらの方が気楽で助かりますよ」

「……」

 

横井は教頭の言葉にスゴスゴと引き下がるしかなく、千冬は千冬でフフン、と鼻で笑っている。

公私ってなんなんだろうな…ともあれ、簡単な連絡事項の中に気になるものが一つだけ…。

 

「最後に…中国代表候補生が転入する事となりました。一年二組に編入させますので、担任の緒方先生はあとでプロフに目を通しておいてください」

「はいー了解ですー」

 

二組担当の緒方は、年齢とは裏腹に山田以上におっとりした性格の女性だ。

随分と間延びした感じで返事をしているが、仕事自体はやたらと早い…謎っちゃ謎の人物ではあるな。

中国ってーと、思い出すのはやっぱりあのチンチクリン。

元気にしてんのかねぇ?

SHR開始まで間も無いので千冬と山田の後を付いていく形で一緒に職員室を出る。

 

「あぁ、織斑先生…一組の代表の件なのですが、セシリアさんが辞退されました」

「ほう…あの性格なら天狗になると思ったが…腐っても代表候補生か」

「腐っては言い過ぎだろ…まぁ、トーシロの近接格闘機に追い詰められたのは事実だし…それになんだ…あいつはなぁ…」

 

俺が頭を軽く抱えて溜息をつくと、千冬と山田が揃って不思議そうな顔をする。

山田はともかく千冬が知らねぇってのは…あぁ、仕事が忙しくてあんまり接点無かったからかもな。

織斑 一夏は兎に角モテる。

黙ってればモデル向きの甘いマスクに家事万能、それなりに気遣いもできるとあってそれはそれは女子たちにモテていた。

実際今でも一夏にホの字の女生徒を見かけるくらいだしな。

だが、致命的なまでの欠点もある。

…ドストレートな告白でも、何故か曲解して自分が好意を持たれているとは思えない…否、思わない。

考えない様にしている節がある。

多分、織斑 一夏誘拐事件の負い目かなんかだろうな…自分がキチンと一人前になるまではそういう事を考えない様に無意識の内に縛ってると見た。

ともあれ、そんなだから泣かせた女は数知れず…一夏の友人から聞いた渾名が『朴念神』だ。

言い得て妙だよ…弾さんよぉ…。

 

「なんでもねぇ…とりま、クラス代表は一夏って事になるんかねぇ?」

「まぁ、そうなるな。最初のクラス代表対抗戦が面白いことになりそうだ」

「そうですねぇ…期待の男性に専用機!話題性に事欠かないですね!」

 

山田はニコヤカに笑いながら軽くガッツポーズをし、千冬は千冬で弟が良く言われて気分が良いのか僅かばかり笑みを浮かべている。

俺は…まぁ、不安を抱いてるっちゃ抱いてるわな…泣く羽目になる女子が増えるんじゃねぇかってな。

俺は教室の後ろの扉から入り、千冬達は前から入っていく。

一瞬セシリアと目が合ったとき、バツが悪そうな顔されたな。

…はっはーん、こいつ…俺に冷たく当たってた事を気にしてんのかねぇ?

まぁ、一先ずはSHRだな…俺は壁に背中を預ける様にして立ち、SHR開始を待つ。

 

「起立、礼!」

「「「「おはようございます!」」」」

「はい、おはようございます」

「着席!」

 

何とも学校らしい始まり方…いや、学校か…兎に角、SHRが始まり山田が連絡事項を話していく。

その間、時折本音とか一夏とか箒とかからチラチラと視線を感じる…良いからSHRに集中しろっつーに。

 

「さて、一組のクラス代表は織斑 一夏君に決定しました~。一繋がりで何だかいい感じですね!」

「いや、そいつぁどうなんだ…?」

「えぇ!?」

「ミュラー先生、突っ込みを入れるな」

 

一年一組一夏が代表で…まぁ、一ばかり出てるけどよ…軽い咳払いをして先を進める様に促すと、一夏が急に席から立ち上がる。

…やりたがらなかったもんなぁ…お前。

 

「や、山田せんせ!何でわたくしめが代表に!?」

「織斑くん、それはですねぇ…」

「わたくしが辞退したからですわ」

 

セシリアが席から立ち上がり、毅然としたポーズを取って笑みを浮かべている。

…南無三、まぁ頑張れよ乙女。

セシリアの男を見る目が確実に変わっている…変わったのは良いことなんだが、一夏を見る目は恋を自覚した乙女のそれだ。

箒は何かを察知したようで頭を抱えてしまっている。

そうだね、ライバルだね…頑張れ乙女共、俺は高みの見物とさせてもらうわな。

こういう色恋沙汰ってぇのは巻き込まれなきゃ良い酒の肴になるもんだからな。

…悪魔なんでね?

 

 

「確かに…あなたはわたくしに負けましたが、ド素人でありながらわたくしを追い詰めたその手腕…代表になり真面目に磨けばきっと光るものになると思いますの」

「おっセシリアも分かるようになってきた感じ~?」

「一夏君かっこよかったしね~!」

 

女子たちが一斉に一夏を代表へと担ぎ上げる為に一致団結しはじめる。

こういう時の女ってーのは団結力パネェからな…もう諦めて…涙拭けよ、一夏…。

 

「それに、大人げなく怒鳴ってしまったことも反省しまして…この場を借りて皆さんに謝罪させていただきますわ」

「え~、別にいいよ~」

「これからセシリアの事教えてもらえばいいしね」

「み、認められるか…こんな現実!?」

 

一夏は倒れ込むように席に座り込み、頭から煙を吹きだしている。

一夏よぅ…こんな学園じゃ目立つなって方が無理ってもんだろ…。

セシリアはそんな一夏の惨状に気付くこともなく、得意がるように話していく。

 

「それでですね、一夏さんの更なるベースアップの為にも適正ランクAであるこのわたくしが、一夏さんのコーチを…」

「一夏の指導は私が請け負っている。一夏から頼まれてな!」

 

箒はこれで負けるわけにはいかないとばかりに立ち上がり、毅然とした態度でセシリアを真っ向から睨み付ける。

修羅場だな…。

一夏ってアレなんじゃねぇか…二つ名が輝く顏の英雄の生まれ変わりなんじゃねぇか?

セシリアも怯むことはなく、真っ向から視線を受け止め、それでも自身の優勢は揺らがないと言わんばかりだ。

IS適正ランクってのは、如何にISをスムーズに動かせるかっつー指針だ。

D~Sまであって、Dは起動こそするもののマトモに動くことはねぇ。

Sランクは千冬も含めて世界で数人しかいない希少なレベルだ…今、IS関連の仕事に就いている連中は大体がB+~Aって言ったところだ。

この適正ランクは訓練によって変動するから、この学園においてはただの目安でしかない。

つまり、ランク如きで指導できる訳じゃねぇってこったな。

 

「ランクCの篠ノ之さんはISは上手く無いのでしょう?で、あればランクAであるわたく…!!!!」

「うあ!!!」

「ランクごときで騒ぐな、貴様らは揃いも揃ってただの卵でしかないんだからな」

「上手く動くかどうかの指針ってだけだ。誰だってマニュアルがあれば、得手不得手は別にしてTVゲームが

できんだろ?そりゃ、オルコットは代表候補だから戦術理論(メソッド)にゃ明るいだろうがな」

 

千冬が鞭で俺が飴の役割だな…こりゃ。

千冬はかなりのスパルタ派だ。

恐らくドイツの教官の時の経験を活かしてんだろ…だが、こいつらはガキだ。

多少のフォローはしてやらないとな?

 

「で、IS適正ってのは訓練によって上がることもある。もしかしたら篠ノ之がガチで鍛えれば、オルコットの適正を超えることもあるかもしれねぇんだ。だから、適正で優劣は考えんな。そんで、皆で一緒に卵の殻破って世界最強(千冬)の度胆を抜いてやろうぜ?」

「あもあもせんせーかっこい~!」

「あも…本音よぅ…かっこつけてんだからよぅ…」

 

がっくりと肩を落とすと、クラス中からクスクスとした声が聞こえてくるものの小馬鹿にした感じはねぇ。

多少は認めて、俺が今言ったことを理解してくれたんかねぇ?

 

「ミュラー先生の言うとおりだ。精々私を驚かせるだけの事をしてみせるんだな」

「はい、お話もいい感じでまとまりましたね。では、織斑君クラス代表頑張ってくださいね~」

 

まぁ、何とか話も纏まったところでSHR終了のチャイムが鳴る。

今日は一日クラスに引っ付いて授業を見学…あとは補助だな。

頑張るとしますかねー?

 

 

 

 

 

「しっかし、派手に壊れたな…本体は自動修復じゃ間に合わねぇな」

 

昼休み、少ない時間を利用してパーツ交換を行おうと整備室へとやってきた俺は、ハンガーに鎮座しているアプリストスを眺めてため息をつく。

あの時の最後の悪あがき…あの一撃は軽く見積もっても気化爆弾二個分の破壊力だ。

おかげで、アプリストスの装甲はあちらこちらがひび割れて砕け散っている。

幸い、ショウケースは阿呆みたいに頑丈に作っていたお蔭で目立った損傷は見られない。

問題とすべきはBTドールの方だろう。

此方はほぼ全損に近い…パーツがある程度残っているのが奇跡に近い。

BTドールは基本的には俺の使うドールと変わらない。

俺のドールは人間に極めて近い構造をしていることもあって、壊れるときはあっさり壊れちまう。

まぁ、壊れない様に動かすのが俺の腕の見せ所ってぇもんなんだが…。

 

「修復ついでに新しい機能を仕込んでおくか…」

 

トランクに手を突っ込んでBTドール用のパーツと工具を取り出し、修復作業に入る。

三十分で出来る事を考えると、フランマから修復した方が楽だな。

鎧着てねぇし…焔の踊り子ってイメージで作ってたからなぁ…楯無が言ったように趣味的すぎる。

 

「いた…アモン、機体の状況は?」

「千冬か…まぁ、見たまんまだな。メイン武装なんざ全損だぞ全損。本当だったら億単位で修理費請求すんぞ」

「世界一高価な武装だな…お前のは」

「そういった意味でも『強欲者』だな」

 

強欲…アモンの名を冠する悪魔が司るとされる七つの大罪の一つ。

…まぁ、確かに俺はそれだけの罪を犯しただろう。

だからこそ、神の座から転げおちて悪魔になってんだろうが。

 

「…傍に居てもいいだろう?」

「公私はどうしたよ?」

「知ってるか?休憩中は業務時間じゃないんだ」

「随分とまぁ…都合の良いこって」

 

床に胡坐をかいて座りながら作業をしていると、千冬は背中合わせで俺の後ろに座り寄りかかってくる。

温かいもんだねぇ…人の温もりってぇのは。

BTドールの駆動部の動きを逐次確認しながら、換装できるパーツは換装していく。

予備パーツ込みで作ってなきゃ途方に暮れてたな。

 

「スーツ、汚れんぞ?」

「些細なものだろう…黒だしな。そういうお前だってスーツで座っているではないか」

「俺は大ざっぱだから良いのさ」

「そういうのは狡いだろう…?」

「悪魔なんでね…なんでも小狡くなんのさ」

 

忍び笑いを漏らしながら一息ついて、フランマの胴体を優しく撫でる。

娘みたいなもんだからな…これから色々と酷使していく事になるが頑張ってもらわにゃ。

 

「…アモン、すまなかったな」

「SHRか?構いやしねぇよ…お前はお前らしく指導していきゃ良いし、俺が面倒見れそうな奴は俺がキチンとフォローしてやっからよ」

「お前は…悪魔だなんだと言う割には随分と優しいんだな」

「そりゃ…惚れた女だからな」

 

少しだけ、背中に体重をかけて互いに支え合う様にする。

別に、誰でも良いわけじゃねえ…。

俺を心底惚れてくれるってんなら、俺はそんな千冬に惚れて愛してやるだけだ。

照れてしまったのか、千冬はそれ以降黙り込んでしまう。

背中に暖かい温もりと重みを感じながら、整備室には無機質な音が響き続けた。

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