インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
廃墟と化した礼拝堂の扉を開けて、警戒しつつもややお気楽な気持ちで廊下を歩いていく。
いやー…だってよ、こっちには魔法も呪術も無いからな…理不尽さが無いのが気楽で良いや。
地下倉庫に繋がる階段の扉が開け放しになっているのが見える…恐らくあそこに連れ込まれてるな。
階段を一段一段降りて行くと扉を乱暴に叩く音が聞こえてくる。
おおう…中々ガッツのある奴が浚われたみてぇだな…結構結構。
泣き喚かれるよりかは好印象だぜ。
俺は口角を上げながら煙草を咥えて火を点ける。
紫煙をくゆらせ、少しだけ一息つく…息つく暇も無かったし、暴漢どもは皆あの世に旅立ってるしな。
『だせよ!!ここからだせっていってるだろ!!』
「応、元気なこって…ぶち破ってやっから扉から離れてろ」
フィルター近くまで吸い切り、携帯灰皿に捨てる。
喫煙するなら多少のルールは守んなきゃな。
乱暴に叩かれていた扉は重い金属製の扉だった…まぁ、俺に取っちゃ紙みてぇなもんだが。
俺が声をかけるとぴたりと叩く音が消え、代わりに困惑した声が聞こえてくる。
『だ、だれだよ…あいつらの仲間じゃないのか!?』
「んなわきゃねぇだろ…怪我したくなきゃ離れてな」
『わ、わかった』
扉の近くから人間の気配が消えたのを感じ、扉に足を乱暴に叩き付けると扉が思いきり凹む。
お…廃墟だから簡単に蹴破れると思ったが間違いだったか…ま、いいや。
「オラァッ!」
気合を入れなおし、喧嘩キックで思い切り扉を蹴破ると蝶番ごと外れて地下倉庫内の壁に激突する。
根性たりねぇなぁ…ったく。
「す、すげぇ…」
「んだよ…誘拐されたの野郎じゃねぇか」
「わ、わるかったな!野郎で!!」
地下倉庫内は電気が通っていたようで、明かりが点いていた。
誘拐された人物は…年齢にして十三、四って所か…中々顔の整った少年だ。
こりゃ、女が放っておかねぇだろうなぁ…。
「冗談だよ、そんだけ怒れればまだまだ元気あんな、坊主?」
「坊主じゃない、織斑 一夏って名前がある!」
「そうかい、俺はアモンだ。坊主、吐きたくなきゃ目ぇ瞑って運ばれな」
俺は一夏ってガキをからかう様にして警告する。
坊主って言葉に反感と、警告に訝しがるような顔になる。
「なんでだよ…もう此処から出るだけじゃないのかよ、おっさん」
「おっさんじゃなくてお兄さんって呼ぶとポイント高ぇぞ?っと、冗談はここまでにして…人間の死体なんざ見たくねぇだろ?」
「っ!!…こ、殺したのか?」
「正当防衛ってな…。はっ、怖がれ怖がれ…そいつぁ正常な人間の反応だ」
青ざめた顔になった一夏の頭をワシワシと撫でてやる。
少ししか歩いていねぇけど、この世界にゃ死が蔓延しているわけじゃねぇ…命のやり取りは遠い世界の事の様に街には笑顔が溢れている。
日常が平和な世の中じゃ、殺し合いなんか早々起きねぇ…良い世界じゃねぇか。
「お…おっさ…いや、アモ、ンは…殺人鬼なのか?」
「どうだかねぇ…お前がそう思うんならそうなんだろ?」
否定はしねぇ…殺人鬼っちゃぁ殺人鬼だ。
奪うことに躊躇しねぇからな。
「…そう言う風には見えない」
「てめぇも大概馬鹿正直な人間だな…見た目に惑わされんなよ。まぁ、良いや…乗れ」
俺は一夏に背中を向けてしゃがみ込む。
おんぶして運んだほうが何かと楽だしな。
一夏は恐る恐ると言った感じで俺の背中に乗り目を閉じる。
「さって出るか…」
「アモン…このコート…日干しした布団の匂いがするな」
「大事な一張羅だから汚すんじゃねーぞ」
「汚さないよ!!」
軽口で声をかけ、俺は笑い声を上げる。
非日常の中の日常的な空気…それがありゃガキは安心するもん…だと思う。
仕事道具のトランクとガキ一人…手が塞がるが問題ねぇな…。
来た道を戻り、礼拝堂から距離を開けて一夏を降ろす。
「応、もう目ぇ開けてもいいぞ?」
「う…そ、外だ…あ、あぁ!そうだ!!千冬姉に連絡しなきゃ!!アモン!携帯持ってない!?」
「旅人がそんなもん持ってるかよ…俺ぁ根無し草なんだぜ?」
一夏は思い出したかのようにオロオロとうろたえて右往左往している。
どうやら千冬って奴に連絡をどうしても取りたいらしい…とは言え今の俺達に連絡取る手段なんざ、街に戻る以外ないんだけどな?
「ちょっと目を放した隙に部外者に奪還されるなんて…期待してなかったけど、使えない男達ね」
「だ、だれだよ!?」
二人して途方にくれていると、上からIS…後でラファールって名前の機体だと知った…を纏った金髪の女が現れる。
バイザーで顔を隠してるので口元だけでしか判断できねぇが、ありゃ充分に美人の類だな。
しっかしあれだな…モンド・グロッソの出場者も美人だったが、こいつもやたらと美人だな。
IS使ってる奴らの資格に美人美男子ってのが含まれてんのかね?
「貴方を誘拐したグループのリーダーよ、織斑君?」
「俺を誘拐してどうするつもりだったんだよ!?」
「あら、お子様の頭でもすぐわかるでしょ?ブリュンヒルデになられたら困る人がいることくらい」
ブリュンヒルデ…あぁチフユってのは千冬で、こいつの姉貴なのか!
んで、千冬が優勝しちゃ困るから弟人質にとって辞退させようと…なんつーか…。
「随分とつまんねー仕事してんな、姉ちゃんよ」
「あら、仕事に貴賎も何もないわよ。ただ与えられたことを粛々と遂行することが社会の歯車の役目だもの」
「ご愁傷さん。で、帰っていいか?」
ずっと上を向いてるんで首が痛くなってくるな…眼福っちゃ、眼福なアングルなんだが。
金髪の女はクスリと笑う。
「目的は達成されたけど、まだ此処に居てもらわなくては困るわ…」
「達成…そんな…千冬姉…」
金髪の女は意地の悪い笑みを浮かべて一夏を見つめる。
性根が腐ってんな…。
どうやら千冬は名誉より家族を取ったらしいな…中々好感が持てる女傑じゃねぇか。
俺はしゃがみ込んで一夏の目線に合わせて見つめる。
「応、一夏…そう気を落とすんじゃねぇよ。テメェも姉貴も生きてんだ…次のモンド・グロッソに出場して優勝すりゃ良いだけの話じゃねぇかよ」
「そうだけど…そうだけどさぁっ!」
「っせーなぁ、男がガタガタ言ってんじゃねぇよ」
俺は一夏の脳天に拳骨を落として睨みつける。
しょうがねぇガキだな…ったく。
「いっ!!なにすんだよ!?」
「くよくよしてんじゃねぇよ…男だったらドンと構えてろ」
「私を無視しないでくれるかしら?」
何もしてこないんでウッカリしてたな…女の事をすっかり忘れてた。
女は頬をひくつかせて俺を睨んでいる。
どうやら逆鱗に触れちまったようだな…。
「坊やの織斑君は良いけど、貴方は此処で死んでもらうわ…落とし前をつけてもらわなきゃならないから」
「あぁ、そうかい。やれるもんならやってみな、お嬢さん」
「あ、アモン!向こうはIS使ってるんだぞ!?勝てるわけが無い!!」
「やってみなきゃわかんねぇ…出来るか出来ないかじゃなくてやるのが男ってもんだぜ」
俺は不敵に笑みを浮かべてトランクを乱暴に地面に放り投げる。
衝撃でトランクが開いて中から緋の人形『スカーレット』が刃渡り二メートルもある大太刀を持って出てくる。
「あら…そんなお人形で私と張り合うつもり?」
「応、一夏…お前ちょっとひとっ走り街まで行ってこいや」
「だ、大丈夫なのかよ…!?」
「いいから行けって」
「無視するなって言ったわよ!?」
金髪の女は堪忍袋の緒が切れたのか、その手に恐らくIS用のアサルトライフルを持ち俺目掛けて銃撃してくる。
だが、銃みたいに真っ直ぐ弾が飛んでくるものは銃口から軌道が読みやすい…。
スカーレットが俺と金髪の女の間に割って入り、発射された銃弾の全てを大太刀で切り払う。
「なっ…!?」
「うそ、だろ…?」
「あの程度の玩具ならあしらえんだよ…良いから街行って姉ちゃんに無事伝えて来い」
「わ、わ、わかった!!」
一夏は目の前で起きたことが信じられないのか呆けた顔になるが、頭を振ると街に向かって走り出す。
割と鍛えてんのか中々の健脚だ…あの分なら何とか逃げきれんだろ。
さってと…。
「あ、ISだとでも言うの!?」
「んなわきゃねぇだろ。ただの人形だよ…俺お手製のな。それで、俺をぶっ殺してぇらしいが…来るならマジでかからねぇとスカーレットすら破壊できねぇぞ?」
「ちっ…馬鹿にして!!」
女はアサルトライフルのマガジンをリロードしながら、いきなり目の前から姿を消す。
中々速ぇな…だけどよ…。
「もらった!!」
「殺気が駄々漏れで、居場所が丸分かりだぜ?」
どうもIS特有の高速移動を使ったらしい…金髪の女は俺の背後を取り勝ち誇ったかのようにしているが、既にスカーレットが先回りして大太刀を振り、アサルトライフルを両断し、返す刀で逆袈裟で女を斬り払う。
確かな手応えを感じ、女は弾き飛ばされる。
しかし、刀には一滴たりとも血が付いていない…どういうこった!?
「がはっ!!たった一撃で絶対防御が!?…なんなのよ、あの人形!!」
「絶対防御?…面倒な障壁が張ってあるみてぇだな…」
スカーレットの武装には対術用の備えは付けてねぇ…生身剥き出しの鎧だから充分かとも思ったがそうでも無ぇみたいだな…。
だが、衝撃が通るってのは今の一撃で分かったし、時間がかかるがこのまま押し込むか。
「っ…男だからと侮っていない…なのに!!」
「格が違うからな…まぁ、なんだ…逃げんなら追わねぇよ?」
「舐めないで!!」
金髪の女は再び高速移動で真っ直ぐに突っ込んでくる。
手には壊れたライフルの代わりに長剣が握られている。
すれ違い様にぶった切る算段みてぇだな。
だが、それもまたスカーレットによって防がれることになる。
ガキンッと金属と金属がぶつかり合う音が廃墟前の広い敷地に響き渡る。
「はああああ!!」
「ガッツがある女は嫌いじゃないぜ?だけどよ…それだけじゃ届かねぇもんもあるのさ」
スカーレットはISの長剣を受け止めて、鍔迫り合いに持ち込み微動だにしない。
金髪の女はこの異常事態に焦りと恐怖を感じているのか汗でじっとりと体を濡らしている。
諦めてくれねぇもんかね?と思った瞬間、相手はバックブーストをかけて一気に後退する。
漸く諦めたか…。
「っ…了解…貴方…アモンとか言ったわね?」
「応…それがどうしたよ?」
「いずれ、この雪辱を果たすわ…私の専用機でもって」
「来んな、来んな…俺は争いごとは嫌いなのさ」
しっし、と獣を追い払うように手を振ると女は布の様な物を取り出して全身を覆うと姿を消す。
あーっとあれは確か…光学迷彩って言うやつだったか?
科学ばっか発達した世界なんだな…此処は…。
乱れたスカーレットの髪の毛を手櫛で優しく梳きなおしトランクの中にしまう。
生半可な事じゃ、ここじゃ怪我もしないで済みそうだな…ゆっくりと懐から煙草を取り出し咥えようとすると、街のある方角から数台の車とISを纏った女が現れる。
あれは…確か日の丸マークん所の…一夏の姉貴か!?
「無事を伝えろって言ったけど、援軍呼べとは言ってねぇぞ…坊主…」
煙草をゆっくりと咥えて頭をガシガシとかく。
こいつぁ、面倒臭ぇことになったな…尋問ショーが始まるんじゃねぇか?
ISを纏った女…千冬が先行して俺の元へと向かってくる。
「怪我は無いか!?」
「おーう、ピンピンしてらぁ」
俺はひらひらと手を振りながら煙を吐き出し、質問に答える。
この千冬っての…スカーレットだけじゃ止まんねぇな…確信を持って強いって言える。
ビビッて弟誘拐するってのも納得もんだぜ。
千冬は俺の近くに着地し、ISを解除して歩み寄ってくる。
「誘拐犯はどうした?」
「俺があんまり強いんで逃げちまったよ。それよか一夏の坊主はどうした?」
「愚弟が世話になった…本当にありがとう」
千冬は一夏の名を聞くと顔を綻ばせて頭を深々と下げる。
…いい姉ちゃん持ってるじゃねぇか…坊主。
俺は笑みを浮かべながら、千冬の肩を軽く叩き頭を上げさせる。
「通りがかったってだけでな、偶々だ偶々。礼を言われるようなもんじゃねぇよ」
「む、だがたった一人の家族を救ってくれたんだ…何か礼をしたいんだが…」
「したらよ…あの怖いお兄さん方に口裏合わせてくんね?」
手合わせして分かったんだが、ISってのはまず普通の人間じゃ太刀打ちできねぇ…もし太刀打ちすんならゲリラ戦でも仕掛けねぇと無理だろう。
だが、俺だと勝てる…勝てちまう。
そうなると俺の身柄ってのが危うくなるからな…ISに乗った奴が襲ってきた事を内密にしてもらうことにする。
「俄かには信じられんが…そんなことで良いのか?」
「施設に閉じ込められんのはゴメンなんでね。頼むわ」
「…わかった、口裏は合わせておく」
千冬は顔を引き締め、真面目な表情で頷く。
堅物だねぇ…良い女だ。
「だが、事件に関わった重要参考人としてドイツ軍に出頭してもらうことになる…それは了承してくれ」
「あいよ…まぁ、ソレ位ならな」
俺は小さく頷いて足元に置いてあるトランクを肩に担ぐ。
さぁって…暫く軍施設に厄介になる形になりそうだな…。
まぁ、タダで泊まれる事になるだろうし不満はねぇけどな。
「あぁ、一夏から名前は聞いているんだが…聞いてもいいか?」
「アモン・ミュラーだ」
「アモン、か…知ってるだろうが織斑 千冬だ。改めて弟を救ってくれて感謝する」
千冬が俺に手を差し出してくる。
その手をがっちりと掴んで握手をする…なんか凄まじい力で絞められてんだが。
俺が涼しい顔をしていると、何かを納得したのか千冬は手を離して微笑む。
「いずれ、貴様とは手合わせしたいものだ…アモン」
「お手柔らかに頼むわ…」
こいつ…根っからの戦闘狂じゃあるめぇな…俺は一抹の不安を抱きつつも綺麗に微笑む女を見つめるのだった。
緋人形『スカーレット』
身長170センチ
腰まで伸びる銀髪に金の瞳をした見目麗しい女性型の戦闘人形
身を包む緋色の着物は生地の染色と絵付けをロボ(狼牙)が行っていたりする。