インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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人形遣いの甘い夜

鈴と別れてから校内の見回りを済まして寮へと戻った俺は、私服に着替えて屋上で軽いトレーニングを行っている。

今、一階のレクリエーション・ルームじゃ大騒ぎの乱痴気騒ぎってところだろう。

一夏がクラス代表になったんで、それにかこつけてばか騒ぎしようって言うパーティをやってるからな。

大人は参加せずにガキ共で楽しんでりゃ良いわな。

高い柵に手をかけて懸垂を何度も行っていく。

帰ってきてから一時間ばかし体を動かしてるから、もう汗だくも良い所だ。

 

「ふひー…どうも筋トレってのは苦手だな」

「大した肉体をしているくせに良く言うな」

 

気付いちゃいたんだが、千冬は屋上の入り口に立って俺の事をずっと見守っていた。

手を止めるのも嫌なんで、ちっとばかし無視をしてたんだが…まぁ、相手しないわけにもいかねぇだろ。

 

「下のガキどもはいいのか?」

「寮内だからな…消灯時間さえ守れば、其処まで強く言う必要もないだろう」

 

千冬は何時かの時とは違って、一升瓶とグラスを二つ持ってきている。

二人っきりで飲もうって腹か…まぁ、寮長室に誰か訪ねて来る可能性も無きにしも非ずだが…。

何とも悪い大人だねぇ…。

 

「付き合え…ダメか?」

「別嬪に誘われて断るようじゃ、男が廃らぁな」

 

ベンチに腰掛けながらタオルで汗を拭う。

桜が散ったとは言え、まだまだ春…日が沈めばヒンヤリとした風が心地よく流れてくる。

洋上に建設されているIS学園はその風に若干の潮の香りも混ざっている。

夏場はちっとばかし、キツくなりそうだな。

千冬は俺の隣に座り、間にグラスを置いて酒を注いでいく。

美人の酌ってぇのは酒を美味くする…風情ってのがあるからかね?

まぁ、互いにジャージ姿で風情もクソもねぇけどな!

 

「ん…良い酒だな…」

「秘蔵品だ、有難く飲め」

 

千冬はニヤリと笑みを浮かべて酒を飲む。

だが、いつものハイペースとは違ってユックリとした飲み方だな…。

所謂希少品ってやつか…俺と飲むためだけに開けてくれたんなら嬉しいってもんだ。

一口酒を飲めば、日本酒特有の香りと言うよりも…なんつーか…少しばかり甘い香りがする。

気を付けて飲まなきゃグイグイやっちまいそうだな。

 

「ふー…火照った体に良いもんだ…」

「そうだろう、そうだろう…ところでアモン…本当に身体は平気なのか?」

「平気じゃなきゃあの時、千冬の事抱いてねぇよ。言ったろ、頑丈だってな」

「それは…そうなんだが…」

 

千冬はプライベート…それも心を許しているとあってか、随分と優しい顔つきで俺を見てくる。

気絶して目を覚ましてから、病院の世話になってねぇからな。

…普通の人間じゃ検査するところなんだろうが、生憎と身体の出来が違う上に桜花からのサポートもある。

よっぽどの事が起きねぇ限り、目立った怪我なんざしねぇさ。

いや、できねぇ…だな。

俺にとって無茶じゃないことは、普通の奴らにゃ無茶だ。

そんな事ばっかやってりゃ、馬鹿でも心配するだろ…。

 

「気持ちはありがてぇし、俺だって気を付けらぁな」

「なら…ならば良い。くれぐれも怪我をしてくれるなよ?」

「あいよ。それよか、まさか、鈴が学園に転がり込んでくるとは思わなかったぜ」

 

屋上で会った時のあの飛び蹴り…中々鋭い蹴りだったな。

血反吐吐くレベルで努力して必死に上り詰めたんだろ…。

原動力がなんであれ、そりゃ凄いと言うべきだろ。

なんせ、中国の人口は世界の凡そ二十%だ…そんな中で一握りの人間になれる…天才の類だろ。

 

「お前に弟子入りしていたのだったな…今でもお前が居なくなった時の事を覚えている」

「妙に懐かれちまったもんだよ…」

 

一夏曰く激怒してたっつーし、実際ぶち切れられたしな…直ぐに機嫌直したから良かったけどな。

直情型ってぇのは意外と舵が利きにくいんだよなぁ…敵対してて煽る時は楽なんだが。

あ、そういや…。

 

「鈴に一夏の話をしたんだが、微妙な顔されたんだよ。千冬…何か心当たりあっか?」

「鈴が…?いや、まぁ…愚弟なのは確かだし、うっかり口を滑らせて幻滅させた可能性も否定は…」

「姉貴なんだから、ちったぁ一夏を立ててやったらどうよ?」

「いや、しかしなぁ…」

 

どうも千冬は素直に一夏を褒める事ができねぇでいる。

まぁ、俺も知る限りじゃ一夏女性問題は褒められたもんじゃねぇとは思ってるけどよ…。

に、したってなぁ…。

いっつも鈴は一夏にひっついていたし、俺に料理を習っていたのも一夏に喜んでもらう為だった。

当時のあいつの飯は美味くも無ければ不味くもない…なんつーか味気無さ優先で微妙な感じだったからな。

 

「まぁ、原因分かんねぇならそれで良いや…気ぃ回しても仕方がねぇ問題だろうしな」

「そうだな…色恋沙汰は当人同士でどうにかすべき問題だ…大人がどうこう言うものでもないだろう」

 

肝心の一夏は色恋沙汰とは思ってねぇだろうから、意識的な齟齬で話が拗れに拗れて修羅場に発展するだろうが…まぁ、それはそれで俺が面白いんで構わねぇ。

出血沙汰になる様なら流石に止めるが、セシリアにしろ箒にしろそこら辺は弁えてんだろ…今まで暴力事件起こしてねぇからな。

ともあれ、今は千冬との酒に集中するとしますかね?

 

「アモンは…昔は居たのか?」

 

好いた奴の昔話…まぁ、誰だって聞きたくなるわな。

特に俺みたいにこの世界じゃ過去が朧げな存在なら尚更だろうよ。

 

「そら居るだろ…生憎と年齢イコールじゃねぇからな」

「聞かせてもらっても良いか?」

「死人の話になる…酒が不味くならぁな」

「っ…すまん」

 

昔の女…泣き虫の癖に強がって俺についてきてたアイツ。

桜花と俺が見捨てたアイツ。

事実は覆らねぇし、死人は蘇らねぇ…前見て歩くしかねぇ…人も、悪魔も…そして神ですらもな。

俺は千冬の肩を抱き寄せて頭をわしわしと撫でてやる。

 

「気にすんなよ…俺の事知りてぇって思ってくれんのは嬉しいし、居ねぇ奴に遠慮したって仕方がねぇ」

「…随分ドライな物言いなんだな」

「そういう冷てぇ部分も俺だ…幻滅したかい?」

 

くしゃくしゃになった髪の毛を、手で梳いて優しく整えてやる。

頭は大切な部分で髪の毛は女の命…俺に委ねてくれてるってのはそういう事なんだろうが…生憎と俺は強欲者。

口にしてくれなきゃ分かってやれねぇ我儘な時があんのさ。

 

「誰しもが持つものだ…私はそう言ったところも含めて…っ…す、好きだ…ぞ?」

「そうかい…そいつぁ良かった…俺も好きだぜ。…いや、愛してるって言ってやった方が良いか?」

 

…ったく、遥かに年下相手だっつーのに一喜一憂しちまってるのがなんとも…。

ガチでいつの間にか惚れちまってるんだろうさ。

頬を赤らめ視線を逸らしながら言われる言葉ってのは中々破壊力があるもんだ。

 

「っく…!からかってるのか!?」

「応、そうかもな…なんたって悪魔だ…愛する女くらい、からかいたくもなるってもんだ…」

「っん…ふ…」

 

逃げられない様に片手を繋いで、残った手で頭を抱きかかえるようにしてキスをする。

舌を絡ませ、千冬の中を蹂躙するようなディープ・キスをしていく…一緒に飲んでいた酒の香りがするな。

ゆっくりと顔を離せば、名残惜しそうに唾液が糸を引いてぷつりと切れる。

 

「あ、アモン…」

「そう言う千冬の顏も…もちろん、仕事中の顏も…愛してるぜ…?」

 

今度は優しくキスを繰り返し、何度も愛を囁いていく。

誰にも渡さねぇ…この女は俺だけのものだって主張するように。

千冬も千冬で俺に縋りつくように抱き付き、どこかキスを強請るかのように見つめてくる。

俺は屋上に人払いの(まじな)いをかけ―――

 

 

 

「フフフ…」

「随分とまぁ…幸せそうに寝るもんだな」

 

あれから千冬は疲れきっちまったのかぐっすりと眠り込んじまった。

酒も飲んでたし、今月は決闘騒ぎに専用機の登録申請…更に上級生達の面倒にと千冬は目まぐるしいくらいに仕事をしていた。

肉体的に疲れが取れてても、精神的には参っちまうだろ。

…風邪をひかない様に衣服を整えて千冬をおぶさりつつ、指先でグラス二つと一升瓶を持って階段を下りていく。

時刻にして午後十一時を過ぎている…とっととベッドに寝かせて見回りしねぇとな。

何とか物音立てずに部屋に戻った俺は千冬をベッドに寝かしつけ、その足で見回りに出ようとするが千冬はジャージの裾を掴んで離そうとしねぇ。

 

「アモン…どこに行く…?」

「寮内の見回りだ…すぐに戻ってくっから離せよ…」

「一服は…」

「しねぇよ…」

「…わかった」

 

千冬は抱くと随分と可愛らしくなる。

一夏は千冬の事を狼だなんだと例えていたが、こりゃ本質は子猫だな…。

…俺の前でだけって思うと、スゲェ優越感なんだが。

ともあれ、解放された俺は再び屋上まで上がって出入り口の戸締りを行い確認を終わらせ、順繰りに寮の見回りを行っていく。

…一年生が多く泊まっている一階まで降りてくると、自販機の前で鈴が佇んでいた。

良い子は寝る時間なんだがな…。

 

「おう、良い子は寝る時間だぜ?」

「うきゃ!な、なんだ…シショーか…」

「なんだじゃねーよ…寝れねぇのか?」

 

就寝前で髪の毛を下ろしている鈴ってのも…なんつーか、変な感じだな。

いっつもツインテだったし。

鈴は静かに頷いて苦笑する。

 

「今日来たばっかで疲れてる所為かハイになっちゃって…そだ…シショー、ちょっとだけ…付き合ってくれる?」

「…ちょっとだけだぞ?」

「うん、ありがと…シショー」

 

一先ず立ち話も何なんで、談話室まで足を運び椅子に座る。

鈴は対面に座り、ふぅ…と息をついた。

 

「なんだか、必死に頑張ってきて担当官の目からも離れる事ができたから気が抜けたのかも。まさか、シショーが寮長…千冬さんと暮らしてたなんて思わなかったわ」

「千冬のごり押しの賜物だな…。…寝れねぇのは嫌な夢でも見たからかね?」

「シショーはお見通しかぁ…」

「いつも言ってるだろ…悪魔だからな」

 

ニッと笑みを浮かべてやると、少しだけ強張っていた鈴の顏が元に戻る。

殆ど知人が居ない中で環境の変わる寮生活ってのはホームシックも起こすからな…まぁ、鈴にとっちゃ日本は第二の故郷と言っても良いんだろうけどな。

故郷があるってのは…まぁ、羨ましいもんだ。

 

「お父さんとお母さんが別れる時の喧嘩を思い出しちゃってさ…一夏から聞いてるかもだけど、両親…離婚して、私はお母さんと一緒に中国に渡ったの」

「お袋さんについたのも、世情を反映してんなぁ…」

「そうね…家族って…子供が産まれても…難しいのかな?」

 

若ぇ時分での両親の離婚ってのは、自立できてねぇ子供にゃ酷な事件だ。

屋上で出会ったときは、元気で明るい鈴だったが…今は、思い悩んでるどこにでもいるガキんちょと同じだ。

鈴が悪いわけじゃねぇ…結婚して子供がいたって男と女は相容れねぇ時がある。

偶々…本当に偶々それが許容できなくて、修復できなかったんだろう。

 

「鈴…あんまり気負うんじゃねぇよ。お前が悪いわけじゃねぇ…」

「そうかな…私の親権を巡る時も…お父さんとお母さん凄い喧嘩になってたから…」

「お前を愛してるから、離れたくねぇからっそうやって喧嘩してただけだ。鈴…お前は親父さんとお袋さんからしっかり愛されてる」

 

俺が鈴にそうやって声をかけてやると、鈴は俯いて大粒の涙を流しながら嗚咽を漏らす。

こいつの事だ…親の前でも絶対泣かないって意地張って…んで、今まで泣くのを我慢して…あぁ、そうか…。

ぶつける事ができるものが無いから、必死になって一年で…若ぇなぁ…ったく…。

 

「本当…?」

「応…悪魔は真面目な話の時にゃ嘘は言わないのさ」

 

ボカシて伝える事はあるけどな。

少なくとも…今の話では俺は真っ直ぐにこいつと向き合っている。

ガキを導くのが大人とか教師の仕事だ…だから、俺は真っ直ぐにこいつに向き合ってやる。

 

「シショー…シショーが居てくれて…良かった」

「そうかい…うら、部屋まで送ってやる…今日はもうネンネしな」

「分かった…シショー、もう一つお願いしてもいい?」

 

なんつーか…こいつこんなに甘える様なやつだったかね?

席から立ち上がると、鈴は此方に近づき手を差し出してくる。

 

「手、繋いで」

「へ~へ~…これで良いか?」

「うん…シショーの手…暖かいね…太陽みたい」

 

鈴はエヘヘ、と笑ってはにかんで俺に先んじて歩き始める。

どうやら、少しゃ気が晴れたみてぇだな…ぐっすり眠れれば、いつも通りになってるかもな。

 

「それじゃ、シショー…また明日」

「応、おやすみさん…次は抜け出すんじゃねーぞ」

 

部屋の前で鈴と別れ、急ぎ足で寮長室へと戻る。

励ますのやら何やらで大分時間食っちまったからな…。

部屋に戻るとベッドが妙に盛り上がってる…あれだ、布団ツムリだな…。

 

「千冬、暑くねぇのか?」

「…すぐに戻らなかったな?」

 

…どうやら大分ご立腹みてぇだな。

こういう可愛い所があっから、千冬は飽きねぇな…まぁ、これも俺以外にゃ見せねぇんだろうが。

 

「…アモン、私はな…今日は離れて欲しくないんだが」

「…山田辺りが聞いたら卒倒しそうだな」

 

山田は千冬に憧れを抱いている…まぁ、後輩だったっつーし千冬も可愛がっていたからなんだろうが。

恐らくキリッとした千冬しか知らねぇ山田にゃ、今の千冬はマジで見せら…いや、見せたくねぇなぁ…独り占めが一番だ。

一先ず、お姫様の機嫌を直してやろうと、俺は半ば無理矢理ベッドに潜り込んでいくのだった。




唐突に思いついたから二時間で書き上げた。
後悔はしない。
砂糖まみれになるがよい。
千冬が別人だって?
聞こえんなぁ~(開き直り)
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