インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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教鞭をとる悪魔

「今日から、鈴の奴も学園の仲間入りか」

「あぁ、奴は二組だが実習の合同授業で顔を突き合わせることになるだろう」

「織斑先生もミュラー先生もお知り合いなんですか?」

 

SHR開始五分前、職員室から教室に向かう廊下を歩く間に千冬と山田とで軽く雑談を交わす。

話題は今日から編入する中国国家代表候補生の鈴の話題だ。

編入試験時は筆記、実技共に高水準…理論型のセシリアに筆記では負けているものの、実技における柔軟性においては鈴の方が頭一つ抜けてたな。

…まぁ、昔から考えるより先ず行動みてぇな所がある。

セシリアとウマが合えば、組ませてみるのも面白いかもしんねぇなぁ…。

鈴の奴はムードメイカーの姉御肌で、ある一言さえ言わなければ気のいいやつだ。

きっと、この学園で事情通になっちまうんだろうなぁ…。

 

「鈴は一夏の幼馴染でな…その流れで千冬とも面識があるし、俺は一夏の面倒を見てるときに料理の師事をちっとばかしな」

「ミュラー先生、お料理もできるんですか?」

「毎朝甲斐甲斐しくバランスの取れた朝食を用意されて、女の私は立つ瀬が無い」

 

山田は俺が料理出来る事に大層驚き目を丸くしている。

まぁ、そうだよな…ガサツにしか見えねぇよなぁ…。

この学園においても、俺は基本的に自炊している。

しているっつーか、せざるを得ねぇ…千冬は、ちーっと目を離すとコンビニ弁当とビールだけで夕飯を済ませようとするからな。

腹が膨れて満足できりゃそれで良いと思ってやがる。

どこの独り身の男だっつーんだよ。

 

「やかましい!」

 

スッパーンと俺の後頭部を出席簿で思い切り振りぬくようにして叩かれる。

頑丈なもんだから、大して痛くねぇが…こんなのを日常で一夏は喰らってるのか?

 

「頭ん中読むなよ千冬…」

「お前が失礼なことを考えるからだろう!?」

「…ツーと言えばカーと鳴く…お二人とも本当に仲が良いですよね」

「「ま、まぁ…」」

 

学園内じゃ、俺と千冬が付き合っていることは公言しちゃいねぇ…。

なんつーか、言い出すタイミングを逃してる感じだな…いつかカミングアウトすべきなんだろうが、学園内の業務がここん所慌ただしいこともあって一年担当教諭達が集まる機会が中々な…。

此処で山田にバラしても構わねぇだろうが、確実にフリーズ後にパニック起こしてショートされる。

そうなると、授業が滞ることになっちまうからうまくねぇ…と…。

タイミングって大事なんだよなぁ…。

 

「話戻すけどよ、かく言う山田は自炊してんのか?」

「へ!?あ、私は…恥ずかしながら平日はクタクタになってしまうのでコンビニのお弁当で済ませてしまいますね」

 

山田は気恥ずかしそうに頬をかきながら、苦笑する。

なんだか千冬が若干ドヤ顏なんだが…お前は料理自体進んでやらねぇじゃねーか…。

 

「休日は料理やってんなら上出来だろ…教師ってのは何かと大変だからな…特に女子高ともなりゃぁよ」

「ん~、でも大好きな先輩がいて、自分の知識が活かせる場所ですからね。忙しくても不満はありませ…あぁ、一つあるとすれば…渾名で生徒に呼ばれてしまう事ですか…。毎年色んな渾名を付けられるんですよね…」

「それだけ親しみやすいってこったろ…別に悪い事じゃねぇよ」

 

山田は兎に角その小動物っぽい雰囲気からか、生徒から友達感覚で接される。

…悪い事じゃねぇんだが、肝心の本人は威厳のある教師を目指しているらしく非常に不本意って話だ。

 

「千冬、見本の人間としてはどう言うアドバイスを送るんだ?」

「山田君は兎に角優しいからな…私と対照的で何かと助かることがあるのだが…。しかし、威厳か…」

「やっぱり、私には織斑先生みたいには無理なんでしょうか?」

 

山田は若干涙目で俺たちを見てくる。

結構切実な問題なんだな…山田にとっちゃ。

けれど、山田も怖~い先生になっちまうと、俺の負担がパネェ事になるんだが…。

飴と鞭ってのはとっても大事なんだからよ…。

今の俺のポジションは一組配属の教師の卵…先生としての生徒に対する発言力ってのは殆どねぇと思って良い。

勿論、そういうのを無視してこの間の決闘騒ぎの時の実力を認めて話を聞きにくる生徒も少なからず居るんだがな。

 

「まぁ、この件に関しては私に良い考えがある」

「某司令官みてぇなことにならねぇよな?」

「なに…『銃央矛塵(キリング・シールド)』の腕前を見させてもらうだけだ」

「その二つ名恥ずかしいんですけど…」

 

随分と物騒な二つ名持ってるもんだな…山田…。

縦横無尽と銃央矛塵…字面から考えるにガンカタに近い戦闘スタイルを得意にしてんのかねぇ?

実力がある奴にゃ、二つ名が送られる。

山田の『銃央矛塵』に千冬の『世界最強』…あぁ、二年に『イージス』なんつー二つ名を持ってるコンビも居るらしいな。

そんな感じで大体そいつを象徴する言葉が送られるわけだ。

もし、俺が二つ名持ちになるとしたら『人形遣い(ドール・マスター)』が良い…。

まぁ、目立ちたくねぇから付けられることはねぇだろうがな!

 

「代表争いで私と競い合ったんだ…君は自信さえ持てば本当は大丈夫なんだからな」

「一方的にやられてしまっていただけですけどね…」

「そうやって謙遜っすっからナメられちまうのさ。ま、こればっかりは性格だかんなぁ…」

 

教室に辿り着いたので、後ろから入ると鈴が一夏達と騒いでいた。

俺が入ってきたのを見て鈴は俺に手を振る。

 

「シショー、おはよー!!」

「教室でシショーは止めろ…っつーか、回れ右してみ?」

 

軽く手を上げて鈴に応えてやった後に、心の中で合掌しながら忠告するように後ろを振り向くように言う。

だが、そんな俺の心遣いも無駄だったようで、鈴は後ろを振り向く気配を見せない。

 

「シショーはシショーだから良いのよ!それより教室来るのが遅いわよ!何処で油売ってたのよ?」

「いや、話は後で聞いてやるから後ろ向けって…」

 

鈴は一夏に再会した喜びと何時もと違う(スーツ)姿の俺を見てテンションが上がっている所為か、まるで俺の言葉が耳に入っていない。

いや、悪い奴じゃねぇんだ…俺も可愛がってはいたし…。

まぁ、これも若さ…その内学習すんだろ…。

 

「おい…随分と親しげに話すじゃぁないか?」

「そりゃそうよ!だって、あたしシショー……」

「ナムアミダブツ…」

 

鈴は後ろからかけられた千冬の言葉に漸く振り向き、誰が後ろに立っていたのか漸く気付いた。

そうだね、世界最強と銃央矛塵だね。

クラス中の人間が鈴に対して、心の中で合掌する…。

 

「もうSHRが始まる…が、今の私は寛大だ…分かるな?」

「……!!!」

 

鈴は壊れたおもちゃの様に頭をブンブカ縦に振って慌てて教室を出ていく。

すぐに出席簿を落とさなかったのは…まぁ、隣のクラスの生徒だからなんだろうな…。

独り身じゃねぇって言う心の余裕も…

 

「余計な事は考えるな!」

「あいよー」

 

額に向かって真っすぐに投げ飛ばされたチョークを人差し指と中指で挟み込むようにして受け止め、そのまま真っ直ぐ千冬へと投げ返す。

やればできるなぁ…某暗殺拳。

さて、SHR開始ってタイミングで扉から鈴が顔を出す。

 

「積もる話あるから昼休み時間つくりなさいよ、シショーと一夏ぁっ!!」

「…二度目は無い」

 

今度こそ、鈴の脳天に出席簿が叩き落とされ教室からつまみ出されるのでした、まる。

 

 

 

「あーっと、此処は…」

「あぁ、其処は詳しく解説した方が良いですね」

「あいよ、んじゃ説明すんぞー。ISは知っての通り元々は宇宙開発を目的に――」

 

千冬が教室の後ろに、俺が授業をして山田がサポートする形で授業を進めていく。

上の空が約三名…二人は分かるとしてもう一人…一夏が上の空って言うのはどういうこった?

ともあれ、呆けている奴らなんぞ相手にしていたら他の連中の足を引っ張ることになる。

千冬に目配せを送ると、無言で頷かれる。

 

「で、だ…今でこそスポーツとしての開発が御盛んな訳だが、各国では国防を盾にそう言った技術を兵器転用している訳だな。だが、当初の理念を忘れていない奴らも確かにいる。各国の宇宙開発機構だな…政治を背景に頭上に蓋をされちゃいるが、あいつらは確かに星の海を夢見ている…陳腐かもしんねぇ…けれど、ISの正しい姿は宇宙にこそある事を忘れないでくれ」

 

パチンと指を鳴らして部分展開を行い、スティーリアを自律モードで起動させる。

建前で音声入力で会話させているとは言ったが、こいつも宇宙開発の技術が含まれていねぇわけじゃねぇ…。

 

「先生、それは先生の第三世代兵装ですよね?」

「はい、私はスティーリア(氷柱)と名付けられたBTドール一号機です。以後、よろしく」

「こいつにも宇宙開発の為の技術が含まれている…不完全だがな」

「マスター、私は不完全等では…」

 

俺は口の前で人差し指を立てて、黙らせる。

此奴は俺の手から産まれた事を誇りに思ってくれている…だからか、ちっとばかしプライド高くて融通が利かない。

今も若干不満そうな顔で俺を見つめてくる。

 

「授業続けるぞ?BT兵器ってのは複雑な独立稼働ユニットを思考だけで操作する為の技術を指している…そうだよな、オルコット?」

 

俺はあえて上の空で何か良からぬことを考えているセシリアに、答えられて当然の…本当に当然の質問を投げかける。

セシリアは聞いていたのか此方を見つめて静かに頷く。

良かったよか…

 

「デートに誘うなどのアプローチ…いえ、もっと直接的な…」

「スティーリア」

「了、お仕置きを実行します。オルコット嬢、マスターの話を聞け」

 

俺がパチンと指を鳴らすと、スティーリアがセシリアの制服の中に氷柱を一本作り出す。

あまりにも不意打ち過ぎたのか、セシリアは椅子を蹴っ飛ばすようにして立ち上がり驚きの声を上げる。

 

「ひゃあああん!!つめっ!!??」

「授業を真面目に受けろ」

 

そして千冬からの天罰の出席簿がセシリアの脳天に叩き込まれたところで、制服の中の氷柱を水蒸気として消す。

お仕置きにしちゃ上出来だな…。

優しくスティーリアの頭を撫でてやるとスティーリアはもっと褒めろと言わんばかりに胸を張り、しかしお澄まし顏でいる。

…ちょっと面倒な性格になったもんだな…フランマ込みで。

 

「BT兵器は複雑な独立稼働ユニットの制御を目的に開発されたもんなんだが…それはつまり、広大な宇宙において視野を広げる役割を持たせることができるってことだ。たとえばビットにカメラや作業用のアームなんかを付けて、小惑星でのサンプル採取とかな。スティーリアはそう言った原点に立ち返って、仮に人型で作った場合どうなるのかっつー実験込みで組み上げたわけだ」

「「「おー…」」」

 

生徒達の中から何人か感嘆の声が漏れる…つまりは思考制御可能なアンドロイドを作ったって事だからな…事実は違うけど。

…ロボの奴も平行世界で似たような授業受けてんのかねぇ…?

何となく昔の同僚を思い出しちまったな…アイツは星を見るのが好きだったしな。

本当の意味を知ったときは、いたたまれなくなったもんだが。

 

「実際は、俺がこうして糸で操作しなきゃならねぇ…じゃぁ、篠ノ之」

「……」

「スティーリア」

「了、お仕置きを実行します。箒嬢、天誅」

 

スティーリアは俺が無視されたことが大層ご立腹だったのか、箒の頭の上に雪だるまを生成して思い切り落とす。

…やりすぎじゃね?

やっぱり、箒もセシリアと同じように驚いて立ち上がり辺りを見渡す。

 

「なっなんだ!?何事だ!?」

「篠ノ之、手間をかけさせるな」

 

そうして再び振るわれる千冬による天誅…スッパーンと言う快音と共に箒は机に叩き落とされ、クラスからクスクスとした笑い声が響く。

箒は羞恥のあまり顔を真っ赤にして悶えている…授業はキチンと受けような?

ともあれ、授業再開…一夏指したらまたストップしそうなんで質問はしないようにする。

 

「現状ビットをイメージ・インターフェース・システムで制御するのは難しい…単純な動作しか上手く伝わらねぇからだ。BTドールみてぇに多数の関節がある場合はだな…例えば握り拳を作る時に指の関節を順番に動かすっつー命令を思考で送ってやんなきゃならねぇ。融通が利かねぇって言った方が良いな」

「これはイメージ・インターフェース・システムが大ざっぱにしか思考を読み取ることが出来ない為です。ISはまだまだ発展途上の技術の塊ですので、これから先改善されてミュラー先生の扱うBTドールの様な物も開発されるかもしれません」

「山田先生の言う通りだ。そもそもISは未完成の物体だ。何事も都合通りにはいかないが、その内改善されることもあると言う事を忘れるな?」

「「「「はい!」」」」

 

やっぱ、千冬の時の方が耳を傾ける奴らの方が多いな…流石は世界最強ってか?

授業を続けようとして、授業終了のチャイムが鳴り響く。

 

「んじゃ、俺の授業はここまでだ。日直ー」

「気を付け、礼!」

「「「「ありがとうございましたー」」」」

 

こうしていると教師ってのも悪くねぇもんだな…案外、此処に来る前に言っていた桜花の提案にノるのも悪くねぇかもしれねぇ…。

そんな事を思いながら、スティーリアを量子化しつつ教室を出るのだった。

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