インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
「ミュラー先生、少し良いですか?」
「ん、まぁ構わねぇけど…あぁ、例の図面か?」
昼休み開始直後に、簪が俺を尋ねに職員室へと駆け込んでくる。
息を荒げているところを見ると、どうやら走ってきやがったみてぇだな…。
注意がてら簪の額を人差し指で小突く。
「急いでるからって廊下を走っちゃダメだろ?」
「先生、神出鬼没…どこに居るか…分からない」
「あぁ…落ち着きねぇからなぁ…」
苦笑しながら頬をかき、どうしたものか思案する。
簪の専用機が完成されていりゃコアネットワーク通信で簡単に連絡が取れるんだが、生憎と肝心の専用機は簪の持つ図面の中でしか存在しない。
なんせ、これから倉持がほっぽりだした物を回収して組み上げるんだからな…。
簪の手じゃ…秋くらいまでかかっちまいそうだな。
まぁ、こればっかりは仕方ない…。
それよか連絡を…と思案しているとき、ふと胸元のポケットに入れているスマホが揺れる。
あぁ、何もコアネットワークに拘らなくても良かったな。
「簪、スマホのアドレス寄越せ…連絡先教えてやる」
「いい…の?」
「減るもんじゃねぇからな…拡散しなきゃ構いやしねぇよ」
俺は胸元からスマホを取り出して、メールの中身を確認する。
くだらねぇメルマガか…ちゃちゃっとメールをボッシュートして、簪が満面の笑みを浮かべながら見せてきたアドレスを打ち込んで空メで送り込む。
アドレス交換のアプリがありゃ良かったんだが…そもそもこうやって連絡先交換する機会もねぇだろうと思って突っ込んでなかったんだよな…。
俺からのメールが来たのを確認すれば、簪は何処か小躍りしそうな雰囲気でスマホを抱きしめてる。
高々連絡先くらいでオーバーな…。
あぁ、でも俺の事を恩人兼ヒーローみてぇに見てるから、小躍りもしたくなるか…。
「で、話を戻すけどよ…図面見せに来たんだろ?」
「っあ…はい…自分で基礎設計を見直して書き込んでみたんです…問題が無いかチェックしてもらいたくて…」
俺に渡してきた図面の紙を広げて中身を見る。
名称は打鉄弐式…日本の打鉄の後継機ってところか…打鉄は防御力を重視したバランス型のISだ。
武者鎧然としたデザインは正に日本と言った趣が感じられる。
両肩の肩鎧状のシールドは自己再生能力を有している。
防御力を重視したと言うだけあってやや鈍足ながらも堅実な性能であり、日本製OSならではの柔軟な対応能力が第二世代でもトップクラスのパッケージ量を誇っている。
中でも超長距離射撃装備『撃鉄』の命中率は、第三世代の開発が始まっている今でさえ塗り替えられてねぇ正に日本の顏って感じのISだ。
…そんな日本の顏であるISの後継機をほっぽりだしてまで白式を解析してぇのかねぇ…?
なんとなーく…束が裏で糸を嬉々として引いてる気がしてならねぇ…胡散臭ぇからな。
「なんつーか…ヤられる前にヤるって感じの武装てんこ盛りだな…」
「こう…シンプルな機体に一杯詰め込んでみたくて…」
「限度があらぁな…気持ちは分かるけどよ?」
両肩に荷電粒子砲、非固定浮遊部位にミサイルポッド六基、両腕に格納型ミニガン、近接兵装は…薙刀か。
打鉄弐式本体は、今の流行りの軽量化による速度向上を目指している。
これは、国外からの襲撃に対して柔軟に対応するためだな…打鉄と弐式では速度に三十%位差が出てる。
で、お子ちゃま特有のお遊びで、その特性をぶっ殺す
「武装プラン見直しな」
「そんなっ!?」
「ったりめーだ…第三世代ってーのは燃費が悪いってのに、なんだこれいい意味でも悪い意味でも馬鹿すぎるわい!」
専守防衛を謳う日本で、何でこんな敵を先制攻撃で消し炭にするようなもん使わなきゃならねぇんだよ。
抑止力にしても燃費が悪い弱点を突かれたら、あっという間に制圧されちまいそうだ…。
「簪、この機体は日本の防衛にも関係する大事な大事な機体だ…。方針としちゃ、武装のクセもそうだが何より低燃費を考えなくちゃならねぇ」
「それは…墜ちずに長時間の作戦行動を確保するためですか?」
「そうだ…ゾンビじみた…とまでは言わねぇが、墜ちにくいってのはそれだけでアドバンテージになる。武装のセンスは良いが、削れるところは削ってみな?」
墜ちねぇってのは数が減らねぇ。
数が減らねぇってのはそれだけ死人が出ねぇ
何よりも生存率…打撃力も重要だけどな…この国はあくまでも争いに関して保守的だかんなぁ…。
「わかりました…ありがとうございます」
「応、頑張れよ?」
図面を丁寧に畳んで簪に返しつつ、包まれた弁当箱を手に持って立ち上がる。
簪はやる気十分の様で小さくガッツポーズしている。
やる気がある事は良い事なんで優しく頭を撫でてやる。
「お前のガッツは買ってるんだ…良いもんつくれよ?」
「はわ…が、頑張ります!…ところで、お弁当…手作りですか?」
「応、千冬が不摂生なんで食生活改善がてら一緒にな」
今日も今日とて、栄養バランスに優れた内容で弁当を渡してある。
一個作るのも二作るのも手間自体は大して変わらねぇんで、自分の昼飯の分も弁当にしているってわけだ。
一度くらいは学食のお世話になるのも悪くねぇだろうが、千冬がしっかりするまでは…。
「あ、あの…お昼…ご一緒しても良いですか?」
「構わねぇけど…一夏と騒がしい仲間達が一緒だけど大丈夫か?」
「…だい、じょうぶです」
簪は、一夏が原因では無いにしろ少なからず恨みを抱いてしまっている。
本人もどうにかしてぇとは思っているんだろうが…こればっかりはどうしようもねぇ。
所謂心の問題って奴だ…本人が納得できなきゃ解決できねぇ。
「まぁ、簪も一夏を知る良い機会だろ…一夏の人となりくらいは見てもバチはあたらねぇさ」
「…わかりました。先生、場所は?」
とりあえずは、一夏と事を起こす気の無い簪は気を取り直して食事の場所を聞いてくる。
時間も時間だしとっとと飯を済ませる必要があんな…。
「学園で飯っつったら、一カ所だけだろ?」
「もしかして…」
「応、食堂だ」
軽い雑談を交わしながら簪を伴って食堂に来たのは良いんだが、さすが昼時ともなれば食堂はまるで戦場の様に人がひしめき合っている。
…来る途中時々物凄い見られてる気がしたんだが…多分姉ちゃんの方だろうな。
決闘騒動の後、付き人だっつー本音の姉の虚に謝罪と楯無の人となりを聞かせてもらった。
聞くだけで頭が痛くなるようなシスコンっぷりだ…少しだけ、簪に聞いてみたら。
『そう…そうだね…尊敬は…まぁ…』
と、死んだ魚の様な目で言われた。
…嫌われてはいねぇけど、極力関わりたくない…そんな悲壮感を目の当りにしたら、誰でも話題を切り替えたくなるってもんだ。
なんでも、都市伝説ダーマの起きたあの事件以来熱い掌返しが起きたかのように、簪に執着するようになったそうだ。
今まで冷たくされてたっつーから、多分反動なんだろ…我慢してたんだろうなぁ…姉ちゃんの方。
だからって、こんな顔させる程溺愛せんでも良いだろうが。
残念だなぁ…簪の姉ちゃん。
「シショー!遅いわよ!!」
「アモン兄、お疲れさま」
「応、一人増えるけど構わねぇよな?」
隅の方にある円卓に一夏達を居るのを見つければ其方へと歩いていく。
視線すげぇなぁ…楯無と渡り合ってるんで、それなりに実力が知られている。
まぁ、その妹が俺の後ろをヒヨコみてぇに歩いているから余計なのかもしれねぇけど。
「更識 簪…四組の日本代表候補生」
「へぇ、私は凰 鈴音。鈴で良いわ」
「ミュラー先生、この間の決闘の時のお相手の妹をたらし込みましたの?」
「随分辛らつだな、オイ…」
セシリアは何故か機嫌が悪いようで、俺に八つ当たりするように野次ってくる。
面倒クセェな…。
兎も角…食事をっせにゃあならんので俺は鈴の隣に座り、その隣に簪が座る形になる。
「鈴ってほら…オブラートに包んだ言い方できないだろ?」
「あぁ…オルコット、まともに相手すっと血圧上がるから聞き流しとけよ?」
「わ、わたくしは淑女ですから腹を立ててなど…!!」
どうも図星だったみてぇで、セシリアは恥ずかしそうに俯きながらアイスティーをストローで飲んでいる。
…丸くなったもんだなぁ…。
「だって、私強いもん」
「強けりゃ誰にでも勝てるってか?鈴、お師匠の俺ぁ、悲しいぜ…」
鈴は自身が最強だと言いたげにナイム…げふん、慎ましやかな胸を張って笑みを浮かべている。
そりゃ、一年で代表候補生になるくらいだ…それなりにウデは立つんだろうがな。
「グヌヌ…でも私、代表候補の中じゃトップだからね!」
「慢心、駄目、絶対って言ったろうが。料理も戦いも変わらねぇよ。第一な、俺だって負けてんだぞ?」
「あれは、私のお姉ちゃんを庇ったせい…」
「簪、負けって事実は覆らねぇよ」
俺は弁当を広げてお箸を持ち、この世の恵みに感謝をするように手を合わせる。
糧になってもらうんだ…ありがたくいただかなきゃな。
「シショーが…?だって、千冬さんが負けるくらい強いんでしょ?」
「自爆覚悟の一撃から庇ってやった結果だっつーに。まぁ、でも楯無はやれる腕持ってるのは確かだな」
今日の弁当はメインをから揚げにして温野菜とひじきの煮つけ、出汁巻卵とシンプルに纏めた。
から揚げにゃ中華風の甘酢餡がかかっていて、酸味が食欲を程よく刺激してくれる。
「俺の目標はアモン兄超える事なんだけど…まだまだ先は長いぜ…」
「一夏と二人がかりで一太刀も浴びせられなかったからな…」
一夏と箒は以前の手合わせの時の事を思い出して意気消沈としている。
へっへっへ、ガキんちょ共にゃ負けられねぇ大人の意地があっからな…俺を超えたきゃせめて一回りは歳喰ってもらわなきゃな。
俺が出汁巻卵に箸をつけると、簪が興味津々と言った顔で此方を見てくる。
「んだよ…食べてぇのか?」
「あ、その…はい…」
「シショー、私も欲しい!」
「テメェはラーメンドンブリ空にしといてまだ食うのかよ…?」
食っても栄養が胸に行かず、かといって太るわけでもねぇ…アスリート体質の鈴は、カロリー計算とは殆ど無縁みてぇだな。
世のカロリーと闘う戦士達に謝って来い。
仕方なく、俺は箸を逆さにして手を付けてない出汁巻卵を半分こにして簪と鈴双方の皿に置いていく。
「ちっ…」
「あん?」
「なんでもない。シショー、もしかして料理のレパートリー増えた?」
「まぁ、世界中放浪してたら色々と食ったしな…」
アシカとか意外と美味かったな…まぁ、アラスカ圏は寒くて飯どころじゃ無かったけどよ。
簪はゴクリと生唾飲み込み、出汁巻卵を一口で食べる。
さて、お口に合うかね…?
「あ…優しい…ほんのり甘い…かな?」
「あぁ、千冬の好みだからな…だろ、一夏?」
「教えたら一発で好みの味にされるんだもんなぁ…アモン兄になら千冬姉任せられるよ」
「お前はあいつの親父か何かか?」
一夏はしみじみと呟くように言いながら湯呑を両手に持ち、緑茶を啜っている。
その顏は何処か達観…っつーか…一夏からコアネットワーク通信で連絡が入る。
(ついにアモン兄の事を義兄さんって呼ぶ日が来たんだなぁ…)
(…タイミング逸してるんだからバラすなよ?)
(わかってるよ、アモン兄)
ばれてーら。
まぁ、結構一緒に行動していることも多いし、千冬もプライベートで何かと一夏に師事してもらってたみたいだから…勘付きもするわな。
他人の恋愛事情を勘付けるのに、自分のは無理だってのはどういう了見なのやら?
「先ほど世界中を放浪していたと仰っていましたが…」
「身一つ鞄一つの気ままな旅だ…あぁ、根無し草ってのは気楽で良いもんだぜ?飾ることなく他人と触れ合えるしな」
「シショー、今度人形劇を学園で披露したら良いんじゃない?」
「学園でやるよか公園でヒッソリとやっていてぇんだけどなぁ…」
デカい舞台とかそう言うのは見られる奴が限られてくる。
街角で、公園で…そういう制限が無い場所でこそ披露するのが大道芸人のあり方だろ。
悲しかったこと、辛かったこと…そう言ったことを忘れられるような一時を提供して、お客の御捻りを頂戴する。
強制もしねぇ善意で貰う金のありがたみってのも噛み締められるしな。
そもそも稼ぐ必要がねぇくらい、この世界の金を持ってるんだけどよ…それはそれ、これはこれだ。
少額で良い…その値段が見てくれた人間が満足できた値段になる。
「ミュラー先生、ヒーローもやってる…」
「簪、それちょっと詳しく」
「そうだなぁ…更識さん…聞かせてくれる?」
…やっべ、止めるタイミング逃した…。
鈴と一夏は昔から持っていた疑問を確証にするチャンスと言わんばかりに簪に先を促す。
二人からの催促に簪は得意がるように口を滑らせる。
内緒だ…って言ったのは姉ちゃんに大してだけだったんで、別に制限してなかったな…。
「都市伝説、ダーマ…オルコットさんは知ってる?」
「確か…ビルをコミックの某ヒーローの様に移動したコートの鉄仮面の話ですよね?」
「あれ、ミュラー先生」
「は?」
丁度、弁当を食べ終えたので俺はそそくさと片づけて退散しようとするが、鈴は俺のスーツの袖を掴んで引っ張る。
こいつ…逃がさねぇ気か!?
「事件に巻き込まれた私を助けてくれたのが、ダーマで…ミュラー先生だったの」
「…アモン兄、やっぱりアンタだったのか」
「べ、べつにダーマなんかじゃね、ねぇし!?」
「あからさまに動揺してんじゃないわよ、シショー?」
疑問は疑問のままが一番いい事だってあるんだぜ…鈴、一夏…。
箒は何かに納得できたかの様に手をポンと叩き、セシリアはセシリアで珍妙な物を見る目で此方を見つめてくる。
「そうか、ミュラー先生はヒーローだったからあんなに強かったのか!」
「箒よぅ…俺ぁ、お前が純粋で嬉しいよ…」
まさか、こんなに箒が純粋に信じ込む人間だとは思わなかったな…。
第一、ダーマ本人がこの人ですなんて言われて信じる奴いるのか?
「ミュラー先生…貴方は一体何と闘っているんですの…?」
「いや、セシリアも信じてるんじゃねぇよ…」
意外と英国貴族も純粋なんだな…思わず頭痛がっしちまって頭を抱えちまうよ…俺は…。
この時、周囲に居た女子共は我先にと情報を拡散される事となる。
暫くの間、俺の影の渾名がダーマになったのは言うまでもねぇ…クソが…。