インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
試合当日。
千冬や俺…学年ごとの教員は、今日と言う日の準備に追われ続けた。
外部からの客人が居ない代わりに、アリーナ内の整備に専用機を持っていない生徒の為の学園のISのフィッティング作業及び整備。
生徒一人一人の記録から平常通りの授業、更に当日の警備内容の見直しと…正直業務が被りすぎて目まぐるしいっちゃ、目まぐるしい。
で、当日も当日…こんなクソ忙しい状況だって言うのに倉持技研から連絡が入った。
内容は、更識 簪の専用機の受領に来てほしい。
勿論こっちも警備の関係上どうしても手が離せないんで後日にして欲しいと申し出たのだが、向こうは今来てもらわなければ困るの一点張り。
ほとほと困り果てたんだが、簪の担任である横井もどうか生徒の為にと頭を下げられちまう。
で、教育実習生って事もあって俺が受け取りに向かう事で話が纏まり、何故か横井と一緒に運搬用のトラックに乗り込んでいる。
俺一人じゃねぇのかよ…。
「すみません、運転してもらって」
「大丈夫ですよ、更識の為ですし」
「二人きりですから、敬語でなくても構いませんよ?」
法定速度ギリギリで倉持技研に向かっている最中他愛ない会話をする。
学園じゃ、そろそろ開会式が始まっている頃合いだろう…最初はデモンストレーション代わりに、生徒会長とチャレンジャーの決闘を行うそうだ。
学園の生徒会長は誰よりも強くなくてはならねぇ…即ち、何時いかなる時でも決闘を挑まれれば受けなくてはならねぇってことだ。
その結果、負ければ生徒会長の座は勝った奴に移り、新たな生徒会長が出来上がる。
…いつの時代なのやらな…あまりにも原始的過ぎるが、弱肉強食の世界だからな。
ある意味で生徒のモチベーションも維持しやすい。
誰にでもチャンスがあるって証拠だからな。
「いえいえ、仕事中ですから」
「…織斑先生でなければ、駄目ですか?」
「……」
「黙らないで下さいよ…フフフ」
まぁ、結構な頻度で二人で抜け出して葵ばーさんの所に行ってるからな…勘付くやつは勘付くか。
横井は妖しく笑いながら目を細める。
こいつのこの目だ…どうにも俺は苦手で仕方ねぇ…。
「横井先生、あまりからかわないでもらえますかね?」
「からかうなんてとんでもない…ただ、二人きりになれたので嬉しくって」
この女は、どうも俺の事がお気に入りらしい。
朝礼の時も職員室の時も結構な頻度で目が合うからな…。
別に横井は不細工ってわけじゃねぇ…っつーか、ISに関わってる女性ってのは大概が別嬪だ。
まぁ、相当自分に自信がなきゃやれねぇのがIS乗りだ。
ISスーツからして体系がモロに出る水着みてぇなもんだからな。
だから自分磨きに余念がない女性でもなければ目指そうとも思わねぇんだろうな。
「好意は嬉しいですが…今は火遊びするつもりはありませんので」
「あら、残念ですね…でも、ミュラー先生?」
「なんでしょう?」
「私は貴方が気に入ってます…あの織斑先生よりも」
横井がゆっくりと俺の足に手を伸ばして撫でまわしてくる。
どこか誘っているかのように、手つきがいやらしい…。
俺は顔を仏頂面にして横井の事を横目で見る。
「あんまり調子に乗るなよ…こっちは仕事で運転してんだからな」
「おぉ、恐い恐い…あまり、そう邪険にしないでくださいよ」
威嚇する様に言うと、横井はすぐに手を引っ込めて大人しくなる。
…必死にお願いしたのもこの状況になるのが目的だったんかね?
教師としては優秀だって言う話なんだが…多分、自分の欲望に忠実なタイプなんだろう。
こういった手合いは蛇の様にしつこい…今回の件がケリついたら、カミングアウトして牽制しておいた方が良いかもしれねぇな。
ったく、女性ばかりの職場ってぇのは面倒くさくて敵わねぇ。
倉持技研に到着して、搬入口へと向かいトラックを停車させる。
さっさと積み込んで戻らねぇとな…。
「ご足労いただき申し訳ありません」
「すまないけど、急いでくれる?こっちも仕事が溜まってるから」
「では、此方のリスト目を通してサインをいただけますか?」
「横井先生、俺は搬入物のチェックをしてくるから後頼みます」
トラックから降りた俺は、フォークリフトで運ばれてくるコンテナを見つめる。
どうやらあの中身が打鉄弐式らしいな…トラックに積み込まれたタイミングで、俺はコンテナの扉を開いて中身を確認する。
…正直、酷ぇとしか言いようがねぇ。
簪が自分から組むから引き取るとは言ったが、本当に開発会社がやる事なのか分からなくなる。
骨組みしかできてねぇじゃねぇか…どうすんだよ、これェ…。
一応内部に組み込むエネルギーパイプやらモーターやらは別途に梱包はされているが…いくらなんでもこれは…。
思わずコンテナの壁に拳を叩きつけて思い切り凹ませちまったよ…。
「ど、どうしたんですか!?」
「あ、いやいや、ちょっと機材をぶつけてしまって」
「え、でも、これは…」
「いいか、何も、問題は、ない」
音と衝撃に驚いて駆け寄ってきた担当者があんまりにもしつこいんで、胸倉を掴んで暗示をかける。
少ししたら解ける暗示だ…大して魔力を使う物でも無いからな。
担当者はすぐに全身が弛緩したあと、壊れた玩具の様にコクコクと頷く。
「あぁ、そうだ…上にこう伝えてくれ…『組み上げはこっちでやるが、部品代はテメェ等で持て』ってな」
「は、はい…わかり、ました」
同じようにコクコクと頷き、担当者はフラフラと社内に戻っていく。
これくらいは金持ってくれなきゃ困るってものさ…ホッぽりだすんだからな。
「積み込み、終わりましたか?」
「えぇ、問題ありませんよ。すみませんが、帰りの運転をお願いできますか?」
「わかりました。それでは学園に戻りましょうか」
コンテナの扉を閉めて荷台に固定されているのを確認すれば、助手席に座って横井にトラックを出してもらう。
基本的には真面目なのか、運転も堅実だな…ちっとばかしノロノロしてるが。
IS学園に繋がる洋上のハイウェイに差し掛かった辺りで、嫌な感覚に見舞われる…あからさまな敵意を感じる…。
「横井先生、ここらで降りるので全速力で学園へ…盗人が来たみたいだ」
「え…?ミラーには何も…」
「黙って言う事聞きな…死にたくねぇだろ?あんたが全速力で逃げれば俺は守りやすいのさ」
ポン、と頭を撫でた後に扉を開けて車外に飛び出しながらアプリストスを緊急展開して待ち構えると、上空からラファールが急降下してくる。
あの機体に見える金髪は…。
「まさか、ISコア強奪任務に貴方がいるなんてね!」
「何年ぶりだよ…ったく、忘れてりゃ良いものをよ!!」
織斑 一夏誘拐事件の時に出会ったIS乗りはバイザーの下の顏を愉悦に歪めて、巨大なメイスを構える。
雪辱戦のつもりらしいが…生憎と、俺にとっちゃムシケラみてぇなもんだ。
とは言え…ガチでやった時に目を付けられる訳にもいかねぇ。
質量兵器には質量兵器…ただし、俺は刃物だけどな。
「『アイスブランド』!」
「音声コールなんて、素人みたいね!!」
瞬時加速で距離を詰めてきたラファールは、思い切り振りかぶったメイスを思い切り叩き付けてくる。
俺は『ぎりぎり間に合った』特大の両手剣を思い切り振って弾き返す。
「搭乗時間少ないんでね…だが、てめぇにゃ負けねぇよ」
「ふん、その強がりが何処まで通用するかしら!?」
ラファールは弾かれた反動を利用して、バク転しながら後退しつつメイスを差し向ける。
メイスの先端には合計七門のミサイル発射口…馬鹿武器かよ!?
躊躇うことなく一斉射されたホーミングミサイルは、全基俺めがけて煙の尾を引きながら突撃してくる。
ハイウェイ破壊されたら厄介だな…俺は一気に上空へと瞬時加速で舞い上がり左腕に炎で出来たボウガンを呼び出す。
「フランマ・トクソ…喰らいな!」
躊躇うことなくトリガーを連続で引き、追いかけてくるホーミングミサイルを偏向制御射撃で撃ち落としていき、青い空に爆炎が花火の様に広がる。
俺は勘を頼りに背後に背負う様にアイスブランドを担いで盾にし、ラファールのメイスの一撃を防ぐものの弾き飛ばされる。
「硬いっ!!」
「おら、フランマの炎に踊りな!!」
弾き飛ばされながら空中で体勢を整えて、左腕のボウガンをラファールに向けて一気に十発撃ち込む。
いずれも偏向制御射撃でコントロールして相手に四方八方から襲っていくが、ラファールは卓越した操縦センスでもって華麗に避けつつメイスで弾いていく。
なるほど…同じ型だが、中身が違うな。
恐らくコアも『あの時』とは違う文字通りの専用機らしい。
「手ぬるいわよ…あの時の屈辱、晴らすわ!!」
「あぁ、そうかい!!」
肉薄してきたラファールのメイスを片手に持ったアイスブランドで受け止め、形状をマグナムリボルバーの様な大口径ハンドガンにしたフランマ・トクソをラファールに向ける。
この距離なら受けざるを得ねぇはずだ。
「喰らいな…!」
「っく…!!!」
躊躇なくリボルバーの弾倉分…六発を早撃ちで至近距離から撃ち込み、ラファールを爆炎に包み込ませる。
推進機がイかれたのか、ラファールはコントロールを失って海へと落下していく。
ここらで仕舞いにするか…俺はアイスブランドを両手で構えて瞬時加速でラファールに一気に肉薄するが、横合いから爆炎が襲い掛かりアイスブランドを盾にして動きを止める。
お仲間が居たか…。
「Mr.ミュラー…ここで止めにしませんか?」
「その声…はっ、テメェ態とソイツをぶつけてきたな?」
金色の太陽の様に輝く異形のISがラファールの操縦者を抱えて見下ろしてくる。
声から察するに、この間闇討ちしに来た奴か…。
異形のISは嬉しそうに巨大な尾を打ち振るわせ、操縦者は笑みを浮かべる。
「とんでもない、Mr.ミュラーがトラックに乗り合わせていたのは偶然…未完成のISごとコアをいただこうと思っていましたけど…良いものが見れましたわ」
「あぁ、そうかい…。それで、テメェも俺と遊んでいくのかい?」
「男性からの熱烈なラブコールならお受けしたいところですけど…Mr.ミュラー、私達の組織に来ませんか?」
どうやら、ラファール助けるついでにスカウトしに来たらしい。
充分、俺は強いって判断されたみてぇだな…ありがてぇこった。
「組織の内容に依らぁな…見たところ独自にISを運用してるみてぇだしな」
「私たちは世界の裏で商売をしてますの…情報でも武力でも…ね」
「裏社会の顔役みてぇなもんか…それで?」
「これ以上は、首を縦に振ってからでなければお答えできません」
向こうは笑みを浮かべながら此方を見つめている。
どうも、俺が首を縦に振ると思っているらしい…。
まぁ、教師生活に不満を持ってるのは確かだし、恐らくその情報が流れてる。
どっから流れてるのかは分からねぇけどな。
「ワリィな、嬢ちゃん…俺にゃ居心地良い場所できちまったんでね」
「あら、残念…まぁ、分かりきってはいましたけど」
「だったら時間稼ぎみてぇな真似は止めるんだな…」
「ニャハハ、オネーサン達を拘束するニャ」
「マスター、撃滅の指示を…三分で終わらせてみせます」
フランマはショウケースから出るなり、火炎球を作りつつ両手に炎の短剣を作り出す。
スティーリアは、氷でできたハルバードを構えて唇を舌で湿らせる…案外、好戦的だな此奴。
俺は、片手で制する様にして待機させて目の前の相手を見る。
「どうする?お荷物持ってたら確実に逃げ切れないだろ…その荷物持ってやったって良いんだぜ?」
「あら、お優しいのね…そのまま私たちのセーフハウスまでエスコートしてくれると助かるのだけど?」
「わりぃが、そいつぁ無理な相談ってな?」
ゆっくりと手に持つ大剣を差し向ける。
愉しいお話も此処までだ…退場願うかね?
いざ、襲い掛かろうとした瞬間に千冬から緊急連絡が入る。
が、それ以上に厄介な事に二機のズングリムックリなゴリラみてぇな機体が上空から現れる。
「ちっ…二人とも、あいつら始末しな!」
「「イエス・マスター(ニャ)」」
ラファールを抱えていたISはこれ幸いにと後退し、見た目に似合わぬ高機動で空域を離脱していく。
ズングリムックリは意外にもフランマとスティーリア相手に善戦してやがる…動きが妙だがな。
それよりも千冬だ。
「どうした?」
『アモン!戻ってくれ!一夏が…一夏が!!』
「…ったく、すぐに向かうから待ってろ…!フランマ、スティーリア!片づけたら学園にゴミ持って戻って来い!」
俺は全身の魔力を機体に通してエネルギーを充填。
機体をゆっくりと学園の方へと向ければ、今まで出していない本気の速度で学園へと向かう。
加速が進むにつれて、ソニックブームが発生し機体が空気との摩擦で白く輝き始める。
俺は逸る気持ちを抑える事が出来ず、まだかまだかと呟くしかなかった。
異様にせっかちなだけなんだと再認識した今日この頃(遠い目