インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
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楯無の口添えもあって、ある意味利害の一致っつーかなんつーか…正式雇用となった六月最初の日曜日。
俺は、公園で開けたトランクを目の前に仮面を付けて石像の様にピクリとも動かずに人が来るのを待っている。
何をしてるのかって?
そら、俺の本業よ…って言っても金銭を稼ぐのは公務員的にご法度なんで、御捻りは全部募金箱送りだけどな。
時刻は十二時を過ぎ、学園の近くにある海浜公園には人が集まり始める。
その中には生徒もいるが、仮面を付けている所為か誰一人気付いている素振りを見せねぇ。
小さな女の子が此方に駆け寄ってくると、俺の体をしきりに突いてくる。
暫く突かれても微動だにしないように努めて、飽きてきたところを見計らってブリキのロボットの様に身体を動かし女の子に対して跪く。
女の子はいきなり動きだしたのを見て驚いたようで、楽しそうに笑いながら拍手をしてくれる。
俺が女の子に大し手を差し伸ばすと、髪の毛の中から小人の人形が一輪の花を持って出てくる。
「小人さん!」
女の子が小人の人形を指差すと、肩から腕へと人形が移動して少女へと小走りに近づいていき花を差し出す。
女の子は不思議そうに花を見つめた後、おずおずと手を伸ばして受け取ってくれる。
小人の人形は大層嬉しそうに小躍りしてみせて、俺の頭の上に飛び上がり綺麗に着地すると何処から取り出したのか指揮棒を手に持つ。
小人が振る指揮棒に合わせて機械の様にゆっくりと立ち上がれば、壊れた人形の様にゆっくりと踊ってみせる。
最初こそ音楽はない物の、開かれたトランクの中から人形のパーツが飛び出せば楽隊になり、様々な楽器を演奏していく。
音楽に気付いたのか、まばらながら公園に来ていた人達が此方に気付き近寄ってくる。
楽隊が曲を盛り上げていくにつれ、俺も動きを段々マトモな動きへ変えていく。
曲が終わると同時に深々とお辞儀をして、再び石像の様に動かなくなる。
人形たちは楽しそうに曲を演奏しながら、一体、また一体とトランクの中に飛び込むように入っていき消えていく。
まるで夢か幻かと言った具合だな。
演目が終われば、いつの間にか出来上がっていた人だかりから盛大な拍手が響き渡る。
「おじさん、魔法使い!?」
「……しー…」
口の前で人差し指を立てて、小さな女の子に内緒だよと小声で伝える。
暫くすると小さな女の子の母親が此方に駆け寄ってきて、女の子を抱きかかえていく。
どうやら迷子だったみてぇだな…母親が来るまでの間に寂しさを紛らわせてやれたのかね…?
「ばいばい、魔法使いのおじさん!!」
自分で手を振る代わりに、人形に手を振らせて女の子と別れる。
やっぱ、でかい舞台だと壁があるけどこう言った所は壁がねぇからな…直に触れ合えるのは本当に良いもんだ。
「アモン…漸く見つけたぞ?」
背後から千冬に声をかけられるが、今は趣味の時間…あえてパントマイムを続行して動かないでいる。
さーってどうなるかね?
「アモン…聞いているのか?」
俺自身は動かず、頭の上にいる小人人形が俺の代わりにコクコクと頷く。
愛嬌のある動きで可愛らしさを前面に押し出していく。
可愛いは絶対正義だからな…ケッケッケ。
「…動きが無いと…ほう…?」
千冬は此方へと近寄り、わき腹をまさぐって擽り始める。
この程度ならまだまだ余裕よ…俺の代わりに小人人形に見悶えさせる。
小人人形はじたばたと見悶えた後地面に落ちてプルプル震えている。
「ねぇ、あれって織斑 千冬?」
「最近、熱愛報道があったよねー」
「もしかして、あの大道芸人が…?」
「えー、なんか凄い研究者って話だよ?」
通行人たちがヒソヒソと喋りながら此方を注目してくる。
千冬は気にした様子ねぇけど…これはこれで精神的に来るな…。
俺は観念して体を動かして仮面を外し、体を解す。
ったく、もうちょい楽しみたかったんだがなぁ…。
「漸く観念して動き始めたか…まったく、何も置いていく事は無いだろう?」
「趣味の時間につき合わせる訳にもいかねぇだろ?客が来なきゃ延々と動かねぇわけだしな」
まぁ、此処は人気の公園だし客が来ねぇって事もねぇだろうけどな。
俺は荷物をトランクに放り込みながら千冬へと顔を向ける。
「毎日激務で疲れてるだろうって気遣いだったんだけどな…いらなかったか?」
「私相手に遠慮しないでもらいたいな…その、私たちはそう言う間柄だろう?」
千冬は頬を若干赤らめながら腕を組みソッポを向く。
学生の様な恋がしてみたいが、年齢的にそれは恥ずかしいっつージレンマがこう言う態度を取らせてる。
キリッとしてる時はカッコいいんだが…。
「まぁ、恋仲だからなぁ…で、何かあったのか?」
「いや、どうと言う事はないんだが…折角の休みだ、少し付き合ってくれ」
「あいよー」
トランクを蹴り上げて掴み、肩に担げば千冬に歩み寄って手を繋いでやる。
公園内の空気が一気に変わるが、無視だ無視。
誰が誰と付き合おうがそいつ等の勝手だからな。
それが異性であれ同性であれ、他人が干渉して良いもんじゃねぇ。
千冬は寄り添う事はしないが、早くこの場を立ち去りたいのかソワソワしている。
…人間、変われば変わるもんだねぇ?
公園からタクシーで移動してやってきたのは、懐かしき織斑家…流石に、熱愛報道かあら間もないとは言え、『いやがらせ』は起きてねぇみてぇだな。
前回関わった連中が悉く不幸な目にあったから、それが広まって表立って動けねぇだけなんだろうが。
千冬が扉の鍵を開けて家の中に先に入る。
玄関前で昔を懐かしんでる場合じゃなかったな…扉を開き玄関に入ると千冬が腕を組んで仁王立ちしていた。
「…言うべき言葉があるんじゃないか?」
「…なんかあったっけか?」
「あるな、言うべき言葉が」
思いつかないんで首を傾げると、千冬は益々機嫌を悪くしていく。
家に入ったら…う~む…あぁ、そういう事か。
俺は合点がいき、やれやれと肩を竦める。
…変な所で乙女だよな…本当に。
「ただいま、千冬」
「フッ…おかえり、アモン」
千冬の機嫌は一気に良くなり、口笛でも聞こえてきそうな足取りで二階に上がっていく。
なんつーか、俺の知り合いチョロい奴多い気がすんな…ともあれ、小姑染みてて嫌だが…家の様子を隅々までチェックしていく。
正に肩透かしも良い所だった…埃こそ溜まっているものの、あの腐海が出来上がっていねぇ…。
「成長したんだな…」
「…本当にお前は失礼なやつだな!」
リビングで茫然と立ち尽くして上を向いて涙を堪えていると、背後から思い切り頭を叩かれる。
結構容赦ない拳骨で殴りかかってくるもんだから、かなり痛ぇ…少しは優しさってもんを寄越してくれてもよかろーに。
振り返ると、タンクトップにホットパンツとかなり涼しげな格好の千冬が立っていた。
「なんだ、何かおかしいか?」
「いや、べっつに~?結構好みとか思ってねぇし?」
「嘘か真か判断に困るな…今日は一泊で構わない…よな?」
周囲に視線が無い所為か、千冬は俺に縋りつくように抱き付き見上げてくる。
僅かばかりの期待の視線もあるな…そういう顔されたら断るに断れねぇっつーに…。
静かに頷けば、千冬と唇を重ねる。
子供じみた触れるだけのキスだが、今はそれだけで良い。
俺は此奴の身体に溺れてっからな…変に求めると止まらなくなっちまう。
千冬から離れて上着を脱げば、冷蔵庫を開ける。
…ものの見事にビールしかねぇ辺り此奴らしいな…。
「飲み物はビールで良いだろ?」
「あぁ、構わない…陽が昇っている内に酒とは、自堕落なものだな」
「学園じゃ先ずできねぇわな」
缶ビールを二本持ってリビングに向かえば、ソファーに寝転がる様に座って千冬を手招きする。
千冬は俺の足に座って差し出されたビールを受け取り蓋を開ける。
「おつかれさん」
「あぁ…本当にな」
軽く乾杯してビールを一口呑んで喉を潤わせる。
麦芽の香りと炭酸の刺激が、何とも心地いい。
「…アモン、私はお前が何処かに雲隠れしてしまうのではないかと思ってたぞ?」
「お前みてぇな別嬪置いていけるかよ…言ったろ、何処にも行かねぇってよ」
自然と笑みを浮かべながら、真っ直ぐに千冬を見つめる。
心底惚れられるってのは気分が良い。
んで、そんな女にゾッコンになれるってのも気分が良い…桜花にゃ感謝しとかねぇとな。
まさか、こんな良い女と知り合えるとも思っちゃいなかったし…。
「そうだが…お前は風来坊だから…風は手に掴めないものだろう?」
「…どっか逃げる時は千冬も連れてくっつーの。
「あいつはなぁ…もう少し視野が広がってくれればいいんだが」
世間一般の評価でも分かる通り、篠ノ之 束は興味を持った人間以外は雑草とかムシケラとかそう言った物に対する反応しか示さない。
つまり、無関心か嫌悪するか…酷いと罵声も浴びせて来るって言う話だ。
俺は興味を惹かれた対象らしいんで、待ち伏せとか喰らってたみてぇだけどな。
これがあの箒の姉ちゃんだって言うんだから、箒の苦労を推して知るべし…。
千冬も相当苦労してたみたいで、少しゲンナリとしてしまっている。
「私と一夏、箒とお前…世界中に何億と人が居るにも関わらずたった四人だ…あいつがマトモに認識してるのは」
「両親も認識してねぇのかよ…」
「いや…理解はしているが、どうでも良いと思っているみたいでな…」
両親も対象かよ…相当捻くれてんな…。
箒の真っ直ぐっぷりを見る限りじゃ、そんなに悪い家庭環境には思えねぇんだがなぁ…。
…いや、『あの事件』を起こすくらいだ…多分、悪いのは…。
「千冬…」
「どうかしたか…?」
俺が千冬へと手を伸ばすと、千冬は俺の身体の上に寝そべる様にして身体を預けて顔を間近に近づけてくる。
触れるべきか、そうではねぇのか…ただどうであれ俺は千冬を受け入れているから結果が変わるわけでもねぇんだが。
間近にある千冬の頬を優しく撫でながら、真っ直ぐに見つめる。
「『白騎士事件』」
「っ…あぁ、まぁ…アモンならば気づくな」
「別に責めやしねぇよ…ただ、確認したかったってだけだ。深くは聞かねぇ…ただ、決心できたら聞かせろよ?」
「…あぁ、分かった」
千冬はホッとしたような、申し訳ないような…そんな複雑な顔をして此方を見つめてくる。
多分、聞いたら誰もが理解できねぇ…そういう束の発想に振り回された結果でもあるんだろうよ。
推測だけどな。
問題はあれど、犠牲者が出なかった事件ではある…。
人類の革新に貢献したって意味じゃ偉大でもあるわけだしな。
千冬の艶やかな黒髪を梳く様に優しく頭を撫でて宥めていく。
「話さなくてもそれはそれで良いさ…秘密は秘密のままが良い事もある。それで幻滅することはねぇな…叱るくらいはするだろうが」
「…好きでいても構わないか?」
「俺はお前にゾッコンなのさ…魂を賭けても良い。そのくらいには俺は千冬を愛している」
俺にしちゃ優しい声色で千冬に語り掛ける。
正直、自分でもこんな声が出せるとは思わなかったな。
それだけ、心を許してるって事だろうが…。
千冬は俺の身体にしっかり抱き付いて、胸元に顔を寄せる。
「一夏には、悪いが…お前の傍が一番落ち着くな。太陽の様に暖かくて…」
「そう言ってもらえるのは…まぁ、ありがてぇかな…?」
千冬は俺の胸に耳を当てて、鼓動を聞いている。
家で気兼ねする必要もないからか、寮の部屋の時以上に鉄面皮が取れてるみてぇだな。
世界最強、ブリュンヒルデ…誰もが尊敬し崇拝し、模範となるべく毅然とし続けてりゃ、息つく暇もねぇだろう。
恐らく、自分がそれ程ヤワじゃねぇとも思っているはず…。
人間溜め込むときは何時だって無意識の内だからな。
少しだけ身じろぎして、千冬の顏が目の前に来るように調整して口に酒を含む。
ちっとばかしハメ外しても、咎められる奴はいねぇだろ。
「アモン…?」
「ん…っ…」
千冬を逃さない様に身体を抱きしめ、キスをすれば少しずつ酒を口移しで飲ませていく。
口の中の酒が無くなれば、そのまま舌を滑り込ませて互いに絡ませ合う。
暫くの間そうしていれば、互いに酔ったのか顔を赤くしてどちらからでもなく顏を離す。
「せっかく二人っきりだってのに、嫌な話させちまったなって思ってよ?」
「構わない…。なぁ、アモン…もう一口くれないか?」
千冬はまだ足りないと言わんばかりに熱っぽい瞳で俺を見つめ、唇に触れてくる。
触れてきた指先を軽く舐めて、悪魔らしく意地悪な笑みを浮かべる。
「千冬が飲ませてくれたらな」
「っ…良いだろう…!」
千冬は顔を赤らめながら意を決した様に身体を起こし、ビールを口に含んで口移しで飲ませてくる。
互いに繰り返すうちにヒートアップしてきた俺たちは…っとここから先は教える訳にはいかねぇか…。
少なくとも、千冬はいつも以上に可愛かったって事だけは教えておいてやろう。