インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

29 / 62
目に見える地雷

何時もより早めに起きて支度をし、家の戸締りを済ませて一緒に家を出る。

なんつーか、共働きの夫婦みてぇだなって言ったら千冬に思い切り背中を殴られた…痛ぇ。

行きの時と同じくタクシーに乗って学園に向かい、揃って職員室に向かう。

午前五時って事もあって、まだ職員室には誰もいねぇ…。

職員室に置いてあるマグカップにティーパックの紅茶を淹れて、千冬の机と自分の机に置いて互いに溜まっている仕事を片づける。

誰もいねぇとは言え、公の部分だ…子供みてぇにいちゃつく時間は終わりだ。

授業に必要なプリントの他に、連絡事項のプリントの束があったんでそれを各教員の机に置いていく。

内容は…編入生について。

今回は二人も入ってくる上に、二人とも専用機持ちらしい。

一人目の経歴書に目を通し首を傾げる。

 

「千冬、編入生の事知ってっか?」

「いや…ここの所忙しくて試験管をしていなかったからな。何か?」

「ほら、こいつ…ドイツ軍の佐官殿が入ってくるっつーから面識あるかなってよ?」

 

千冬にプリントに手渡して目を通させると、驚いたように目を丸くした後とても優し気な笑みを浮かべる。

やっぱ、知己の人間だったか…俺はそのまま書類を配り終えた後、自分の机に戻ってもう一人の経歴書に目を通していく。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒは、私が一番気にかけて育て上げた生徒だ。此奴が居なければ、私はこの場所に居ない…教師と言う立場に立つことすら考えなかっただろう」

「千冬の人生に大きく関わった娘っ子ねぇ…俺、結構拙いんじゃね?」

「まぁ、お前なら適当にあしらえるだろう…それよりも…」

「…フランスってのは、もうちょいマトモな国だったはずなんだがな」

 

二人目の編入生に大きな問題があった。

二人目の書類にとんでもない事が書いてあったからだ。

フランス代表候補生、シャルル・デュノア。

量産型ISシェア世界第三位を誇るフランスの大企業、デュノア社社長の子供。

最近まで立場上の微妙さから、あまり表沙汰にされていなかった天才。

ISは女性しか扱えない。

これは今においても実際は変わりない…何故ならば、一夏や俺が使えるのは束がISに施したプロテクトの制限を解除しているためだ。

これにより、ISは俺でも動かせるようになってる訳だな。

理由まではわからねぇがな…何かしらの意図があって、俺をここに突っ込んでるのは先ず間違いねぇ…。

話を戻すか…何が言いたいのかっつーと、俺と一夏以外の男性操縦者は現在の所『絶対に現れねぇ』っつーこった。

その上で、経歴の最後にこう書かれている。

『フランス政府の強い要望により、男子として編入させる』と。

 

「他国の学校に行くときは、男装させる決まりでもあんのか?」

「そんな訳ないだろう…一体、理事長は何を考えて…?」

 

二人して頭を抱えてため息を吐く。

誰がどう考えてもこの一件は厄ネタにしかならねぇ…しかも受け持ちは二人とも一組だ。

専用機持ちを一つのクラスに集中させるのはかなり拙い。

専用機持ちってのは、基本的にはエリートしかなる事が許されていねぇからな。

じゃぁ、そんなエリートが固まるとどうなるのか?

一組と言うクラスの神聖化だ…あのクラスはエリート集団…だから、自分たちのクラスは平凡だっつーな。

やる気を削ぎかねねぇ微妙な問題になる。

ラウラは恐らく軍出身で、言う事を聞くのが千冬くらいだろうからって事なんだろうがな。

シャルルに関して言えばそうじゃねぇ…確実に男性操縦者の情報を盗みに来てる。

IS学園におけるスパイ行為はご法度だ。

国に強制送還されて、裁判するまでもなく牢屋送り…。

間違いなく陽の目は見れなくなるわな。

女性ともなればその後の人生にもデケェ影を落としかねねぇ。

 

「さて…どうしたもんかね…?」

「どうもこうもない…私たちはあくまでも組織の歯車だ。で、あれば上の命令には逆らえん」

「逆らうのと備えをしておくのは違うだろうがよ…こいつ、まだ十五の小娘だぞ?」

「分かってはいる…だが…」

 

そう、俺たちは学園に雇われている立場。

俺なんかはクビを切られても痛くも痒くもねぇが、千冬は違う。

千冬の立場ってのは意外と微妙なもんだ…。

そのカリスマ性と確かな指導力で人気があるものの、一部からじゃ大事な試合から逃げ出した臆病者と叫ばれている。

大した事じゃねぇ…だが、それでも外聞に悪すぎる。

だったら…俺が出来る事は…

 

「まぁ、良いさ…千冬、こいつの事俺に任せてもらっていいかね?」

「いや…それは…お前は、一組とはそんなに関りが無いだろう?」

「関係ねぇよ。一組だろうがそうでなかろうが、俺の生徒でもあるんだからよ」

 

そう、関りがねぇ…教育実習生っつー肩書から教師にクラスチェンジした俺は、教科担当って事で一年のクラスの整備授業を受け持っている。

クラスにつきっきりって事態が先ず無くなっちまってる訳だ。

こうなると、一組だけでなく学年全体の人間を見る必要があるから気が回りにくい…。

だが、その分舞台裏でコソコソするにゃ丁度いいって訳だ。

自分でケツも拭けねぇガキの面倒見るのが教師の仕事だっつーんなら、やってやらなくちゃな。

 

「先ずは見極めねぇとな…ここでスパイする事の恐ろしさはよく分かっているはずだし、嫌々やらされているって線もあるからな」

「…アモン、すまない」

「おはようございます。お二人とも早いですね」

 

ガララ、と言う音と共に山田が職員室に入ってくる。

時刻を見るともう七時前だ…時間が経つのが早いもんだ。

なんだかんだで話し込んでたしな…。

 

「あぁ、おはよう山田君」

「ダーマヤおはよーさん」

「ダーマヤじゃありませんっ!」

「おう、元気なこって」

 

山田は頬を膨らませたまま千冬の隣の席に座って、朝の準備を始める。

最近、山田を変な渾名で呼ぶのが密かに楽しみになりつつある。

こいつ、小動物みてぇにプルプル怒るからな…見てて飽きねぇ。

 

「アモン、山田君で遊ぶんじゃない」

「軽いスキンシップじゃねぇかよ…」

「もっと別なスキンシップが良いです…」

 

山田はほろりと泣きながら砂糖多めに淹れたココアをマグカップに注いで、チビチビと飲んでいる。

気を取り直した山田はプリントに目を通すと、少しだけしかめっ面になる。

 

「織斑先生…これ、どういうことなんでしょう?」

「どうもこうも…政府ぐるみの陰謀なんだろう。我々としては目を光らせるしかない」

「それもそうですが、専用機持ちが私たちのクラスだけで四人になるんですよ?」

「入ってくる奴が奴だからな…こればっかりは仕方ねぇだろう」

 

一人は軍隊の佐官、一人は政府圧力でねじ込まれた娘っ子…千冬の所に問題児が集まるのは、それを御せるだけのカリスマ性を期待されての事なのは分かるんだが…。

あんまり千冬を頼られてもなぁ…こいつだって実際の所メンタルが鋼ってだけで小娘と変わらねぇ…いつかぶっ潰れんぞ。

いや、俺がそうしねぇようにサポートをするつもりではあるけどよ。

暫くすると続々と職員室に同僚達が集まり、朝礼が始まる。

やっぱりと言うかなんと言うか…朝礼の焦点は編入生に絞られた。

 

「教頭、一組に専用機持ちが集中する事態は危ういと思うのですが…?」

「今回の措置は、ラウラ・ボーデヴィッヒさんが織斑先生の教え子だったと言う事。そして、シャルル・デュノアさんはデュノア社からの強い要望で…」

「IS学園は公平公正を謳っています…それが一企業の要望だからと言って…!」

 

まぁ、こうなる事は目に見えてるわな…専用機持ちを受け持つってぇのは教師としても自身のステップアップに繋がる。

出世的な意味で。

それに、一カ所に集まるのはさっき言及した通り生徒のやる気を削ぐ結果になりかねねぇ訳だ。

一つ、モチベーションを保つ方法がねぇ訳でもねぇが、これは単純に千冬の負担を増やす結果になるんで俺は黙ってる。

その方法ってのは実習授業のローテーション化だ。

IS学園の授業は週に六日。

毎日実習授業がある訳だが、週に一回ずつ一組と他クラスを組ませる事で千冬の授業を受けさせる訳だ。

だが、そんなことすると生徒の評価をせにゃならん千冬に、全クラスの生徒を把握させる必要があるわけだ。

学年主任としての責務の他に対外交渉、果ては生徒の全把握…過労でぶっ倒れるっつーの。

口は災いの元…。

 

「理事長の判断です。シャルル・デュノアの性別に関しては他言無用です…私としても非常に不本意である事は理解してもらいたい」

「っ…分かりました…」

 

多分、フランスに関しては金が流れてる…試験自体は公正なものだったんだろうがな。

ドイツの方は、昔俺とイザコザがあったからな…関係改善に動こうとしてくるだろうし…面倒くせぇ。

動きに注意を払う必要があるし、何よりガキの未来を考えて最良の手を打たなきゃな…。

魔法で古今東西と行きてぇ所だが、それで自滅(強制送還)したら話にならねぇ。

良い感じにトラブルが積みあがってきてんなぁ…。

 

「教頭、シャルル・デュノアに関してですが、何時までも隠し通せるものではないでしょう。バレた場合はどうするんです?」

「それは…フランス政府の出方に依るでしょう…すみませんが、一組では細心の注意を払う様にしてください」

「わ、わかりました…」

 

山田が良い感じに質問してくれたものの、学園は後手の対応を取ると突っ返された。

なんつーか、とっととバレて欲しいって感じだな…。

…バレた後の対処が知れれば先手を打ちやすかったんだが…。

…貸し作りに行くしかねぇな、こりゃ。

朝礼が終わり、次の授業の準備の為に立ち上がれば千冬と山田と一緒に職員室を出る形になる。

 

「まぁ、頑張るしかねぇわな…」

「なんでこう、問題児ばかりが…」

「たはは…ですが、生徒には変わりありません!」

 

山田のこういう天然な前向き発言ってのは助かるな…。

教師がヘコたれてたら生徒に示しがつかないわな…。

職員室を出ると扉の前で件の二人が立って待っていた。

シャルルは、まぁ普通の人が見たら線の細い男としか思わねぇだろうな…。

キラキラと美しいブロンドに優し気な風貌は…まぁ、クラスの連中が騒ぐくらいの王子系イケメンだ。

女だけど。

シャルルは、柔和な笑みを浮かべて此方にお辞儀をしてくる。

 

「おはようございます。シャルル・デュノアです」

「……」

「担任の織斑 千冬だ。こちらは副担任の山田 真耶と、もう一人の男性操縦者兼整備教科担当のアモン・ミュラーだ」

「二人とも、よろしくお願いしますね」

「このチンチクリンは、なんで俺を睨んでいるかね?」

 

にこやかな貴公子風に挨拶をするシャルルと打って変わって、銀髪眼帯に俺と同じ赤い瞳のラウラは、直立不動で此方を見上げて威嚇するように睨み付けてくる。

軍隊出身だってんで、そのサマは非常にカッコいいんだが…こう、もうちょい…なぁ?

 

「貴様のご機嫌取りに派遣でもされればこうもなる」

「恐いねぇ…」

「ラウラ…教師に向かって何を言う…?」

「ハッ、失礼しました教官!再びお会いする事ができて光栄です!」

 

ラウラは千冬に声をかけられれば嬉しそうに笑みを浮かべて、千冬に敬礼をする。

その流れるような動作は洗練されていると言って良いだろう。

…敵意の切り替え方込みで。

やべぇ、すげぇ頭痛がしてきた…。

 

「私なんか眼も合わせてくれないんですから…」

「それはそれで問題だろ…」

「あはは…」

 

山田と一緒に耐え息をつきながら肩を落とすと、シャルルは憐れむような乾いた笑い声を上げる。

ラウラの切り替えっぷりに呆れてもいるように見える。

見てくれ良いんだがねぇ…経歴にあった二つ名通りだな…。

確か、『ドイツの冷氷』だったか。

 

「機嫌取りなんざ要らねぇよ…そもそも技術を開示するつもりなんざねぇんだからな?」

「そうか、本人からそう言ってもらえると助かるな、Arschloch(屑野郎)

「…ラウラ、敬意を払え。この男は私よりも強いんだからな」

「やーめーろーよー、千冬。…気にしねぇしさ?」

 

千冬は俺に対する罵倒に私情を必死に抑えつつ、こめかみに青筋を立てながらラウラに注意する。

そのサマは阿修羅も真っ青ってやつだな…事実として、シャルルも山田も顔が真っ青だし。

対してラウラは少々不満顔だ。

これはアレだな…千冬を崇拝するあまり周りが見えなくなってるタイプかもな…。

 

「教官、私は納得いきません!」

「ラウラっ!」

「盛り上がってるところ悪ぃけど、SHR始まるからな?」

「そ!そうですよ!急ぎましょう!そうしましょう!シャルル君!行きますよ!!」

「え!はっはいぃっ!」

 

山田は早くこの空気から脱したいのか、シャルルの手を掴んで小走りで廊下を進んでいく。

どんだけビビッてんだよ…?

千冬は片手で顏を覆い深くため息を吐く。

 

「ラウラ…頼むから、問題を増やしてくれるなよ?」

「了解しました」

「あと、織斑先生と呼べ」

「いいからとっとと教室行けよ…」

 

動物を追い払う様に手を振り、ため息をつく。

こりゃ…思ってたよりも苦労しそうだな…。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。