インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
「さってとー…ちぃっとばかし参ったな…」
都市近郊の軍事施設に来てから早三日…教会廃墟内の死体を見たドイツ軍の生真面目共は一斉に俺に銃を向け拘束した。
千冬の制止も意味を成さない…まぁ、軍属でもましてや国民でもなきゃ当たり前だわな。
後ろ手に手錠をかけられて、大事なトランクも没収されちまった。
本当なら暴れるなりなんなりして抜け出しても構わなかったんだが、そうすると今居るユーラシア大陸での行動に大分制限ができちまうからなぁ…。
俺としちゃ逃亡生活なんて息が詰まる生活するより、地方を回って大道芸でもやってた方が良い。
で、大人しく連行されりゃ一日の大半を使って延々とつまらねぇ尋問合戦だ。
やれ『武器は何を使った?』だの、やれ『トランクの中身はどうした?』だの馬鹿正直に答えるのも阿呆臭かったんで、適当にあしらってりゃ暴力沙汰にまで発展する始末…犯人共がお陀仏になっちまったんで、俺に誘拐犯のレッテルを貼り付けたい欲求が見え隠れしてやがる。
「あー…いってぇ…手加減なしっての問題なんじゃねぇか?」
深夜遅くまで続いた尋問は一時中断となって、寝床代わりの営倉へと戻ってくる。
雨風凌げるんでベッドが堅かろうと何も問題は無い…強いて言えば食事の質だな。
容疑者扱いの俺にくれてやる飯は無いらしい…うっすいトマトスープとクソかってぇ黒パンだけとか…舐めてんのかよ…出るだけありがてぇけど。
「あー…わびしい…肉、食いてぇ…牛、牛、豚、鶏、牛、牛の順番でがっつきてぇ…」
こっちの世界に来て初めて口につけたメニューがさっき言った二品だ…泣けるぜ。
黒パンを一口大にちぎってはスープに入れてをモソモソと繰り返し、パンにスープを吸わせて柔らかくする。
こうでもしねぇとパンが咀嚼できねぇんだよ…クソが。
「いただきます…」
一応この世界の恵みにゃ感謝して、ほぼ作業の様に飯を食っていく。
こっから出たら美味い飯食いに行こう…具体的にはドレスコードが必要なレストランとか。
ぼんやりと不味い飯を食べ終えて食後の挨拶を済ませる。
いただきますとごちそうさま…大事な挨拶なんだぜ?
食事の乗っていたトレーを乱暴に扉の搬出口に出し、ベッドに寝転がるといきなり営倉の扉が開く。
「起きろ」
「んだよ…また意味のねぇ尋問か?」
ゆっくりと体を起こし、深く溜息をつく…癖で煙草を取り出そうと懐に手を伸ばすが、コートも没収されていて無いのを忘れていた…。
あー…吸いてぇなぁ…欲望が後から後から湧いてきやがる。
「黙ってついて来い」
「へーへー…わーったよ」
欠伸をかみ殺しながら立ち上がり、銃を持った兵士の後をついていく。
まったく…こんな時間に何をやらせるんだかな?
暫く歩いていると、ある部屋に通されて椅子に座っているように命令される。
暴れてもメリットがないので言われるがままに座り、机の上に足を乗っけて待つ。
どれくらい待ったのか…んにゃ、大して待ってないな。
ヤニ切れで時間の感覚がちっとばかし悪くなってやがる。
扉が開き、現れたのは俺の荷物を持った織斑 千冬だった。
「すまない、遅くなってしまった」
「なんで千冬が此処にいるんだよ?モンド・グロッソ終わって弟と帰国したんじゃねぇのか?」
現れた人物を見て、慌てて足を降ろした俺は千冬の様子を訝しがる。
な~んか、気にしてやがんな…。
「帰国したのは一夏だけだ…お前のことをどうにかしよう、とな」
「大概、千冬も生真面目だねぇ…その内諦めて追い出されんのは目に見えてるだろ?」
「一夏の恩人をそのままに知らん振りすることが出来るほど、私は薄情ではないのでな」
千冬はフッと優しげな笑みを浮かべて此方を見つめてくる。
化粧で誤魔化してるが、目の下にクマができてんな…不眠不休で俺を此処から出す算段つけてたってぇのか…?
「千冬からはキチンとお返ししてもらったろーが…」
「だが、一夏からはお返しをしていないだろう?アモン…貴様が何処の誰であろうと私達は受けた恩を返す」
「…ったく、良い姉貴持ってんな…一夏の坊主は」
目の前の生真面目な女を見ていて可笑しくなってしまったのか、俺は静かに笑う。
いや、中々珍しいもんだと俺は思うぜ?
「…貴様の身柄は私の方で預かることにした。他のやつらに任せたら今の顔より酷いことになりかねんからな」
「あー…まぁ、気にすんなよ。大して痛くもねぇし」
俺の顔には殴られた痕がいくつかある。
まぁ、多少なりとも反抗的な態度を示してたしな。
口で負けて手を出す姿ってのは、中々滑稽なもんだったがよ。
「で、俺の身元引受人になったからには何かウラがあるんだろ?」
「あぁ…二年程此方でISの訓練教官を行うことになっている」
「…いいのか?」
「構わないさ。それにここいらが潮時だろう…次は一夏の身が安全だと言う保障もない。有名人と言うのは辛いものだな」
そう言って笑う千冬の顔には悔しさと諦めが混ざっていた。
こればっかりは、どうしようもねぇな…。
引退、か…それも不本意な形での。
「こっちに滞在する形になるので、一夏を家に一人にしてしまう事になる。そこで、だ…厚顔無恥も甚だしいのだが、一つ頼まれてはくれないだろうか?」
「お前が留守の間、面倒見てくれってか?いいのかよ…俺みたいな怪しさ全開の奴に面倒を頼んで」
一人にする、と言う事は両親がいないんだろうな。
たった一人の肉親になるわけだ…そんな人間を俺に任せる、ね…。
「あぁ…貴様が誘拐犯を皆殺しにしてケロリとしているのも知っている。だがな、本当に冷酷な人間は見かけただけの誘拐事件を追って助けようとはしないだろう?アモンは、相当な御人好しだ」
「ぐ…ったく…千冬も物好きだねぇ…。分かった、一夏の面倒は引き受けてやる」
あんな真っ直ぐな目で見られたら断るに断れねぇよ…別嬪だしな。
あーあ…面倒ごとに首突っ込んじまったよ…。
ガキの面倒はロボの十八番だったんだがなぁ…。
「すまないな…助かる」
「で、いつからだ?」
「今週中にはこっちを発って日本に向かってもらいたい。その為の手続きは此方でしておくから、アモンは荷物を纏めてもらえればそれで良い」
面倒な手続きをしてもらえるのは助かるな…まぁ、荷物纏めるっつっても一張羅のコートとボロトランクくらいしか無いからすぐに済んじまうが。
「あいよ…千冬、忙しくなるんだろうが…偶には一夏に顔見せに帰って来いよ?」
「あぁ…たった一人の大切な弟だからな」
優しげな笑みを浮かべる千冬の顔に思わず見惚れてしまう。
割と美人だけどキツイタイプの人間だと思っていたからな…ああ言う顔は何だか以外っちゃ以外だ。
「む…なんだ、私の顔に何かついているか?」
「いんや、綺麗な笑顔だったんで見惚れてただけだ」
「っ……!!」
至って真面目に答えてやったら、千冬は顔を真っ赤にして言葉を詰まらせる。
…可愛いところあるじゃねぇか。
「ふざけるな!何かと思えばからかって…!」
「こちとら大真面目だっつの」
千冬は顔を逸らしぶつくさと文句を言い続ける。
まだまだ若ぇなぁ…ハハハ。
千冬と談笑を続けていると、兵士が部屋にやってきて俺の持ち物を机の上に置いていく。
若干緊張してんな…大方千冬に失礼が無いように、と厳命でもされたんだろう。
随分ビビッてんな…それだけ千冬は価値ある人間だってことだな。
立ち上がってコートを手に取り袖を通す…やっぱ落ち着くな。
「なぁ…夏でその格好は暑くないのか?」
「いんや?これ『通気性』抜群なんでね」
「そ、そうか…」
千冬は呆れ顔で此方を見つめてくるが俺は気にしねぇ…大体皆そう言う反応するしな。
首をゴキゴキと鳴らして懐から煙草を取り出し口に咥える。
口寂しさからもおさらばだな。
「此処は禁煙だぞ?」
「咥えるだけだよ…三日も咥えてねぇから落ち着かねぇんだ」
「無類の愛煙家か…私の家をヤニ塗れにしないでくれよ?」
「善処するよ」
にぃっと笑いながらトランクを開く。
中に変なもん仕掛けられてねぇし、持ち出された形跡もねぇな…まっ一般人にゃ中身が分からないように幻術で加工してある。
常人が見たら発狂しちまうからな。
「そんな空っぽのトランクでよく旅ができるな…感心する」
「ま、大道芸で手に職ある状態だからな…それに嵩張るもんは持ち歩きたく無い」
「大道芸一本で食うと言うのも凄いと思うが…今のご時勢なら特にな」
ご時勢…ねぇ?
思ってたよりもISの影響で複雑な社会体系になっちまってんのかもしれねぇな…その辺りは一夏と暮らしてから調べれば良いか。
千冬は立ち上がって一台の携帯端末…スマホを差し出してくる。
「連絡が取れないのは不味いからな…今日からコレを使ってくれ」
「応、助かるわ…なんせ根無し草なんでそう言ったモノが持てねぇんでな」
実際にはこの世界の住人じゃないから…なんだが。
まぁ、誰も信じないわな…どうもこの世界はそう言った魑魅魍魎とは無縁みてぇだし。
「使い方は分かるな?」
「其処まで馬鹿でもねぇよ。安心しろ」
スマホを懐にしまって、トランクを手に持つ。
とっとと此処からオサラバしちまうか。
「手続きが終わり次第連絡する…今夜はどうするつもりだ?」
「適当に酒かっくらって安宿にでも泊まるさ。それとも飲み比べでもすっか、お嬢さん?」
「ほう…それは私に対する挑戦状と受け取ったぞ」
「よし来た!んじゃ、行くとすっか!!」
千冬を先頭に軍施設を出た俺たちは、監視付きとは言え意気揚々と街へと繰り出す。
千冬はクールな見た目とは裏腹にとんでもねぇ酒豪だった…ついでに酒を飲むと言う事が支離滅裂になっちまうのも面白かったな。
国の代表の重圧だとか弟のことか…ある意味それらが無くなってホッとしちまったのか、大分気が緩んでいたみてぇだが…。
時は流れて俺は千冬との約束通り、日本へと足を伸ばした。
ニュースや新聞を見る限りじゃ、相当な千冬バッシングが続いてるみてぇだ…。
しかも政府側は事実を隠蔽して、試合を一方的に棄権したと発表する始末…嫌な予感がするな。
「この辺のはずだよな…」
空港から電車で乗り換えこみで二時間…何度寝ちまう所だったか…漸く織斑姉弟の家がある町に到着した。
駅前のバス停で待ち合わせって事だったんだが…まだ一夏は来てないみてぇだな。
バス停近くのベンチに座り、ぼんやりと空を見上げる。
千冬の奴…上手くやって…るか…まがりなりにも世界最強なんつー肩書き持ってるわけだし。
「あ!!アモーン!!」
「応、来たか…元気そうじゃねぇか!」
煙草を吸いたい衝動を抑えながら十分…一夏は手を振りながら此方へと駆け寄ってくる。
見た感じ、元気そうでちっとばかし安心する。
行き過ぎたファンってのは親類にも牙剥いたりするからな。
「まぁな!そっちこそ、なんか…俺の為に来てくれてありがとう」
「成り行きっちゃ成り行きだ…たまにゃ根を張って生活すんのも悪くねぇさ」
行こうと顎で指し示し、一夏と並んで織斑宅を目指す。
…時折通行人が一夏を睨んでいるな…有名人ってのは辛いもんだな。
「一緒に暮らすにあたって、何かルールってのはあるのか?」
「あー、そしたら家事は隔日で分担していくことにしたいんだけど…」
「構いやしねぇよ。働かざるもの食うべからずってな」
「ははっ、ありがとう」
…ガキってのは追い込まれてる状態の見分けってのがつきにくい。
特に一夏みてぇなタイプは周囲に迷惑かけねぇようにするのに気を使いすぎるからな。
暫く歩いて織斑宅が見えたとき愕然とした。
ゴミやら落書きやら…酷いと石まで投げ込まれてやがる。
「おい…どういうこった?」
「千冬姉のファンだった人たちだよ…決勝戦棄権が気に食わないって…政府も隠蔽しちゃってるし、緘口令だって敷かれてる…耐えるしか…ないんだ」
「あんまりいい子ちゃんやってんじゃねぇよ…ったく」
一夏の頭をワシワシと撫でながら、どうしたもんかと頭を悩ます…。
一先ずやることは決まってんだが。
「一夏は家ん中片付けろ。ガラス割れてっから手ぇ切るなよ?」
「…わかった」
一夏は力なく頷き、家の中に入っていく。
どうにも国ってのは発展しすぎると腐っていけねぇな…。
こりゃ、千冬に相談してほとぼり冷めるまでドイツで暮らすことも考えたほうが良いかもわかんねぇな。
指の関節を解しながら家の敷地に入り、トランクを庭に放り投げる。
大道芸じゃねぇから、派手に動かすとすっか…。
トランクの中から四体分の人形のパーツが飛び出し、こっちの世界で言うヴィクトリア調のメイド服を着た女性へと組み立たせる。
「さってと…忙しくなんぞ…」
片手で二体分…それぞれ独立した動きでメイドを操作し、清掃と庭の手入れを行っていく。
引き受けたからにゃぁ、一夏をキチンと守ってやんなきゃな…。
そんな事を考えながら、日本での生活初日は清掃で幕を閉じるのだった。