インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
「さて、困ったもんだねぇ…」
「自分で刺激しておいてよく言う…」
俺と千冬は、グラウンドのベンチに腰掛けて弁当をつついている。
今日は手作りのシューマイをメインにしたシューマイ弁当をこさえてみた。
箸でシューマイをとって口に放り込み、思案しながらよく噛んでいく。
シャルルに関しては、恐らく楯無のやつがフランスとデュノア社に内偵を放り込んでいるはず…念は押しておくが、有益な情報と仕込みを期待できるだろう。
とりあえず、俺が動くのはアイツの性別がバレたタイミングで良いだろ…ネゴは吸血鬼の方が得意なんだが…。
まぁ、四の五の言っても仕方ねぇし、あいつを呼んだら最悪残らず搾り取りそうだからな…。
目下問題なのはラウラの方だろう…あいつ、今千冬に聞いたんだがSHRの時に一夏に殴りかかったらしい。
幸い、あからさまな敵意を発していたからか、一夏は直ぐに反応して腕で防いだって事らしいが…。
「ラウラはよ…多分、お前が大好きなんだろ」
「慕ってくれているのは理解している…」
千冬は水筒から冷えたウーロン茶をコップに注いで一口飲めば、深くため息をつく。
ラウラは本当に手塩にかけて育てていたんだろう…千冬も千冬なりに思うところがあるんみてぇだ。
早々に昼飯を食い終えた生徒がグラウンドで遊んでいるのを眺めながら、口を開く。
「あいつ、お前に指導されてメキメキ才能を開花させただろ?」
「あ、あぁ…」
「ラウラは、導いてくれた千冬に傍に居て欲しいのかもな…」
千冬は、きちんとラウラと向き合って訓練を施したんだろう。
ラウラはそれに応えて、実力をつけていった…なら、指導してくれた千冬に強い想いが生まれるのも分からねぇでもねぇか?
ドイツ軍との契約満了で日本に戻った後もラウラは、千冬に近づこうと…。
「こりゃ、アレだな…千冬の模倣だ」
「模倣?」
一夏とはまた違った、千冬への憧れ…正確には、千冬の持つ実力への憧れってところだろうか?
プライドが高く、自身の地位に絶対の自信を持ってんのも、それが自分の実力だと目に見える形になって存在してるからだろう。
もちろん、誇る事が悪いわけじゃねぇ…ただそれを笠に横暴を働くってのも違うだろ…。
「千冬の様に強くありてぇ…だから、千冬の様に振舞えば強くなれるかも…くらいには考えているかもな」
「それは…無理だろう」
「無理だな、他人は所詮他人だ。他人の生き様なぞったところで同じようになれる訳がねぇ」
自分の生きる道で精一杯の人間が、他人の真似で強くなれるほど世の中甘くはできてねぇだろうさ。
強くなりたきゃ、自分なりに強くならなきゃならねぇ…それは少なくとも、模倣なんかで手に入るものじゃねぇ。
偽物は本物に迫る事ができても、所詮は偽物…本物には及ぶことができねぇ。
本物に勝ることができないんじゃねぇ…本物に『成る』事ができねぇんだ。
「力に酔ってんのもあるな…千冬、もしかしたらドイツ軍に戻ってきてくれとか言われるかもしれねぇぞ?」
「まったく…お断りだよ。交換条件で教官に就くと言う契約だったと言うだけだし…教師になろうと思えたのは、ラウラのお蔭だったが」
「自分の手で育っていくのが目に見えて分かったからか?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、水筒からウーロン茶を注いで千冬を見つめる。
確かに、成果が出てくると人間嬉しいもんだ。
千冬の場合、短期間での実力アップを求められたのだろうし詰め込むもん一気に詰め込んだんだろう。
心構えも無しに。
まぁ、軍人だから心構えありきってのもあるんだろうが…。
「千冬、ラウラの経歴…あの書類に書かれてるのが全部か?」
「…お前のその妙な鋭さはなんなんだ?」
「伊達に長生きしてるわけじゃねぇんだよ…。あのな、人間の目が紅くなるのはアルビノくらいしかいねぇんだ。だけど、ラウラはアルビノじゃねぇ…ってことは何か弄られてるって考えるのが普通だろ?」
仮にアルビノだった場合、ラウラは太陽光を浴びる訳にはいかねぇ…そんな人間が軍の部隊長とか笑い話にしかならねぇよ。
俺の目も同様に赤いが、これは堕ちた証みてぇなもんだ。
呪い…っつーかなんつーか…俺の本来の瞳の色は黒だったんだが、悪魔扱いされるようになった時から瞳は血の様に赤く染まった。
まぁ、気に入ってるから別に良いんだけどな。
「アモンも赤だろう…?」
「悪魔だから人間とは作りが違うのさ」
「はぐらかしてないか?」
千冬は唇を尖らせて、こちらを睨み付けてくる。
普通っだったらあ冗談にしか聞こえねぇからな…真実を口にしてやってんのにな…。
ごちそーさんと手を合わせて弁当箱を片づける。
「千冬、俺はいつだってマジな事しか言ってねぇよ」
「それは…」
「少なくとも、大切にしてる奴らにゃ嘘を吐きたくねぇ」
水筒の中身を空にするために、千冬のコップと自分のコップにウーロン茶を注いでいく。
俺だって嘘を吐くくらいはする。
だけど、最低でも…愛しているやつくらいには嘘は吐きたくねぇ…。
優しかろうがなんだろうが、嘘は傷つけるものだからな。
「話を戻すか…ラウラの本当の経歴は、ドイツ軍の守秘義務に守られてるんだな?」
「…あぁ、そう思ってくれて構わない。国内でも一部の人間しか知らない事だしな」
「まぁ、それだけで答えを言ってるようなもんだがよ」
デザイン・ベイビーってやつだろう…受精卵をあーだこーだして、必要な能力を高めるってやつ。
神への冒涜ってやつだな…まぁ、人間ってのは俺を堕とす程度には欲深だからねぇ…。
ラウラみてぇな存在に罪があるわけじゃねぇがな。
「憶測で話を広めてくれるなよ?」
「俺はそんなに口が軽い男だったかね?」
「歯が浮くような言葉は吐くだろうが…」
さってなんの事やら…。
軽く肩を竦めてウーロン茶を飲んでいると、背後からいきなり声をかけられる。
「せ~んせ!是非ともその歯が浮く言葉をお聞かせいただいても!?」
「黛か…言うとでも思うのか?」
「是非とも新聞部の為にご協力を~」
「っつーか、テメェは忍者か!?」
いきなり声をかけてきた人物…黛 薫子は整備課所属の二年生のエースだ。
こいつは組み立ても分解も仕事が丁寧で、中々好感が持てる。
分解の布仏 虚よりも優秀になれるだろうよ。
こいつの場合何が問題なのかって言ったら、凄まじいまでの野次馬根性だろう。
ネタと思えば即参上。
取材と称した出歯亀で根掘り葉掘り聞いた後、面白くなければ記事を捏造する…言ってはならねぇけど、あえて言う…マスゴミだ。
「忍者ではなく、一介の新聞記者ですよミュラー先生」
「ネタを捏造しておいてよく言う…」
「先生たちのキスシーンもばっちりだったでしょう?」
キスシーン…屋上で千冬と飲んでた時のか…。
千冬は持っていた箸を指の力だけでへし折り、凄く良い笑顔で黛を見る。
触らぬ神になんとやら…くわばら…くわばら…。
「ほう、よもやパパラッチがこんな所にノコノコと現れるとは思わなかったな」
「お、織斑先生?」
「黛、とっとと退散した方が身のためだぞ…?」
俺はゆっくりとウーロン茶を飲みながら空を見上げる。
梅雨だってぇのに澄み渡る青い空が眩しいもんだ…。
「すこし、話をしようか…黛?」
「あ、あはは~…どろんっ!」
「待て!黛ぃっ!!」
明日も晴れると良いんだがねぇ…。
俺はそんなことを考えながら、すぐ隣で起きた修羅場から目を逸らすのだった。
結局のところ、ラウラは午後の授業にはきちんと出席した。
曲がりなりにも千冬の教え子としての矜持があったのかもな…指示こそ聞くが敵意ダダ漏れで恐かったが。
ラウラのフォローにはフランマをあてがい、ラウラの言動に注意を払ってもらった。
これがスティーリアだった場合、俺に向けられる敵意を止めろと口論になる所だからな…後でフランマにアイスを買ってやろう。
授業を終えた俺は、整備室の片づけを行い一人で煙草を吸う。
仕事を終えた後の一服ってのは沁みるねぇ…。
ゆっくりと煙草を燃焼させて、煙を吐き出す。
「ちょっと、ここ禁煙なのよ?」
「おっと、そりゃ悪かったな」
整備室の扉が静かに開かれて、楯無が中に入ってくる。
こっちから生徒会室に赴こうと思ってたんで丁度良いな…。
「大体、俺が言いてぇ事はわかってんだろ?」
「えぇ…だから私から赴いてあげたの、感謝しなさい」
楯無は扇子を開いて口元を隠すようにしてクスクスと笑う。
俺を見る目は、権謀術数の大好きな魔女と同じ目だ…なんか、企んでやがるな…。
量子化していた携帯灰皿を取り出して、煙草をもみ消して捨てる。
「フランスの方の探り、どうなんだ?」
「どうもこうも無いわよ…あからさま過ぎて罠に思えるほど…むしろバレるようにしてるのかもしれないけど」
「へぇ…?」
「まぁ、ここから先は…商談と行きましょうか」
楯無は目を細めて、俺を値踏みするかのように見つめてくる。
何かを得るには何かを手放す必要がある。
人間も悪魔も…神でさえ、この法則からは逃れられねぇ…。
生きとし生ける者は、両手に持つものだけで精いっぱいって事の表れだな。
「そうねぇ…今回の代金は…」
「貸しって事で良いぞ?」
「は?」
俺はヘラヘラとした態度で、今回の代金を提案する。
貸し、である。
だが…聞く人間にとってはこの言葉は非常に旨味を感じる言葉だ。
なんせ、篠ノ之 束ですら開発できないとされる完全自律稼働の人形を作れる唯一の存在に対する『何でもしてあげる券』だからな。
「この貸しをお前個人で使うのか、学園に使うのか…それとも国に使うのかは自由だ」
「ちょっ…たかだか生徒一人に…貴方正気?」
楯無は信じられない珍獣を見たかのような目で俺を見つめてくる。
ひでぇな、おい…。
「デュノア社もフランスもロクでもねぇ事考えてんのは間違いねぇだろ。最悪シャルル…いや、シャルロットか…蜥蜴の尻尾斬りにされて豚箱送りだぜ?IS学園に対するスパイ行為は、一切の例外を認めねぇ…公平さを保つ為にな」
「えぇ、その通りよ…でも、だからと言って貴方が身を挺して庇う様な存在かしら?」
「教師ってだけで理由は充分だろ…彼奴は生徒として此処に編入してきた『何かの手違いで性別を間違えて』な」
楯無は心底可笑しくなったのか、腹を抱える様にして笑い始める。
目じりに涙が溜まってるあたりガチ笑いじゃねぇかよ…。
ジト目で楯無を睨み付けると、楯無は漸く笑い終えてキリッとした顔で此方を睨み付けてくる。
「貴方、普通の人じゃないわ」
「言ってるだろ、悪魔だってな」
「悪魔にしたって普通じゃないわ…フフフ…変な人ね」
「で、どうなんだ?」
シャルロットはまだ若ぇ…国や企業に喰い潰されて良いような大人じゃねぇんだ。
ガキはガキらしく青春を…一瞬の輝きの様な青春を謳歌すべきなのさ。
ここなら、それが出来る。
出来るだけの建前もあるしな…。
「あのねぇ、貸しなんて言われたら内容に釣り合わないわよ。物事はバランスが取れているからこそ成り立つの…だから、貸しは貸しでも個人的な貸しにしておいてあげる。だから、期待してるわよ簪ちゃんとの橋渡し役!」
「ウヘェ…」
楯無はグルグル目で興奮気味に簪との仲を取り持つように迫ってくる。
これがシスコンを拗らせたやつの末路かよ…私情マシマシで信用できんのか…?
とは言え、コネも何もねぇ俺よりも日本の暗部組織『更識』に動いてもらった方が楽に行くのは間違いねぇ。
楽して悪いことはあんまりねぇからな。
「あっ、でも一つ条件をつけて良いかしら?」
「条件?」
「そう、だって…貴方シャルロットちゃんの意向も聞かないで動きだすつもりでしょ?」
俺は楯無の言葉に静かに頷く。
即断即時速攻即決…何事も速く行動した方が良いのさ…時間は待ってくれねぇ。
気付いた時には手遅れでした…なんて目もあてらんねぇよ…。
特に、こういった案件はな。
「無駄足踏まれても困るのよ…ミュラー先生には学園になるべく居てほしいのだから」
「防衛上のってやつか…まぁ、分からんでもねぇな」
「そういう事。だから、シャルロットちゃんが心から救いを求めた時に行動して…それが生徒会からのお願いよ」
「
そう、あいつはある意味神がかってる…弾なら涙を流しながら神に感謝する様な惨状に遭遇しちまう。
今日の山田の時なんか序の口だ…扉を開けたら女子が着替えてましたとかそんな事もあったからな。
被害者?
鈴だよ…。
「そんなに酷いの?」
「今日は事故で山田の胸を鷲掴みにして揉んだな」
「うわぁ…女の敵ね、簪ちゃんから遠ざけておいてちょうだい」
「お前はそればっかだな…」
むしろ楯無の方が簪と距離を取った方が良いんだが…今は黙っておこう…実行犯になってもらうわけだし。
軽く眉間を揉んでため息を吐く。
こいつの性癖に関しては、突っ込むだけ野暮ってもんだ。
「簪ちゃんは私の全てなのよ!女の敵なんて近づくだけでギルティよ!」
「……まぁ、良いや。したら、事が動いたら連絡するわ…」
「えぇ、分かったわ。貴方も、報酬忘れないでよ?」
「へ~へ~…善処はしてやんよ…」
俺は力なく肩を落し、整備室を出ていく。
本当、能力は優秀なんだけどなぁ…。