インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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苦心するまおーさま

シャルロットやラウラが編入してきてから五日…その間目立った小競り合いも無く、かといって進展があったわけでもねぇ穏やかな日々が続いた。

穏やかと言っても、教師は突然の学年別トーナメントのルール変更の調整に追われたんだけどな…。

学年別トーナメントをタッグマッチ戦とする。

これは理事長からの提案だった。

理由としては、先日の無人機襲撃事件が原因だ。

仮に今までのルールの最中に襲撃があった場合に即時対応ができるのが二機になっちまうが、タッグマッチなら最大で四機対応できる形になる。

上手く連携が取れれば、その間に教師が戦闘に介入して鎮圧できるって訳だな。

それに、これは一組にとっても旨味になるかもしれねぇ。

言うまでもなくラウラの件だな。

アイツはこの五日間授業を欠席する事は無かったが、かと言って俺だけでなくクラスメイト達にも歩み寄りを見せたわけじゃねぇ。

只管に孤高であろうとし続けていやがる。

あまりにも近寄るなオーラが強いんで、あの本音ですらお手上げ状態だ…。

どうしたもんかねぇ…?

 

「先生、ここはこれで大丈夫、ですか?」

「んぁ…おう、大丈夫だな。不安だったら部分的にエネルギー通してみろ」

「わかりました」

 

今日は土曜日…土曜日は半ドンなんで、午後から簪のIS組み立ての監督をしてる。

もちろん、監視カメラからこう…邪念を感じる中でだが。

仕事してるんだろうが、もうちょい何とかならねぇかねぇ…?

 

「お姉ちゃんは、無視」

「アッハイ」

「妹離れできない、困ったお姉ちゃんだと思う…」

 

簪は伊達メガネのズレを直しながら黙々と作業に従事している。

今回、あんまりにも倉持技研が仕事してなかったんで、スティーリアを貸し出してる。

多少の作業を効率化させるためだな…基本的に無駄口叩かねぇし。

フランマ?

あいつはこの間の授業でやたらと生徒に人気が出ちまって、今は仲の良い生徒達の訓練に付き合ってやっている。

まぁ、あの性格ならすぐに溶け込むわな…。

 

「簪、この部分はこの様にすると稼働効率の向上が見込めると思いますが…」

「少し、説明をしてもらっても…?」

「はい、これは――」

 

基本的にスティーリアにしろフランマにしろ、俺と知識の共有はできている。

勿論、最近出番のねぇスカーレットもだ。

俺の作るオート・マタには、そういう風に知識の共有自体はしている。

ただ、それを活かせるかどうかは固着した魂次第って所があるんで、必ずしも必要ってわけでもねぇんだが。

ただ知識の共有が出来てるって事は、戦闘においての連携を取りやすくできるメリットがある。

別に殺人人形を好んで作ってる訳じゃねぇけど…まぁ、可愛い娘にゃ自衛能力が欲しいからよ…。

親バカって言うんかねぇ?

 

「ふ~む…」

 

簪達が作業する横で、俺はアプリストスの整備を一人で進める。

例の無人機…もっと言えば、それに使われていたロスト・ナンバーのコアが凍結状態になっている。

これはちっとばかし恐ぇ問題だ。

何故なら、コアのオンオフを束が握っていると言ってるみてぇなもんだからな。

もし…もし、彼奴が俺の事を危険視してコアの動力を切る事態になったら…?

それが、命をかけた戦闘中だったとしたら?

…足手まといにゃなりたくねぇからな。

勿論、生身でもこの世界の誰にも負けねぇ自信はある。

だが、そんな事してみろよ…化け物扱いはその通りだから仕方ねぇとして、千冬がその煽りを食らっちまう。

面白くねぇ事が起きるのは間違いねぇだろうな。

なら、彼奴の男として困るような事にはならねぇようにしねぇとな。

 

「簪、コアと機体の関係は分かるか?」

「え…えっと、コアが人間で言うところの心臓で、機体が骨や肉…ですよね?」

「その通りだ。で、そのことを踏まえて聞くが…馴染んだ機体からコアを抜いて再度接続した場合どうなると思う?」

「それは…」

 

簪は不思議そうに首を傾げて手を止め、此方を見つめてくる。

この部分は今の時期の授業じゃあまりやらねぇ話題だし、軽くスルーされる。

正式に学ぶのは二年の整備課授業の時だ。

基本的に専用機からコアを抜くって馬鹿な事はやらねぇしなぁ…。

 

「単純な話、一度離れたコアを同じ機体に戻しても馴染まねぇ。コアが馴染まなかった場合、機体のエネルギー循環効率が七割くらいにまで落ち込む形になる」

「七割…そうなると、単一仕様能力も…?」

「応、起動できるが起動時間が短かったり弱かったり…まぁ、散々な状態になるな」

 

誰だって、臓器移植したら激しい運動ができるわけじゃねぇ。

つまり、ISもまた人間と同じようにデリケートな存在な訳だ。

俺は、アプリストスからコアを引き抜き簪に見せる。

 

「せ、先生!?」

「心臓だなんだって言っても、こいつがISの心に該当する部分には違いねぇ」

「冷静に、解説してる場合じゃ…!?」

 

簪はアワアワと慌てながら俺に詰め寄り、ポカポカと俺の胸元を叩いてくる。

スティーリアはそんな簪の肩を優しく掴んでグイッと引き寄せる。

 

「私のマスターが意味もなくコアを抜くとは考えられません。何か考えがあっての事です」

「で、でも…そんなことしたらアプリストスが…!」

「まぁ、確かにその通りなんだけどよ…」

 

再移植してからおよそ一か月はパワーダウンするのは間違いねぇ…。

ただ、アプリストスにはBTドールであるスティーリア達が居るんでそこまで危惧する必要はねぇ。

此奴ら、独自に動けるしな…発表はしてねぇけど。

 

「簪、コアを引き抜いたってぇのは俺と簪だけの秘密だぞ?」

「ひ、秘密…」

「…事案ですね」

「スティーリア、何でもかんでもそう言うんじゃねぇよ…」

 

どうも、二人だけの秘密って言葉に簪は顏を赤くしてドギマギとしている。

青春だねぇ…。

ともあれ、コアを引き抜いたのはキチンと考えがあっての事だ。

コアが俺の考え通りの存在であるならば、もしかすれば…。

勿論最悪の事態に備えて最低限の用意はしてある。

だが、使わねぇに越したことはねぇからな…やれることはキチッとやっておかなきゃならねぇ。

 

「兎に角、この事は秘密だ。良いな?」

「は!はい…!」

 

簪はコクコクと頭を縦に振って、嬉しそうに笑みを浮かべている。

スティーリアは何か呆れた様に肩を竦めて、簪の肩を指先で叩く。

 

「おしゃべりはお終いにしましょう。簪、組み立てを急ぎますよ」

「す、すみません。頑張り、ます!」

 

簪は直ぐにハッとして気を取り直し、また打鉄弐式の組み上げに戻っていく。

武装モリモリ重武装(コマンドー)仕様から脱した打鉄弐式は、それでも過剰な火力を有した機体に仕上がる予定だ。

第三世代技術『マルチ・ロックオンシステム』を使用した六機×八門のミサイルポッドからなる最大四十八発同時発射可能の独立稼働型誘導ミサイル『山嵐』。

仮に全弾ヒットした場合、重装甲の機体でもない限りシールドエネルギーを削り切ることができるだろうな。

この武装は元々打鉄弐式の基本パッケージとしてデザインされていたらしく、倉持でも設計まではできてたって事だ。

将来的にはこの機体が、日本の防衛を担っていくわけだ。

ただ、問題がある。

それは、マルチ・ロックオンシステムのプログラムが一切手付かずで放置されてるって事だ。

簪はプログラミングが得意だから大丈夫だっつってたが…実際はかなり難航するだろう。

ISコアには好き嫌いがある。

一夏の白式は後付け武装を嫌がって使用を拒否するくらいだからな…打鉄弐式でも同じことが起きねぇとは言いきれねぇ。

こればっかりはシステムプログラムを走らせてみねぇと分からねぇから、現状どうしようもねぇんだが…。

 

「まぁ、そんな事よりもテメェの事をどうにかせにゃな…」

 

ボソリと呟き、手の中のコアを睨み付ける。

…コアには心がある。

心と呼ぶには程遠い状態であったとしても、深層意識と言うかなんと言うか…そう言った人格の様な物が根底には備わっている。

俺は、これからそれを屈服させなきゃならん。

コアが束に逆らえねぇって言うのならば、逆らえるようにしちまえって事だな。

もちろん、上手く行くとは限らねぇ…そもそも、本当にそんな事が出来るのかどうかも不明だしな。

ただ、やらねぇよりはやった方が良い事もある。

後悔したくもねぇしな…。

コアを懐に仕舞うと、アリーナから大口径砲の発射音が響き渡ってくる。

 

「な、何!?」

「簪、落ち着いて。たかだか発砲音…私達には関係が無い事です」

「そ、そうだけど…スティーリアさんは気にならないの?」

「いいえ、まったく。アリーナには(フランマ)がいますので」

 

スティーリアはそう言うものの、教師は関係ねぇとは言えねぇんだわ…これが。

俺は慌てふためく簪の頭を優しく撫でて落ち着かせる。

実際、フランマが居れば並大抵の事は対応ができるってのも事実だしな。

 

「簪はスティーリアと一緒に組み立て作業してろ…秋までには稼働試験してぇだろ?」

「ぅ…はい…」

 

簪は頭から煙を出す勢いで顏を真っ赤にさせ、コクンと頷く。

もうちっと男に耐性つけてもらいてぇもんだなぁ…。

スティーリアが俺に近寄り耳打ちしてくる。

 

「マスター、邪魔者は…」

壊さない(殺さない)程度にな」

「イエス・マスター」

 

万が一って事もある。

あの襲撃してきた組織は、未完成であっても機体とコアが欲しいらしいからな…強奪しにくる可能性も考慮しておかなきゃならねぇ。

姉ちゃんが覗き見…もとい、監視している状況なら問題ねぇとは思うが。

俺はフランマに連絡をとり、状況を調べる。

 

「フランマ、何があった?」

『子兎ちゃんが一夏君に喧嘩売りに来たニャ~。シャルルちゃんのおかげで、こちらに怪我人ゼロだけどニャ』

「マジかよ…あいつ、申請書通してねぇだろうが…」

 

IS学園における対人戦闘訓練には、アリーナの使用許可とは別に訓練許可申請書類も出さなきゃならねぇ決まりがある。

まぁ、当り前よな…教師の目の届かねぇところで重火器使った戦闘訓練するんだ…万が一が起こった場合、学園側の責任問題がヤベェ事になる。

俺は急いで整備室を出てアリーナ管理室に向かい、書類をクリアファイルに入れてラウラを探す。

フランマからはこちら側に来るみてぇな連絡を貰ってたんだが…。

ラウラが使用しているであろう更衣室の近くで待っていると、ISスーツから制服に着替えたラウラが更衣室から出てくる。

 

「よう、隊長さん」

「アモン・ミュラー…殺人鬼が私に何の用だ?」

 

ラウラは俺を鼻で笑い、挑発する様な態度で見上げてくる。

自分が何をしたのか知らないだろうと言う楽観的な反応だな…。

 

「お前に反省文書かせに来たんだよ…何やったか分かってるか?」

「私が何をしたと言うのだ?」

「アリーナの無断使用並びに対人戦闘訓練許可申請を受理していないにも関わらず、ご自慢のリボルバー・レールカノンをブッパした。間違いねぇな?」

「チッ…あの人形か…」

 

ラウラは忌々しいと言わんばかりに口元を歪めて此方を睨み付ける。

いや、忌々し気にされても反応に困るんだけどよ…。

俺は手に持ったクリアファイルをラウラに差し出す。

 

「これ、月曜日にこのアリーナ管理人に提出な」

「は…?」

「いや、そんな意味がわからねぇみてぇな顏すんなよ…軍隊だったら規律違反で懲罰房送りだろうが」

 

ラウラは、不思議そうな顔でクリアファイルに入った原稿用紙五枚を見る。

軍隊じゃなくても締めるところはきっちり締める…一応校則ってもんがあるからな。

ラウラはとりあえず、俺からクリアファイルを受け取ってしかめっ面をする。

 

「何故、私が書かなければならない?」

「もう一度説明しなきゃならねぇか?千冬呼んでやろうか…その方が懲罰としちゃ――」

 

深くため息付きながら千冬の名を出した途端、ラウラは顏を能面の様に無表情にさせて殺気を放つ。

やっぱ、俺って言う存在がトコトン気に喰わねぇみてぇだな…。

 

「教官の名を馴れ馴れしく呼ぶな!」

「ほう」

「貴様なんかに織斑教官が靡く筈がないんだからな!」

「ラウラ」

 

俺は心の中で運命の神に祈りを捧げる。

ラウラは頭に血が上り過ぎたのか、肝心の教官殿が自分の後ろに立っていたことに気付かず、怒声を張り上げていたんだからな。

ましてや満面の笑みを浮かべて立っているともなれば、俺だって祈りたくなるってもんよ…主にラウラの安否について。

 

「少し、話をしようかラウラ・ボーデヴィッヒ…アリーナの件についてだ。なに、あのシュヴァルツェア・ハーゼを率いているお前の事だから相応の理由と言うものがあるのだろう?」

「あ…きょ、きょうか――」

「織斑先生だ」

 

ラウラはハッとなり、千冬の方に向きながら顔を蒼ざめさせながら敬礼すると、千冬は情け容赦ない速度で出席簿をラウラの脳天に叩き込み沈める。

これがインガオホーか…すげぇな、フラグ回収速度が…。

ラウラはたった一撃でノックダウンしたのか、頭から煙を出したまま通路に倒れる。

千冬は情けの欠片も見せずにラウラの片足を掴んだ後、ニコリと此方を見つめてくる。

 

「すまない、今夜は遅くなる。外で食べてきた方が良いか?」

「いや、起きて待ってる…ジャンクフードなんぞ食うんじゃねぇぞ」

「チッ…まぁ、良い。馬鹿が迷惑をかけたな…また後でな、アモン」

「おい、今舌打ち…はぁ…程々にしてやれよ?」

 

俺が反応する前に、千冬はラウラを引きずったままスタスタとアリーナ内にある管理人室へと姿を消してしまう。

俺の言葉は恐らく届いちゃいねぇだろう…哀れラウラ、地獄の懲罰訓練である。

 

「…俺、しーらね…」

 

むなしくなって呟いた言葉は、誰も居ない通路に溶け込むように消えていった。

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