インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
千冬と別れた後、スティーリアとフランマに自由行動の許可を与えて寮長室へと戻る。
二人とも仲が良くなった生徒と一緒に遊ぶとの事だ。
この自由行動は建前上、自律思考が環境によってどのように変化するのかを確かめる為に行うと言う趣旨を理事長に伝えて承認してもらっている。
勿論、武装はすべて封印してあると言う体でだ。
塵一つ残さず消し飛ばすことが出来る過剰な火器を持っている事は、以前の無人機襲撃事件でバレてっからな…。
勿論、教師の中には非人道的な行いが発生するのではないかと言う意見も出た。
だが、火器使用権限は俺が握っている事を証明してみせればアッサリと引き下がりやがった。
恐らく、理事長側は自律思考回路のノウハウを欲しがってる…これを学園側で握る事ができれば様々な交渉で優位に立てるからな。
…こんな未熟な世界で公開する訳ねぇけどな。
窓際に椅子を運び、窓を開けて煙草に火を点ける。
湿った潮風が少しだけ強く吹く…此処に来てからどれくらいになったかねぇ…?
かれこれ三年か…始まりはドイツで、今もドイツ娘に頭を悩ます羽目になってる。
なんか恨みでもあんのか…?
「はぁ…まぁ、そんなことよりもだ…」
俺は懐からISコアを取り出して掌の上で弄ぶ。
現状、制限が増え始めている今の俺にはコイツの力が必要不可欠になっている。
この世界には悪魔も神も昔の物語の中にしか痕跡が残っていねぇ…。
そうなると、悪魔や神なんて言う存在は宗教の中にしか存在しねぇ空想の産物って事になる。
本来の姿を晒そうものなら、間違いなくパニックが起きるだろうな。
だからこそ、最低限の力を発揮できるISって存在は俺にとって重要な存在になっちまってる訳だ。
「良いように利用されてるって分かっててもな…だから、意趣返しくらいはできねぇとな…」
ゆっくりと優しくISコアを握り込み、『中を覗き込む』。
この中身ではなく…存在するであろう意識を探るために。
コアの周囲に俺の身体から放出される魔力が、コア自体に浸透していく様に包み込んでいく。
空いた手で煙草の灰を灰皿に落としつつ、意識を研ぎ澄ませていく。
次第にコア自体が淡く鼓動を放つように輝きはじめ、俺の意識が中へと吸い込まれていく。
不思議と嫌な感じはしねぇ…俺は静かに眠りに就くように意識を手放した。
――
―――
――――
ゆっくりと目を開くと、辺りは真っ白な空間が広がっている。
時折、様々な言語がコアの中を駆け巡っているのが聞こえる…恐らくコアネットワーク通信だろう。
コア自体はすべてのコアと繋がっている…理論上は、全てのコアネットワークは傍受する事が可能だ。
勿論、コアの攻性防壁を突破できれば…だけどな。
俺は今、その防壁をズルして突破している状態になっている。
「さってと…」
ゆっくりと一歩踏み出した時に、俺は人の姿で無い事に気付く。
全身を黒く鋼鉄の様に硬い皮膚が覆い、まるで鎧の様に変化している。
背中には鉤爪の付いた蝙蝠の様な翼が一対…米神からは、ねじくれた角が生えている。
どうも、意識が人の形を作ると本来の姿が適用されるみてぇだな。
今回は魔力も通しているし、余計なのかもしんねぇが…。
気を取り直し、翼をゆっくりと動かし少しだけ身体を浮かせて滑る様にコアネットワーク世界を移動していく。
時折、見られている様な錯覚を覚えるな…恐らく、生みの親がコアネットワークを介して色々見てるんだろう。
暫く移動していると、変化が起きたことに気付く。
先ほどまで真っ白だった世界が、一面金色の小麦畑へと変化したからだ。
「…だれ?」
「見てわからねぇか?」
背後から少女の怯えた様な声が響いてくる。
ゆっくりと振り返ってその姿を見つめると、俺の視界に入った少女はビクビクと怯えた様に身を竦ませる。
ボブカットの鮮やかなブロンドの髪に、エメラルドグリーンの瞳。
浅葱色のエプロンドレスを身に纏った…なんつーか…垢抜けない村娘みたいな奴だ。
「ここ…わたしだけしか、いない」
「まぁ、そうだろうな…」
強欲…そう名付けた機体のコアがこんなガキだったとはな…。
いや、育成途中って意味じゃガキであっても不思議じゃねぇんだけどよ。
俺はゆっくりと片膝をついて目線を合わせる。
本来の姿で大分強面になっちまってるから、完全にビビらせちまってる…。
「俺はな、お前に会いにきたんだ」
「た、たべる、き?」
「喰うんだったらもっと丸々と太らせ…冗談だから泣くんじゃねぇよ…」
ジョークのつもりが、アプリストスのコアは完全に食われる物だと思ってグスグスと泣き始める。
俺は硬くなった掌で宥める様に頭を撫でてやり、落ち着かせる。
「喰いに来たんじゃなくて細工しに来たんだよ…殺し合いの最中にお前に眠られたんじゃ困るからな」
「さいく…?」
アプリストスは目を擦って涙を拭い、此方をじっと見つめる。
一先ず泣き止んだんで、内心ホッとして話を進める。
「偶に、視線を感じねぇか?」
「…うん…ばくはつのおととかするとき、とか」
多分IS起動中の事言ってんだな…やっぱ覗かれてるわな…。
覗いてる間は、多分興味があるって事だろうから問題ねぇだろうが…いつ切られるか分からねぇからな。
軽く溜息をついて立ち上がり、小麦畑を歩いていく。
結構荒っぽく扱ってたんだがな…まさかこんな景色になってるなんざ思いもしなかった。
俺の後ろを、ヒヨコの様にアプリストスが追いかけてくる。
「ま、まって…ひとりに、しないで…」
「いつも一緒に居るだろうが…ったく」
コア内世界とコアネットワークとの境界に指先で文字を書き込んでいく。
長々と五分も書いていると、向かい側にアプリストスがしゃがみ込んで覗いてくる。
「なに、してるの…?」
「細工…これは俺のもんだから言う事聞かせませんよーってな」
「…こわいの?」
「恐くねぇよ…まぁ、恐いのが来た時に役立つもんだと思っておけよ」
「ふぅん…?」
カリカリと指先で書き終えて、最後に親指を軽く切って血判を押す。
内容としては、次回機体に魔力を回した時に起動。
この世界と入れ物を隔離し、一部を除きすべてを受け入れない。
と、まぁ…科学的なアプローチではなく魔術的なアプローチなんで、どこまで有効なのかは分からねぇ。
まぁ、無いよりもマシって事で…頭馬鹿だからこう言う方法しか思いつかねぇんだよな。
術式との契約自体はすんなり行えたので、とりあえず良しと言う事にしておくか…。
使うような状況にならねぇ事を祈るばかりだ…自分で自分を追い込むようなもんだしな。
「んじゃ、帰るかね…」
「かえるの…?ひとり、やだ…」
「…その辺は、まぁ、おいおい改善してやらぁな」
「???」
アプリストスは首をこてんと傾げて不思議そうに見つめてくる。
なんだかな…あんな見た目の機体にこんなガキが載せられてるって思うと微妙な気分にさせられるな…。
俺が立ち去ろうとすると、アプリストスは腕を掴んで必死に引き留めようとしてくる。
「また、くる?」
「お前な、一応俺のISだっつー意識持っとけよ…」
俺は腕を持ち上げて、アプリストスの身体をブラブラと揺らす。
何処となく楽しそうな顔してんな…繋がりはあっても、基本的にはコア間での交流ってのはねぇのかもしんねぇな。
一人寂しく小麦畑…箱庭世界ってぇのは飽きちまうよなぁ…。
アプリストスの身体を下ろして、優しく言い聞かせていく。
「いいか、お前は他の誰でもねぇ、俺を信じて俺の言う事聞いてろ」
「どうして…?」
「お前が他人の言う事聞いちまったら、俺が困っちまうからな。約束できるか?」
アプリストスは腕を組んでう~ん、と唸りながら暫く考え込む。
暫く考え込んでいるのを眺めていると、唐突に頭に鋭い痛みが走る。
ったく、なんだってんだ…?
「わたし、あなたしか、しらない…だから、やくそくするよ!」
「っ、そうかい…なら、少しは安心できっか――」
アプリストスへと手を伸ばそうとした瞬間、凄まじい頭痛と共に俺は意識を手放した。
――――
―――
――
「いっ…!?」
脳みそを直に握られるような深いな頭痛と共に、俺は意識を覚醒させて辺りを見渡す。
明かりが点いてねぇが確かに寮長室…現実世界に復帰したみてぇだ。
どうも、コア内の世界から弾き飛ばされたらしい…長時間の接触で異物として攻撃されたっぽいな。
アプリストス本人と接触できたのはラッキーだったが…暫くは接触を控えた方が良いかもしれねぇ。
まだ、クソウサに目を付けられたら困るからな…最低限、今の問題を片付けねぇと。
椅子から立ち上がり、痛む頭を抑えながら冷蔵庫を開けてビールを取り出す。
口の中がカラカラで、何でもいいからと適当に取り出したビールの蓋を開けて一気に飲み干していく。
苦みとキレのある味が心地良い…。
「まさか、あんなガキだったとはな…成長途中ってのもあるんだろうが…」
「戻ったぞ…明かりくらい点けたらどうだ?」
「悪いな…おつかれさん」
千冬が説教を終えて寮長室に戻れば、部屋に明かりが灯される。
いきなり明かりが点いたもんだから眩しいな…。
目が慣れるまで細目で冷蔵庫の中身を漁り、缶ビールを千冬に向かって放り投げる。
「仕事上がりにゃ、欲しいだろ?」
「あぁ…まったく、ラウラの頑固さには困ったものだ」
千冬はネクタイを緩めて一息つき、俺に寄り添う様にしてビールを一口飲む。
珍しく疲れ切った顔を見せたと言う事は、相当骨が折れたみてぇだな…。
「アイツは…私を太陽か何かと勘違いしている。そんな大層なものではないと言うのに」
「どうした…なんつーか、弱気じゃねぇか?」
「声が届かなければ、弱気にもなるさ…ましてや、手塩にかけた教え子なら尚更な」
千冬の肩を抱き寄せて,身体を密着させる。
幾度も千冬の身体を抱いてきたが、こうして改めて抱き寄せると…なんつーか、小さく感じるな。
女性だから当たり前っちゃ当たり前なんだが。
「届かなくても、声をかける必要はあんだろ。ああ言うのは放置しておくとトコトン暴走すっからな」
「理解はしているつもりだが…どうしたら良いのか、私にはよく分からん…」
「まぁ、匙を投げるってのはしねぇこったな…腹減ったろ、とりあえず飯にしよう」
千冬の額に軽くキスをして離れようとするが、千冬は俺から一向に離れようとしねぇ。
ビール片手に千冬が俺にエプロンを差し出してくる。
「アモン、料理を教えろ」
「一体どう言う風の吹き回しだ?」
千冬に熱が出たのかと思って額に手を添えてやると、思い切り頭を叩かれる。
ふくれっ面で顏を背けてるが、中々見せねぇ反応なんで可愛く思えんな…。
千冬からエプロンを受け取って身に着けながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「大方、鈴を意識したってところか?」
「う、うるさい!教えるのか!?教えないのか!?」
千冬は空き缶を思い切り握りつぶしながら、俺の襟首を掴んでグイッと引き寄せてくる。
鬼嫁か何かかよ…?
「教えてやっから、離せって…ったく、俺の嫁さんは照れ屋で参るぜ」
「嫁…っ!…そ、そうか、嫁…か…フフ」
嫁と言う言葉にあからさまな迄に反応を示した千冬は、嬉しそうに笑みを浮かべて腕を組んでしきりに頷いている。
乙女だねぇ…。
千冬は周囲の視線が無ければ、いつもの様なキリっとした雰囲気を消す。
四六時中張りつめていたら、いくらなんでもぶっ倒れちまうしな。
言っちゃなんだが、府抜けた姿ってのを俺に見せてくれるってのは、信頼されている気がして気分が良い。
「それで、今日は何を作る気なんだ?」
「大分遅いし、軽めにパスタでもどうだ?ペペロンチーノとか簡単だし」
「パスタが茹でられる大鍋なんてあったか…?」
二人でいそいそとキッチンの棚を漁り、必要な調理器具を取り出していく。
千冬は一度こうと決めたら真面目に話を聞いて、技術を習得する向上心があるんで教え甲斐がある。
…鈴と張り合う為っつー、なんとも不純な動機がアレなんだが。
今日は俺が作った方が早いんで、千冬はビール片手に見学だ。
気分が良いのか、かなりハイペースで飲んでんな…。
「パスタのゆで時間を少し短くするのはどうしてだ?」
「フライパンで炒める時にも水分吸って柔らかくなっからな…気にするほどでもねぇんだけどよ」
自論なんだけどな…一分ばかし早めにお湯からあげて、フライパンで炒めると良い感じにアルデンテになってる…気がするんだよなぁ…。
問題ねぇっちゃ問題ねぇ気がするんだけどな。
フライパンにオリーブオイルと刻んだにんにくを入れて、軽く香りづけを済ませてパスタをさっと炒めていく。
二人だけなんで、出来上がりもあっという間だ。
皿に丁寧に盛り付けて、テーブルまで運ぼうとした時に控えめに扉がノックされる。
「消灯時間間際だってぇのに…」
「アモン、もしかしたら…」
「かもな」
基本的に、備品の修理依頼とかそう言うのが無い限り寮長室にやってくる奴ってのは少ねぇ。
最近だと一夏や鈴…たま~にセシリアがやってきて訓練の方針を確認していく。
何度もしつこくノックされるんで、料理を千冬に持って行ってもらう。
「はいはい、寮長はいますよ~っと」
『あ、アモン兄…開けてくれ!』
「応…」
扉越しに一夏の逼迫した声が響き、俺の背中に嫌な汗が流れてくる。
まぁ、落ち着け…こんな事態今までだって十分俺は経験している…なにを緊張してるってんだ…。
意を決して扉を開くと、目の前には困ったような顔の一夏と…。
「助けてくれ、アモン兄…」
「ご、ごめん…一夏…」
ダボダボのジャージを着たシャルル…もとい、シャルロット・デュノアが立っていた。