インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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行為の代償、交わす契約

「助けてくれ、アモン兄…」

 

そう言って寮長室を訪ねてきた一夏とシャルロットの二人を俺は無言で部屋に入れて、盛大にため息を吐く。

思ってたより『遅かった』って言うのが率直な感想だ。

たった一年、されど一年…この俺が直々に鍛えていたんだからな。

勿論、人体に関する知識に関しても一切の手を抜かずに叩き込んである。

人体を効率よく破壊するにゃ、そういった知識は絶対に必要だからな。

男と女との骨格の違い、歩き方の違い、筋肉の付き方…。

シャルロットの男装ってのは中々完成度が高かったし、声も高めとは言えなるべく少年の様な声であろうっつー努力は伺えた。

だが、女だ…。

根本的な部分での改善が無かった以上、俺や一夏の目は誤魔化せねぇ。

胸はコルセットで潰せはしても、ISスーツを着れば嫌でもその身体的特徴ってのは顕著になる。

第二次性徴を迎えているはずだってぇのに、腰つきなり筋肉なりが余りにも女性寄りだったからな…。

バレた経緯を聞いてみたらなんてことはねぇ…一夏が馬鹿正直に指摘したら、あっさりと白状したらしい。

隠す気は、無かったんだろう…なんせ…な。

 

「「「……」」」

「で、助けろってぇのはどう言うこった?」

 

長い沈黙の中、俺は静寂を破る様に口を開き一夏を見つめる。

エプロンに両手に夜食代わりのカルボナーラ持ってるんで、あまりにも締まらねぇ状態だけどな。

テーブルについている一夏とシャルロットの前にカルボナーラの盛られた皿を置いて、千冬の隣に座り冷めかけのペペロンチーノをズルズルと音を立てながら食べる。

ぶっちゃけ、俺は今かなりイラついてたりする。

 

「ふぅ…予め言っておくが、学園側はシャルル…いや、シャルロット・デュノアの素性については把握している」

「っ…一夏、やっぱり僕は…」

「ダメだ!それだけは、納得がいかない!」

「とっとと話せよ…気が短ぇの知ってるだろうが…」

 

千冬が、シャルロットの素性に関して口にするとシャルロットは顏を俯かせてしまい、一夏は鼓舞するように声を荒げる。

さっさと食べ終えた俺は、懐から煙草を取り出して火を点ける。

あからさまな迄の不機嫌ですよっつーサインだ。

一夏は顏を強張らせ、ゆっくりと深呼吸をした後に口を開く。

 

「シャルルは…シャルロットは会社の、親の都合で嫌々犯罪に手を染めさせられてる。学園側が把握してるって言うなら…このままじゃ刑務所から出られなくなっちまう」

「へぇ、そりゃそうだわな。それで、それが何か問題があるのか?」

 

ゆっくりと一夏の顏に煙草の煙を吹きかけて、突き放す様に言うと一夏も千冬も目を丸くさせる。

二人とも、俺がすぐに手を差し伸べるような善人か何かかと思ってるみてぇだな。

悪魔はそんなことしねぇ…自身の納得する事しかやらねぇのさ。

 

「っな…本気で言ってるのかよ!?」

「お前、スパイにお涙頂戴のバックグラウンド聞かされて、情に流されたか?一から十まで聞いて、それを嘘だとは思わなかったのか?」

「シャルロットは嘘を吐かない!俺と此奴はもう一緒に生活した友達なんだぞ!?」

 

若いねぇ…青いねぇ…真っ直ぐなのは好感が持てるんだけどな。

一応、ウラは楯無に押さえてもらって確認も取れている。

正確にはシャルロットの継母にあたる、現デュノア夫人の命令で動かされているだけに過ぎねぇ。

デュノア社存続、父親の社長存続を盾にな。

結構胸糞悪い話なんで、嬉々として手助けしてやりてぇところなんだが…生憎と泣きつけば解決してくれるドラ○もんじゃねぇからな。

ここらで、痛い目見てもらおうか…。

 

「だからなんだ?一夏、聞かせてくれよ…お前は持ち前の正義感で、シャルロットを親から助けるって無責任にも言っちまったんだろ?」

「っ…そ、そうだ…こいつには、学園に頼れる奴なんて…」

「…がっかりだ…がっかりだぜ、一夏。テメェでケツも拭けねぇってのに助ける?今こうして俺に泣きついてんのにな」

 

溜息と共に煙草の煙を吐きだし灰皿に煙草をもみ消す。

隣に居る千冬はここで手助けしてやりてぇんだろうが、それが必ずしも一夏の成長に繋がる訳じゃねぇ事も理解している。

だからこそ、事態を静観し口をつぐんだままだ。

…いや、確かに一夏の志は褒められて然るべきだろう。

ISさえ関わってなきゃな。

ISは現在の世界のバランスの根幹に根差した『兵器』だ。

女性しか扱えないはずのISを操れる男性である一夏は、それこそどこの国も欲しくて欲しくて仕方がねぇ存在だろう。

立場ってのは、人を縛る…。

俺はチラ、と千冬を見た後に再び煙草を点ける。

 

「だけど、まぁ…テメェをいじめるのはこれくらいにしてやろうか」

「…アモン兄…アンタはどうしたいんだ」

「テメェの浮ついた幻想を叩き壊してやんのさ…悪魔と契約するか?契約料は高くつくぞ?」

 

一夏とシャルロットに殺意の籠った視線を向けると、二人は体を縮こまらせてビクリと体を震わせる。

商談と行こうか…。

 

「アモン、あまり…」

「千冬、黙ってろ…今はな」

「あの…契約って…」

 

シャルロットは、漸く口を開き此方を真っ直ぐに見つめてくる。

今回の仕事の内容は、テメェの境遇改善になるんだろうが…契約をするのはテメェじゃねぇ。

俺はシャルロットを軽く一瞥するだけで、すぐに視線を一夏に戻す。

 

「ふぅ…俺は、俺は何を差し出せばいいんだよ…アモン兄?金なんか持ってない…」

「悪魔との取引には代価に魂が求められる…って言ってやりてぇところだが…」

 

いつの間にか現れたスカーレットが一振りの直剣を、俺に大して恭しく差し出してくる。

俺は直剣の柄を掴んで立ち上がる。

 

「利き腕を出せ…今回の契約の代償を一夏の利き腕にする」

「おい、アモン!ふざけているのか!?」

「千冬…黙れって言ったよな…二度も言わせるなよ…?」

 

俺は体から怒気を溢れさせ、千冬を威嚇する。

悪魔との契約に口出し横槍は不要だ…それに…

一夏は俺の言葉に息を呑み、シャルロットが椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がり俺と一夏の間に割って入る。

 

「せ、先生!これは、僕の責任だから…僕が、僕が先生と…!」

「俺は一夏と話してんのさ…シャルロット・デュノア。一夏が俺に助けを請い、俺はその代償に利き腕を貰う。出せねぇっていうなら、その程度の覚悟しか持ち合わせてなかったって事だ」

 

誰かを救うには、誰かを傷つける覚悟がいる。

誰も彼もが救えるわけではねぇ…この世に平等なんてものはねぇ。

平等があるって言うのならば、何故シャルロットはシャルルとしてスパイを強要されなきゃならねぇ…。

結局、自分が可愛いのが人間だ。

だが、だからこそ…

 

「いいぜ…俺は、確かにケツが青い子供さ…兄貴や千冬姉に縋らなきゃ、大切だと思える友達一人救えない。でも、覚悟だけは…覚悟だけは馬鹿にされたくない!」

「ハッ、ガキが吹くじゃねぇか…テーブルの上に出しな」

 

一夏は俺を真正面から睨み付けて啖呵を切れば、テーブルの上に腕を差し出す。

一夏はこれから腕を失くす恐怖に抗う様に呼吸を荒げ、冷や汗で顏を濡らす。

 

「一夏、やめてよ!僕は、僕はそんなことまで望んでない!」

「アモン!一夏も止めてくれ!ここまでしなくてはならない事ではないはずだ!」

「二人とも、黙っててくれ…これは、アモン兄と俺との問題だから」

 

一夏は千冬とシャルロットの二人に優しく声をかけ、首を横に振って笑みを浮かべた後に俺をキッと睨み付ける。

そこには、確かに覚悟と信念の光が見て取れる。

この目だ…こういう目をする馬鹿がいるから俺は人間が大好きなのさ…。

俺は勢いよく直剣をテーブルに叩き付ける。

 

「っ…!!」

「契約は相成った…テメェの覚悟は俺が受け取り、テメェの願いを俺は必ず叶えよう」

 

テーブルに叩きつけられた直剣は一夏の腕の薄皮一枚を切っただけで、テーブルに深く突き刺さる。

まったく、俺もお人好しだねぇ…。

俺は煙草を咥えながら一夏達から離れて部屋を出ていく。

消灯時間が過ぎて暗くなった寮の廊下を歩きながら火を点けると、廊下の先にドヤ顔で仁王立ちしている人物を見つける。

 

「ガキはオネムの時間だぜ?」

「随分と物騒な契約があったものねぇ?」

「なんでもかんでも泣きつかれても困るのさ…出来る事と出来ねぇ事くらいは見極めてもらわねぇとな」

 

楯無はひらひらと書類を振りながら俺に見せる。

デュノア社の内情や、資金の流れ、フランス政府内の腐敗具合が分かる素敵な書類だ。

 

「子供のお尻くらい拭いてあげたら?」

「IS使ってる人間がそれじゃいけねぇよ…危なっかしいもんだからな」

 

携帯灰皿に煙草の灰を落としながら軽く肩を竦める。

物事に対する責任ってのは必ず取らなきゃならねぇ…望むにしろ望まないにしろだ。

それが力を持つ者の義務であり、逃れられない運命だ。

 

「鬼教師ね…それじゃ、あの二人を慰めに行こうかしら」

「千冬がやってんだろ…。楯無、ちっとばかし書類弄ってくれねぇか?」

「何させる気よ…」

「わかってんだろ?」

 

俺はすれ違いざまに楯無から書類をかっぱらい、懐に仕舞う。

楯無は不満げに頬を膨らませて俺を睨みつけてくる。

 

「お土産、高いものじゃないと承知しないわよ!!」

「へ~へ~、経費で落としてもらうわ」

 

楯無に背中越しに手を振りさっさと立ち去ると、そのままの足で寮を出て海岸沿いの道を歩く。

今宵は月のない新月…街灯の明かりしかない中歩けば、目の前にフランマとスティーリア…そして、俺のトランクとコートを持ったスカーレットが待ち構えている。

三体に近づけば、三体とも同時に俺の目の前で跪く。

 

「マスター、我らも共を…」

「ニャ、我らはマスターの手足となるべく生まれたドール」

「故に我らはマスターと共に居る事を至上の悦びとし、マスターの為に我が身を削る事を厭いません」

 

自律思考型ドール…俺は此奴らを作り上げる時、決してやらないことがある。

それは、自我の束縛。

決して、俺に対する忠誠心を植え付けはしない。

そんなことをしたら、決して本物に近づくことはできない。

だからこそ…こいつらの忠義ってのは嬉しく思える。

 

「忠臣大儀である…ってな。お前たちにゃ、学園の防衛を頼む。ラウラの面倒もな」

「イエス・マスター。すべては御身の為に」

「ラウラちゃんニャ…気難し屋さんでフランマちゃんもトホホニャ」

「ですが、マスターの命です…こなして見せましょう」

 

スカーレットは、俺にコートを羽織らせてトランクを差し出す。

トランクを受け取って、肩に担げば背後から此方に駆けてくる足音がしてくる。

三体は顏を見合わせ、クスリと笑えば一瞬で姿を潜ませる。

あいつら…出歯亀決め込む気だな…。

 

「どこに行く気だ?」

「ちょっくらフランスにな」

「どういうつもりだ…」

 

千冬は此方に駆け寄り襟首掴んで、此方に詰め寄ってくる。

俺は優しく千冬の頭を撫でて、軽く肩を竦めるだけだ。

 

「一夏と約束しちまったしな…」

「受ける気だったのなら…なんであんな真似をした?」

 

俺は小さく首を横に振り口角を上げる。

見る人が見たら悪魔の様な笑みだったかもしれねぇな。

 

「最初から受ける気なんざねぇよ…俺はアイツの覚悟を測りたかったってだけでな。あって一週間もしねぇのに大切なダチ公だって言って腕を差し出すとはな。千冬、あいつは馬鹿だぞ」

「……私は、初めてお前が恐いと思った。顔色一つ変えずに、命を取引に持ちだすお前が…」

「幻滅したか?そりゃ、まぁ、仕方ねぇわな」

 

俺は千冬から視線を逸らし、頬をぽりぽりと掻いて苦笑する。

確かに、今まで見せちゃいねぇ側面だしなぁ…あぁ、暴れた時は見られてるか。

 

「そう言う訳では、ない。ただ、恐かったと言うだけで」

「世界最強も悪魔にゃ形無しか?」

 

ククッと忍び笑いを漏らしながら、千冬の手を優しく掴んで離させる。

いい加減息苦しいしな…。

千冬は、あっさりと俺から手を離すが離れようとはしねぇ…。

まるで、私も連れていけと言わんばかりだ。

 

「行って、しまうのか?」

「悪魔ってのは契約を遵守するんでね…ガキのお使いみてぇなもんさ。すぐに帰ってくる」

「ならば…必ず私の元に戻ってきてくれ。情けない話だが…お前が傍に居ないと私は寂しい」

 

千冬は両手で俺の頬に触れ、じっと見つめてくる。

鉄の女がまるで寂しがりの子供の様な目で俺を見てくる…無意識の内にやってるんだとしたら、相当だな。

俺はニヤリと笑みを浮かべて千冬に口づける。

最初は触れるだけのキス、段々と回数が増えて互いに求め合う様に舌を絡ませていく。

…茂みの中であの三体が見ているが…見せつけてやるのもまぁ、良いだろ。

照らす月も無い中、星明りの下で愛を囁くようにキスをし、ゆっくりと顔を離す。

 

「俺だって寂しいものはあるっつーの…こまめに連絡はする」

「絶対だからな…」

 

最後に千冬は俺の首筋に顏を埋めて、キスマークを付けていく。

マーキングか何かかよ…信用ねぇな…。

 

「お、お前はすぐに女を誑かすからな…これくらいは、良いだろう?」

「そんな顔して言うなよ…ダメとか言えねぇっつーの」

 

千冬から離れる前に額に口づけて、柵を飛び越えて海面の上に『立つ』。

…都市伝説扱いされてたな、確か。

 

「じゃ、ちっと行ってくらぁ…書類適当にやっておいてくれ」

「お前は…帰ってきたら承知しないからな!」

 

千冬は言葉とは裏腹に笑顔で俺を送り出してくれる。

…さて、鬼が出るか蛇が出るか…だな。

懐に仕舞ってある書類を取り出しながら、俺は暗い海を歩き出した。




今回の作業BGM→Trezire de spirit

パチスロの悪魔城ドラキュラの曲らしいんですが…滅茶苦茶カッコいいので是非聞いてみてもらいたいですね…。
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