インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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フランス騒動記

フランス大手IS企業、デュノア社。

欧州連合統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているフランスは、この計画に参加するために躍起になっているが、技術的に後塵を拝していたデュノア社はその期待に応える事ができず、今度のトライアルまでに第三世代開発に成功しなければIS開発許可の剥奪と国からの補助金がカットされることになっている。

国からの事実上の倒産宣告だな。

大企業の意地もあるだろう…デュノア社は此処で自身の社運を賭けた大きな賭けに出た。

社長の実子である、シャルロット・デュノアをスパイとして送り込み、男性操縦者のデータを盗んでくること。

上手く行けば第三世代開発の足掛かりができるだろう。

失敗しても、全てをシャルロットの罪として蜥蜴の尻尾斬りをしてしまえばいい…と、思っていたんだが、どうもそう言う訳でもねぇみてぇだ。

原因はシャルロットの継母にあたる、イヴェットって女が中心人物となって動いてるらしい。

裏で会社を売却する動きまである始末…実質、現社長に会社の舵を取る権限は無い。

役員の半数がイヴェットのゴマ擦りやってるってんだから…なんつーか腐ってるな。

フランスに渡ってから、丸二日…俺はとある片田舎にある小さな教会の椅子に座っている。

此処を管理しているシスターに『お願い』して、貸切らせてもらっている。

悪魔が教会に居つくってのも、変な話ではあるな。

懐から煙草を取りだし、口に咥えて火を点ける。

漸く陽が顔を見せ始めたその時、背後にある扉が立て付けが悪いのかギィィ、と言う音と共に開かれ一人の男性が入ってくる。

疲れ切ったその顔は、既にすべてを諦めている顔だ。

 

「…お前か、娘の事で話があると言うのは」

「悪いな、社長さんよ…この辺りの聞き耳立ててる奴はいねぇから、安心してお話しようか」

 

俺は社長に背を向けたまま、煙を十字架に向かって吹きかけ肩を竦める。

本当に誰も居ないかのように静かな教会内に天井から二体の戦乙女を模した人形が下りてきて、互いの槍を交差させて出入り口を塞ぐ。

デュノア社社長…アラン・デュノアはゴクリと生唾を飲み込み、呼吸を整える。

 

「私の命が目的か?」

「いんや?」

「娘の身柄か?」

「近いが違うな」

 

アランは震える声で、それでも冷静さを保って俺に話しかけてくる。

今回の男装の件…あまりにも不自然だったからなぁ…。

前にも言ったが、男と女じゃ骨の作りから肉の付き方までかなりの差が出る。

ガチで男装させるってんなら、全身整形でもする必要が出てくる…バレたくなきゃな。

にも関わらず、シャルロットにはコルセットで胸を隠すくらいいしかさせなかった。

…どうやって押し潰してたのか気になる所だが、今はっそんなことはどうでも良いな。

話を戻して…考えられるのはたった一つ。

あんなに顔が整ってて、出るところ出てる美少女にやらせる事と言えば…。

 

「社長さんよ…あんた、シャルロットにハニートラップ仕掛けさせる気だったろ?」

「ち、違う!それだけは…それだけは違う!」

「出るところ出てるもんなぁ…並大抵の男だったらヤっちまうかもしれねぇもんなぁ、んん?」

 

煙草の灰を携帯灰皿に落としながら、俺は悪役じみた笑い声を上げる。

所謂下衆い三下のやるような笑い声だ。

アランは此方に駆け寄り、背後から思い切り拳を叩きつけてくる。

 

「ふざけるな!ふざけるなっ!!誰がっ誰が好き好んで!!」

「ぐっ!…ふざけてるのはテメェだろ。会社を守るために娘に何させてやがる!」

「お前に何が分かる!?」

 

アランは倒れた俺に馬乗りになり、襟首を掴んで何度も何度も頬を殴打してくる。

指に付けられている、社長にしては不釣り合いな質素な指輪が普通に痛ぇ…。

アランは絞り出すような声で両手で襟首掴んで俺の身体を引き上げる。

 

「ゆる、ゆるせる…ものか…!ああでも…ああでもしなければ守れなかった自分が…!」

「…あんた、最初っから、会社潰す腹か?」

 

顔を背けて血の混じった唾液を吐き捨て、アランを真っ直ぐに見る。

アランは草臥れた様に俺から腕を離して項垂れる。

まるでもう、やるべきことはやったと言わんばかりに。

 

「私の身なんぞどうでも良いのだ…彼女の娘が無事でいれば。IS学園特記事項がある限りは問題ない…その間に私がアレの蜥蜴の尻尾になれば…」

「そりゃ、無責任だろうが…。大人にはな、責任があるだろうが…悪しきを正し、正しきを貫く責任が。それをテメェから放棄するんじゃねぇよ」

 

此処で此奴にリタイアされたら遠路遥々此処まで来た意味がねぇ…。

一晩で此処まで来るのはかなりホネだったからな。

俺は、アランをどかして椅子に座り込む。

アランは俺の隣に座って、項垂れている。

 

「シャルロットは…」

「同室の一夏に見破られて、どうにかしようってやってる最中だ」

「…アレには何も関係ない…ただ、男装をさせられたと言うだけだ」

 

俺はアランに煙草を差し出し、それが受け取られれば火を点けてやる。

アランはゆっくりと煙草を吸って煙を吐きだし、気を落ち着けさせる。

俺はもう一本煙草を取りだし、指で弄ぶ。

 

「責務を果たせよ、アラン・デュノア…大人としても、親父としてもだ」

「私に…そんな資格はないだろうに…」

「あろうがなかろうが、やるんだよ。せめて、誇れる生き方しな…たかだか百年しか生きられねぇ人間なんだからよ」

 

人間なんざ、瞬きする間に死んじまうからな…だったら、何か一つでも誇れることをしなきゃ勿体ねぇ。

そうでなきゃ、一生懸命に生きていることが無意味になっちまう。

万人に知られなくていい。

だが…大切に思っている奴に誇りに思われることくらいはすべきだ。

此奴の反応を見る限り、娘を愛しているんだろう…でなきゃ俺に殴りかかるなんて真似はしねぇだろうからな。

 

「遠路遥々、一夏のケツを拭きに来たんだ…テメェにゃ馬車馬の如く働いてもらうぞ」

「お前は…私に何をさせようと…」

 

俺はアランに向かってUSBメモリを一つ放り投げて渡す。

所謂一発逆転の大チャンス…中身は現在、どこの国も開発に着手できてねぇ量子変換容量圧縮技術と重力制御システムの雛型のヒントだ。

何れもトゥーの自信作…なんでも、他所の宇宙から来たメモリーユニットだかAIユニットだかを漁って作ったとか何とか…。

後者はかなり危険な類だから、かなりボカしてあるって話だ。

上手く使えば兵器転用可能らしいがな…なんにせよ、開発に成功できりゃ夢の第三世代機だ。

 

「…あと、これもだな」

 

アランが目を白黒させている内に書類の束をさらに渡す。

内容はいずれも『更識』が調べ上げた、イヴェットの金の流れと政府の汚職内容だ。

強請る道具にするにゃ丁度良いが…。

 

「そこに書いてあるのな…フランスの新聞社にもう流しちまった」

「…だからこんな朝方に私を此処に呼んだのかね?」

「まぁな…呼びかけるに応じるかどうかは賭けだったがよ」

 

苦労したもんだぜ…小型の人形に手紙持たせてのステルスミッション…受け取るかどうかも怪しかったしな。

だが、結果として賭けには勝ったから万々歳ってな…。

だが…。

扉の前にいた戦乙女の一体を素早く操作して教会の窓ガラスが割れた瞬間にハルバードを振りぬかせると、甲高い音が教会内に響き渡る。

どうも、旗色悪くなったから社長をぶっ殺しておこうって魂胆か…会社の引継ぎもスムーズに行くようにしてあるんだろうしな。

 

「あんたの嫁さん、相当過激だな…」

「望んで選んだ女ではない…」

 

いつか殺されるかもしれないと思っていたからか、狙撃されたことにアランは大して驚いた様子を見せないでいる。

しっかし…準備が良いねぇ…。

狙撃手はさっき弾いた弾丸がそっくりそのまま返ってきて、物理的に面食らってる筈だ。

そう簡単に殺されちゃ困るからな…容赦出来る訳がねぇ。

トランクを蹴り上げて肩に担げば、アランの腕を掴んで立たせる。

 

「そら、かっこつけに行こうか」

「…篠ノ之博士に次いで頭が良いとされる君が、こんなに粗野だとは思わなかったよ」

「生まれも育ちも悪いんでね」

 

二体の戦乙女を護衛代わりに教会を出て、デュノア社のある首都パリを目指す。

…早く帰らねぇと拗ねる奴がいるからな…。

 

 

 

「これは、どういうこと…!?」

「…イヴェット、私は不甲斐無い男ではあるが…変わらなくてはならない時が来た」

「…いや、連れてこられたけど、この場に俺…いるか?」

 

デュノア社は大勢の報道陣が詰めかけて人でごった返していたが、アランを抱えて跳躍して報道陣の真上を通り過ぎるっつー荒業で切り抜けた。

マトモにやりあってたら時間が足りねぇからな。

もちろん、此処に俺が居る事がバレると面倒なんで、俺は鉄仮面をつけて素性を隠している。

分かる奴は分かる、ダーマ事件の時の仮面だけどな。

その後重役会議に同行するように頼まれた俺は、そのままアランに引きずられるようにして会議室に入ったんだが…。

いかにもヒステリーを起こしそうな顔のブロンド女が、アランに向かって新聞を投げつけてきやがった。

いずれも政府の汚職問題や、デュノア社社長夫人の爛れた私生活が一面にデカデカと掲載されている。

ブロンド女…イヴェットは怒りに顔を赤くしてまくし立てていく。

 

「誰のおかげでこの会社が此処まで大きくなったと思っているの!?私でしょう?私が貴方みたいな愚図と結婚したから此処まで…!」

「その結果がこれだとは思わないか、イヴェット。君は…欲望に忠実過ぎた。私は…それを正してやることができなかった」

「だから、何?あの女との子供が居ても『寛大』に対応してあげたのに、上から目線なんて良い根性しているわね!」

 

イヴェットはさも自分こそが正義だと言わんばかりの態度で、どす黒い欲望で張りつめたような胸を張る。

…こうもありがたくねぇ乳揺れってのも珍しいな…持ち主が持ち主だからか?

 

「私の妻だった、と言うだけの君に言われる筋合いは無いと言う事だ…。それに、私は此処にいる方の協力で成果を得られた…シャルロットを、愛娘を君の好きにはさせない」

「そう…なら、その成果とやらだけ置いて貴方は置物になれば良いわ」

 

イヴェットが指をパチンと鳴らすと、席についていた重役の内半数が一斉に銃を此方に突き付けてくる。

過激な会議なもんだな…おい。

 

「お、おまえたち!何をしているか分かっているのか!?」

「日和見主義のお前たち無能共に言われたくはないな…これが我が社の意志と言う事だ」

 

銃を突きつけなかった初老の男が諌めようとするものの、聞く耳持たずと言った具合で銃口がぶれる事が無い。

死なば諸共っつー雰囲気も感じるが…俺が何もできねぇと思ってるのかねぇ?

俺が軽く腕を振ると、銃を持った役人達の腕が一斉に動きだして自身の米神に銃口をあてはじめる。

 

「なっ…なに、を!?」

「腕が勝手に!!」

「や、やめろ!指に力が…!!」

「情けねぇなぁ…他人の命奪おうって奴らは覚悟ができてねぇのか?」

 

俺は嘲笑う様にして、反旗を翻した重役共の指に力を加えさせていく。

ギリギリ発射されない程度の力…すこしでも操作を誤れば撃ってしまうレベルまで力を入れさせる。

 

「たったす…!!」

「な、なにやってるのよ、アンタ達…!!」

「もう止めよう…イヴェット。やってきたことの清算を行う時が来たんだ」

「み、認めない…認めないわ…!!

 

イヴェットは、懐から携帯を取り出していずこかへと連絡を取ろうとするが一向に繋がる気配をみせない。

アレだな…見放されたってやつだろ…。

イヴェットは俺に向かって携帯を投げつけて会議室を出て行こうとする。

もうどこにも行く場所ねぇだろうに…往生際の悪いやつだな。

俺は、素早くイヴェットの鳩尾に拳を叩き込んで動きを止めて気絶させる。

此奴は此奴で先に引き渡す奴らが居るからな。

 

「イヴェットを…どうするつもりだね…?」

「裁かれる前に、裁きたい組織ってのがあるのさ…あんたはあんたの仕事をしな、社長」

 

俺は銃を持った重役たちをそのままの姿勢で固定したまま、イヴェットの体を肩に担いで会議室の出入り口に向かう。

ふと、思い出したように振り返り、会議室内の全員を見渡す。

 

「てめぇら、悪い事すんじゃねぇぞ…次似たような事しやがったら、生き地獄ってのを見せてやるからよ」

「「「ッ…!」」」

 

声から殺気が伝わったのか、会議室内の空気が凍り付く。

イヴェットや政府の汚職問題が一気に丸裸にされたこともあって、脛に傷がある連中は内心恐怖で足が竦んでいる事だろうさ。

会議室から出て、非常階段をゆっくりと降りて地下へと向かうと黒スーツの二人組が現れる。

 

「アモン・ミュラー様ですね?」

「更識だな?」

「はい…彼女の身柄をいただいても?」

 

学園の暗部を担う更識は日本国内では力が強くとも、海外での影響力と言うものは少ない。

しかし、今回のシャルロットの事件は、組織力と言うものを裏側に轟かせるのに一役買った。

利用し、利用されだな…フランスの一件を足掛かりに、先ずは欧州で地盤を築く腹積もりだろうさ。

あの女も強かなもんだねぇ…。

 

「香水臭くてかなわねぇわ…持ってけ」

「確かに…ところで、アモン様…この後のご予定は?」

「飯食って、土産買って帰るだけだ」

「左様ですか…当主からの伝言です。『ブリュンヒルデの機嫌が悪いので早く帰ってくるように』」

 

…あぁ、連絡するって言って連絡してなかったな…。

ここに来て一番の失態を犯したことに気付いた俺は、ガクッと肩を落とす。

 

「確かにお伝えしました。観光、楽しんでくださいね」

 

楽しめる訳ねぇだろうが…俺は溜息を吐きながら、哀れな事になるであろうイヴェットを担いだ更識の二人を見送った。




次回:行きは良い良い帰りは恐い(ぇ
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