インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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愛に餓える

「じゃ、今日の授業はこれまでだ。篠ノ之はちっと残れ」

「はい…」

 

四時間目の授業を終えて、俺は日直に号令を促しつつ箒に残る様に言い渡した。

なんでか知らねぇが、箒は授業中何か考え込むように頭を抱えて集中力を欠いていた。

俺の一年生に対する整備課の授業ってのは、ISの基本構造や仕組みに関する話が殆どだ。

これらをある程度分かりやすくかみ砕いて説明しつつ、毎時間の授業ごとに詳しい説明をイラスト付きで紹介したプリントで補填していってる。

これらは本当に基礎中の基礎…かなり高度な話もするが、IS乗りなら知っていなきゃならねぇ事を俺は教えている。

にも拘らず、箒はずーっと上の空…シャルロットの問題がある程度解決したと思ったらこれだからな…いじめかよ…?

生徒の大半が整備室を出た後、箒は此方にフラフラとした足取りで歩いてきて俺を見上げる。

 

「あの…なんでしょうか…?」

「単刀直入に言うぞ…お前、何かあったか?今日の授業態度赤点もんだぜ?」

 

俺はやれやれと肩を竦めて苦笑する。

箒の瞳には不安とか焦燥とか…なんつーか、『どうしてこうなった?』って言う懊悩が見え隠れしている。

一夏はアレでも鈍感がある程度解消されてる方だし、一夏自身は原因じゃねぇっだろうとは思うんだが…。

ただ、一夏絡みなのは間違いないだろう。

箒は一夏にゾッコンだからなぁ…。

 

「い、いえ…相談する様な事では…」

「良いから、アモンおじさんに話してみろよ。このまま悩み続けてたら、午後の千冬の授業で出席簿が何回叩き落とされるか分かったもんじゃねぇぞ?」

「それは…そう、なんですが…」

 

箒自身も勉学に身が入ってないのは理解してたらしいな…そわそわと視線を右往左往させて、悩んでいる。

暫く箒は悩んでいたものの、打ち明けてしまった方がまだ気が楽だと判断したのか重い口を漸く開く。

 

「その…一夏に、告白しました」

「お、おぅ…マジか…」

「はい…」

 

鈍感じゃねぇが鈍感な一夏の事だ…それにシャルロットの件があったせいで恐らく、箒の告白の件は頭の隅っこに行ってる可能性がある。

いや、もし本当なら最低だけどな!!

俺は、どうしたものかと思案した結果、状況を確認するために告白の台詞を聞き出すことにした。

 

「悪いんだけどよ…告白した時なんて言ったんだ?」

「い、一応…鈴のアドバイスと体験談を元にストレートに告白を…条件付きで」

「鈴は痛い目見たからな…つーか、マジで未練がねぇのか…」

 

例の酢豚プロポーズ事件は、あの千冬でさえ気落ちさせるレベルの酷い事件だったからな…。

鈴も同じ轍を踏ませまいと箒にアドバイスしてやったんだろう…後でウーロン茶でも買ってやるか。

一先ず、現状告白した事が分かったわけだが…それだけで此奴が此処まで悩むことは無い筈。

なんせ、自分の気持ちをゲロった訳だからな。

一夏が反応を見せねぇってのも問題なのかもしれねぇが…色恋沙汰を煽る事はしても結ばれる様に手助けする事は、絶対にしねぇ。

…つまんねーもん。

 

「で、条件ってのは?」

「今度、学年別トーナメントありますよね?それに優勝したら付き合ってくれと」

「また、随分と高いハードル設定したな…性能差をカバーできる腕はまだお前にゃねぇだろ?」

 

学年別トーナメント…正確にはタッグ・マッチトーナメントなんだが、これには専用機持ちはもちろん第三世代の専用機で出場する事になる。

つまり、一般生徒はフィッティングも何もない訓練用の第二世代IS『打鉄』か『ラファール』で出る事になる。

流石に、トーナメント前日までに生徒の挙動データを取って疑似的なフィッティング自体は行うけどな。

どうしても本来のISとの同調率が低くなる訓練機だと、痒い所に手が届きにくくなる。

ISが搭乗者のクセを理解しねぇ所為だ。

クセってのは、どうしても個人によって変わってくる…それにISがついてこれねぇとなると、挙動が重くなっちまう訳だな。

だから結果として、性能頼りではなく自身の腕前が物を言う様になる訳だ。

本来なら専用機持ちも訓練機を使うべきなんだろうが、専用機ってのはテスト目的でこの学園に持ってくることが多い。

数少ねぇ実戦経験を積ませる意味合いが強いんで、おいそれと乗るななんて言えねぇ事情がある。

 

「ですが…私はそうでもしないと勇気が持てなくて…」

「別に悪いって言ってるわけじゃねぇよ。上を見上げる勇気があるってのは、称賛に値するって言ってんのさ」

「あ、ありがとうございます」

 

素直に箒を褒めてやると、箒は頬を赤らめて頭を下げる。

見た目美人だからな…コイツ。

何処をどうしたら頭ん中メルヘンな姉貴ができるのか知りてぇ…。

ともあれ、問題はそこじゃねぇ…。

 

「で、なんで悩んでるんだ?」

「その…何故か、今度のトーナメントで優勝すると一夏と付き合える権利が手に入ると言う噂が広まっていて…」

「おおぅ…そいつはまた…大方、さっきの告白の台詞を勢いに任せて大声で言っちまったのを、誰かに聞かれてたとかそんな所か」

 

箒は図星だったのか、しょぼくれた顔でコクンと頷いて頭を抱えちまう。

一夏は人気あるからなぁ…ただでさえキツいトーナメントが、やる気に満ち溢れた乙女たちの熱意で更にキツくなる事間違いなし。

ただ、だからと言って諦められるようなもんだったら恋心なんて言えねぇだろ…だからこそ、どうしたものかと悩んでるんだろう。

 

「ちっとばかし、助言してやるかね…」

「え…?」

 

このまま放置しておくのも面白そうなんだが、セシリアの方が今回の一夏争奪戦で優位に立ってるからな。

少しばかし助言しつつ、山田に頑張ってもらうとすっかね…。

 

「第三世代ってのは、イメージ・インターフェースシステムを火器管制に使ってるっつー事は教えたよな?」

「はい、思考を反映させて第三世代兵器の稼働を行っている、と」

「そうだ、思考をトリガー替わりに使ってる。人間考える時ってのはどうしても無意識のクセってのが出やすい。たまーに居るだろ?貧乏ゆすりしてたり、髪の毛先弄ってたりしてるやつ」

「でも、戦闘中にそんなの…」

 

そう、確かに戦闘中にそんな大仰な癖を披露する馬鹿はいねぇ。

だが、必ず反射的に動くことってのはあり得る…例えば、瞬き…例えば、呼吸…唇を舌で濡らすとかもな。

そこを見極められるかどうかで、次に取るべき行動ってのも自ずと絞る事ができる。

幸いにして、ISにゃハイパー・センサーっつー便利機能がある。

それらをフルに活用できれば、或いはな…。

何にしたって、最後にモノを言うのは箒自身の腕なんだけどな。

 

「それが出来なきゃ、負けるだけだろ。物事が動く時の予兆を見極めろ…使えるものは何でも使ってな」

「はぁ…分かりました…」

「こっちで山田にお願いして、箒の訓練見てもらう様に言っておいてやる」

「ミュラー先生は見てくれないんですか?」

 

箒はてっきり俺が見るものかと思って不思議そうな顔をしている。

そうしてやっても良いんだが…どっかの野良兎が悪さしてねぇか見張ってなきゃならねぇからなぁ…。

それに、指導するってなれば山田の自信に繋がる…はず。

決して、面倒くさいとかそんな理由で山田に押し付けるわけじゃねぇんだ!!

 

「俺も割と抱えてる案件が多くってな…ほら、ラウラっているだろ?」

「あ、あぁ…ボーデヴィッヒですか…いますね…」

 

箒がとても微妙な顔をした辺り、クラスに溶け込めていねぇのが良く分かるな。

本音辺りが尽力してるんだろうが、取りつく島もねぇだろうからなぁ…。

今朝の話の限りじゃ、千冬を特別視しすぎてる…それが原因で余計なものを排除しようって考えが透け透けだからな。

…最悪不祥事起こしかねねぇ辺り、本当に怖ぇ…。

千冬だってただの女だってぇのにな…。

 

「アイツの舵取りなんかも考えなきゃならなくってよ…目の敵にされてるからなんだが」

「ミュラー先生は…千冬さんと付き合っているんですよね」

「応よ…ああ言うイイ女は中々お目にかかれねぇしな」

「だから、ボーデヴィッヒは目の敵に…大変ですね」

 

箒は何処か同情するかのような視線を此方に向ける。

俺の事よりか自分の事を心配しろよ…。

 

「とりあえず…とりあえずだ、お前はお前の出来る事を一生懸命やれ。それが自ずと結果として現れるはずなんだからよ」

「分かりました…とりあえず、頑張ってみます」

 

箒はそれだけ言うと、俺に頭を下げて整備室を出ていく。

ちっとばかし長話が過ぎたな…食堂は混んでるし、購買で適当にオニギリでも買って腹を満たすか…。

 

 

 

食堂が混んでいると言う事は、購買部にも人がなだれ込むと言う事である。

単純にして自明の理…そんな事すら思いつかなかった俺の本日の昼飯は…ヤ○ザキアップルパイとリ○トンの紙パックの紅茶、以上だ。

…足りねぇよ…普通に考えて…。

とは言え食中毒が恐い俺は、弁当を作る事を放棄してるから手元に飯はねぇし…これで我慢するしかねぇ。

良い事してるはずなのに、この仕打ちってぇのも酷ぇ話だよなぁ…。

俺はがっくりと肩を落とし、さながらゾンビの様に廊下を歩いて整備課準備室へと向かう。

あそこは人気もねぇし、静かに飯を食うにゃ打ってつけだ。

もうすぐ準備室に着くぜってタイミングで曲がり角から話声が聞こえてくる。

 

「教官、何故あのような素性の知れぬ男と…」

「確かに、得体の知れん男だろうな…」

 

おっと…野良兎(ラウラ)(千冬)が立ち話か…出て行き辛ぇなぁ…ったく。

俺は曲がり角で壁に背を預けて、話が終わるのを腕を組んで気長に待つ。

流石に昼休憩十分前になったら出てくけどな…。

 

「だが、私よりも強い男だ…神経も無駄に図太いせいかお節介を焼くのも好きときた。アイツは悪い奴ではない」

「人を平気な顔で殺せる様な人間だとしてもですか!?」

「…それでもだ。確かに、人を手にかける事に良心の呵責が無いと言うのは問題だろうし、それは人として壊れているのだろう」

「ならば…あのような男との関係を持つべきでは無い筈です」

 

妙にムズムズするな…好いた女からの評価ってのは。

ただ、あんまりこう言う事を言う女でもねぇからな…新鮮っちゃ新鮮だ。

良心の呵責ねぇ…そんなもんは俺はハナっから持ち合わせちゃいねぇ。

殺したいと思ったら殺し、生かしたいと思ったら生かす…有象無象に対する考え方なんざその程度だ。

…そら、放って置きゃ良い事にクビを突っ込んじまう悪癖もあるがよ。

恐らく千冬は気付いているだろうが、俺は気配を殺してラウラの言葉に耳を傾ける。

 

「教官は強く、孤高です。私の、憧れなんです…そんな人が男にうつつを抜かしているなど…!」

「ラウラ、私は弱い人間だ…大切な家族一人この手で守る事が許されなかった。私はお前が思っているほど強くは無い」

「貴女は私に光を見せてくれた。この眼帯の下の忌々しい瞳から私をその強さで救ってくれた…。私には、貴女が必要なんです。だから、こんな場所で教師など止めてドイツ軍に!」

 

…餓えてる。

愛情に餓えてるのかもしれねぇ。

まぁ、十五、六の小娘だ…あの姿からして特殊な生まれだろうし、見放されていたところを拾った千冬に母性みたいなものを感じていたのかもな。

そら、俺が憎いわな…愛し愛されの関係でラウラから奪っていったようなもんだ。

俺からすりゃ、憎まれる謂れのねぇ事だがな。

 

「私は此処でやるべきことを見つけた…今は、この学園が私の居場所なんだ」

 

「私達を…私を見放すと言うのですか、教官!!」

「ラウラ…私はお前の教官ではなく担任だ。もっと他の事にも目を向けてみろ。軍の様な場所での生き方とは違った生き方だって選択できる場所なんだぞ?」

「私に、甘くなれと言うのですか?」

「そら、違うだろ…ボーデヴィッヒ」

 

いい加減時間もヤバくなったんで、俺は廊下の角から姿を現しながらラウラに声をかける。

ラウラは、舌打ちしつつ此方に振り向く。

 

「アモン・ミュラー…なら、どういう意味だ」

「もっと物事を柔軟に考えろって言ってんのさ。別に教官とか教師とかの間柄でなくても、千冬と触れ合うことだってできるし、なんだ…千冬はお前の物でも無きゃ俺の物でもねぇだろ?」

 

単純な餓えからくる独占欲。

それが、今のラウラの原動力なんだろう。

でも、千冬は千冬の物だろ…誰かと共に在りたいと願うのは誰でもねぇ千冬自身だし、その千冬に選ばれたのが偶々俺だったってだけだ。

 

「教官は私と共に軍に居るべきだ。こんな、ISをアクセサリーか何かにしか思っていないような連中しか居ない学園よりも遥かに能力を――」

「ほう…偉くなったものだな…ラウラ・ボーデヴィッヒ。部隊の隊長を任された程度でもう一人前気取りとは恐れ入る」

 

千冬は堪忍袋の緒が切れたのか、目を細めてラウラを睨み付けて怒気を隠そうともしない。

視界に入っていなくても、声色ではっきりとキレてんのが分かる…。

俺は千冬に近づいて、頭を撫でて落ち着かせようとする。

 

「落ち着けって…此奴の生きてきた環境じゃ、ISは兵器であってスポーツの道具じゃねぇ。そういう凝り固まった考えを正すのが俺たちの仕事だろうが」

「ふぅ…そうだがな…」

 

千冬は怒気を抑えつけるものの、頬をピクピクと痙攣させている。

相当頭にキテるんだな…ラウラにも、自分にも。

ラウラをこんな考え方にしちまったのは、他でもねぇ千冬自身だ。

そのことに自噴を憶えちまってる。

責任感、結構強ぇ女だからなぁ…。

ラウラは千冬の怒気に言葉をつぐんで黙りこくる。

今は…口を開かねぇ方が賢明だろうよ。

 

「ラウラ、もうすぐ授業が始まる。行け」

「…わかりました」

 

ラウラが階段を上っていくのを見送り、軽く溜息を吐く。

あれは、到底納得できねぇって言う面だ…。

スカーレットがついてるから並大抵の事は問題ねぇだろうが…ちっと、俺も監視してた方が良いかもしれねぇな…。

 

「千冬、次の授業始まるぞ」

「あぁ…」

 

怒っていたかと思えば、ラウラが居なくなった途端に千冬は落ち込んじまってる。

優しく体を抱きしめて、慰める様に背中を撫でてやる。

気にしたところで、昔が覆るわけでもねぇ…選択と行動の結果だ。

悔やんでも仕方がねぇから、生きてる限りは歯を食いしばってでも顔を上げて前を見なきゃならねぇ。

それが破滅の道であってもだ。

 

「いいから、割り切っておけ…まだこれからがある。変えてやるチャンスが必ず来るって」

「…そう、願いたいものだな」

 

千冬は俺から離れて、一組の教室に向かって歩いていく。

昼休み終了のチャイムが校内に響き渡った瞬間、俺の昼食抜きが確定した。

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