インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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腐海と変態…の前に少々の決意

「~~♪」

「ご機嫌だな、アモン」

「まあな~、暫く嫌がらせはねぇと思うぞ?」

「は…?」

 

一夏と二人で台所に並んで弁当と朝飯の準備をする。

いや、昨夜から寝てねぇんで眠いのなんの…スプレー塗料やらペンキやらの落書きは頑固すぎて落ちねぇし、ゴミは分別しなきゃなんねぇから仕分けに手間取るし…まぁ、やりやがった奴らにゃ相応の『お仕置き』をしてやったがな。

ふつーの人間じゃ無理だろうが…まぁ、超常存在である俺にゃ関係ないわけで…。

まぁ、些細な悪戯程度だけどな。

例えば、恋人に浮気がバレるとか。

例えば、いやがらせから帰ったら伴侶が寝取られてたとか。

なぁ、些細だろう?

ぐぇっへっへっへ。

 

「アモン、笑い声が悪人、悪人になってる!」

「おっと、いけねぇ…愉悦に浸りすぎちまったぜ」

「にしてもアモンは料理上手なんだな」

「一人旅だからな…まぁ、色々とスキルも身につくわな」

 

手際よく卵を割って解きほぐし、塩コショウで調味。

生クリームを少しだけ入れて、卵を熱したフライパンに流し込む。

火加減の調整に気をつけて卵を半熟状態まで箸でかき混ぜて包み始める。

それっぽく形を整えればそれで良い…どうせ腹に入っちまえば変わんねぇし。

 

「お~う、サラダとパンの準備は良いか~?」

「あぁ、大丈夫。腹ペコペコだし、早く食べようぜ」

「わーったわーった。んじゃ、食うか」

 

昨夜、人形を操作しながら作っていたオニオンコンソメスープをマグカップに注いで、オムレツの乗った皿と一緒にテーブルまで運んで席につく。

本日の朝食は、オムレツ、グリーンサラダ、オニオンコンソメスープ…それとトーストだな。

なんつーか…うん、欧州風になっちまったなぁ…この間まで滞在してたせいだけど。

オムレツをナイフで真ん中から切り分けると、断面からとろーっと半熟の卵が溢れてくる。

会心の出来すぎて思わずドヤ顔になっちまう。

あぁ、メシテロで千冬に写メ撮って送りつけとこ。

 

「なにやってるんだ?」

「いや、野郎二人で良いもん食ってるぞってな」

「酷いなぁ、それ」

「悪魔だからな、ケッケッケ」

 

おどけたように笑い、一夏と一緒に朝食を撮り送りつける。

あーっと…今こっちが六時くらいだから、向こうは夜中の二十三時くらいか…笑いが止まらねぇなぁ。

 

「冷める前に食おうぜ!」

「応よ。んじゃ、いただきます」

「いただきます」

 

一夏の取り分け皿にオムレツを半分乗せて食事を始める。

昨日見たときより幾分顔色が良いな…やっぱこれから一人でこの家に暮らすなんて考えると不安になって仕方なかったんだろうな。

まだまだケツの青いガキってこった…ま、環境も悪かったからなぁ。

 

「んぐ、うま、うま…」

「しま、うま…と。なぁ、アモン…アモンって何で強いんだ?」

「そら、んぐ…ぷはっ…悪魔だからに決まってんだろ?」

 

食事の手を止めて一夏を真っ直ぐに見る。

大人ってのは真っ直ぐなやつに嘘はつかないのさ、フフン。

 

「嘘だ!っていうか…悪魔なんていないよ、アモン」

「まぁ、人間の方がよっぽど悪魔らしいけどな…いるぜ、悪魔はよ」

「あのさ、子供だからってからかってる?」

「んなわきゃねぇだろ…ったく、大真面目に言ってるっつーの」

 

電気ケトルからカップにお湯を注ぎ、ティーパックから紅茶を抽出する。

後で茶葉買ってこねぇと…。

オカルトってのが信じられてねぇんだなぁ…この世界。

まぁ、俺からしたらISもよっぽどオカルトなんだけどよ。

 

「アモン、俺さ強くなりたいんだよ。誰も悲しくならないように…そうでなくても千冬姉を守れるくらいには強くなりたいんだ」

「一夏、他人の為に強くなるってのは無理な話だぜ」

 

ゆっくりとカップの中身の色が変わっていくのを眺めながら、呟くように言う。

それじゃぁ、いつか壁にぶつかった時に迷っちまう。

理想としては綺麗なもんなんだがな。

 

「どうしてだよ?無理な話じゃないだろ?」

「じゃぁ、聞くけどよ…その他人が泣いちまったら…『死んだら』、てめぇ…どうする気だ?護れませんでしたごめんなさい?ほざけよ…それじゃ壁にぶち当たって迷走しちまう。誰も彼も悲しくならないように、なんてのは無理なんだよ…平等なんて言葉があって実践されていないように、誰かが泣く」

「…でも、俺は…弱かった所為で千冬姉に!」

「だったら、他人や姉貴なんて理由で強さ追い求めんな。自分の為に強くなりやがれ。過去のへこたれた自分を蹴っ飛ばして、明日に向かう強さを持てよ」

「……」

 

他人の為に、なんてお人よしは受け入れられねぇ…人間誰しもがウラを考えちまう。

いや、そうじゃねぇ人間も居るがな。

お人よしじゃ駄目だ…利用されるだけ利用されてポイッだ。

利己的に生きなかったら自分なんて居ないのと変わらねぇよ。

 

「俺の為に…?」

「応よ…強い力手に入れたら自分で使い道決めんだよ。そっから先は自己責任…どう扱おうが自分でケツ拭かなきゃならねぇけどな?」

「……」

 

一夏は顔を俯かせて思案している…まぁ、ガキが強さ追い求めても…とは思うが姉貴が姉貴だ…憧れもあるんだろう。

二人暮らしで、ずっと護られてた負い目ってのもあるだろうし…。

だが、まぁ…。

 

「アモン、それでも…それでも俺は強くなりたい…アモンみたいに強くなりたい。だから…俺を鍛えてくれ!!」

「まぁ、良いけどよ…途中でへこたれやがったらぶっ殺すからな」

「っ…!!??」

 

紅茶を飲みながら、どす黒い殺気を放つ。

もしコレに耐えるだけの『覚悟』があるなら、きっちり鍛えてやらぁ。

一夏は顔面蒼白になり、込み上げてくる吐き気を耐えるように口元を抑えてガタガタと体を震わせる。

子供にゃ刺激が強い…下手すりゃトラウマもんだ。

だけどよ…何ごとも代償がある。

俺にしちゃ優しい代償だけどな。

 

「っく…ぜったい…まけるかよ…!!」

「おーう…頑張るじゃねぇか…いいぜ、鍛えてやる」

 

両腕を机に突き、必死に吐き気と眩暈に耐えながら一夏は此方を宣戦布告するように睨んでくる。

合格だぜ、クソガキ…姉貴みたいな大物になりそうだ。

俺は殺気を引っ込めてニヤッと笑みを浮かべる。

 

「悪魔と取引したからにゃ、一人前にしてやんよ」

「っく…うっ!!ごめ!!トイレぇっ!!!」

 

一夏はどたばたと転げ回る様にリビングから飛び出して、トイレへと駆け込む。

まぁ…うん…なんか、ワリィな…。

俺は席から立ち上がり、キッチンに向かう。

パン粥なら作れるか…そんな事をぼんやりと考えていると携帯にメールが送られてくる。

送り主は千冬か…内容は

 

『フザケルナ、コロスゾ』

 

の一言のみ。

どうやら相当にお疲れらしいな…でもま、悪魔なんでね。

しっかし、あれだな…文面から殺気が漂ってくるってのも凄いな…。

 

「うぅ…死ぬかと…」

「強さってそう言う世界に巻き込まれる事もあるってこった。今消化にイイもん作ってるから待ってろ」

「うっぷ…ごめ…」

「いや、俺もなんか…やりすぎたわ」

 

パンを角切りにしてマグカップにどーん!

ミルクと塩コショウどーん!

ラップしてレンジでちーん!

で、簡単に出来るのがパン粥のいいところだな…手軽だ。

グロッキーになっている一夏の目の前にマグカップを置き、食事を再開する。

 

「アモンは…怖いけど優しいよな…」

「どうだかねぇ…そういう評価ってのは始めてだぜ?」

「そうなのか?」

「応よ。ま、目つきも悪いしな」

 

…あぁ、でも…昔の女にはそう言われてたか…やっべぇ、なんかへこんできちまった。

ぶすっとした顔でパンにオムレツを乗っけて噛り付く。

あぁ、嫌だ嫌だ…。

 

「アモン?」

「大丈夫、ちっと昔思い出してセンチになっただけだ」

「そっか…深くは聞かないよ」

「ありがてぇこった。うら、そろそろ行かねぇと遅刻すっぞ?」

 

なんだかんだで時刻は七時前…たしか授業開始が八時とか言ってたからそろそろ向かわせねぇとな。

一夏は時計を見るなり飲み干すようにしてパン粥を食べれば慌てて荷物をひったくって飛び出していく。

 

「ごめ、後片付けよろしく。いってきまーす!」

「応、精々勉学に励めや」

 

悠々自適の主夫生活…俺はじっくりと楽しませてもらおうじゃねぇか。

食事を終えた俺は、その第一歩として洗い物から手をつけ始めるのだった。

 

 

 

 

 

本日はお日柄もよく、絶好の洗濯日和である。

洗濯日和と言う事は掃除日和ということでもある。

ひゃっはー、汚物は吸い込みだ~…と言わんばかりに掃除機で掃除をしていき、ある部屋で足が止まる。

そう、千冬の部屋である。

 

「流石にな…女の部屋勝手に掃除するのもなぁ…」

 

だが、いつ帰ってくるか分からないわけで…そのまま放置して埃まみれにするのも気が引ける。

入るなとは言われてないしなぁ…。

 

「入っちゃえば?」

「まぁ、掃除機かけるだけだしなぁ…おっじゃまー」

 

ドアノブに手をかけ、部屋をゆっくりと開ける。

想像を絶していた。

想像を絶していた…なんだよ、あれ…生ゴミやらビールの缶やら下着やら散乱して腐海なんてレベルじゃねぇよ…腐れ爺の墓場みてぇな事になってやがる!!

 

「うっひゃ~…ちーちゃん、これはないわ~」

「おいおい…一夏なんで片付けてねぇんだよ…」

 

なんか、こう…女特有のいい匂いとか期待してた俺が馬鹿だったわ…片付けねぇと拙い!

掃除機を手放し隣から差し出されたゴミ袋片手に腐海に突撃する。

 

「おい!テメェも手伝えおねがいしますん!?」

「い~よ~、お宝はっくつ~!!すはすはすはすはすは」

 

よくよく考えたらこの家には俺一人だ。

他に誰もいないはず…俺は動きを止めてゆっくりと…ゆっくりと悦に浸っている(変態行為をしている)侵入者を見る。

言ってしまえば、そいつの格好は所謂不思議の国のアリスの登場人物であるアリスの姿をしている。

その胸は、もはやおっぱい魔王とも言えるほどのボインちゃんだ。

正直、千冬よりもデカいんじゃねぇか…?

いや、でかいな…間違いねぇ…。

頭にはメカニカルな兎の耳がついていて、現在進行形で千冬の脱ぎ散らかした下着を顔に思いっきり密着させて過呼吸気味にスーハースーハー言ってやがる。

 

「あぁ、ちーちゃん…!たまらないよぅ!うへへへ」

「誰だこの変態!?」

 

思わず俺は思い切り平手打ちして下着をひったくる。

あ、やべ…手加減忘れた…死んじまったか…!?

華麗な弧を描いて吹っ飛んだ変質者は、壁にぶち当たって止まるもののすぐさま立ち上がる。

 

「何をするんだい!ちーちゃんにしか殴られた事ないの「じゃかしいわ!変態が!!」

 

なんか手加減無しで打っ叩いても問題ないようなので、もう一度平手打ちをする。

やべぇ…こんな変人今まで見たことねぇ…はじめてこの世界がコワイと思ったぜ…。

 

「二度もぶった!この天才篠ノ之 束の頭を!!私の貴重な脳細胞が死んだらどうすんのさ!?」

「変態の脳細胞が死ぬ事で世界が平和に一歩近づくはずだぜ?」

「むきー!!」

 

篠ノ之 束…確かISの開発者だったよな…天才とかって話だったが、ただの変態メルヘンボインじゃねぇか…どうすんだよ、コイツ…関わりたくねぇよ…。

 

「ねぇねぇ、あっくん!人形か下着ちょうだい!!」

「だれが、あっくんじゃゴルァ!テメェみたいな不審者にくれてやるもんなんぞあるかい!」

「ねーねー、おっぱい揉んでいいからさー!」

 

あーやべ…こいつ話通じねぇわ…。

俺は深く溜息を吐きながら黒革のグローブを嵌める。

よし、処分しよう。

素早く腕を薙ぎ、変態を捉え様とするが、どうやらこの変態…真性の変態だったのか俺の扱う鋼線をまるで舞うかの様に紙一重で避けていく。

ちったぁやるな…人間の割には、だけどよ。

変態が跳ね回り、着地した瞬間に罠として待ち構えていた鋼線が変態の体を這い回って亀甲縛り状態になる。

変態討ち取ったり。

 

「一応、報せておくか…」

「うがー!はなーせー!!」

 

俺はギャーギャーわめく変態を軒先に吊るし、張り紙で『現在プレイ中です。そっとして置いてください』と書いて体に貼り付ける。

トドメとばかりに写メを撮り、千冬と一夏に知り合いかどうか聞く為に写真を送りつける。

千冬はまだ寝てるだろうから反応は期待して…等と思っていたら電話が掛かってきた。

 

『おい、束は今其処にいるのか?』

「応…束かどうかは分からねぇが、千冬の下着を顔に密着させてた変態なら目の前で吊るしてるぜ」

『生ゴミと一緒に出しておいてくれ』

「ちょ!!ちーちゃん酷いんじゃないかな!?」

 

一応、この変態は件の天才篠ノ之 束で合ってるらしい。

天才と変態は紙一重って言うか彼岸の彼方って感じだなこれ。

自分でも何言ってんだかわかんねーけど。

 

『アモン、束に電話を代わってくれ』

「あいよ~」

 

俺は千冬に請われるままに電話を束の耳元に持っていってやる。

…なんで、こんな目に合わなきゃならんのか…。

 

「やーやー、ちーちゃん!会えなくて何度枕と敷布団濡らしたかわからないよ!さぁ、愛を!一心不乱の愛を!!」

『…すぞ』

「っ!失礼しました!!」

 

電話から殺気の篭った脅し文句が響き渡ると、束は背筋をピンッと伸ばして真顔で謝る。

どうも千冬には頭が上がらねぇみたいだな…。

ごほん、と千冬は咳払いをして会話を続ける。

 

『…何の用だ?』

「えー、いっくんの同居人がゲイかどうか調べに来たんじゃーん」

「…すぞ」

 

ノンケだクソが。

あまりにもイラッとしてしまって、まるでサンドバックを蹴りこむように綺麗に回し蹴りを入れるが、てんで効いてるような雰囲気がない…マジで人間かこいつ…。

 

「さーせんっした!」

「おい、千冬と扱い違うじゃねぇか」

「はぁ?なんでちーちゃんと同格で扱わなきゃいけない訳?きちんとキミを認識している事をありがたく思ってもらいたいね」

 

これにはオッサンカチンとキタワー…よし、ぶっ殺そう。

家の掃除が終わった後に。

 

「千冬ー!生ゴミとして出すわー!」

『あぁ、これから早朝訓練があるから切るぞ』

「応、頑張れよ~」

『またな、アモン』

 

通話が切れたので電話を懐にしまい、束に向き直る。

あぁ…ったく面倒くせぇ…確かにこりゃ一夏を一人にはできねぇわな。

ぎゃーぎゃーと何やら喚いている束を放置して家に入る。

まぁ、手土産くらいは持たせてやるか。

子供向けに作った自動人形(オートマータ)を私室のトランク内から起動させて、束の足元に向かわせる。

目の前に吊り下げられた餌を前に必死にもがくが良い…人間にゃ切れない代物だから、どうやったって人形は手に入らないけどな!。

千冬の部屋を片付け終える頃には夕方近くになっていた…吊るしたままの束を回収しようと軒先へと向かうが其処には誰も居ない。

残っていたのは切られた俺の鋼線だけだ。

 

「まじか…切られてやがる…何使いやがったんだ…?」

「アモーン!!束さんは!?」

 

切られた鋼線を見つめ険しい表情を浮かべていると、一夏が息を切らせて駆けて来る。

俺は静かに首を横に振るだけだ。

 

「んにゃ、逃げられた…あんの野郎…マジで人間か?」

「どう、だろ…束さんだし、なぁ…」

 

息を整える一夏を尻目に、沈んでいく夕日を眺める。

このとき俺は重大な過ちを犯していたのだが、それに気付くのは後の祭りと化した時なのだった。




本能のままに書いた!
このまま突っ走る!!
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