インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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芽吹く厄災

午後、最後の授業を第三アリーナの整備室で終えた俺は、そのまま校舎に戻る事はせずにアプリストスにコアを移植しなおす。

フランス一人旅の最中にも、暇を見つけてはコアに細工を施してきた。

その度にチビに絡まれてたんだが…ガキが一人でいるにはあの小麦畑は広すぎるし静かすぎる。

かと言って娯楽を置いてくるような細工を施すほど余裕があるわけでもねぇから、我慢してもらうしかねぇんだけどな。

アプリストス本体のコア収納部分にコアを接続させて納める。

直ぐ様本体に対する調整と、エネルギー効率をグラフ化させて再移植後の具合を確認する。

 

「ガタ落ちしてる…っても三割くらいか。元々このコアに合わせてたし、ガキと遊ぶにゃ良いハンデだな」

 

コアからのエネルギー供給率はコアの摘出前に比べて七割近くまで下がってる…とは言え、戦闘機動が出来ないほどでも無いんで、危惧するほどのものでもねぇな。

仮にどっかから襲撃があったとしても、殲滅できずとも撃退くらいはこなせるはず。

それも一か月の我慢だし、頻繁に襲撃が起きるとも考えられねぇ…。

IS学園を襲撃するってのは、諸外国を敵にするって事に他ならねぇ。

束みたいな一個人や、IS委員会を通しての襲撃だってんなら話は変わってくるけどな。

 

「ミュラー先生、今日は大丈夫、ですか?」

「応、簪か…俺が居ねぇ間キチンとやれてたか?」

 

気付けばSHRが終わり、時間帯は放課後…簪は走ってきたのか息を切らせながら笑みを浮かべて俺に寄ってくる。

スティーリアが手伝ってたとは言え、そこそこ難航し始める頃合いだ。

OSの組み立てとコアの同期作業を始めなきゃならねぇからな。

簪はコクリと頷く。

 

「プログラム回りは、得意」

「姉貴と違って、体動かすのは苦手って感じだもんなぁ」

「その内、お姉ちゃんよりも動けるようになる…!」

 

簪は姉貴と比べられたのが嫌なのか、頬を膨らませてソッポを向く。

ただ、拒絶する様な雰囲気でもなく、単純にそういうポーズを取ったと言うだけでそこまで嫌ってるって感じじゃねぇなぁ。

楯無…ストーキング止めりゃワンチャンあるかもだぜ…。

 

「じゃま、互いに作業を始めるかね…?」

「はい…!」

 

簪の頭をポンと撫でてやり、互いに自分の機体の元に向かって作業を始めよう…と言うタイミングで整備室に学園のおっとり屋がやってくる。

 

「まお~さま~、お土産は~?」

「入ってきて開口一番それかよ…布仏ェ…」

「さぁ、わたしに甘いものを下賜するのだ~」

 

布仏 本音は、歩いているのか走っているのか分からねぇ速度で俺の元に向かってくる。

クラスを受け持っていねぇ以上、生徒になんざお土産は買ってきていねぇ…。

本音は甘いものを目的にここに来ている…ねぇと分かれば出すまで一日付きまとわれる事になる。

理由は甘いものを給料代わりに、ラウラと生徒の緩衝材役をやってもらってるからだ。

こいつの人間関係構築能力は悪魔も真っ青だからな…。

 

「明日じゃダメか?」

「だめ~、さぁ、はりーはりーはりー!!!」

「参ったな…」

 

俺は足元に置いてあったトランクを開き中をごそごそと漁る。

飴玉の一つでもあれば、少しは黙らせられるんだが…。

簪は俺にまとわりつく本音を見て、ムッとした顏で注意してくる。

 

「本音、先生の邪魔しちゃ…ダメ」

「おじょ~さま、これはせーとーなほーしゅーなのです!」

「ラウラっての居るだろ?あいつハリネズミみたいにツッケンドンだから、こいつに橋渡し役頼んでるんだよ」

 

ごそごそとトランクの中を漁っていると、何かを掴んだのでそのまま引き上げる。

トランクの中から物体が出てきたところで押し込み返そうとするが、引きずり出されたものは俺の腕を払いのけてそのまま出てくる。

 

「…アモン、甘いもの」

「何でテメェが…」

 

それは他人と視線を合わせたくねぇのか、黒いローブについているフードを目深に被っている。

フードから見える口元は少年の様に見えるが、実年齢は既に三桁を越えるほどの高齢の魔導王。

俺が引き籠りと言って憚らない、ディザルバ・トゥーゲント…通称、トゥーだ。

トランクの中から現れたんで、本音も簪も口をパクパクとさせて驚いてる。

 

「システムとか、機材とか、作った報酬…新作の毒見役をしてもらう…」

「…借りを大量に作っておいてそれを言うか?」

「それとこれとは、話が別」

 

トゥーは、口をへの字にしてフードの奥の碧眼で俺を睨んでくる。

此奴は甘い物…特に西洋菓子に命を賭けている程のスイーツ中毒者だ。

なんでも、生まれて初めて口にした食べ物が甘いものだったらしく、それ以来甘い物しか食ってねぇ…。

此奴が引き籠ってるのも、俺が今こうして他所の世界に行った時の報告書を本にしたものを読み漁り、或いは甘いものを作成して食っている所為だ。

 

「あの…先生…それは…」

「…人形だ、俺の作った…」

「…そう言う事にしてあげよう。さぁ、ハリーハリーハリィィ!」

 

トゥーは早く感想が欲しいのか、手に持ったロールケーキをグイグイと押し付けてくる。

これから機体の整備せにゃならねぇってのにはた迷惑な…!

俺は、トゥーの頭を右手で鷲掴みにして持ち上げる。

 

「もごもご…もっご!!」

「うるせぇよ、こっちに干渉してくんなボンクラが…!」

「せんせ~、きょうのほうしゅ~はそのロールケーキで手を打ってもいいのよ?」

 

頭を掴まれても必死にトゥーが押し付けてくるロールケーキを、さも美味そうなものだと言う目で本音は涎を垂らしながら見つめている。

実際美味いけど、俺にゃ甘すぎるんだよ…コレ。

…だが、これは良いかもしれねぇな。

俺は本音に餌付けができて、解放される。

トゥーは本音から感想が聞けて満足できる。

本音は甘いものが食べられてご満悦。

まさにwin-win…これで行くしかねぇな!

 

「よぅし、本音にはこのロールケーキを進呈してやろう」

「わぁい!」

「え~…」

 

簪は呆れ顔で、餌付けされる本音とプラプラと揺れているトゥーを見て呆れ顔でいる。

だが、これが一番丸く収まる…とっとと、この引き籠りを追い返してぇしな。

本音はロールケーキを丸々一本手に持って、大きく口を開けて齧り付く。

…華を恥じらう乙女の喰い方じゃねぇよ…せめてちぎるとかしろよ…。

 

「んまぁ~~い!あんま~~い!」

「もごもごっごも」

「もっと詳しく感想をだってよ」

 

トゥーは手足をジタバタとさせて俺の拘束から逃れようとするが、此奴の膂力はそこら辺の女程度しかねぇ…魔術魔法を使わせたら超一級品の腕前なんだがなぁ…。

引き籠りが災いして、米十キロ持って三十分歩いただけで息切れするって問題だと思うんだが…。

 

「えっとね~、ロールケーキのスポンジはフワフワのもっちもち。包んである生クリームもミルクの香りがとってもいいし、甘さもわたしの好みなの」

「…本音、ちょっとだけ」

「はい、おじょ~さま!」

 

本音はいつもよりもハキハキとした口調で感想を言う。

甘いものの力だとでもいうのか…すげぇな…。

あまりにも雄弁に感想を言うからなのか、甘いものの誘惑に女性は抗えねぇからなのか、簪も興味を持って本音からロールケーキを分けてもらって一口食べる。

 

「…甘…あ、でも…うん、美味しい…。先生は、ケーキ作れる人形も作るんですね」

「お、おう…」

 

あんまり、純粋な眼差しを俺に向けてほしくねぇ…。

浄化されちまうよ…。

俺はトゥーから手を離して、床に落とす。

案の定受け身の取れなかったトゥーは、床に尻もちをついて悶絶する。

 

「~~っ!いたい!」

「感想聞けたならとっととカエレ!」

「むぅ…こっちの甘いもの…」

「後で送ってやるから…帰れよぅ…」

「仕方ないなぁアモンは~」

 

ぶっ殺してやろうか…この野郎…。

トゥーは、足からトランクの中に入っていき、某アンドロイド映画のように右手の親指を立てて上に突きあげながらトランクの中に沈んでいく。

また戻ってくる、じゃねぇよ…来んな…!

トゥーは首まで沈んだところで思い出したように口を開く。

 

「アモン、ドイツの機体、調べておくと良いよ。彼方側と同じなら…厄介事の種が眠ってる」

「…お前」

「フフフ…」

 

…メッセンジャーで来たならとっとと要件済ませろってんだよ。

トゥーが最後に口走った事は本音と簪の耳にも入ってしまっていたようで、怪訝な顔をされる。

 

「ドイツって~、ラウラウのかなぁ?」

「それしか、無いと思う…でも、なんで…?」

「ああやって適当な事を言うんだよ…あの人形。甘党過ぎて頭がイかれてるからなぁ」

 

俺はキリッとした顔で嘘をつきつつ思案する。

ラウラのIS…シュヴァルツェア・レーゲンは軍用機体と言う事もあって、整備は学園内のドイツ人スタッフが担当している。

基本的には整備課担当教諭や、三年生が整備を行っていくんだが…ラウラのISの様に軍で開発されたものとなると、機密漏洩を理由に専属スタッフが着くことが多いそうだ。

厄介事の種か…そう言った意味ではラウラ自身もその種なんだがな。

一先ず、忠告に関しては頭の隅に置いておくとして…アプリストスの整備を始めるとしよう。

 

「治るんですか…さっきの人形…?」

「俺、若干諦めてる…」

「まお~さま、なっさけな~い」

「じゃかぁしいわ!」

 

アプリストスに携帯端末を繋げて、とあるシステムプログラムをダウンロードしていく。

システム着床に時間がかかるが…戦闘には使用しない無駄なプログラムだし、大きな問題にはならねぇだろ。

それに、約束してるしな。

機体のパーツのチェックを始めようとレンチを手に持った瞬間、アリーナに警報が響き渡る。

 

「な、なに!?」

「おじょ~さま、此方に!」

「アリーナのシールドが破られたな…テメェ等はアリーナから避難しろ!」

 

俺は手に持ったレンチを放り投げて整備室を飛び出す。

まさか、襲撃…?

いや、特にイベントが開かれてる訳ではねぇから人が集まってるわけじゃねぇ…それに、今日のスケジュールじゃ使うのは…。

其処まで考えて、首を傾げる。

もし…もし、厄介事が暴れてるのだとしたら…一夏はどうするか…?

ISを持ってこなかったのは失敗だったな…!!

人外の俊足をもって通路を駆け抜けてピットからアリーナに飛び出すと、今まさに一夏がラウラへと斬りかかろうと突っ込もうとしていた。

上空にはIS用近接ブレード…確か打鉄用の太刀モチーフの『葵』を素手で持った千冬がいる。

人間止めてんなぁ…。

二人が激突する瞬間に一夏の雪片二型を千冬が受け止め、ラウラを俺の鋼線が絡みついて動きを拘束する。

 

「まったく、ガキの喧嘩を止めるのは骨が折れるな」

「そういうのも可愛いもんじゃねぇか」

「どうだかな…さ・て…」

 

一夏とラウラは俺たちに戦いを止められたことに驚き、または怒りを露わにするが、千冬から発せられる殺気に押し黙る。

一夏の方が若干心に余裕がある雰囲気だな…。

 

「模擬戦をやるのは構わん。だが、アリーナのシールドを破壊される事態に陥っては教師として黙認できん」

「零落白夜にしろ停止結界にしろ、やり過ぎは怪我どころじゃ済まねぇんだ…分かるだろう?」

 

俺は笑みを浮かべなら、目の前にあるラウラの顏を見つめる。

ラウラは忌々し気に俺を睨みつけるが、まるで自身が停止結界に陥ったかのように身動きが取れず困惑してる。

人外相手に使う武器だ…IS程度のパワーアシストで千切れられたら困るのさ。

…束はコレぶち切ってるんだよなぁ…。

 

「この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらう…いいな?」

「っ…教官がそう仰るのなら」

「は、はい…」

 

ラウラと一夏は同じように頷き、互いの体の力を抜いていく。

完全に抜けきったタイミングで俺は鋼線の拘束を解いてやるが…。

 

「ちっ…!?」

「アモン!!」

 

ラウラは事もあろうか、俺の事をシュヴァルツェア・レーゲンの足で蹴り飛ばしやがった。

寸前に、俺は蹴られる方向に飛んだのでダメージはそんなに高くねぇが…。

弾き飛ばされて地面を転がりながら俺は跳ね起きて、地面を殴りつけた衝撃で更に高く飛ぶ。

俺の真下をレールカノンの砲弾が通り過ぎていく。

 

「くっ…!どうした!?何故言う事を聞かない…レーゲン!!」

「千冬!一夏!離れてアリーナを閉鎖しろ!!」

 

俺は着地と同時に駆け出し、ラウラの…否、『シュヴァルツェア・レーゲン』の放つレールカノンの砲撃を避けていく。

ラウラは必死に機体を制御しようとするが、まるで意志を持ったかのように言う事を受け付けていねぇみてぇだな…。

…なるほど、厄介事の種が芽吹いたかね?

 

「だ、だが!?」

「くっ!白式が!!」

 

一夏は千冬の体を抱えると、スラスターを全開にしてピットに突っ込んでいく。

一夏達の姿が消えた瞬間、ピットの隔壁が上がりアリーナ内は完全な密室となり果てる。

…なるほどね、ここまでやられりゃ犯人が誰か分かるな…。

 

「言う事を…!聞け!!こんな、こんな方法は望んで等…!!」

「ラウラ…今、止めてやる…!!」

 

俺は獰猛な笑みを浮かべて、ラウラへと駆け寄る。

束さんよ…誰を敵に回したのか、今教えてやらぁ…!!




当SSは銀の福音戦では終わらないと言う事を誓います←

…なんでこんな展開にしちゃったんだろう…?
まぁ、良い…突っ走るだけよ…フゥハハハハー!






なお、トゥー君は次に書く予定のIS二次創作の主役になる予定です。
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