インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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咲き誇る悪意の花

ラウラは必死な顏で、シュヴァルツェア・レーゲンの制御を取り戻そうと躍起になっているが、あまり目立った効果を見せることなく機体は暴走…否、遠隔操作され続ける。

必死に抵抗しているお蔭もあってか、期待の挙動自体はワンテンポズレてくれているおかげで攻撃を回避する際に随分と余裕がある。

と、言っても一般人なら即ミンチになるような攻撃テンポだけどな。

俺はアリーナの地面を蹴り砕く勢いで走り続け、放たれるブレードワイヤーを跳躍し、這い蹲り、八方手を尽くして回避する。

恐らくピットに突っ込んでいった白式も、今は機能を停止させられて言う事を聞かねぇ状況にされている筈だ。

アリーナの観客席を見ると、息を切らせて走ってきた簪や千冬が心配そうに俺を見ているのが分かる。

さて、とっとと畳んじまうか…。

 

「止まれ止まれ止まれ!!」

「手加減できねぇから、耐えろよ!?」

 

俺は、シュヴァルツェア・レーゲンから距離を取って様子を伺っていたが、どうもコアから過剰にエネルギーが供給されているらしく、時折装甲の隙間から火花が散っているのが見て取れる。

束の野郎…共倒れを狙ってるんだろうが、そうはいかねぇぞ…。

円を描くように走り回っていたのを止めて、今度は愚直なまでにラウラに向かって距離を詰めていく。

シュヴァルツェア・レーゲンは好機と見たのか、俺の退路を潰す様にブレードワイヤーを射出し、リボルバー・レールカノンの撃鉄を上げる。

 

「避けろ!」

「馬鹿が…その程度で止まるかよ!!」

 

俺は両手の鋼線を展開してワイヤーブレードに触れさせることにより、一時的に動きを掌握。

俺の前方にワイヤーブレードと鋼線を束ねてネット状にした瞬間、レールカノンから砲弾が放たれる。

近距離から発射されたとあって、ワイヤーブレードは砲弾を受け止めた衝撃で千切れ飛ぶが、俺の鋼線は砲弾を反らす様に道を作り威力の殺された砲弾を鋼線の道に沿って逸らしていく。

俺はそれを背面宙返りの要領で飛んで躱し、ラウラの両肩に飛び乗る。

 

「へっへっへ…捕まえたぜ束…!!」

「ばっ…貴様人間か!?」

「レールカノン、貰ってくぜ?」

 

ラウラの肩に乗った瞬間確信した。

シールドエネルギーが展開されてねぇ…恐らく何も知らねぇ俺が全力で攻撃して、大怪我を負わせるように仕向けたかったんだろうが…。

お見通しなんだよ…ガキのやる事なんざな。

俺は鋼線でレールカノンを縛り上げ、一気に引き絞る。

シールドエネルギーで機体が守られてないことが幸いし、鋼線はレールカノンに喰い込んでいって綺麗なナマス切りにしていく。

ラウラは、いきなりレールカノンがバラバラに切断されたことに驚き、眼を白黒させている。

 

「まだ、暴れるか…往生際が悪ぃっ!!」

「いい加減、貴様も私から逃げろ!私なんか放っておけば良いだろう!?」

「馬鹿言うんじゃねぇぞ、ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」

 

シュヴァルツェア・レーゲンは両腕に内蔵されたプラズマ手刀を収束させて肩に乗っかっている俺に向かって突き出してくるが、俺は寸でのところでラウラから跳躍して離れつつ

鋼線を伸ばして機体の足にくくり付けてワイヤーアクションの要領で地上に向かって急降下。

股の間を転がりながら通り抜けつつ、左足関節部分に拳を叩き込み粉砕させる。

無論、無茶したんで俺の拳もただでは済まねぇ。

叩きつけた衝撃で肉が爆ぜて、骨が外気に晒される…痛ぇ!!

 

「教師が!生徒を!見捨てるかよ!!」

「っ…!!」

 

股下を転がって通り抜けた瞬間に体を跳ねさせ、プラズマ手刀の一撃を掠らせる様に避ければ、スーツのジャケットに火が点く。

俺は慌てることなくジャケットを脱いでラウラに向かって投げると、案の定馬鹿正直にシュヴァルツェア・レーゲンはプラズマ手刀でジャケットを切り裂いて前進してくる。

シールドエネルギーさえ張られていれば、強引だがエネルギー切れを狙ってラウラに集中攻撃を仕掛けられるんだが…今それをやったら、ラウラは確実に死ぬ。

んな事、俺は望んでもいねぇからな…武器を潰し、四肢を潰せば束も流石に諦めがつく筈だ。

面倒な事この上ねぇが、地道に動かせる部分を潰していく。

プラズマ手刀でジャケットを切り裂いた瞬間に、両腕に鋼線を絡ませる。

あんまり深くやると、ラウラの腕をズタズタに引き裂いちまう…だから、レールカノンの時とは違って加減して引き絞る。

装甲を切り裂き、内部装置を引き裂くに留めた鋼線を緩めて引き戻す。

残るは…!!

 

「ぐぁっ!!」

「がぁっ!!」

 

シュヴァルツェア・レーゲンは最後の抵抗と言わんばかりに、俺に向かって瞬時加速で体当たりを仕掛けてくる。

シールドエネルギーに守られてねぇラウラがもしこの速度のまま地面に激突したら目も当てられねぇ。

束の野郎が…いつかぶっ殺す…。

俺は、衝突の瞬間に機体の装甲部分を掴むことによってラウラが直接俺にぶつかる事を防ぎつつ体当たりを甘んじて受ける。

俺がぶつかった事に気を良くしたのか何度も何度も瞬時加速を繰り返し、アリーナの壁に激突。

背中から嫌な音が響き渡る。

俺は吐き気に耐えきれずに血の塊を吐き出す。

 

「げぅ…やってくれ、る…ラウラ…無事か…?」

「お、おま、おまえ、は…なん、で…?」

 

ラウラは歯をガチガチと鳴らしながら、怯える様な目で俺を見つめてくる。

その顔は、歳相応に見える…ガキらしい顔だな…。

 

「隊長さんが、する顔、じゃねぇ…だろ…ガハッ!」

 

俺は、ラウラの体を押しのけてアリーナの壁にめり込んだ体を動かそうともがく。

クソ…鉄筋が腹突き破ってらぁ…。

 

「ったく、ガチで殺しに来やがって…」

「う、動くな!死んでいてもおかしくないんだぞ…!!」

 

俺は、ラウラの忠告を聞くことなく体を思い切り動かして腹から鉄筋を引き抜いて立ち上がる。

血が凄まじい勢いで出るかと思われたが、すぐに肉体が修復を開始して傷を一瞬で塞いでいく。

ラウラは化け物でも見るような目で俺を見つめてくる。

 

「お前は…お前は一体何者なんだ…!?」

「言ってるだろ、悪魔だってな…」

 

ボロボロになった血染めのワイシャツを引き裂くように脱ぎ捨てて、ラウラからISの機械部品を強引に引っぺがしていく。

束の野郎が何かしでかす前に、コアを引き抜かねぇと面倒な事になるからな。

 

「あらかたぶっ壊したな…うし、立てるか?」

「っ…あ、あぁ…」

 

俺はラウラを立たせるために手を差しだす。

ラウラは俺を恐れながらも、その手を取ろうと手を伸ばすが…。

 

「っあああああああっ!!!」

 

シュヴァルツェア・レーゲンから紫電が発せられた瞬間に、ドロドロの黒い泥がラウラの体を取り込んでいく。

次から次へと…面倒事ばかり持ってきやがって…!

ラウラを取り込んだ泥は、まるでこねくり回された粘土の様に蠢き続けて人型を形作っていく。

やがて、成形が終わったのかやや大型のISの様な姿になったラウラの機体は一振りの刀を作り出す。

 

「てめえええええ!!!」

「一夏か!?」

 

裂帛の気合と共にピットの分厚い隔壁が切り裂かれ、白のISが飛び出してくる。

それに続く形で、スカーレットも中に入り込んでくる。

あいつも足止め喰らってたか…フランマとスティーリアはショウケース内で休眠してっからスカーレットだけでも助かるな。

 

「ふざけやがってぇ!!」

「馬鹿が…」

 

俺はIS…正確には千冬擬きと一夏の間に割って入り、一夏のどてっ腹に回し蹴りを叩き込んで動きを止めて地面に叩き落とし、腹を思い切り踏みつける。

煙草は…ジャケットと一緒に切り裂かれてねぇな。

 

「おい、クソガキ…戦うときはどうするって俺が教えたか言ってみろよ?」

「兄貴!そいつは俺がぶった切る!兄貴は邪魔しないでくれ!」

「言えって言ったんだ…答えろ一夏ァ…」

 

完全に血が昇っている一夏の腹を足で抑えたまま殺気を放って黙らせれば、此方に駆け寄ってきたスカーレットへと目を向ける。

…手持ちのドールの中で最も古く、最も近接格闘に特化した個体。

自律モードで戦わせてもその強さはそこらのISを遥かに上回る、近接最強のドールだ。

 

「申し訳ありません、マイマスター…隔壁破壊に手間取りました…」

「来てくれただけ頼もしいってもんだぜ、スカーレット。煙草あるか?」

 

イラつきの極致に来ていた俺は、持っている筈のない煙草を持ってるかどうかを聞いてしまう。

スカーレットが常に持っているのは大小様々な刀剣類だけだっつーのにな。

スカーレットは申し訳なさそうに首を横に振り、背を向けたまま千冬モドキの剣戟を武骨な青龍刀で受け止めていく。

 

「申し訳ありません、私は予備を持っておりませんので…」

「しゃぁねぇ…スカーレット、さっきから鬱陶しいのからラウラを摘出すんぞ」

「イエスマスター。御心のままに」

 

スカーレットは千冬モドキに振り向きながら青龍刀を手品の様に消し、華美な装飾が施された二振りの直刀を両手に呼び出す。

先ずは相手の動きを見極めて何処が核かを探るつもりのようで、スカーレットからは攻撃を仕掛ける事はしねぇ。

 

「頭冷えたか?」

「…ごめん、アモン兄…あいつだけは許しちゃならないんだ…あれは…あれは千冬姉だけの物だから」

「馬鹿が…あんな機械的な物が千冬の物かよ。ありゃ、真似をしているだけだ」

 

俺は一夏から足を退けて、千冬モドキに向き合いながら鋼線の具合を確かめる。

ちっと酷使しすぎたな…捕縛しても一瞬しかできねぇな。

一夏は漸く起き上り雪片二型を両手で構える。

 

「見てくれに騙されるんじゃねぇよ…心技体揃って初めて千冬の戦い方になるんだろうが」

「それでも、我慢ならない」

「ったく、頑固な弟子だな…」

 

こうと決めたら一直線ってのは嫌いじゃねぇ…だが、戦いにおいてはそれが許される訳でもねぇ。

ましてや、あんな加減を知らねぇような機械が相手じゃな…。

 

「マスター、敵性機体はシールドエネルギーで機体を構成しているものかと…少々時間をいただいてもよろしいですか?」

「いや、やる気満々の若者に任せる」

 

俺は一夏へと目配せする。

時間をかけて機体を削りきれば、いつかはシールドエネルギーが切れて機体が崩壊するだろう。

だが、肝心の中身が保つかどうかが分からねぇ…。

ならば、一撃でシールドエネルギーを消失させてやりゃ良い訳だ。

手頃な単一仕様能力を持ってる馬鹿が居るからな。

 

「一夏、一瞬だけ機体を止めてやる…やれるな?」

「あぁ!やってみせるさ!!」

「なら、決まりだ…」

「初手は私が…!」

 

スカーレットは艶やかに笑みを浮かべた瞬間、神速の踏み込みで千冬モドキの懐に入り込んで、千冬モドキの持つ雪片のコピー品を手に持つ双剣で跳ね飛ばす。

それだけに留まらず、流れるような動きで双剣を両足に杭のように突き刺して後退する。

俺は、スカーレットとすれ違う形で千冬モドキの後方に飛びながら鋼線を張り巡らして一気に引き絞る。

千冬モドキに鋼線が絡みついて動きを制限するものの、すぐにブチブチと引き千切れる音が響き始める。

 

「ラウラ傷つけたら承知しねぇぞ!」

「わかってるよ!でぇりゃぁぁ!!」

 

一夏は、さながら剣道の様に一気に踏み込み零落白夜を振り下ろし――

 

 

 

 

「一先ず、何事も無くて良かった良かった」

「良くないわよ、シショー!」

「そうですわ!わたくしたちの鬱憤は何処に向ければいいのですか!」

「二人とも無事でよかったよ…本当に」

 

第三アリーナ内をボロボロにしたラウラ救出戦から二時間ほど経った。

俺は怪我をしている可能性があると言うので、鈴とセシリアと一緒に医務室のベッドの上で安静にしている。

この二人、一夏がラウラに喧嘩を売る前にラウラの手でボッコボコのフルボッコにされたらしい。

大方挑発されて連携できなかったってところだろうな…ったく。

ラウラの方はと言うと、全身打撲に肋骨に皹…更には筋肉に過剰な負荷がかかったと言う事で別室のベッドでグッスリと眠っている。

 

「第一、なんでシショーがボロボロになってたのよ?」

「そうですわ!織斑先生と仲裁をしていたのではないですか?」

「黙秘権を行使する…ちっとヤバい案件だ。教えられる範囲で言えば、ラウラはモルモット代わりに学園に送り込まれたってところだ」

 

ヴァルキリー・トレースシステム…通称VTS。

モンド・グロッソ出場者の内、ブリュンヒルデとヴァルキリー(各部門優勝者)の戦闘データを機体にダウンロードして最適な挙動を強制的に行わせるシステム。

使用者に対する負荷がヤバいってんで、IS運用協定によって使用が禁止されている装置がシュヴァルツェア・レーゲンに組み込まれていた。

最初の暴走に関しても、束が関わってる事は言っていねぇ…一夏にも白式が勝手に動いたことは伏せさせている。

確証がねぇってのが一番だが…束が学園に攻撃を仕掛けたことによって、この学園の存続が危ぶまれる事態になる事を防ぐ意味合いが強い。

いつか尻尾つかんでやるぞ…クズが…。

 

「だ、だからと言って今回の事許してあげないんだから!」

「そ、そうですわ!」

「それでも良いだろうよ…ただ、人間が横道逸れるにはそれなりの理由があるって事くらいは覚えて置け」

「「……」」

 

さて…タッグ・マッチトーナメントに関してだが、第三アリーナの修復に時間がかかること、ドイツ人スタッフに関して事情聴取をしなくてはならねぇこと、ドイツとの今後の『お付き合い』の仕方の協議をせにゃならんと言う事で、今回のトーナメントは秋まで延期する事が決定した。

ピットの隔壁斬り飛ばしたり、壁を粉砕したり、地面を砕いたり散々な状況だから仕方ねぇ。

俺は、悪くねぇ…多分。

 

「シショー…本当に身体大丈夫?」

「えぇ、まさかもう体が動かないとか…」

「んな訳あるかよ。一晩点滴打って終わりだっつの…まぁ、ありがとよ」

 

生徒に心配してもらえるってのは良いもんだな…。

俺はゆっくりとベッドに体を預けて、自然と笑みを浮かべた。

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