インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
いつの日からだったか…俺はマトモに夢を見なくなった気がする。
勿論、夢なんてものは見ていても起きた時には忘れちまってるって事もあるくらいだ…俺が覚えていねぇ可能性だってある。
だが…目を閉じて開いた瞬間には朝日が昇り、次の日が来ている。
何日も何か月も何年も…。
別に夢が恋しいってわけじゃねぇ。
ただ…寂しい物なんだと…そう、思った。
日曜日。
いつものように、少しだけ窮屈になったベッドで目を覚ます。
俺の腕枕と言うのは存外にも好評だったみたいで、千冬と寝るときは大抵腕枕をしてやっている。
ゆっくりと眼を開けると、穏やかな寝顔をした千冬の顏が目の前にある。
夢を見ているのか、時折口角が緩んでいる。
毎朝、この顔を見るたびにホッとしている自分が居る事に気付く。
男勝りで、隠れブラコン…最近は改善こそされたが、片づけられねぇ女。
だが、それと同時に女らしくありたいと願っている事、自立している様に見せて本当は誰かに甘えたいと言う事を俺は知っている。
はっきりと愛しいと思える。
そう言う女が、俺が求める前に俺を求めて来たと言う事が嬉しくて仕方がねぇ。
「…別に、良いんだもんな」
ぽつりと呟くように言葉を吐きだす。
桜花は、満足するまで留まっていても良いと言った。
最初は、とっとと観測を済ませて帰ろうと思ってたんだが…せめて、此奴を看取るまでは…そんな風に考えている。
俺みたいな人外と人間とじゃ、寿命が違いすぎる。
皆、俺より先に旅立つ。
仕方のねぇこった…やろうと思えば、ずっと一緒に居る事もできる。
だが、それは生きるものへの重大なルール違反だ。
欲深だなんだと言っても、それだけは犯しちゃならねぇ。
死ぬことですら、生きるものの尊厳だからな。
優しく愛しい人の頬を撫でる…すべすべとした肌触りが心地よく、指先が唇に触れるとチロリと舐められる。
「起きてたんなら言えよ…」
「狸寝入りもサマになっているだろう?フフ…おはよう」
千冬はシーツを手繰り寄せて、体を隠す様にして上半身を起こす。
互いに素っ裸だからなぁ…今更隠すような間柄でもねぇってのに。
千冬は体を起こしたは良いものの、気怠くなったのか俺に覆いかぶさるようにして倒れ込んでくる。
「眠い、疲れた」
「日々の業務に加えて、事件続き…なのにも関わらず夜に運動すりゃそうなる」
「いやらしい女だと思うか?」
下世話な話、俺たちは結構な頻度で体を重ねてる…気がする。
どちらかが求める訳でもなく、何となく触れ合い、何となく体を重ねている。
快楽を求めてるって言うよりも…そうする事で互いを縛り付けてるってところか?
重いっちゃ重い愛情表現の一つなんだろうが、独占欲が強けりゃこうもなる。
俺が千冬を誰にも触れさせたくねぇのと同じように、千冬も俺を誰にも触れさせたくねぇって訳だ。
「いやらしいって言うかよ…愛しいならまだしも」
「お前は…すぐにそうやって…!」
千冬は恥ずかしくなったのか顔を赤くして、軽く俺の胸を何度も叩く。
ポカポカと言えば聞こえは良いだろうが、普通の人間だったら痛みに涙目になる強さだ。
本気で恥ずかしいんだな…。
「俺にだけこうやって甘えてくれてると思うと、嬉しいもんだ」
「当り前だ…私はお前になら自分を預けられる。アモンは…どうなんだ?」
千冬は体をもぞもぞと動かして、俺の頭の両脇に手をついて此方を見下ろしてくる。
若干紅潮した頬と潤んだ瞳が艶っぽい…。
俺は千冬の背に両腕を回して、優しく抱きしめる。
「これでも、千冬が傍に居なきゃ落ち着かねぇんだ。離れてくれるなよ?」
「もちろんだ…だから…」
「お日様昇ってるぞー…?」
「休みとは良い響きだと思わないか?」
千冬は妖艶な笑みを浮かべて、俺に顔を寄せて唇を重ねてくる。
最初は触れるだけ…俺は抱きしめる力を強くして千冬の口の中に舌を滑り込ませ、ねっとりと絡ませていき――
楽しい運動を終えた後に互いにシャワーを浴びつつもう一戦。
流石に爛れてるって事で其処までにして、時間を見ると朝と言うには遅すぎる御前十一時。
ちーっと張り切りすぎたな…。
「アモン、今日は何もないだろう?」
「応よ。でなきゃ、こんな時間まで遊んでねぇだろう?」
「それもそうだ」
私服に袖を通しながら、互いにクスリと笑う。
流石に、放浪時の一張羅っだけじゃ問題があるんで白のカッターシャツに黒のジーンズに着替える。
千冬も、俺と同じ構成だ…いつか、ひらひらしたスカートを着せよう…スリーサイズは目測で確認済みだしな。
「何を悪い顔をしている?」
「悪魔は何時だって小賢しい事を考えてんのさ」
「まったく…。さて、出かけようか」
千冬はポーチを一つだけ持って、俺に手を差しだしてくる。
諸々の事件は上層部の方で処理をしているので、忙しいってのも昨日まで。
要は、頑張ったご褒美にデートに連れてけって事だな。
「あいよ。で、何処に行く気なんだ?」
「流石に空腹だし、レゾナンスにでも行こうかと思ってな」
レゾナンス…モノレール駅や各鉄道駅に併設された大型ショッピングモールの名前だな。
丁度俺が南半球を歩き回ってた今年の三月頃にオープンした場所で、IS学園の生徒も良く利用しているって事が知れ渡っている所為で駅が近い事も幸いして人で賑わっている。
さて、此処で問題なのだが…そんな場所に世界最強が出向いたらどうなるのか…?
答えは、大混乱が起きる、だ。
休みどころじゃ無くなっちまう…。
「千冬、脱げ」
「は?」
「脱げ、良いから!」
俺は急いでトランクを蹴って開け、中から様々な衣服を取りだしていく。
千冬が過去に出ていた雑誌の写真なんかは把握している…そのいずれもが女性らしくねぇ、男っぽい印象の服装ばかり。
で、あれば…。
ドールを制作する都合上、様々な衣類を作る事が多い関係でサイズにも困らずトランクから衣服を引き出しつつ、何故か出てこようとするトゥーの頭に拳骨を叩き込んで沈める。
出してなるものかよ…。
「今出した服に着替えろよ…?」
「…これじゃダメか?」
「お前な、ファンがやたら多いってのにバレやすい恰好で行ったら買い物どころじゃ無くなるっつーの」
千冬は手に取った服…それもスカートを見て、少しだけ嫌そうな顔をする。
よもや、履かせようと思っていたタイミングで履かせられるとは…僥倖よな。
「むぅ…仕方がないな…」
「もうちょい、自分の価値ってのを認識しとけって…悪い事言わねぇから」
俺は呆れつつ最後の仕上げ、ナイフをトランクから取り出す。
此処の所の騒動で、俺も有名になってきてるからな…印象を変える必要がある訳だ。
千冬が背中を向けて着替えている中、適当に伸ばしたままの髪の毛を持って首筋の所で切る。
おぉ…頭が軽く…。
「あ、アモン…?」
「ん…あぁ、印象違うしスタイル良いから似合ってるなぁ…スカート」
切り取った髪の毛をゴミ箱に捨てながら、千冬の方へと振り向く。
タンクトップの上にカギ編みのニット、淡い色の花柄のミニスカートと言う出で立ちは、余りにも千冬らしくなく女性的に見える。
スタイルが良いのは言わずもがな…俺は千冬に手招きしつつ、化粧箱をトランクから引っ張り出す。
人形に化粧施す関係で、衣服同様こっちも結構勉強はした…今も偶に女性誌を読んでる。
この学園女ばっかだからか、購買部に女性誌が一通り置いてあって調達が楽で助かるぜ。
「お前…髪の毛は良いのか?」
「いつもこんなもんだよ。切るのが面倒だから伸ばしっぱなし…気が向いたらぶった切るって感じ」
化粧箱から適当にメイク道具を取りだして、千冬にナチュラルメイクを施していく。
普段から化粧っ気は薄いものの、キリッとした印象から柔らかい印象になる様に気を付ける。
劇的ビフォーアフターだな…デキる女から乙女にって感じで。
「あれだな…綺麗から可愛いになったな」
「かわいい…どうにも合わないな。そう言うのは山田君の方が…」
「あんまり言ってやるなよ…あれでもカッコいい女性目指してるらしいからな」
なんつーか…山田は童顔で天然ドジ娘だからな。
ドジ成分を無くさない限りは目標に辿り着けねぇ気がするぜ…。
「それにしても…アモンは手先が器用だな…」
「ドール作ってりゃ嫌でも器用になるってもんだろ?」
「それはそうだが…女としての私の立つ瀬が無いと言うか…」
「だったら、女磨き頑張らねぇとな?」
千冬に意地悪な笑顔を向けると、背中を思いっきり平手で叩かれてよろける。
いや、可愛い反応だねぇ…普通の人間なら痛みで悶絶してるだろうが。
何だかあまりにも平和で穏やかなものだから、それが可笑しくなって互いに笑ってしまう。
「…いい加減出るか…」
「そうだな…」
ひとしきり笑えば気を取り直して、千冬の手を掴んで一緒に寮長室から出ていく。
大混乱が起きねぇ事を祈るかねぇ…?
――
――――
――――――
「ニャニャ、ラブラブニャ」
「うわぁ…見たの後悔した…」
「で、ですがこれが大人の…」
「むぅ…」
「なんで、こんな複雑なのよ…あたし…」
「いや、そもそも盗撮がバレてないのが可笑しいと思わないか?」
一年寮…シャルロットとラウラの部屋はカーテンで閉め切られ、ご丁寧にも玄関口の扉は鍵がかけられ、更にはチェーンでロックもしてある。
事の発端は先日、ラウラが仲直りしたいとフランマと一緒に菓子折りを持参した日に遡る。
本音の仲介もあって、とりあえずラウラ人間関係問題は穏やかなものになりつつある。
そこに、大量の
一夏を除く専用機持ちと箒、フランマとで美味しくお菓子を食べ終えた後、皆で裸のお付き合いをしようと言う事になって大浴場へ。
楽しくガールズ・トークやら、ラウラの世間知らずをからかったりしつつ浴槽に並んで浸かっていた時にフランマがボソリと零したのだ。
『…マスターと千冬の一日を覗いてみないかニャ?』
一瞬、箒達の脳裏にデカい釣り針のイメージが思い浮かんだ。
これは、後でひどい目を見る事になるのではないか、と…。
しかし初心な乙女である箒達は、漫画やドラマでしか知らない年上の大人たちであるアモンと千冬の恋愛模様に非常に…非常に興味がある。
聞いてしまった瞬間、その釣り針の付いた餌に食いつかずにはいられなかったのだ。
尚、今回の盗撮…情事シーンは綺麗な湖を進む船の映像に差し変わっていて、見られてはいない。
…聞かれてもいないはずである。
「ミュラー先生、本当に手先器用だよね…フランマさんのその衣装もなんでしょ?」
「そうニャ、材料は他所からだけどニャー」
シャルロットはフランマのセクシーな踊り子の衣装を見つつ、自分の制服のデザインを考える。
できるだけ、可愛いデザインにして片思いの相手の気を引きたいのだ。
ただ、それに関しては敏感に察知した鈴が無理だと思うとバッサリ斬り捨てている。
鈴は複雑な表情を浮かべながら、アモン達を追っている盗撮映像を見ている。
「よもや此処まで…まだ、まだよ鈴…慌てるのはまだ…あたしにだっていつかあんな…」
「り、鈴…目が死んでいるぞ…?」
「うふふ、あはは…」
鈴は虚ろな目でボソボソと呟きつつ、希望的観測を盛り込みすぎた未来の自分予想図を思い浮かべ、着実に略奪する手立てを考え込んでいる。
そんな鈴の変わり果てた姿を見た箒が鈴の肩を揺すりながら、必死に正気に戻そうとしている。
そんな中必死に分析している者が二人いる。
セシリアとラウラだ。
「教官は一体どういった過程を経て、アモン先生に惚れたのだろうか…?」
「第二回モンド・グロッソの時に知り合った…と言う話を聞いています。その時に映画等で拝見できるような運命的な出会いが…?」
「いや、あの時の事は詳しく話せないが聞いてはいる…とても運命的だったとは…」
「真面目ニャ…」
フランマはテーブルの上に並べたお菓子を漁りながら、この部屋に集った女子達を見て笑みを浮かべる。
皆、寮長室と言う中でしか濃厚な絡みを見せない二人が気になっていた事を知っていたのだ。
なんせ、様々な憶測が飛び交うくらいだったのだから。
微笑ましいものからそうでないものまで…様々な憶測や噂はアモンと千冬に好意を抱いている者にとって良いネタになる。
(ラウラちゃんは話題ができてクラスに溶け込みやすくなり、私はこの映像を黛に売りつけてウッハウハ…win-winって最高の言葉ニャン)
問題は、フランマがかなり腹黒い計画の上でこのメンバーを利用していると言う事なのだが…。
箒は黙り込んだフランマを見て首を傾げる。
「何かあったのか…?」
「なんでもないニャ。皆、仲良くやってくれていて私は嬉しいのニャ」
「そうか…確かに、こうして友人とワイワイできるのは…良いものだ」
箒は束がISを開発してしまったが為に、重要人保護プログラム化に入れられてしまっていた。
その保護プログラムは幼かった箒にはあまりにも辛すぎる内容だった…。
家族は離散し、名前を変える羽目になり、友人すらまともに作れず交流する事もできない。
今まで青春を殺されてきた箒は、こうして皆と密接に関わると言う事ができて嬉しく感じていた。
勿論、この場に恋のライバルが居る事は承知している。
アモン達を覗き見ているのも、一夏を振り向かせるヒントが無いか探すためだ。
でも、それ以上に…友人が作れたことを嬉しく思っているのだ。
「そうニャ、嫌な事も辛い事も友達が居れば何とかなるニャ~」
「そこまで、楽観的にはなれない…でも、居てくれる人が居るのは良い」
箒はフランマの物言いに呆れてしまうが、こんな日が続けば良いなと心の中で思うのだった。
糖分補給だオラァァン!
暫くイチャイチャを楽しんでもらいましょう。
差し変わってる映像部分の描写?
準備中です。