インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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悪魔の甘いひととき

手を繋いで人混みの中を歩く。

この手を離しちまったら、簡単に離れ離れになっちまいそうだな…。

俺と千冬は今、ショッピングモール『レゾナンス』に来ている。

俺が髪の毛をバッサリ切ってる事、千冬が華やかな女性らしい服を着ているって事もあって、注目されどバレている様子は見受けられない。

とは言え、休日は人が多く集まる…歩けない程ではないにしろ一面黒山の人だかりともなれば、俄然手が離せなくなるってもんで…。

 

「あ、アモン?」

「こうでもしねぇと話も儘ならねぇ…我慢しろよ?」

「い、いや…構わない…」

 

俺は千冬をこちら側に引き寄せて、腰を抱く様にして寄り添う。

手を繋いでいるよりかは、幾分安心できるってもんだ。

千冬は最初こそ頬を赤らめてぎこちなく歩いていたが、すぐに此方に寄り添う様にして歩いていく。

完全にプライベートでこんな事をした事がないんだろうな…段々楽しくなってきたのか、千冬は微笑みを浮かべ始めている。

 

「アモン、お前は衣類に興味無さそうだな…?」

「自分で作れっちまうしな。いや、今の流行がどうだって言う興味はあるんだけどよ」

 

最低限流行を把握しておけば、ドールの衣装に悩まなくて済む…。

スカーレットやフランマ達戦闘ドールは気にしなくても良いが、大道芸で使ってる奴らは人を驚かせる目的で作る事が多い。

と、なれば今この世界に生きる人間らしく振舞える姿がベストになる。

いくら歳食っても勉強だけは卒業できねぇもんだな…。

 

「ファッションってーのは、IS操縦者になると余計に大事になるんじゃねぇか?」

「あぁ、その通りだ。私は…堅物みたいなイメージがついていたから、スーツ姿で押し通せたが…如何せんアイドル要素の強い職業だからな。普段から身だしなみに気を使っていなくては最悪ISから降ろされる事もある」

「女ってのは男よりも複雑な立場にいるもんだな…」

 

そう思うと、今のこの状況ってのはかなりヤバい気もする…。

や、以前にもう学園で熱愛報道がされていた様に、外にも情報は漏れて拡散されている。

熱心な千冬ファンからしたら、俺なんかは邪魔以外の何者でもないだろう。

アイドルにしろそうでないにしろ、過激なファンってのは居るもんだからな…。

刺されたところで屁でもねぇが…警戒するに越したことはねぇ。

千冬はニヤリと笑みを浮かべて、此方を見上げてくる。

 

「そうだな…私は無縁ではあったが…いや、お前のお蔭で無縁と言う訳でもないか?」

「褒められたのか恨まれたのか、判断に困るっつーに…」

 

千冬は俺を揶揄う様に言ってアハハ、と声を上げて笑う。

…千冬もこうやって笑うんだな…大体口角釣り上げて笑みを浮かべるだけだ。

また一つ、千冬の一面を見れたことを嬉しく思う。

 

「アイドル、と言う観点で言えばオルコットは有名な方だろう。アイツは故郷の英国で、グラビアアイドルをやっているからな」

「貴族の仕事か…それ…」

「見た目の良い代表候補生と言うのは大体そんなものだ。国家代表になれば毎日取材だの撮影だの…私は適当な理由を付けて逃げていたがな」

 

千冬のグラビアねぇ…昔の雑誌を探せば一枚くらいは見つかりそうだな。

仏頂面で写ってそうだけど。

適当にレゾナンスのファッションエリアを歩いてウィンドウショッピングを楽しんでいると、大量の荷物を抱えた赤髪の男が歩いているのを見つける。

…あいつは…。

 

「どうした?」

「いや、なんか会いたくねぇ知り合いを見つけたっつーかなんつーか…」

 

凄く微妙な顔をしていたのか、千冬は心配そうに俺の顔を見てくる。

どうやら、千冬は気付いていねぇようなのでこのままスルーしておこうそうしよう。

首を横に振って、気を取り直す。

 

「なぁ、千冬は今も雑誌から取材の依頼が…」

「露骨に話題を変えたな…まぁ、良いだろう。勿論来ているが、貴重な休日を潰されたくないから断っている。公務員だから、取材料は学園に寄付される形になる」

「あー、まぁ…進んでやる事もねぇか…表舞台に立たないなら特に」

「あ、あの~…」

 

二人で話し込みながら歩いていると、唐突に後ろから話しかけられる。

聞き覚えのある声だな…なんて思いながら振り返ると、これまた見知った奴が恐る恐ると言った表情で俺たちを見ている。

 

「や、やっぱり!お久しぶりです!あれ、もしかして隣の方って…」

「お、おう…蘭か…」

「なんだ、私がこんな服装は変か?」

 

五反田 蘭…さっき見かけた赤髪の男で一夏の親友である五反田 弾の妹だ。

蘭は察しが良いのか、俺たちの名前は伏せて話しかけてきてくれている。

…良い子なんだが、兄貴に対する風当たりが強いんだよな。

思春期の女の子ってのは、皆そんなもんなんだろうが。

 

「い、いえいえ!とっても似合ってますって!ただ、ほら…結構意外だなぁって」

「そ、そうか…此奴が、この服を着ろと言うので着たのだが…」

「そうだったんですか、ちふ…先生は女性なんですから、そうやっておめかししていた方が絶対に良いですよ」

「ぜ、善処…しよう…」

 

蘭はニコニコと笑みを浮かべて、千冬の事を褒めちぎる。

…多少の計算が無いとは言えねぇ…蘭は一夏の事が好きだからな。

中々接触できない、今を使って外堀を埋めようってハラだろう…女って怖ぇ…。

千冬と蘭が会話しているのを聞きながら、何とも言えない気分になっていると蘭に不思議そうな顔で此方を見てくる。

 

「あれ、お兄さんどうかしたんですか?」

「なんでもねぇよ…そういや、弾の奴が向こうに居たけど良いのか?」

「お兄…あんだけフラフラするなって言ったのに…!!」

 

蘭は頬を引くつかせながら腕を組み、苛々とした様子で片足のつま先をパタパタとさせる。

様子から察するに弾は荷物持ちで付き合わされたな…可哀想に…。

 

「でも、お兄さんと先生…いつもそんな調子なんですか?」

「一応公私は分けようってんで、人目がつくところじゃ此処までベッタリはねぇよ。俺も授業受け持つようになっちまったから、仕事中はあまり接触ねぇし」

「まぁ、部屋は我儘を通させてもらったがな」

 

必死か。

確かに、知り合いだから~って無理を通してたが、本来なら俺は自宅通勤だからな。

女ばかりの職場に男が入れば、問題が起きるのは目に見えてるってもんだ。

でも、千冬がそうやって無理を通してくれたおかげで寮に住み込めるようになったんだから、文句も言えない。

 

「えっ、それじゃ同棲ってことですか!?」

「まぁ、そうなるな」

「恋人同士で同棲って羨ましいです…」

 

千冬はドヤ顔で蘭の言葉に頷く。

なんだかんだと言っても女…伴侶がいれば自慢したくもなるか。

学園でそんなことすれば、面倒になる事請け合いだからな…ここぞとばかりに自慢したくなると。

普段の千冬とは違った面に、俺は思わずクスリと笑みを零す。

 

「何が可笑しい?」

「いや、お前は普段そう言った話をしねぇからな…乙女っぽいところあったんだなぁってよ」

「お前は、一言余計だ」

「本当に仲良いですね…わ、私もいつかそういう人が出来れば…いいな~、なんて…」

 

千冬はムッとした顔をして俺の足を思い切り踏みつけてくるが、俺はさっと足を動かしてそれを避ける。

そう何度も喰らってやれるかよ…。

蘭は、千冬からある一言を引き出そうとするが、それよりも早く兄貴が蘭の後ろからやってくる。

血涙流しながら。

 

「あ、兄貴ぃぃっ!!ウラギリモノォッ!!」

「大声出してんじゃねぇよ…」

「チッ…お兄め…」

「…?」

 

弾は、見た目は良い…黙ってれば女が寄ってくるってタイプだ。

ただ、悲しいかな女に餓えすぎて、性格が三枚目半と思われちまう。

実際は面倒見が良く、交友関係も良好…何より他人を思いやってやれる。

長く付き合えば良さが分かるって感じだな。

 

「アモンの兄貴は女っ気ないと思ってたのに!」

「あのなあ…ノンケだからそんな訳ねぇだろ」

「お兄…ちょっとOHANASHIしよっか?」

 

蘭は笑ってない笑顔で弾を見つめて、脇腹を爪が白くなるレベルで掴む。

千冬から、『一夏でもどうだ』みたいな言葉を引き出したかったんだろうが…。

まぁ、出る訳ねぇよ…こいつ、ブラコンだからな…。

千冬は、妹に詰られる弾を見て千冬は呆れたような目で見つめている。

 

「弾、兄だと言うならシャキッとしろ、シャキッと!」

「ふえぇ…って千冬さん!?」

 

弾は千冬に叱られると、今まで別人だと思ってたのか素っ頓狂な声を上げる。

不用意に弾が名前を大声で言っちまったもんだから、周囲に居た通行人が一斉に此方を見てくる。

 

「千冬って…ブリュンヒルデ…?」

「え~、でも千冬様ってあんな幼い顏してないわよ…?」

「でも、となりの男って、例のあの男にそっくりよね…」

 

ひそひそと通行人が話しているのが聞こえてくる。

このままだとバレんのも時間の問題かね?

蘭は弾の脇腹を掴んだまま、強引に引きずって立ち去ろうとしていく。

 

「すみません、デートの最中に…お兄さん達、楽しんでってくださいね。ほら、お兄!今日はこき使ってあげる!」

「あ、兄貴!兄貴ぃっ!!」

 

…強く生きろよ、弾…。

俺は二人に軽く手を振って見送った後、あえていつも通りの速度で歩いていく。

変に早歩きだと勘繰られるからな…。

 

「なんだったんだ…?」

「弾は彼女いねぇからな…俺とお前がくっついてんのが羨ましいんだろ」

「…そう言うものなのか?」

「そう言うもんだ」

 

急ぎたい心を抑えつけつつ、千冬と歩く。

面倒事を休日まで持ち込みたくないからなぁ…。

千冬も千冬で大して急ごうと言う気もないようで、ゆっくりと歩いている。

 

「大体、周囲の女の視線ってのは一夏ばかりに向いていたからな…」

「家事も料理もマッサージも何でもござれだからな…一家に一人一夏…いや、うん…何でもない」

「偶に変な事言うな、お前…」

 

家庭用の執事ロボか何かか…?

まぁ、俺なら作ろうと思えば作れるけどよ…生活するんなら自分の手でやらねぇと。

漸くレゾナンスを出た俺たちは、その足で都市部の方へと向かう。

人混みがキツ過ぎて、些か疲れっちまったからな…。

まだ、あっちの方が人が密集していない。

 

「なぁ、少し休憩しないか?」

「応よ、ついでに夕飯の材料も買って帰るか…」

 

デートでやる事じゃねぇが、寮長室の冷蔵庫はすっからかん。

それにだ…なんつーか、二人で夕飯の買い出しってのも夫婦みたいで良いんじゃねぇかと…そう思った。

 

 

――

――――

――――――

 

 

フランマ達が、アモンのデート模様を観察していると不意にノック音が響き渡る。

規則正しいノック音は、この部屋に来る予定だった人間の物だと言う証である。

 

「ニャ、私が出るニャ。皆は観察よろしくニャー」

「「「「「はーい」」」」」

 

フランマは意気揚々と立ち上がり、寮の部屋の玄関口へと向かう。

さて、実はこの合図だけだと他の人間がすぐに分かってしまう為、扉を開ける前に合言葉をそれぞれ設定している。

ノックも個人ごとに変えてある念の入れようだ。

 

(今のノックは簪ちゃんだったかニャ…)「合言葉ニャ…父さんだけに」

『と、倒産ですね!』

「今開けるニャ~」

 

フランマはニンマリと笑みを浮かべながら扉のロックを外し、顔を真っ赤にした簪を部屋へと招き入れる。

簪は相当恥ずかしかったのか、顔を俯かせて若干涙目だ。

 

「な、なんで私の合言葉だけ、ダジャレ…?」

「ダメ絶対音感の賜物ニャ、特に意味は無いニャ」

「そ、そんな…」

 

簪はガックリと項垂れて、テレビの置いてある部屋へと向かう。

丁度、アモン達がレゾナンスに着いて、食事を始めた辺りだ。

 

「簪、遅いじゃない」

「うん、弐式の組み立てが捗っちゃって」

「そ、あんまり根詰めてやらないようにね。あたし達も言えば手伝うから」

「あ、ありがとう」

 

鈴はアモンの絡みがあってか、淡い恋心を抱いている簪とそこそこ仲が良い…。

もちろん、ライバルとして意識する事はあるが、現状強大無比な敵が居るので手を組んでいるような状態だ。

簪は鈴の隣に座ると、仲良く談笑しているアモンと千冬を見つめる。

 

「いいなぁ…」

「本当にね。…簪、朝から此処に居たら立ち直れなくなってたわよ…?」

 

朝の素っ裸でベッドの上でイチャついていたあの姿…簪に少し刺激が強いような気がしていた鈴は、少しだけ胸を撫で下ろす。

競い合うライバルが居てこその恋路…ここらで脱落されては困る…と言う想いがあるからなのだが。

 

「ミュラー先生煙草吸わないね」

「あぁ、苛々してないと吸わないわよ…シショーの精神安定剤みたいなものだもの」

「詳しいね、鈴…」

「これでも近くで見てきていたしね」

 

鈴は無い胸を張ってドヤ顔でシャルロットに答える。

最初は憧れから慕っていた気持ちは、何時しか恋心に。

一夏が鈴の告白を勘違いしたその時に、段々と想いが変わっていったのだろう。

そんな折に、千冬と付き合っているとなったものだから鈴としては堪ったものではないが。

簪とて同じ思いだ。

憧れからの恋心…学園で二人きりになれる整備室は、簪にとって特別な空間だった。

…その想いが届かないものだと分かっていてもだ。

千冬との交際発覚は、悲しい反面嬉しくもあった。

好きな人が幸せならば、それはそれで…そう言う風に考えてしまったからだ。

 

「鈴、私はね…やっぱりミュラー先生のこと好きだけど、言い出せはしないと思う」

「でも、好きなんでしょ?なら宣言みたく言わなくても良いわよ…想いが本当なら、それで良いじゃない」

 

鈴は簪に寄り添う様にして、テレビの中の恋愛模様を見つめる。

いつか、師と仰ぐ人と同じことが出来る夢を想いながら。

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