インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
都市部にある裏路地の喫茶店でゆっくり休憩した後に、デパートで一週間分の食料を買い漁る。
朝昼晩…更に酒の肴用の材料なんかも買い込んだんで、結構な量になっちまったな。
スーパーよりも高くついちまうが、こう言った所で贅沢くらいはしておきてぇからな…普段金を使う訳でもないし。
酒を専門に販売しているところで、千冬におねだりされるとは思わなかった…。
「フフフ…いや、すまないな。学園で教師向けに販売されている物では物足りなくてな」
「まぁ、今日は色々と見れたからな。それに、俺もご相伴に預かれるんだろ?」
千冬は、後生大事そうに酒の入った霧箱を両腕に抱きしめる様にして持っている。
何でも、限定生産だか何だかで中々飲めないとか…酒飲みとしては、このチャンスを逃せなかったらしい。
「なぁ、アモン…このまま帰らないで家に行くと言うのは…」
「魅力的だが却下。明日から期末テストの準備せにゃならんし、色々とお仕置きしなくちゃならねぇ奴が居るからなぁ…」
「お仕置き?」
千冬は不思議そうな顔で此方に振り返り、首を傾げる。
…今朝方…それも情事の真っ最中もなんか視線を感じてたんだよな…。
恐らく、今日一日起きたことは全部見られている。
それも我が子に。
こんな事を考える奴って言ったらフランマぐらいしかいねぇよ…。
「まぁ、千冬は深く考えなくて良い。それよか少し急ごうか…もうすぐモノレール来ちまうし」
「む…帰れないのであれば仕方がない。今夜はどうするつもりだ?」
「どうすっかねぇ…?」」
千冬は鈴を意識しちまってるのかどうかは分からねぇが、料理に興味を持ち始めている。
ただ、そこそこ大雑把な性格が災いしちまってるのか味付けは大味だわ、材料は切りそろえてないわで中々な…。
とりあえず、野郎が簡単に作れるような飯を片っ端から教えていこうとは思ってるんだが…。
一夏クラスにまで上達するのに、どれだけかかることやら…?
少しだけ急いだお蔭か、駅に余裕をもって着くことができた俺たちはモノレールに乗り込んで席に座る。
「楽しかったか?」
「あぁ…そ、その…お前が居たからな…」
千冬は顔を赤らめたまま顏を背けて、消え入るような声で嬉しくなることを言ってくる。
男冥利に尽きるって言った所だな。
千冬の頭を抱き寄せる様に掴んで、優しく撫でてやる。
誰も居ない車内…僅かばかり邪な考えが俺の脳裏を過っていく。
「千冬…」
「ば、馬鹿者…こういった場所では…」
「後部車両からは見えねぇよ…」
強引に、けれども優しく千冬の顏を此方に向かせてキスをしようとするが、恥ずかしがった千冬が俺の胸に手を添えて押さえてくる。
だが、その手も弱々しい…。
ゆっくりと焦らす様に、顔を近付けて――。
突如、モノレールが加速を始めてしまい、俺たちはキスをする事が叶わなかった。
「ったく…!」
キスを邪魔されたのは腹立たしいが、それ以上に腹立たしい気配が後部車両から膨れ上がる。
――殺気だ。
「千冬、お前は運転室の様子を見てきてくれ。俺は後ろのガキ共と遊んでくらぁ」
「…あぁ、分かった」
「続きは帰ってからだな」
「…あぁ、気を付けろよ?」
千冬は大変ご立腹と言った様子で席から立ち上がり、運転室へと向かう。
俺も同じように立ち上がって後部車両に向かい、扉を開くと左右から米神に銃口を押し付けられる。
ひぃ、ふぅ、みぃ…狭い車両に五人か。
何れも男…目だし帽を被っているんで人種までは分からないが、何れも異なる人種の様だな。
多国籍ってぇとアメリカが連想されるが…あの国はああ見えて慎重だ。
俺と千冬の実力を知ってりゃ、火中の栗に手を突っ込むような真似はしないだろ。
「Mr.ミュラー…我々と来ていただけませんかね?」
「断ったらどうなんだい?」
「動くな!」
懐から革手袋を取りだそうとすると、両側から強く銃口を押し付けられる。
…つまり、動いても断っても殺すってところか?
出来れば俺と言う存在は手に入れたいが、それが叶わなければ…殺せか。
人間如きが殺せる訳ないだろうに…。
「我々としては、貴方を迎え入れたい…これから来るべき新世界の為に」
「あ~…お宅らアレか?テロリスト?」
「我々は、虐げられた男達の為に立ち上がった義勇軍だ。断じてテロリスト等ではない!言葉を慎んでもらおう…織斑 千冬に死なれたくはあるまい?」
千冬がそう簡単にやられる様なタマじゃない…モノレールになんか仕掛けでも施されたか?
とは言え、並大抵の事で千冬がどうこうなる事はないだろ…今は放置だ。
「お前らみたいなのに、俺の女がやられる様なタマじゃねぇんだわ」
「っ…ですが、我々と来てもらう…貴方はそうしなくてはならない!」
「契約外だし、今は別の契約が入ってる。諦めろよガキども」
「くっ、殺――」
合図が始まったと同時に両脇に居る男たちの腕を弾き、前方に居るリーダー格と思しき男を護衛するように立っている二人の男へと銃口を向けさせる。
引き金に力がかかり過ぎていた二人は為す術無く発砲してしまい、
弾丸が護衛している奴らの胴体にヒットして吹き飛ぶ。
血が出てない所をも見ると防弾チョッキでも着ていたか…?
「――せぇっ!?」
「人間如きが悪魔をどうこうできると思うんじゃねぇよ」
「このっ!!」
仲間を撃ってしまった男は直ぐに我に返って銃口を向けるが、前腕を掴んで引き寄せた後に肘に拳を叩き付けへし折る。
痛みに拳銃を手放したところで、落ちて来た拳銃を踵で蹴り上げつつ一本背負いの要領でまだ呆けている相方に投げつける。
投げ飛ばされた男がぶつかれば、二人とも抱き合う形で席に倒れ込む。
起き上られても面倒だと考えた俺は、先ほど蹴り上げた拳銃を空中で掴んで二人の両足に銃弾を撃ち込む。
「さて、と…結構ご立腹ってやつでよ。ようやくできた休日をぶち壊されたら、誰だってキレるよな?」
俺は多分物凄く『イイ』笑顔を浮かべて、先ほど防弾チョッキで銃弾を受け止めた男たちの足に銃弾を撃ち込む。
後部車両に四人の男が情けない声を上げて、のたうち回る。
高々足を撃ち抜かれたくらいで何を騒いでんだかな…?
「っ、く、来るな!」
「あのな?そっちに『来い』って言うから、優しい俺はお前の所に行ってやろうってんじゃねぇか…」
ゆっくりと、ゆっくりと一人だけになった主犯格に近づく。
モノレールの駆動音が車内に響いている筈なのに、足音だけ妙に大きく聞こえている事だろうよ。
まるでこの世の物ではない物を見たような顔をした男は、後部車両の運転室の扉まで追い込まれる。
誇りも覚悟も無きゃこんなもんか…?
そんな事を考えながら歩いて手を伸ばせば触れられる距離まで近づけば、男は懐から機械のスイッチを取りだす。
「はっ、はっ、はっ…来るな、抵抗したのだ、最早、相容れない…!」
「…お約束の爆弾か?」
「あぁ、そうだ…!我々の障害となるならば、心中せよとの、ご命令だからな!」
「くだらねぇ…」
俺はピタリと動きを止めて、腕をダランと下げる。
ISの許可なき展開は、IS運用協定において禁じられている。
だが…一つだけ例外がある。
それは、著しく生命を脅かされる状態に陥った時や、緊急時の救助活動等の人道支援を目的とした場合だ。
ISコアは貴重なモノだから、自衛ができなきゃ話になりゃしない。
俺は腕だけを部分展開させ、エネルギー・ストリングスで機械のスイッチを持った腕を斬り飛ばす。
強烈な熱を伴った一撃のお蔭で傷口が灼けて出血する事はない。
「ぎゃあぁぁぁあ!!腕、腕ガぁっ!!」
「煩ぇよ」
俺は膝から崩れ落ちた男の顎に膝を叩き込んで、脳震盪を起こさせて気絶させる。
鎮圧し終えた辺りで、千冬が後部車両へとやってくる。
サッと腕の展開を解除して一息つく…出力が落ちてるっつってもやっぱ、人間相手にゃ危険な能力だな。
「まったく…お前はトラブルメイカーにでもなったのか?」
「そら、昔っからだわ…何かしらトラブルに巻き込まれてる気がする…」
俺は銃を投げ捨てながら千冬へと近づき、ガクッと肩を落とす。
トラブルに巻き込まれるっつーか、呼び込むっつーか…いや、そういう仕事でもあるんだが。
「運転席はどうだった?」
「どうも、此処で寝ている奴等の仲間みたいだったから眠らせておいた。管制室には連絡して、次の駅で停まる様にしてある。問題はな…」
「警察沙汰ってところか。…帰れんのか…今日…」
深く溜息を吐きながら、痛みに悶えている連中の意識を落していく。
散々な休日になっちまったな…オイ…。
IS学園のとりなしもあってか千冬の存在のお陰なのかはさて置き、俺と千冬は何とか日付が変わる前に学園へと帰ることが出来た。
飯?
コンビニのおにぎりでお終いだよクソが…。
デパートで購入した肉とか魚も駄目になっちまったし…本当に散々な思いだ。
礼のテロリスト共は、病院の方で厳重な監視体制の中治療を受けている。
治療が終わり次第取り調べを開始するって事だ。
で、息つく間もなく俺は千冬も交えてフランマを部屋に呼んだ。
「まぁ、理由は分かるよな…?」
「ニャ、フランマちゃん分からないニャ…」
「話は聞いている…さっさと吐いた方が、お前自身の為にもなると思うが…?」
俺と千冬はベッドに腰掛け、フランマは床に正座して足の上に重しを置いてある。
此奴、一日中俺と千冬の行動を監視してやがったからな…。
ちょっとやそっとじゃ許さねぇぞ…。
「フランマよ…お前が快楽主義者なのは知ってるし、ある程度行動に自由を与えてはいたけどな?俺の道具使って一日中覗いていたのはどうしてだ?」
「ニャ…あのぅ…そのぅ…情操教育と申しますかぁ…」
「私達の営みも盗撮しておいてか…?」
千冬は口元を愉悦の笑みで歪めながら、つま先でフランマの額をつついている。
フランマは体をビクビクと震わせながら、視線を彷徨わせている。
今まで見た事ないくらい、千冬の顏が活き活きとしてんなぁ…。
「そ、そこはキチンと映像差し替えて見せ…ぁうっ!?」
「…リアルタイムで見てたやつらが居るって事だよな?」
「ま、マスタぁ~他意は無いんですぅ…お許しくださいぃ~」
一体誰に見せていたのやら…フランマは若干切羽詰まってきたのか、キャラ付け(?)でつけている猫語を止めて何度も頭を下げてくる。
だが、俺も腐ってもマスター…此奴の性格は把握済みだ。
「で、稼いだ金で何買うつもりだったんだ?」
「それはもう、美味しい物を一杯…ハッ!?」
「アモン、こいつノリで考えてないか…?」
「そういう性格だからなぁ…良い奴なんだけど馬鹿なんだよ…」
俺はパチンと指を鳴らして、トランクの中で控えていたスティーリアを呼び出す。
妹の不手際は姉が面倒見るべきだろう。
トランクの中から現れたスティーリアは、フランマの隣で俺と千冬に対して跪いて恭しく頭を垂れる。
スティーリアから発せられる怒気に中てられたのか、フランマはガタガタと震えている。
「申し訳ありません、マスター。私の不手際であります」
「で、あれば此奴を躾けろ…手段は山ほどあるだろう?」
「イエスマスター。今後マスターの名を汚さぬ様に『確り』と躾けさせていただきます」
スティーリアはそれだけ言うと、氷の首輪と鎖を作り出してフランマに嵌める。
フランマはこれから起こる事態が容易に想像できたのか、ブンブンと頸を横に振っている。
「ま、待ってお姉ちゃん!私そんな趣味は…!!」
「大丈夫よ、フランマ…すぐに『良くなる』から」
冷たい微笑を湛えたスティーリアは、首輪に繋がった鎖を引いてフランマを引きずっていく。
スティーリアはドが付くレベルのサディストだ…
これからアンナこととかコンナこととかが、フランマの身に襲い掛かるだろう。
正直、俺が引くレベルで。
流石に千冬も察したのか、どこか憐れむような目でフランマを見送って行く。
「マスター!奥方様!助けて!!」
「あ~、強く生きてくれ、フランマ」
「自業自得っつー言葉をその身に刻んで来い」
「暴れないの、一杯躾けてあげるから…」
スティーリアはジタバタと暴れるフランマを家畜か何かを引っ張る様にして、トランクの中へと消えていった。
余談だが…その後、フランマは少しだけ茶目っ気が控えめになった。
調教ってスゲー…。
――――――
――――
――
「申し訳ありません…彼の確保に二度も失敗するとは…」
IS学園内の教員宿舎…その一室で、とある女性が携帯を用いて誰かと連絡を取っている。
本人は電話で失敗の報告をする事に恐怖を感じていた。
一度ならずも二度までも…絶好の機会を逃してしまっていたのだから。
『構わないわ…シュヴァルツェア・レーゲンの暴走事故の時に、戦闘能力は把握していたし。…それに、彼にとって恋人は人質になり得ないことも分かったしね。使えなかった男たちは私の方で処分しておくわ』
「ありがとうございます。」
携帯から聞こえてくる声は女性の物…どこか妖艶さを感じさせるその声には咎める気配が感じられない。
ペナルティを覚悟していた本人は、ホッと胸を撫で下ろして安堵する。
誰だって命は大事だ…生を謳歌するのが人の定めなのだから。
その上で、自身が虐げる側なら尚良い…そう言った意味合いでは、今の世の中と言うのは非常に都合が良かった。
だが、この携帯の持ち主は貪欲だ。
まだ、それでも足りないと思うからこそ…。
『彼の血液サンプルも無事に届いたわ…不純物が混じっているのも仕方がない事かしら?』
「申し訳ありません…吐しゃ物でしか入手はできず…なにより、彼のドールのガードが厳しく…」
『次は、キチンとしたものを寄越しなさい。依頼主のご機嫌を損ねる訳にはいかないのだから』
依頼主…この組織は様々な国と取引をしている武器商…そんな組織にこんな依頼をしてくる所があるのだろうか?
…藪蛇はつつかない方が良い事は理解している。
つつくと言う労力は寿命と同義なのだから。
『引き続き、監視しなさい…最も、彼が何処かに行く事はないでしょうけど』
「了解しました。引き続き、対象の監視を行います」
部屋の主は通話を切って、携帯をベッドに放り出して脱力する。
首の皮一枚で繋がったような気分だ…嫌な汗が体に纏わりついて気持ちが悪く感じている。
ゆっくりと衣服を脱ぎ、男の事を夢想しながら指を這わせていく。
「あぁ、早く欲しい…ミュラー先生…?」
暗い部屋の中で、女は妖しく笑った。
工房の中での出来事?
やっぱり書くべきですかね?←