インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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ランチタイム

最後の最後で水を注される形で終わったデート…その翌日である月曜。

午前中の授業を終えて、俺は精神的な疲れが取れないままにゾンビの様な猫背で歩き学食へ向かう。

IS学園の学食はその多様な人種、宗教に配慮した食事を提供している。

中東圏の宗教は特に食事に気を使うからな…。

学食は入り口に置いてある券売機で食券を購入して、おばちゃんに用意してもらう方式だ。

今日のメニューはジューシーなトンカツの乗った特製カレー(ご飯特盛)だ。

この特盛メニュー…態々二人しかいねぇ男性操縦者の為に用意したって話だ。

いや、ありがたい気遣いだねぇ…。

食券片手に生徒に混じって並んでいると、奥のテーブル席から声がかかる。

 

「アモン兄!一人だったら一緒に飯食おうぜ!」

「お~ぅ…いいぞ~…」

 

パタパタと手を振って、声を張り上げる一夏に手を振る。

この学園に来てから、あまり一緒に飯食ってなかったからな…偶には一緒に飯食うのも良いだろ。

学食のおばちゃんに食券を渡すと、おばちゃんはニヤニヤとした笑みを浮かべて此方を見てくる。

 

「あら、アモン先生じゃないか…コレは一緒じゃないのかい?」

「コレは今、昨日のモノレール事故で警察の事情聴取中だ…」

 

…昨日確保されたテロリスト共…その全員が忽然と病室から消えちまってるって事だ。

今回の事件の顛末を説明するためには俺が行かなきゃならねぇんだが、再びテロが起こるとも限らないってんで学園待機を命じられている。

キナくせぇなぁ…。

 

「喧嘩でもしたのかと思ったんだけどねぇ…あんたたち凄く仲が良いってこっちまで話題が来ててさ」

「食中毒恐いから弁当作ってねぇってだけだよ、おばちゃん。仲自体は極めて良好だ」

「ま、仲睦まじきは善き事かな…式挙げる時呼んでおくれよ?」

「へいへい」

 

結婚…まぁ、意識しないでもないが…身の上を考えると二の足踏んじまうんだよな…。

千冬が欲しいのは本当。

誰にもくれてやりたくないのも本当。

いつまでもこの世界に居て良いとは言われたが、それも状況が変わればそうも行かなくなるだろう。

そうなった時…千冬はどうするだろうか?

トレーにカツカレーが載せられると同時に、マンゴーラッシーが置かれる。

…食券買ってなかったよな?

 

「それはサービス。今後とも御贔屓にね、せ・ん・せ・い?」

「ありがとな~。また来るわ」

 

俺は気持ちを改めておばちゃんにお礼を言って、トレーを持って一夏達の座っている席を探す。

仲が良い奴らで固まってるのは分かるんだが…。

一夏の両脇をシャルロットとセシリアが固め、体面に箒とラウラが座っている。

意外だったのは、其処に鈴と簪も居た事だな。

あいつ等いつの間に仲が良くなったんだか…?

 

「む、来たか…」

「ミュラー先生、その…フランマさんから事の顛末を聞いたのですが…」

「…お前らか覗き魔どもは…」

 

俺は呆れながらジト目でセシリア達を見る。

一夏は何の事か分からないのか首を傾げている。

此奴に見られなくて良かった…ある意味トラウマもんだぞ…運動の様子とか。

セシリア達は皆誤魔化す様に視線を逸らして乾いた笑い声を上げる。

 

「いや、ミュラー先生。私たちはフランマから恋愛テクなるものをだな」

「そ、っそうだよ!僕たちまだまだ子供だからね!」

「え、えぇ、その通りですわ!」

 

箒はポーカーフェイスを決め込んで嘘を取り繕い、それに同調する形でシャルロットとセシリアの二人が首を縦に振る。

一応覗いていることが悪いって気持ちがあるからこそだな…お仕置き自体は済んでるし、そそのかされた箒達を責めるつもりもないが…。

 

「いや、アモン先生と織斑教官の一日をバッチリ見ていたではないか。時折良い船の映像が流れていたが」

「「「ら、ラウラ(さん)!?」」」

「は?どういうことだ…?」

 

ラウラがあっさりとネタ晴らししてしまった事で、箒、シャルロット、セシリアの三人はあからさまな動揺を見せ、鈴と簪は何処か申し訳なさそうな表情で気まずそうにしている。

俺は空いている席に座って、ラッシーを一口飲んだ後に口を開く。

 

「一夏、こいつらな、昨日の俺と千冬の一日を監視してたんだよ」

「…まぁ、俺も見てみたかったかな。千冬姉がアモン兄にどんな風に接してるのか気になるし」

 

一夏は、何処か黒い笑みを浮かべて俺の顔を見てくる。

たった二人の家族だってんで、此奴は本質的にはシスコンだからな…。

今更になって、姉貴を取られた気分にでもなったかね?

俺は軽く咳ばらいをして、箒達を見る。

 

「別に咎めやしねぇよ。有名人は見られてナンボなんだろ?」

「その…気になるではないですか。あまり、その…お惚気になられているところと言うのを見かけないものですから」

 

セシリアは観念したかのように溜息を吐き、理由を述べていく。

実際問題、一番イチャついてるのは寮長室内でのプライベートな時か、葵ばーさんの所で飲んでる時かって感じだからな。

 

「公私はなるべく分けようって話はしてんのさ。お前たちの前で爛れてたら示しがつかねぇだろ?」

「で、でも、恋人だって言うんなら、お仕事中でもその…イチャイチャしたいものじゃないんですか?」

「周りにライバル居るわけじゃねぇしな…仮に別の男が近くに居たってんなら牽制くらいはするだろうが」

 

靡かない…そう分かっていても、不安になるのが男ってもんな訳で…。

独占欲と笑いたければ笑えば良いさ。

それでも、俺は千冬を独占していたいし、他の野郎なんかに触れられたくない。

 

「ま、まぁ…千冬さんがいつもと違う雰囲気になっていたのは良く分かった。あんなに、その…乙女らしいとは…」

「箒、その話詳しく教えてくれよ…」

 

一夏は興味津々と言わんばかりに、箒に視線を向けて聞き出そうとする。

ただ、まぁ…ライバルからすれば、それは美味しくない状況な訳で…。

シャルロットとセシリアは、ほぼ同時に一夏の足を踏んで牽制を放つ。

暴力は良くない…暴力は。

見てて面白いけど。

 

「いっ…!!??」

「一夏、その話は後だよ」

「えぇ、そうですわ!そんな話は後でもできますもの!」

「むぅ…」

 

牽制されてしまった箒は唇を尖らせるものの、腹を立てる程の物でも無いと言う感じで押し黙る。

時折、箒と鈴は視線を交わして何やらアイコンタクトを行っているな…。

鈴は箒応援派か…幼馴染って所にシンパシー覚えたのかねぇ?

 

「昨日、モノレールで『事故』があったけど…」

「今時珍しいよな。キチンと整備されてるって事なんだけどよ」

「アモン兄、巻き込まれたのか?」

 

覗いてたと言う事は、あの事件の事も目の当りにしている筈。

容赦の無い攻めを行ったつもりだが…そう言った部分は良い船の映像にでも差し替えられてたのかもな。

映像がどうあれ、恐がられてないのは良かった。

俺は一夏の言葉に頷いて、辟易とした顔になる。

 

「まいっちまったよ、本当に。中々救助が来なくて、学園に戻ったのは深夜だったしな」

「此処の所トラブル続きだし…アモン兄、気を付けてくれよ?」

「そうそうくたばる様なヘマはしねぇよ。それよか、一夏は自分の腕を磨くことを考えな」

「そうだな、織斑はまだまだ未熟だ」

 

ラウラは、俺の言葉に同意して頷き一夏を見つめる。

其処には以前あった、嫌悪感と言うものが薄れている気がする。

VTSからの救出の時に何かあったかね…?

 

「だが、教官の実弟だ…いずれ、強くなると私は思う」

「ラウラの期待に応えられるように、精進するさ」

「随分とまぁ…丸くなったな少佐殿?」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべながらラウラを見ると、ラウラは腕を組んで俺から顔を背ける。

どこか歳相応の照れ隠しの様に見えて余計に可笑しくなる。

 

「佐官だからと威張り散らしても仕方がない。そ、それに…反省くらいはしているんだ」

「いや、菓子折り持って謝りに来た時は面食らったわよ…シショーの入れ知恵だってのは直ぐに分かったけど」

「えぇ、あのバウムクーヘンは美味しくいただきましたし…ラウラさんの本当の人となりも分かりましたので良かったですが」

 

鈴とセシリアは、恐らくフランマと本音に連れられて謝りに来た時の事を思い出したんだろう。

顏を綻ばせながらラウラを見つめる目は、言っちゃなんだが可愛い妹とかそう言った物を見る目だ。

 

「あ、そうだ…シャルロット、そろそろ制服の案出してくれよ。期末テストまでに冬服も仕立てておきたいからよ」

「なんだか、申し訳ないです…何から何まで」

「生徒の面倒見るのが教師の役目だっつーに」

 

夏と冬…女だし、それなりに数を作っておいた方が良いだろう。

全力稼働で裁縫部隊を動かしたいところなんだが…今、来月の臨海学校に合わせて新しいBTドールの作成に入ってるって事もあって、裁縫部隊に余裕がない。

時間もあまりないし、最低でも夏服だけでも渡してやらないとな。

…なんせ、海に行くんだからな。

 

「うぇ…いいなぁ、シショーのお手製か…」

「ミュラー先生、私も制服欲しい」

「シャルロットだけだ…金取るぞ、流石に」

 

鈴と簪は私達にも作れと視線を送ってくるものの、俺はそれをばっさりと切り捨てる。

シャルロットは事情が事情なんで俺が手がけるってだけで、本来は制服なんてものは業者が用意するものだからな…。

 

「料理、家事、裁縫…IS工学に通じてるって、アモン兄って束さん並にチートだよな」

「うげ…あんな変態と一緒にすんなよ…。あいつ、初めて会った時千冬の下着物色してたんだぜ…」

 

正確には使用済みと言う前置きが付くが。

一応、名誉の為にこの部分は伏せておく事にする。

そうでないと、何だか箒が可哀想で…今も頭を抱えているし。

 

「姉さん…今度会ったら…シバく…」

「ほ、箒…程々にな?」

 

漏れ出る言葉は怨嗟が混じっていて、少々おどろおどろしい…。

重要人保護プログラムで酷い目に合ってた恨みもあるから、姉に対して苛烈になっちまうのか…?

一夏は箒を宥めつつ、此方に顔を向ける。

 

「そう言えば、千冬姉とアモン兄が付き合うって大々的に報道されたのに、束さん何もアクション起こさなかったな」

「そうだな…なんだか近々やらかしそうで怖いぜ」

 

俺の悲痛な溜息を聞いて、一夏達は俺を憐れむような視線で見てくる。

束が千冬を友人認定しているって話は、IS界隈では有名な話だからな。

他人と知人の区別の差が激しい事を知っていれば、千冬のハートをキャッチした人間に何かしら嫌がらせが来ることなんざ想像に難くないってもんだ。

 

「いや、何が起きても箒は気にするなよ?」

「前振りですかそれは」

「んな訳ねぇだろ…。あくまでも俺と束の問題であって、妹の箒には関係が無い。お前はお前でやる事があるんだから、そっちを専念してろ」

「は、はぁ…」

 

箒は、姉が起こす事件に対して止められないことに責任を感じている。

せめて、認識している自分が姉の事を止められなかったのか…。

止めていれば、今こんな事には…なんて考えているだろう。

束は誰にも止められない。

殺しても止まりそうにない気がする。

 

「シショーが気にするなって言ったら、気にしなくて良いわよ。大雑把だけど、自分の事は自分でやる人だし」

「そうなんだろうが…」

 

箒はどうにも煮え切らない様で、腕を組んでう~む、と唸っている。

剣道少女は実直すぎやしないかね…?

まぁ、そこが箒の良い所なんだろう。

 

「アモン先生…皆、基本的に先生呼びだと言うのに、何故鈴は師匠と呼ぶのだ?」

「それはな、鈴が中学の時に俺が料理教えてたんだよ。確か、ゴマ団子をおやつで食わせたらだったか?」

「だって、凄く美味しかったんだもん。あたしとしては両親の料理も好きだけど、シショーのご飯の方が好きだったなぁ…」

「ベタ褒めすんなよ…照れるぜ」

 

ラウラの疑問に答えてやると、鈴は昔を懐かしむように目を細めて笑みを浮かべる。

良い思い出でもあるし、悪い思い出でもある両親の事を思い出しても、そういう風に笑みを浮かべられるってのは良い事なんだろう。

チンチク鈴のくせして、随分と強くなっちまって…。

 

「ゴマ団子…ミュラー先生は、甘いものが好きなの?」

「好きっつーか…昔の女が甘党で、世話してた時にお菓子をよく作ってたってだけだ」

「…はい?」

 

なんか、とても意外そうな目で食堂中の視線が俺に集まる。

彼女いない歴=外見年齢だとでも思われたのか…いや、仕方無いが。

根無し草の大道芸人とか、今のご時世誰が恋人にするんだって話だからな。

 

「ごめん、シショー…これまで付き合った事のある人って千冬さん入れて何人よ?」

「人を軟派っぽく思うんじゃねぇよ…ったく。千冬入れて二人だし、一人目はもうあの世に逝ってる」

「ご、ごめん!そんなつもりじゃ…!」

「気にしてねぇよ…これでもドライに生きてるからな。死んだ人間にしがみ付いてねぇから、千冬に惚れる事も出来た」

 

そう、もう…過去の事だ。

俺たちは生きてるんなら前を見て歩かなきゃならないし、何時までも後ろを見てもいられない。

そんなことをしたら…アイツに笑われっちまうよ。

なんだかんだと話し込みつつもカツカレーを食べ終えた俺は、ラッシーを一気に飲み干して立ち上がる。

 

「ガキが大人を気遣うんじゃねぇよ…マジで気にしてねぇからよ」

「シショー…分かった…」

 

迂闊だったな…まったく、昔の女なんて話の引き合いに出すんじゃなかったぜ…。




ちょっと読みにくいと言う話がありまして、アモンの地の文部分の『~ねぇ』と言う表記を
『~ない(無い)』にしてみました。
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