インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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幼女と少女と人形遣い

簪の打鉄弐式の組み立ての監督をするスティーリアを横目に、俺はアプリストスの調整を行う。

この調整は、コアを再移植したことに依る出力低下に対応するために行っている。

スラスターの出力から各関節駆動の出力を低めに設定…最終的に馬力がガタ落ちする形になるが、俺にはBTドールと言う優秀な護衛が就いている。

本体自身の戦闘能力に直結しないこいつ等ならば、アプリストスは充分に戦う事ができる。

 

「っと…そろそろ着床する頃合いだったか…」

 

機体のパラメータを確認していると、システムウェアに通知が入る。

内容は、以前突っ込んだプログラムの着床が完了したっつーものだ。

俺は迷わずそのプログラムを起動させて、用意していた空間投影用の装置をアプリストスに組み込んでいく。

 

「先生、ISにソレ要りますか?」

「今回に限っちゃ必要なんだよ。約束があってな」

 

一度休憩を挟むためか、簪が此方にやってきて不思議そうな顔をする。

本来空間投影装置ってのはモバイル端末に使われる物であって、ISの場合ハイパーセンサーのお陰で視界に必要なパラメーターが表示される。

なので、完全に無駄な装置なんだが…。

 

『…あれ…?ここ、どこ?』

 

アプリストスの前に、コア内部に存在する心…そのイメージ映像である少女の精密な3Dモデルが空間に映し出されてキョロキョロと辺りを見渡している。

案外上手く出来るもんだな…失敗するもんだと思ったが。

 

「おう、これで一人ぼっちじゃねぇな」

『悪魔のおじさん!』

「おじ…ミュラー先生、おじさんって程、老けてませんよね?」

「どうだかねぇ…?おっさんと呼ばれようが何しようが俺は気にしねぇからなぁ…」

 

簪は、3Dモデルの少女の屈託のない笑顔をズレた眼鏡を直しながら見つめている。

少女はそんな簪の視線を気にすることなく、不思議そうな顔をしながら俺の顔をじぃっと見つめてくる。

 

『おじさん、角とか翼はどうしたの?』

「あれは…あー、今は仕舞ってるんだ。見られたら皆ビックリしちまうからなぁ」

「先生、これは、どういう…?」

 

簪は俺の上着の裾を掴んで引っ張り、俺の気を引いてくる。

満足の行く出来だったんで、ちょっとばかし注目しすぎたな。

俺は、アプリストスのコアが納められているハッチを開き、コアを指差す。

 

「コレだ、コレ。このモデルはアプリストスのコアの心だ」

「…確かに、コアに心が宿る、と言う話は授業で学びました…。けれど…こんな、はっきりとした物なんですか?」

「って言われても…そうだって言うしかねぇだろ…。此奴のコアは他に干渉できねぇように作られてるみたいでな。あんまりにも寂しがりだから、こっちと会話しやすいようにこうやって会話機能を付けてやったと…」

 

俺自身も、此処まで上手く行くとは思わなかったんだが…。

この機能は、アプリストスが待機状態になっても問題なく機能する様に調整してある。

空間投影で映し出される有効範囲は、俺を中心に半径一メートル以内。

通信機能は、俺が許可した時のみ使用できるようにした。

寂しがりの此奴が迷惑省みず、通信しまくるのを防ぐ為だな…。

この辺は、フランスで作業している間に約束を交わしている。

一応、分かったとは言ってくれたんだが…。

アプリストスは、まるでファンタジー世界に居る妖精の様に辺りを飛び回り、楽しそうに笑っている。

 

「マスター、その娘が…?」

「まぁ、ある意味お前たちの姉妹みたいなもんだな」

「で、あればマスターは主人なのですから、もう少し敬意を払う様に躾をすべきかと…」

「スティーリアさん、其処まで、必要…?」

 

スティーリアはコクリと頷き、じぃっと俺の事を見つめてくる。

姉妹間では非常に面倒見が良いんだが、スティーリアは上下関係を注視する。

親子って形よりも、主人と召使の関係(マスター・サーヴァント)でありたいって想いがあるからだろう。

子は何時か巣立たねばならない。

だが、主人と召使の関係であれば…って考えちまうんだろう。

多分、誰よりも寂しがり屋なんだろうなぁ…。

俺は、スティーリアの頭を優しく撫でて首を横に振る。

 

「その必要はねぇ…。第一、俺はそんな事一度も強要してないだろう?」

「主人に敬意を払うのは造られた者の務めかと…」

「良いんだ…俺はお前も、フランマも…造ったもの全てを愛している」

 

あくまでも声を荒げずに、優しく諭す様に頭を撫でてやりながらスティーリアに微笑みかける。

ありがたい事だとは思う…そうやって敬意を払って接してくれようとするのはな。

ただ、距離があると感じちまうのも事実…。

 

「ミュラー先生も、そういう、顔をするんですね…」

「そういうってどんなだよ…?」

「寂しそう、でしたよ?」

『眼鏡のおねーちゃんの言う通りだよ』

 

簪とアプリストスは俺の顔を覗き込むようにして見つめ、同時に頷く。

あんまり表情に感情が出るようなもんじゃ無いと思ってたんだが。

バツが悪くなってしまって、俺は乱暴に頭をかく。

 

「兎に角だ、アプリストスは敬意を払わなくて良い。はい、決定!」

「分かりました…マスターがそう仰るのであれば…」

 

スティーリアはあまり納得がいかない様ではあるものの、渋々頷いて引き下がる。

頑固だからなぁ…フランマなら一も二もなく頷くんだが。

開けっぱなしのコアのハッチを閉めて、俺はISを待機状態に戻して指輪になったアプリストスを身に着ける。

 

『おじさん、それが私…なんだよね?』

「ごっつい見た目なのに、中身幼女だもんなぁ…ギャップがすげぇよ、お前」

『おじさんが可愛く作ればよかったと思う!』

「いや、男が可愛いデザインの物を身に付けられっかよ…」

 

アプリストスは頬を膨らませながら腰に手を当て、怒ったように顏を背ける。

俺だって、中身が少女だなんて想定してねぇよ…。

俺と同じ粗野で野蛮だってんなら、まだ理解できんだけどな。

俺はアプリストスを宥めつつ、軽く溜息をつく。

 

「お前のマスターが俺だった不幸を呪うしかねぇなぁ…」

『別に…不幸じゃないもん…寂しくない様にして、くれたし…』

 

アプリストスは顔を背けたまま首を横に振り、ポツリポツリと呟く様に言う。

あんな小麦畑に居るよか、今の方が幾分マシだろうよ。

 

『ずっと、一人ぼっちは…嫌だもん。だから、おじさん…ありがとう…』

「応よ…まぁ、その分キッチリ働いてくれよ?」

「…いいなぁ…私の弐式も、同じように喋れるように、なるのかな…?」

 

簪は羨ましそうにアプリストスの立体映像を眺めている。

無機物の塊である機械が、心を持って自由に会話する。

創作の世界じゃ、有りがちな世界が今手が届くところに存在してるからな。

 

「そこは積ませる経験が物を言うんだろうな。俺の場合、自律兵器扱いのBTドールであるスティーリアとフランマがアプリストスに装備されてたってのがデカいんだろ。BTドールの思考や俺の思考を読み取って、学習していった先にコイツが生まれた訳だ」

「そうなると…難しそうですね…」

「遅かれ早かれってだけだ。いずれ必ず心を得る日が来る」

 

あくまでも、コアの根底には無色の意識が存在している。

喜怒哀楽…そう言った感情を持たない存在は、人に使ってもらって初めて学習を始める。

見て、聞いて、知って…そうして経験を溜め込んで心を得ていくんだろう。

 

「だからよ、機械だなんだって言っても愛情はキチンと注いでやれ。ISは兵器なんかじゃねぇんだからな」

「はい…わかりました」

 

俺は、アプリストスのコアボックスのハッチを優しく閉めて、機体を待機状態にする。

禍々しい髑髏を象った指輪を見て、思わずクスリと笑ってしまう。

もしかして、指輪なんて形を取ったのはアプリストスなりの抵抗だったのかもな…なんて、思ってしまったからだ。

 

『何か、可笑しいの…?』

「んにゃ、なんでもねぇよ…。さて、スティーリアばっかりに任せるのも悪いし、一時間くらいは俺が見てやるかね」

「本当ですか…!?」

 

簪の頭をポンと撫でてやりながら提案してやると、簪は思い切り此方に詰め寄って目を輝かせる。

食いつき良いな…マジで…。

若干後ずさりながら、俺はコクコクと頷いて口を開く。

 

「あくまで監督するってだけで、口出しはしないからな?」

「それでもいいです!さぁ、早く!」

「マスター、彼女のやる気が目に見えて高まっています…」

 

これが、所謂恋する乙女ってやつなんかねぇ…?

 

 

 

なんだかんだと時間ぎりぎりまで三人で打鉄弐式の組み立てを行い、俺は一人で整備室の戸締りを確認する。

フランマもスティーリアも、一度ショウケースの中に戻ってもらった。

休眠状態にすることで、機体の損耗を回復が出来るからだ。

現状、俺の機体だけで闘えって言われたら多少苦戦する可能性がある。

…負けるなんて口が裂けても言わない…少なくとも、今まで襲撃してきた奴らのレベルなら問題は無い筈だ。

だが、もし…もし、一斉に襲われてしまった場合、一方的に嬲られる可能性は考慮しなきゃならない。

希望的観測なんかじゃ、明日は生き残れないからな…常に最悪の数字を想定して行動するのが戦場に身を置く者の務めって奴だ。

アリーナ管理人室に整備室の鍵を返却し、肩に座る様にして初めて見る世界を見渡すアプリストスを見る。

どうも、機体を通してだと世界を認識できないらしい…あくまでも知識としてでしか知覚できないって事だ。

…やっぱ、それは寂しいもんだな…。

 

「で、初めて見るものばっかみたいだが…面白いか?」

『うん、おじ…えーっと、マスター?』

「スティーリアの言った事は気にしなくて良いんだぞ?」

 

アプリストスはおじさん呼びを止めようと、不慣れな呼び方で俺の事を呼んでくる。

アプリストスは首を横に振って、笑みを浮かべる。

 

『えっと、為されたことに対して、わたしは、なにも出来ない。だから、少なくとも、敬意を払うべき…そう思うの』

「かたっ苦しいのは嫌なんだがなぁ…何だか昔を思い出しちまう」

 

強ち間違いでもない二つ名…。

王を名乗ってた頃は毎日がくだらない雑務ばかりだったからな。

窓から見える鳥を見て、自由を良く欲したもんだ…。

…鳥にも自由なんて無かったんだがな。

 

『マスターは、いやな思い出があるの?』

「そりゃな…長生きしてりゃ良い思い出も悪い思い出も同じくらい出来ちまう」

『ふ~ん…いまは、いやな思い出の方が多い…?』

 

この世界に来てからの事を思い返し、俺は首を横に振る。

確かに、厄介な身の上になっちまってるのは否定できない。

人によっちゃ窮屈な学園で教鞭を取らなきゃならないし、何かあれば命を張る事件に発展もしちまう。

でも、それでも…。

 

「いやな思い出よりかは、良い思い出の方が多いわな。なんせ…」

「私が居るからか?」

「…応よ。千冬が傍に居れば大概の事は、良い思い出にならぁな」

 

突然後ろから千冬が声をかけてきて、俺は肩を竦めながら振り向く。

千冬は、俺の肩の上に居るアプリストスを見て怪訝な顔をする。

 

「…幼女趣味か?」

「人聞きの悪い事言ってんじゃねーよ!」

「フッ、冗談だ。それで、ソレはなんだ?」

『ソレ、じゃない。私は……マスター、可愛い名前が良い』

 

アプリストスは俺の肩から立ち上がり、期待の眼差しで俺の事を見つめてくる。

止めろよ…そんな純真な目で見られたら、俺溶けちまうよ…。

 

「此奴はアプリストスのコアの心だ。便宜上アプリストスって呼んでるが…」

「また、お前は…随分と器用な事をするな。コアと対話所か、コミュニケーション能力まで付けてどうする気だ?」

「ちっとばかし、此奴のコアはおかしくってな…」

『マスター、名前、ほしい!」

 

アプリストスは俺と千冬の間に割って入り、必死に名前をせがんでくる。

実際、コアが使われている機体の名前に倣うべきなんだろうが…少女としては、やはりそうも行かないか。

 

「良いではないか、名前を付けてやっても」

「と、言われてもな…千冬も考えてくれよ…」

『くれよー』

 

ネーミングセンスの無さには自信がある…名を付けるって行為はどうしても苦手なんだよな…。

俺は困ったように唸って千冬に期待の眼差しを向けるが、千冬はサッと目を逸らす。

…お前もかよ…。

 

「それは、生みの親がやるべきことであって、私のする事ではないだろう?」

「逃げやがったな…」

「何とでも言うが良い」

 

頭を悩ませながら、俺は千冬を伴って寮に向かっていく。

俺から生まれたってなるとな…食い散らかした豊穣神は少女に付けるには、ちょっとばかし問題があるしな。

…見た目とそぐわないが、響きが気に入っている名前を与えるか…?

 

「『詩沙(しずな)』はどうだ?お前の行く道に祝福の詩があるように…。まぁ、昔居た人形に付けてやった名前でよければ、なんだが」

『しずな…』

 

アプリストスは反芻するように名を呟き、考え込む。

気に入らないって言うんなら、それはそれで良いだろうよ。

千冬も巻き込んで名前を考えるだけだしな。

 

『うん、しずな。それでいいよ!少なくとも、ISの名前より良い!』

「そりゃ良かった、それじゃ…お前は今日から詩沙だ」

 

アプリストス改め詩沙は、満足したのか立体映像を切ってコアの中に戻っていく。

時間も大分遅いし、此処からは大人の時間ってな…。

寂しくなれば、また出て来るだろうし。

 

「…アモン、その名を付けられた人形はどうなったのだ?」

 

千冬は詩沙が消えたのを見計らって、俺に問いかける。

遥か昔に俺の元から旅立って行ったが…片時も忘れた事は無い。

なんせ、俺が初めて組み上げた自動人形だったからな…人一倍愛情だって注いでいた。

 

「さて、ね…俺と同じの根無し草になっちまって、何処で何をやってるのやら…?」

「蛙の子は蛙と言った所か?」

「ひっで~な、おい。見聞を広めたいってんで出ていったのはアイツの方だってのに」

 

好奇心旺盛だったからな…アイツ…。

千冬はふむ、と頷いてとりあえずは納得したようだ。

 

「意外と世界は狭いものだ…。案外ひょっこりと会うかもしれんぞ?」

「はっ、そりゃ良いな。また会えたら思い出話でも楽しみたいもんだ」

 

最初に話すのは…お前の母親になるかもしれない奴だと、千冬を紹介するのが面白いかもしれないな。

なんて、そんな事を考えながら俺は千冬と寄り添いながら歩いて寮へと帰って行った。




此処の所スランプ続きでござる…
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