インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
「戦闘データを取りたい?」
「あぁ…本国からの命令と言う事もあるが、その…例の事件の時にコア内部のデータが吹き飛んでしまったらしくて…ダメだろうか?」
六月最後の週…月曜日の放課後。
いきなり職員室にラウラがやってきたかと思えば、真っ直ぐに俺の元に来て一瞬躊躇したが、真っ直ぐに俺を見つめてデータ取りの協力要請を言ってきた。
ラウラの言う例の事件って言うのは、言うまでもなく暴走事件の事だ。
あの時のVTS起動の過負荷が原因で、コアがフォーマットされた…と言う事になっている。
俺の予想が正しければ、束の奴が外部から干渉してたはず…足が付くことは無いだろうが、念には念をと、初期化したんだろう。
はた迷惑な話だよな…マジで。
「そりゃ、やるのは構わねぇが…アプリストスだって本調子じゃねぇぞ?」
「こちらも、コアが馴染んでるとは言い難い状況だ。勿論、織斑達との訓練で馴らしはしているんだが…」
「一夏では、馴らしの相手には未だ不十分と…。そう言いたいんだな、ラウラ?」
隣で話を聞いていた千冬は、中々意地の悪い笑みを浮かべてラウラを見つめる。
…ラウラは、あの事件以降急速に性格が丸くなった。
なるべくクラスメートの話を聞こうとするし、自分からも話しかけに言っているそうだ。
そうした中で…まぁ、なんだ…世間知らずっぽい所が露呈して、別クラスのドイツ出身者が中心になって『ラウラを温かく見守る会』なるファンクラブが極秘裏に結成されたそうだ。
フランマからの報告なんで、ほぼ間違いないだろうよ…。
ラウラは、首を横に振って直立不動の姿勢を取って千冬に向き直る。
「い、いえっ!決してそう言う訳ではなく!あくまで、アモン先生との模擬戦闘は本国ドイツからの要請であります!」
「冗談だ。ククッ…お前は揶揄い甲斐があるな。一夏の近接戦闘センスを
磨いたのは、間違いなくこの男だ。お前にとっても良い刺激になるだろう?」
「ありゃ、元々一夏が持ってたのもデカいだろうがな。で、ボーデヴィッヒ…アリーナの使用許可は取ってあんのか?」
俺は書類の束をまとめて机の端に置き、よっこらせと立ち上がる。
アプリストスの馴らし運転は、一人でしかやっていない。
千冬にも手伝ってもらおうと思ったんだが…思いもよらない所から『首輪』がかかっている事を知っちまって、頼るに頼れなかった。
ブレード一本で世界を取ったと言う千冬のIS操縦技術…肌で感じてみたかったんだがな。
そんな訳で、戦闘出力での飛行訓練はやっていたものの、実戦形式の訓練はできず仕舞いだった。
「あ、あぁ…織斑は箒とシャルロットと訓練すると言う事で、私と鈴、セシリアの三人で実戦訓練をする予定だ」
「したら、鈴とセシリアも一緒に揉んでやるかね…」
「はりきるのは良いが、あまり苛めてやるなよ?」
千冬は席に着いたまま腕を組んで、片目だけ開けて俺の事を見てくる。
BTドール無しでどこまでやれんのか…って言うのを知るために喧嘩吹っ掛ける形になっからなぁ…矜持はあるし、負けとか引き分けってのは防ぎたいところだ。
「逆に苛められたら慰めてくれんのかよ?」
「まさかな、逆に私も苛めてやろうと考えているところだ」
「…軽く惚気ないでもらえないだろうか…織斑教官、アモン先生…」
互いに軽口を飛ばし合っていると、ラウラは何とも複雑な表情を浮かべて俺たちを見つめてくる。
何となくバツが悪くなって、俺と千冬はほぼ同時に顏を背ける。
「別に、普通に雑談してただけだろうが…?」
「そ、そうだぞ。私は私で忙しいんだ、さっさと行け」
「は、はぁ…それでは、私は先に行ってセシリア達に伝えておきます」
ラウラは千冬に向かって敬礼した後、そそくさと職員室から出ていく。
脊髄反射で敬礼しちまうんだろうな…千冬にどんな扱き喰らってたんだか…?
ふと、職員室内の視線が気になったので辺りを見渡すと、一斉にその場にいた教師たちから視線を逸らされる。
まぁ、いいや…一先ず、チビの頼み事でも聞いてやるかね…。
第二アリーナ、俺はアプリストスを身に纏って目の前の三機と対峙する。
鈴とラウラがツートップ…セシリアが後方に待機する形だな。
鈴の甲龍とラウラのシュヴァルツェア・レーゲンはコンセプト上似ている部分がある。
近接寄りの万能機って部分だな。
ただ、ラウラの方が手数と言う部分では勝っているか…。
「ふっふっふ…シショー、ボッコボコのギッタンギタンにしてやるわよ!」
「おーう…やる気があるのは良いこった。BTドール無しの状態だから弱くっても怒るんじゃねぇぞ?」
「えらく消極的ですわね。ですが、これも訓練…全力で行かせていただきます」
セシリアはブルー・ティアーズの主兵装のエネルギーライフル、スターライトmkⅢを構えて狙いを定める。
…ラウラのリボルバー・レールカノンによる実体弾、鈴の衝撃砲による不可視の弾丸、セシリアのエネルギー由来の弾丸にビットのミサイル。
苦労するなこりゃ…。
かといって、ここで負けちまったら矜持に関わる…だから…。
「よっと!」
「ガッ!!」
「ちょっ!速いわよ!!」
試合開始のブザーと共に瞬時加速。
ラウラの顔面に思い切り膝蹴りを叩き込んで出鼻を挫く。
セオリーで考えれば、俺は開幕と同時に全力機動で射撃戦から逃げ回らなきゃならない。
逃げの一徹でチャンスを物にしなきゃならないが、生憎とアプリストスにそんな余裕があるとは思えない。
[だ、大丈夫!私がんばる!]
いや、無理してぶっ壊したくねぇんだよ…修理だって手間だからな。
で、あれば前進しかない…ラウラと鈴を同時に相手にしなきゃならないが、こうする事でセシリアは二人が邪魔で射撃戦を行えない。
逆に、潔く鈴とラウラが離れた場合…俺は、どちらかに貼り付いて近接戦闘をガンガン行えば良い。
これもやはり、張り付いている側が邪魔でフリーになっている奴は射撃戦が行えなくなる。
問題なのは、ラウラの
集中して停めたい空間を意識していないといけないからだ。
イメージ・インターフェースも万能じゃねぇからな…。
膝蹴りでのけぞったラウラは、俺に向かって掌を翳してくる。
「と…まれぇ!!」
「そら!」
両肩に備わっているショウケースをラウラと俺の間に配置して分離、ショウケースを蹴り飛ばすことで上方向に加速してAICから逃れた俺は、急いで身を捩る。
まるで俺の体の隙間を縫う様に、青白い光が幾重もの軌道を描いて照射される。
セシリアは一瞬の攻防を冷静に見極め、ビットを逃げる方向に配置。
まんまと籠の中に逃げ込んだ俺に向かって一斉射したと…。
「くっ…!」
「オルコット!撃つ時の一斉射はトドメだけにしとけって!時間差で撃ち込むことも視野に入れろ!」
「呑気に指導してんじゃないわよ…龍砲!!」
俺が避けた瞬間から一気にチャージしたのか、俺のハイパーセンサーの視界の端に光が見えていたのは理解していた。
空間を圧縮する事で、空気を弾丸の様にして撃ち込むことが出来る龍砲…言ってしまえば空気砲の超強化版だな。
空気の塊は、別にエネルギーで固定されてるわけじゃない。
イメージ的には砂で作った団子って所か…要は別のエネルギーが塊に触れた瞬間、爆発してダメージを与えるって寸法だ。
だから、こういう芸当もできないわけじゃない。
「必殺撃ち込むにゃ、まだまだ早すぎるぞ?」
「ちぃっ…!!」
両指から発生させたエネルギーストリングスで、鈴との射線上を思い切り薙ぎ払って衝撃砲に触れさせて俺に迫ってきていた空気の塊を破裂させる。
空気の奔流はビットの動きを乱れさせるには十分。
と、なれば…。
俺は、セシリアに向かって瞬時加速をしようとして、思い切り横に逃れる。
「くっ!本当に再移植したコアなのか…!?」
「あっぶね…」
ラウラはAICに捕まったショウケースを素早く投げ捨てながら、俺に向かって瞬時加速。
すれ違いざまにワイヤーブレードで切り裂こうとしてきたのだ。
ちっと、セシリアに意識を割き過ぎたな…。
さっきからこっちに向かって来ない所を見ると、囮も兼ねてるんだろう。
ネタが割れれば効力はゼロに等しい…その一瞬に賭けたんだろうがな。
背後から迫る鈴を宙返りの要領でやり過ごすと、狙いすましたかのようにレールカノンによる砲撃がピンポイントで撃ち込まれる。
「とったか!?」
「フラグ立ててんじゃないわよ!」
「即席の…それも喧嘩してたやつらの連携にしちゃ上出来だな」
アプリストスのエネルギーストリングスは、元々アメリカ第二世代ISである『アラクネ』に装備されている物の改良型だ。
本来の用途は所謂トリモチ…つまり、閉所における拘束を目的とした装備と言う事だ。
俺は先ほどの動きでアリーナ中に張り巡らせた不可視のエネルギーストリングスによるネットでレールカノンの弾丸の勢いを削ぎ、紙一重で避ける事に成功した。
「案外、すんなり動くもんだな…」
[もーっと褒めてくれてもいいんだよ?]
コアは搭乗者の事を理解しようとする。
理解して学び、自身の糧として蓄積していく。
そうすることで、最終的には第二次形態移行を引き起こすわけだ。
詩沙は俺の動きの癖を理解していたようで、関節駆動に回すエネルギーの効率をリアルタイムで書き換えてたみたいだな。
外との交流能力を手に入れてから、やけに成長してる気がするな…。
「さってと…次はどうやって攻めるかねぇ…?」
「…生身であれだけ強ければ、こうもなるか…」
「皆さん、気付いてまして…?」
ラウラはあの一瞬の攻防で俺に対する認識を改めた様で、乾いた唇を舌で湿らせながらッ此方の出方を伺う。
俯瞰して見ていたセシリアは今の状態に気付いたみたいだな…。
「どうしたのよ?」
「…仕切り直し、そういうことだな?」
「えぇ…試合開始前の座標の位置に、ミュラー先生は戻っていますわ」
ちょっとした、挑発…そんなところだな。
確かに、俺は派手に動き回った…だが、一連の動きが終われば俺だけ元の位置に戻っている。
ISの戦闘ってのは三次元戦闘だ。
最終的には空間認識能力ってのがモノを言い始める。
前後左右どころか、上下まで考慮して機体を動かす必要があるからなぁ…。
ただ、そう言ったことに長けていれば、それだけ立ち回りもコントロールしやすい。
「自分と相手の立ち位置ってのは意識しとけよ?連携するなら特に重要だからな」
「あたし達より経験浅い筈なのに…シショーはやはりシショーね…」
「だが、AICから逃れる為の術は無い筈…隙を作れるか?」
「では、わたくしから…」
セシリアがスターライトmkⅢを構えた瞬間に、俺は糸を手繰り寄せるような仕草をする。
アリーナ中に張り巡らされたエネルギーストリングスはトリモチと同じ性質を持たせられるが、エネルギーの出力を高める事で凶悪な刃と化す。
出力を高めた瞬間、蜘蛛の巣のように張り巡らされたエネルギーストリングスが淡く発光して視認できるようになる。
俺の仕草に呼応するように、張り巡らされたエネルギーストリングスは、並んでいた鈴とラウラに音もなく絡みつきシールドエネルギーをガリガリと削っていく。
「くっ!インチキよこんなの!?」
「引き剥がせないだと…!?」
「サーモグラフィでなら、視認自体はできてたんだろうけどな…気付かなかった自分を恨めよ?」
俺は、にやりと笑ってからセシリアへと向き直る。
セシリアが居る辺りまでは、エネルギーストリングスを張り巡らせる事は出来なかった。
それに、この使用方法は常にエネルギーストリングスを発生させなきゃならないせいで、燃費が非常に悪い。
本来は閉所でやるような戦い方だからな。
「ルール上、私は逃げの一手をとれば…勝てますわね?」
「まぁ、そうなるが…貴族が獲物相手に逃げんのか?」
「まさか…矜持に差し支えますわ!!」
セシリアはスターライトmkⅢを片手で持ち、甘めの狙いとは言え此方を正確に撃ちながら突撃を仕掛けてくる。
俺も呼応するようにセシリアに向かって突撃を仕掛けるが、一つ失念していたことがあった。
「シショー、とったわよ!?」
「野郎…!!」
甲龍の衝撃砲『龍砲」は、理論上射角に死角が無い。
つまり、ハイパーセンサーさえ生きていれば放つことが出来る。
十字砲火に晒された俺は堪らず急降下して難を逃れようとするが、いきなり機体の制御が利かなくなる。
「捕まえたぞ…アモン先生…?」
「削られ続けてるってのに無茶しやがる…!!」
ラウラは、セシリアと鈴の連携で俺が逃げる方向を読んで先回り…短時間だが、AICで俺の体を固定する。
セシリアはスターライトmkⅢを投げ捨て、近接用のショートブレード『インターセプター』を大ぶりに構えて袈裟斬りにしてくる。
「今度こそ、トりましたわ!!」
「だから、油断するんじゃねぇっ!!」
あくまでも短時間しか機能しなかったAIC。
袈裟斬りに斬られたと同時に拘束が解け、エネルギーの切れた鈴とラウラを尻目にセシリアの顔面を鷲掴みにして思い切り地面に投げ飛ばす。
セシリアは尚も冷静にPICを制御して地面との衝突を免れるが、俺は瞬時加速でセシリアに肉薄して喉元に手刀を突きつける。
俺の周囲にはいつの間にかビットが展開されていて、何れも銃口を此方に向けている。
…引き分けだな。
「どっちが早いか試してみっか…?」
「…いえ、これ以上は模擬戦の範疇を越えますわ」
「ふぅ…引き分けっつーのは情けねぇもんだな」
ゆっくりとセシリアから離れて、アプリストスを待機状態に戻して地面に着地する。
ダメージレベルは各機共にA相当…整備するまでも無いだろう。
勝つつもりで臨んだんだが…総出力が本調子の七割程度じゃこんなもんか…?
俺はISを解除したセシリアを伴って、鈴とラウラの元へと向かう。
「お前ら、今回の連携打ち合わせしてたな?」
「そうでもしなければ、生身でISに対抗できるアモン先生に勝てる気はしなかったからな」
「上手く追い込めたと思ったんだけどなぁ…」
引き分けと言う結果に落ち着いたものの、ラウラは何処か満足そうに頷き、鈴は悔しそうに笑う。
「予定通りとはいかないものですわね…次は勝たせていただきましょう」
「大人げねぇ俺は、BTドール持ちださせてもらうわ」
「「「それは酷い(ですわ)!!」」」
いやはや…こうしてガキ共の成長を間近で見られるってのは良いもんだねぇ…。
俺は待機状態のアプリストスを労う様に撫で、頬を膨らませて怒る三人から逃げる様にピットへと入って行った。
更新遅くなって申し訳ない…中々筆が…(吐血)