インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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子兎と人形遣い

土曜日の放課後…臨海学校を明後日に控えていると言う事もあって、生徒の大半は今日中に準備を済ませてしまおうと都市部に繰り出している。

勿論、一夏達も例外ではない…意外っちゃ意外なんだが、シャルロットのやつが水着を買いに行こうと約束してたらしい。

悪魔たる俺としちゃ面白いイベントなので、セシリアと箒にキチンとこの情報を伝えて後を付けさせている。

争え…争え…傍から見てる分には凄い楽しいから。

箒とセシリアのお守りにはフランマにお願いしてある。

俺はモノクルを装着してフランマと視界共有しつつ、職員室のデスクで書類作成に励んでいる。

本当だったら俺も千冬を誘って、水着の一つでも選んでやりたいんだが…学園に釘付けにされているお蔭でデートも儘ならない。

暇を見つけては外で一緒に体を動かしているんだがねぇ…。

 

「…で、お前はなんで此処にいるのか?」

「居ては不味いだろうか?」

 

パソコンで必要な書類を作成している最中、俺の真横でラウラが俺の事をジーッと見つめてくる。

穴が開くんじゃないかと思うくらいに…まぁ、嫌われてる訳でもないんで別に構わないっちゃ構わないんだが。

対面に座っている横井が可笑しそうにクスクスと笑っている。

 

「知らない間に、随分と懐かれたみたいですね」

「懐かれた…っていうより興味の対象と言った所では…?」

「あぁ、確かにミュラー先生には興味がある…例えば、人には不可能な膂力とか」

 

どんなに切れ味が良かろうが鋼線でISの装備は壊せないし、ましてや素手で装甲を引っぺがすなんて以ての外。

ゴリラであっても無理だろうな…。

俺は多少筋肉がついていると言うだけであって、見た目は大して力持ちには見えない。

だからラウラの奴も興味を持ったってところか?

 

「あれだ、火事場のなんたらってやつ」

「火事場の馬鹿力か…ふむ、そう言う事で、いいのか?」

「ミュラー先生の様な殿方が、ピンチに全力で立ち向かう…絵になりますねぇ。頭が良くて家事も出来、生徒からの人気もある…非の打ちどころがありませんわ」

 

横井は気を引きたいのか何なのか…やたらと俺を持ち上げてくる。

そういう駆け引きは、他所の男とやってもらいたいんだがねぇ…?

 

「でも、残念ですわ…ミュラー先生、臨海学校には行かないのでしょう?」

「えぇ…まぁ、理由は知ってるでしょう?」

「まったく、あんな命令出さなくても良いと思いますわ」

 

臨海学校の初日…その日は一日自由時間と言う事で、教師陣も一日フリーなっている。

勿論、教師としての責務を最低限果たす必要はあるんだが…。

ともあれ、その自由時間は大体海で過ごす形になる。

そうなれば、水着姿になるのは必然となる訳で…恐らく、水着姿を見たい見せたいと言う欲求があるのだろう。

この先生、外面良いんだが…欲求に真っ直ぐすぎて不安になる。

 

「IS委員会からの御達しと言う話だったな…ミュラー先生程の戦闘力があれば、杞憂だろうに」

「周りに人間が居たんじゃ派手に暴れらんねぇよ…。学園内から出られねぇ代わりに、周囲に被害が出ねぇんだから文句は言えねぇ…」

 

IS委員会からの御達しは噂と言う形で学園内を駆け巡り、一年…特に鈴と簪が余りにも騒ぐものだから正式に学園に軟禁状態である事が生徒達に明かされた。

それと同時に臨海学校に同行できないと言う事が分かって、鈴と簪が燃え尽きた様になってたのは笑ったな…魅了したかったらもう一回りデカくなってから出直すこった。

 

「ところで…織斑先生は?」

「千冬なら、山田先生の出迎えです…向こうに泊まって合流すりゃ良いのに…」

「学園も裕福と言う訳ではありませんから…」

 

千冬は山田を出迎えに都市部へと赴いている。

その足で臨海学校に必要なものを買ってくると言ってたな…。

山田は山田で災難だ…出張で臨海学校の予定地に滞在して、戻ってきたらまた臨海学校で同じ場所に向かうんだからな…。

出張の規定で食事代が一食五百円までしか経費で落ちないって聞いた時は、この学園の懐事情に涙すると同時に俺にそんな役目が来ないことを祈ったもんだ。

まぁ、なんでもかんでも経費で落としてたら大変なことになるから、仕方ないのかもしれない…。

 

「各国の寄付では賄えないのですか?」

「ボーデヴィッヒさん…最先端の科学技術と言うのは、金食い虫なのです。専用機に使われているパーツも第二世代機とは規格が違いますから…後は、分かりますね?」

「現状第三世代ってのは単一仕様能力を疑似的に行うための実験機って意味合いが強いからな…量産に向かねぇワンオフ機ばっかで、整備も大変なのさ」

 

確かに各国からの寄付はもちろんの事、専用機の予備パーツと言うものはキチンと送られてきている。

最低限と言うレベルだが。

これは、機体の機密保持をどうにかして保っていたい…と言う各国の思惑がある。

マニュアルも読める人間が限られている以上、各専用機に専属メカニックが付く様になっている。

俺なんかは、逆に束に次いで頭が良いって事になってるんで逆に整備してくれなんて言う身も蓋もない事を言われたりしている。

流石に時間が足りなくなるんで、全て断りをいれている。

簪の打鉄弐式に関しては、怪我をしない様に監督しているだけで、IS自体にはほとんど触れていないのでセーフって事にしている。

ほぼ俺と同じ知識があるスティーリアとフランマが弄っているが、俺ではないので何も問題は無い。

 

「だから、各専用機持ちは自分である程度整備できるようにならねぇと困る訳よ」

「私は、訓練の一環でそう言った整備を熟すことができる。ミュラー先生達の手は煩わせない」

「ありがてぇこった…まぁ、っそれでも餅は餅屋ってな。キチンと定期的にメカニックに診てもらえよ?」

 

一先ず話を区切り、俺は書類の作成を再開する。

内容は、現時点で開示できる俺の技術情報の一端…下手に技術を公開しちまうと、俺の価値ってのを損なわせちまう。

情報は小出しにしつつ、且つ求めている側のニーズに答える…面倒臭くて仕方がない。

暫く職員室に沈黙とタイプ音が響き渡り、見られている事に耐えられなくなった俺は再び口を開く。

 

「ところで、ラウラは水着を買ったのか?」

「水着…学園指定の物で構わないだろう?」

 

何気なく聞いてみた一言が、その場にいた教師全員の空気を凍り付かせる。

生涯に一度しか来ないティーンエイジャーと言う期間…その青春の思い出の一つになるであろう海にこれから行く。

だと言うにも関わらず、おめかしの一つもしないのかコイツは…。

 

「ボーデヴィッヒさん、海に行くんですよ?目いっぱい遊んだりするのに…スク水ですか?」

「何か問題があるだろうか…?」

「応、十代女子の思考じゃねぇよ…」

 

横井の言葉に、ラウラはキョトンとした顔で首を傾げる。

訓練漬けの毎日…それにそう言った女の子らしい遊びも惰弱と吐き捨ててきてたんだろう…だからこそ、ズれた思考をしているのかもしれない。

俺はじぃっとラウラの体を見つめる。

 

「む…な、なんで私を見つめてくる…?」

「え、アモン先生…まさか…」

「おう、曲解すんのやめーや」

 

衣服から逆算してスリーサイズを目測で測る…長く生きてきた中で役に立ちそうで立たない技能が役に立つ時が来るとはな。

俺は席から立ち上がり、背伸びをする。

 

「それじゃ、急用できたんでお先に失礼~」

「え、あ…はぁ、わかりました」

「む、何処に行く気だ?」

 

横井はつまらなそうに気の抜けた返事を返し、ラウラは俺の後をつけるつもりなのか一緒に立ち上がる。

まるで擦り込みの働いたヒヨコだな…これは…。

ラウラに答えようとした瞬間、さっきから覗き見していたフランマの視界いっぱいに千冬の顏が映し出される。

どうやら、千冬と山田もレゾナンスに居るみたいだな…偶然鉢合わせたか。

フランマは襟首掴まれてブンブカ振られてるらしく、映像が激しく乱れている。

…段々気持ち悪くなってきた…。

 

「うっぷ…寮長室に、もどるだけだ…」

「い、いきなり具合悪くなって…大丈夫なのか?」

「千冬めが…」

 

俺は付けていたモノクルを外しながら職員室を出ていく。

画面酔いとか初めてだぞ…クソ…。

ラウラは相変わらず俺の後ろをついてくる。

すれ違う生徒がそんな光景を見て、生暖かい視線を送ってくる。

俺の後ろをトコトコついてくる姿は確かに微笑ましいものがあるんだろうがな…。

寮長室へ真っ直ぐ歩き、ドアノブに手をかけたところでラウラへと顔を向ける。

 

「あー…ったく…。まさか、部屋にまで入ってくる気か?」

「うむ、私としてはミュラー先生に大いに興味がある。で、あれば私生活と言うのも気になるものだからな!」

「さいですか…。なんも面白いものないぞ?」

 

ラウラは興味津々と言った表情で俺を見上げ、鼻息を荒くしている。

純粋な眼差しってのは、薄汚れた大人にはあまりにも眩し過ぎる…。

そんな視線から顔を逸らして扉を開け、寮長室に入る。

俺は何食わぬ顔で入ってくるラウラを極力無視しつつ、窓際に椅子を置いて座る。

 

「冷蔵庫の中に何かジュース入ってるから、勝手に飲んで良いぞ?」

「む…では、有難くいただくとしよう」

 

ラウラが冷蔵庫を漁っている間に、俺はトランクから裁縫道具と布を引っ張り出す。

水着は対して手間がかからないからなぁ…。

布を裁ち鋏でパーツごとに切り出していき、チクチクと縫い始める。

ミシンを使わないとは言え、しっかりと縫い合わせていく。

 

「…何を作っている…?」

「水着だなぁ…」

「織斑教官が使うには少々小さい気が…」

 

ラウラは野菜ジュースの紙パックにストローを差して、両手持ちで飲んでいる。

ニンジンが多めに入っている野菜ジュース…兎だからか?

ラウラはまだ自分が着る水着だとは思っていないようだ。

俺が黙々と作業を続けていると、ラウラが口を開く。

 

「先ほどの職員室でのやり取りで気になっていたのだが…私達には乱暴な口調で、同僚には敬語を話すのはなんでだ?」

「大した意味はねぇよ…言っちまえば壁だ、壁。気に入った奴なら別に良いんだけどな…俺は我儘だからよ」

 

気性的に嫌いな奴は、関わろうと思わない。

そう言った奴と関わって、ロクな目に合ったことがないからな…。

何時まで経っても大人にはなりきれないな…ガキはガキのままか…。

因みに束は別だ。

一周回って敬語を使うのが馬鹿らしくなってくる。

 

「お前はちゃんとした大人になれよ。俺はわる~い見本ってやつだからな」

「言われなくとも教官に恥じる事がない大人になってみせる。しかし、意外だな…取捨選択している様には思えなかったが」

「俺にも人並みの感情があったってこったなぁ」

 

縫い合わせた布に可愛らしいフリルなんかをあしらってやる。

ラウラはちっこい部類だし、大人っぽいものよりも多少の少女らしさを推してやった方が良いだろう。

気付けばもう夕方…夕焼けに染まる空が部屋を榛色に染めていく。

 

「ラウラは…あー、ここでやっていけそうか?」

「いけるいけないではなく、やっていくのだ。軍からの命令で出向しているからな」

 

ラウラは首を横に振り軍人の様に引き締まった表情で俺を見つめた後、すぐに表情を柔らかくさせる。

歳相応…と言うには大人びた顔をした笑みを浮かべているのは、それなりに修羅場を潜ってきたからなんだとは思う。

 

「だが、軍の命令がなくとも…いまなら胸を張ってやっていけると言えるかもしれない。冷たくあしらっていたにも関わらず、皆には良くしてもらっているし…何かと同室のシャルロットにも助けられている。今度一緒に買い物に行く約束もしたんだぞ!」

「そいつは、良かった。それらしく過ごせるんだったら、千冬も安心だろうよ」

 

作業の手を止めて一息つけば、俺は部屋の出入り口へと目を向ける。

丁度、教官様がご帰還なさった様だ…。

 

「戻った…っと、ラウラ…どうしたんだ?」

「ハッ!ミュラー先生の一日を観察しようと共に行動しておりました!」

「敬礼はいらんし、そんなに畏まるな…で、アモン…お前は余計な事をしてあいつ等を揶揄うんじゃない」

 

直立不動で千冬に向き直ったラウラは、敬礼して質問に答える。

千冬には絶対服従と、魂に刻み込まれてるのかもしれないな…。

そんなラウラに千冬は呆れつつも、俺に抗議の眼差しを向けてくる。

フランマを激しく揺さぶったのも、俺がフランマを通して覗き見していたのを見破ったからだろう…勘のいい奴め。

俺は悪びれる事も無く肩を竦めて笑みを浮かべる。

 

「なんてったって、悪魔だからな。そういうイベントってのは良い酒の肴になんのさ」

「まったく…あいつ等は仲が良いから別に煽っても問題ないだろうが…」

「まぁ、そんなにカリカリすんなよ…一夏の奴にもいい刺激にはなったろ?」

 

覗き見で分かっていた範囲だが、一夏は箒とセシリア、シャルロットの三人に水着を選んでいた。

相手の好意に多少は気付けるんだから、こう言った所で異性を意識できるようになりゃ万々歳なんだが…。

数時間で完成したフリル付きの黒のビキニを折り畳んで袋に詰めれば、ラウラへと渡す。

 

「臨海学校にスク水なんか持ってくんじゃねぇぞ?」

「え…わ、私のだったのか!?」

「…お前、水着なんて縫ってたのか…」

 

ラウラは顔を驚かせ、荷物を受け取ればどうしたものかと千冬をチラチラと見る。

どうもこの部隊長…戦場以外だと勝手が分からないみたいだな。

千冬はやれやれと肩を竦めて笑みを浮かべる。

 

「それはお前のものだから、お前の好きなようにしろ」

「は、はぁ…。その、ありがとう、ございます」

「ったく、ラウラの面倒見てたんならこういった女の子っぽい事も教えておけよ…?」

 

懐から煙草をとりだして咥えて忍び笑いを漏らす。

勿論、そんな事を教えに千冬はドイツで教官をしに行っていた訳ではない…だが、今は学園の教師だ。

生徒のアフターケアだなんだって言って、構ってやりゃ良いだろうさ。

 

「ぐ…いや、まさか此処までとは思わなかったからな…」

「同室がシャルロットだってんなら、その内女の子らしくなるだろうがな…」

「ミュラー先生、今日の所はこれで失礼します。ありがとうございました」

 

ラウラは追及される事を嫌ったのか、慌てて頭を下げて寮長室を出ていく。

俺と千冬はそんなラウラを見てクスリと笑うのだった。

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