インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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悪魔の憂鬱

明け方の寮の屋上…今日から二泊三日の行程で臨海学校が実施される。

ラウラから水着を俺が作ったと言う話を聞いた千冬はすっかりヘソを曲げてしまい、ご機嫌取りに千冬にも水着を作ってやることになった。

休日丸一日使っての水着作成…作ってはダメ出しを、作ってはダメ出しを繰り返されて結局俺は徹夜する羽目になっちまった。

最終的に黒のビキニに落ち着いて、千冬はご満悦の様子だった。

…一日休日をベッドの上で胡坐をかいて裁縫ってどうなんだ…?

煙草にライターで火を点けながら、水平線上から昇ってくる太陽を眺める。

なんつーか…遂に明けちまったなぁ…なんて思いながら欠伸を噛み殺しつつ、ゆっくりと煙草を吸う。

徐々に昇ってくる太陽の眩さに、ゆっくりと目を細めていく。

こういう…太陽の眩さに憧れてた時期があった。

望まなくてもそうなっていた筈なのに、良かれと思って欲張りになったら…結果として俺の手の中には何にも残らなかった。

人間にしろ、悪魔にしろ…身の丈にあった物を求めろって教訓が生まれちまった瞬間だな。

だからと言って、反省できるような学があったわけでもないんだが。

太陽が昇りきるまでぼんやりとしていると、背中から優しく抱きしめられる。

 

「おはようさん…二時間くらいしか寝てなくて大丈夫なのか?」

「現役時代に比べれば温いものだ。おはよう、アモン」

 

体の前に回された腕に触れながら、抱き付いてきた千冬に挨拶をする。

他人の目がないからか、幾分雰囲気が優しい…誰か居ようものなら、抱き付きすらしないんだろうけどな。

第二回モンド・グロッソで初めて出会った鉄の女は、今や俺の傍でだけ若い乙女の様に心を開いている。

こうして接してもらえると、ついつい頬が緩んじまうな。

 

「誰か此処に来るかもしれねぇぞ?」

「二日も離れ離れになるんだ…少しくらいは構わない」

「鉄の女も悪魔にゃ形無しか?」

 

俺は口元を緩めながら一旦千冬の腕を緩めさせ、向かい合う様にして片腕で抱きしめなおす。

千冬は嬉しいような寂しいような…そんな複雑な面持ちで俺の事を見上げてくる。

口に咥えていた煙草を床に捨てて、足の裏で踏みつぶして火を消す。

手が空いてないんで、今は是で勘弁だ…キチンと後で回収しなきゃな。

 

「まったくだな…。お前は、悪い男だ」

「悪魔だから、小賢しいし小狡いのさ。特に、気に入った女は誑かしたくなって仕方がねぇと来たもんだ」

 

優しく千冬の頬を撫でてニィッと笑みを浮かべると、千冬は少しだけ不満そうに唇を尖らせて俺を睨みつけてくる。

表情をコロコロと変えていく様は、千冬を良く知る人物から見ても珍しいんじゃないかと思う。

 

「そこは、私だけにしてもらいたいものだな」

「今一番のお気に入りが千冬なら、文句はねぇだろ?」

「今も、これからもだ…!」

 

千冬は怒ったように少しだけ声を荒げて、俺の体に鯖折りするように思い切り腕で締め上げてくる。

細身で女性らしい体から繰り出されるには、余りにも強い締め上げに背骨が軋んだ音を立て始める。

少しばかり苦しいものの、千冬の頬を撫でていた手で俺の方へと顔を向かせれば、そのままキスをする。

 

「っ…ん…ふ…」

 

唇をこじ開ける様に舌をねじ込んで強引に貪る様にキスをすると、千冬は徐々に体を弛緩させて力を抜いていく。

長く長く、離れないようにキスをしてゆっくりと顔を離す頃には、千冬の顏は恥ずかしさからか赤くなっている。

 

「ったく、お前以外に見向きするわけねぇだろうが…」

「これでも、独占欲は人並みにあるんだ…。さっきまで煙草吸っていたからか、妙に煙草臭かったぞ?」

「生憎ロマンチックな環境とは縁遠くってな」

 

軽く肩を竦めて、千冬から離れればベンチに腰掛ける。

千冬は俺の隣に座り、寄りかかる様にして体重を預けてくる。

暫く二人して黙したまま、緩やかに時間が過ぎていくのを感じていく。

 

「アモン…一夏は、強くなっただろうか…?」

「どうだかな…まだまだガキだし、命のやり取りってのもあんまり経験してねぇ…。ただ、折れねぇ芯を持ってるのだけは分かる」

 

千冬は口でなり手で一夏に厳しく接しているが、所謂愛情の裏返しってやつだ。

甘やかすことなく厳しくすることで、強く鍛え上げようとしている。

立場上、全生徒に平等に接していかなくちゃならない千冬としては、それだけが今できる精一杯ってことなんだろう。

立場ってのは…容易く人を縛るもんだな…。

 

「誰かに負けても、自分にだけは負けねぇ…絶対に諦めねぇと考えてる限りは、きっと強くなるだろうさ」

「そう、か…お前にそう言ってもらえると…少しだけ安心できる気がする」

「なんにしたって本人次第なんだけどな?」

 

織斑 一夏は強くなりたがっている。

事の発端は、俺が知り合う契機にもなったモンド・グロッソでの誘拐事件。

為すすべなく誘拐されたが為に、千冬に迷惑をかけてしまった…その負い目が今もアイツを縛っている。

その負い目が、アイツの折れない芯になってるってのも皮肉な気がするけどな。

俺との訓練の時も何度ぶちのめしても、一夏はフラフラになりながら何度も立ち上がってきた。

痛い、つらい、苦しい…そうやって逃げる事を良しとしなかったからなんだろう。

逃げるって事は自分自身に負ける事だ…未だ、何一つ強くなっていない自分自身に。

それが、アイツには凄まじい屈辱になるんだろうさ。

少なくとも…敬愛する姉貴を守れるくらいに強くなるまでは。

 

「本人次第っつっても…俺たちは大人で教師だ。大人でしか分からねぇ世界もあるし、もし邪道を進むってんならぶん殴ってでも正道に戻してやんなきゃならねぇ。だから、キチンと見守ってやんなきゃな」

「…アモン、私は…頼っても良いか…?」

「んな、決まりきった事言うなよ…」

 

俺は呆れた様に横目で千冬を見る。

愛してる女に頼られたら、誰だってどうにかしてやろうとか思う筈だ。

愛しているからこそ…力になってやりたい。

程度の差はあるだろうけどな。

 

「…束の事、分かってんだろ?」

「あぁ…」

「何か起きたって、俺が片付けてやる…ガキにゃ任せらんねぇさ」

 

優しく頭を抱き寄せて、安心させるように撫でる。

篠ノ之 箒の専用機受領…今回の臨海学校で一番のイベントだ。

あのウサギの事だから、素知らぬ顔でとんでもない仕込みをして来る筈…。

何も起きない方を望むこと自体が間違いだってんなら…何が起きても完璧に対処出来るようにしてやらないとな。

 

「アモン、お前も無事で居てくれなくては困るぞ?」

「俺が早々にくたばる様なタマかよ…。ちったぁ、信じな」

 

千冬は俺の服の裾を強く掴み、表情にこそ出さないが不安を押し隠している。

束はコアネットワークを牛耳っている…生みの親だから、まぁ当たり前だな。

もし、そのコアネットワークでコアを遠隔操作できるとしたら…戦闘中に無力化される可能性だって考えてしまうだろう。

一応の備えはしてあるんだけどな…それだって、どこまで有効かは分からない。

だが、やらなきゃならない事だからな…。

 

「絶対だぞ…?」

「絶対だ…俺は誰にも負けねぇからな」

 

軽く千冬の頬にキスをしてから立ち上がり、踏みつぶした煙草の吸殻を拾う。

なんだかんだで、そろそろ準備しないと出発に間に合わなくなる時間だからな。

…もっと、千冬と触れていたかったが…まぁ、帰ってきたらタップリと触れ合えば良いだけの話だ。

 

「そら、準備しなきゃ間に合わねぇからな」

「…あぁ、行こうか」

 

未だに座っていた千冬に手を差しだして立たせれば、手を繋ぐことこそしないが寄り添う様に二人一緒に屋上を後にした。

 

 

 

 

学園の正門から、遠ざかっていくバスを見送る。

一年の生徒がまるっと居なくなるんで、学園は二日間少しばかり静かになる。

一夏達が居なくなる所為で余計に活気がなくなっている気がするのは、多分気の所為じゃないんだろう…。

バスの姿が見えなくなるまで見送り、俺は漸く一息つく。

ある意味でここからが本番…銀の福音の起動実験は日本時間で言う明日…。

入念な準備をする必要があるからな…。

本来の姿でカタを付けるって事も考えるべきだろうが、銀の福音に残されるであろう戦闘データに映像が残っていたら事だ。

手持ちのISとBTドールでどうにかするしかない。

フランマとスティーリアは単独行動能力を強化した上で、臨海学校に同伴させている。

束が来るって事はまだ漏れてないだろうが…その情報は必ずどこかのタイミングで漏れるはずだ。

あいつ等の仕事は福音の迎撃ではなく、襲撃犯が現れた時の為の『撃滅』要員だ。

千冬だけでも十分な気はするが…まぁ、備えあれば何とやら。

何も無ければ、手伝いつつ思い切り遊んで来いとも言ってある。

 

[マスター、不安?]

「まぁな…思う通りにできねぇからよ。魔法が使えればちょちょいのちょいなんだが」

 

この世界は、魔法を忌避している。

弱い火を点ける、対象の人間関係を悪化させる、自身の肉体を魔力でブーストする…まぁ、この位なら御目溢しはしてもらえるんだが、完全な超常現象なり破壊活動となると途端に制限がかかりやがる。

お蔭で、桜花やトゥーが下調べ出来ないもんだから、色々と後手に回っている。

…獅子身中の虫が叩けないってのは、本当に厄介なもんだ。

 

「ともあれ、出来る事をコツコツとってな。今積んでるBTドールはクセが強いから扱いに気を付けねぇとな」

[マスターなら、きっと大丈夫…でも、まだ馴染んでない…よ?]

 

二体で一体と言うコンセプトで組み上げた双子のBTドール。

スティーリア、フランマ姉妹が独立して攻撃能力に特化しているのに対して、双子の方は協力し合う事でシナジーを得る事が出来る様に『遊んでみた』。

二体とも遠距離支援型だが、俺自体が接近戦上等なんで何も問題が無い。

だが、魂のリンクがまだ出来てないんで未だ眠ったまま…こればっかりはどうしようもない。

急かしたところで、馴染まなきゃ使い物にならないからな。

それに、何も起きない可能性だってある…此奴らが目覚める時が平穏な時である事を祈るばかりだ。

 

「ま、最悪武器担いで出れば良いだろ」

[マスター、偶に大雑把だよね…。自信があるのは良い事…だけどさ]

 

詩沙は不安を隠し切れない様で、不満を隠そうともしないで俺を揶揄してくる。

俺の身を案じての事だから、仕方ないんだろうけどな。

忠臣に囲まれて、幸せ者だな…マジで。

 

[私は機械だから、パーツを交換すればいいけど…マスターはそうじゃない。だから、自分を大切にして欲しい]

「はいよ…ったく、機体の見た目に反して随分と良い子になったもんだな…」

 

詩沙は見た目相応の優しい心根を持っている。

俺としちゃ嬉しい限りだけどな…変にスレてると何か責任感じちまうし。

このまま真っ直ぐ心が成長してくれれば、何も言う事がないな。

今日、明日、明後日と俺が受け持つ授業は無い…これは轡木のおっさんの配慮だ。

事件が起きた時に授業中だったら、引継ぎやら何やらで面倒な事になるからな。

何にも無ければ、ちょっとした休暇だな…学園から出れないが。

海岸線の通りに出て暫く歩いているとベンチがあったのでそこに腰掛けて煙草を取りだす。

 

「ん…ライターは何処だ…?」

 

懐のポケットの中を漁ってもあるはずのライターが出てこない…寮長室に忘れて来たか…?

口に咥えた煙草が所在なさげに潮風に吹かれていると、隣にブロンドの美人(スカウト)が座ってくる。

 

「スカウトなら間に合ってんぞ」

「誘う前に釘を刺さないでくださらない?面白味が無くなってしまうから」

 

以前スカウトに来たブロンド美人が、俺にライターの火を差し出してくる。

ありがたく煙草に火を点けさせてもらい、ゆっくりと煙を風下に向かって吐きだす。

 

「で、何の用だよ…?」

「お気に入りの人形遣いさんにちょっとした告げ口よ。まぁ、点数稼ぎだと思って?」

 

点数稼ぎねぇ…?

いくら稼いだところで靡く訳もないんだけどな…。

怪訝な顔で俺は隣に座る女を横目で見る。

 

「喧嘩吹っ掛けてきておいて告げ口かよ…何がしたいんだお前は?」

「お前じゃない…スコールよ、アモン・ミュラー。今回の件に私は除け者にされてしまってね。ちょっとした腹いせよ」

「おいおい…良いのかよ、組織の人間がそんなんで…」

 

罠って線が濃厚なんだが…ただ、こいつがこうして告げ口に来たって事は、確実に束がやらかすってことの証だ。

銀の福音の暴走は平行世界同様に起こるって事か…。

 

「銀の福音の護衛にウチから三機程出る事になってるわ…いずれも腕利きのね。勿論、貴方の邪魔をするためによ」

「で、それを言ってお前に何のメリットがあるんだ?」

「お仕事取られた憂さ晴らしよ。メリットもデメリットも無いわ…強いて言えば…お気に入りが死ななくて済むかもしれないって事かしら?」

 

スコールは俺にしな垂れかかる様にして体を寄せ、俺の胸でのの字を書く様に人差し指で撫でてくる。

また、面倒なのに気に入られたな…このテの女に好かれるのは俺の宿命なのか…?

俺の知ってるストーカーと違って、殺せば死ぬ分まだマトモだけどよ…。

 

「ったく、礼は言わねぇぞ?」

「言ったでしょう、憂さ晴らしだと…もう一つ警告しておくわ。篠ノ之 束をあまり怒らせない方が良いわ。なまじ純粋な分、魚が住めない毒の水の様な心を持っているのだから」

「はっ!それこそ上等ってなもんだぜ」

 

クソウサギにヤられる程、落ちぶれてるつもりはないからな…。

こっちに真っ向勝負仕掛けてくるってんなら、粉々に叩き潰してやるまでだ。

スコールは俺の物言いに呆れた様に頭を抱えて立ち上がる。

 

「もう…忠告はしたわよ?それじゃ、今度会う時もこうして話せることを祈ってるわ」

「二度と来んな」

 

ひらひらと手を振り、立ち去るスコールの背中を見送る。

面倒事がすぐ目前に来ているのを感じながら…。




展開が…展開が…亀過ぎる…
次回から戦闘になります。
速く更新できるように頑張ります。
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