インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
ゆらゆらゆら…揺れる『足場』にふら付くことなく、俺はしっかりと両足で立って今日何本目かの煙草を吸いきる。
銀の福音の暴走…更識と轡木のおっさんの事前調査で、本日の起動実験の内容が無人起動実験だと言う事が判明している。
恐らく前々からISの無人機動が実験されてきたんだろう…仮に女性しか起動させることができないISを無人で自在に動かすことが出来るようになった場合、今の女尊男卑の風潮って言うのが徐々に薄れていくだろう…。
なんせ、女性に頼るまでも無くISを扱う事が可能になるんだからな。
そうなれば、暫くは世界に混乱が起きるかもしれない…今まで、散々酷い目にあってきた男たちが局所的に蜂起する、なんていう可能性があるんだからな。
勿論、冷静に事を動かしていく奴らもいるだろうけどな。
ともあれ…その無人起動実験は確実に失敗する…ISを生み出した親の手でな。
[マスター…この海域に本当にやってくるの…?]
「ハワイ沖で起動実験を行うって話だからな…臨海学校の行われている地域へ一直線に向かうなら、まず間違いなくやってくるはずだ」
俺は事前にトゥーから、銀の福音事件における事件の概要を聞いている。
アッチの銀の福音は有人で起こったって話だから、無人起動のノウハウってのは無かったんだろうな…。
ともあれ、お蔭で銀の福音が寄り道せずに一夏達の元へと向かう事は分かっている。
そもそも、いくら最新鋭とは言え寄り道なんかしてたらエネルギーやら推進剤やらが切れる筈だからな…。
そんな訳で、草木も眠る丑三つ時から俺は銀の福音通過コース上の日本の領海ギリギリの位置に突っ立っている。
恐らく、俺に対する邪魔ってのはIS学園っを出た直後に始まる筈だ。
出鼻はこれで挫かせてもらう…態々ISの反応を検知させないために展開しないで此処まで走ってきたんだぜ?
吸殻を携帯灰皿に捨てて新しい煙草に火を点けたところで、一張羅であるボロコートの懐からスマホの着信音が響き渡る。
それを聞いた俺は、急いでスマホを取りだして通話ボタンをタップする。
「もしもし、時間か?」
『本当に都市伝説海を歩く男だったのね…先生…』
電話相手は更識 楯無…コアネットワーク通信ではなくスマホでやり取りしているのは、少しでも情報の漏洩を防ぐ為だ。
ISを使ってる奴が、よもやコアネットワーク使わないで連絡取るとは思ってないだろう。
「ま、靴に色々仕込んで
『博士、私もそれほしい!』
「誰が作るか。…で、始まったんだな?」
俺の幾つかあるルーツの中に海神としての側面があるからこその芸当…ISコアによってPICなんてものがある以上、海の上を立つ必要が無い所為か世界からはスルーされている魔法の一つだな。
…科学技術が発展すれば発展するほど魔法の存在価値は薄まる。
恐らく、ルール適用外の魔法が存在するのは是が原因だ。
逆に言えば、科学技術では再現不可能な現象はこの世界に拒絶されるってこったな。
魔力に依る自己強化が可能なのは、ISが存在しているからなんだろう。
まぁ、ハッキリとルールが分かってる訳じゃないからな…手探り状態はまだまだ続きそうだ。
『えぇ、まるで示し合わせたかのようにアメリカ・イスラエル両国からIS委員会経由で学園に銀の福音撃墜指令が来たわ』
「福音の進路は?」
『先生の予想ドンピシャ…それじゃ、私の方で精々『お客様』をもてなしておくわ』
此処までは此方の予定通りに事が進んでるな。
束は自分の作ったISに絶対の自信があるんだろうが…素人に良い武器持たせても使いこなせなきゃゴミになるからな。
初の実戦が対軍用機なんざ、シャレにならない。
…ガキにゃあ荷が重いってもんだ。
「応、手筈通りにダミー飛ばして釣っておけよ」
『任されて~』
現在、念のために作っておいた俺のコピードールが、学園で生活を送っている。
一応、学園から出ちゃいけない事になってるからな…。
事が露見するのは分かりきっている事なので、よもや此処まで精巧な自身のコピー人形を作るとは思ってませんでしたと理事長に言い訳させるつもりだ。
「頼んだぜ、生徒会長さん」
『そっちも頼んだわよ、人類最強さん』
スマホの通話を切って、俺はゆっくりと煙草を吸い続ける。
銀の福音は恐らく最高速度でこっちに突っ込んでくる筈…あと十分くらいか。
[準備しなくて大丈夫?]
「こういうのはな…どっしりと構えて迎え撃つのが一番なんだよ」
慌てたところでどうにもならない。
心に焦りは禁物…焦りは隙を生むしな。
じっくりと煙草を吸いきった時、水平線の向こうから銀の煌めきが現れる。
「さって詩沙…ここ一番の大仕事だ。一夏達に本気になった大人の実力ってやつを示してやろうか」
[いえっさー!マスター、がんばるよ!]
吸殻を携帯灰皿に捨てながら、アプリストスを緊急展開。
ウィングスラスターを大きく広げて空高く舞い上がれば、銀の福音に向かってゼロから一気にトップスピードに加速して突っ込んでいく。
徐々に近づく銀の福音を注視しつつ、俺は量子化しておいた二振りのIS用近接ブレード『葵』を展開する。
エネルギー・ストリングスは高速戦闘において不利になる…エネルギーも少なからず食うしな。
[っ…]
『…ん~、やっぱりあっくん待ち構えてたね!?』
「応よ…ガキ共にやらせるにゃ、荷が重いからなぁっ!」
コアネットワーク経由で束から連絡が入る。
その声色はまるで余裕があると言わんばかりのものだ。
此奴は俺が海の上を歩けるって事を知っている…小賢しい真似は無意味だったかもな。
真正面からぶつかってきた銀の福音を交差させた葵で受け止めて、同等の推力故にその場で止まる。
あくまでも俺は通過するだけで手を出すつもりは無いのか、銀の福音からの攻撃は無い。
『まったく、あっくんにはガッカリさ。私の思う通りに動かないし、ちーちゃんにも手を出すしさ』
「さって、なんの事かね?」
『シラ切っちゃう?ま、良いけどね。あっくんの作った機体のフルスペック…じっくり堪能させてもらうよ!』
束はクスクスと俺を嘲る様に笑うと、銀の福音の背面に備えられた推進装置から高エネルギー反応が検出されると同時にスラスターの装甲が開き始める。
銀の福音のスペックデータにあったな…確か名前は
高機動推進装置と全三十六門からなる広範囲オールレンジ攻撃が可能な銀の福音最強の火器。
俺は慌てて棺桶型のシールドバインダーであるショウケースで横っ面を思い切り叩き、距離を離せば、銀の福音は全砲門からエネルギー弾をばら撒きながら、俺の周囲を高速で飛行する。
さながら光の檻の中に叩き込まれた気分だ。
俺は葵の刀身をエネルギー・ストリングスでコーティングし、直撃弾を全て斬り払っていく。
ただの刀身なら折れちまうが、こうやって刀身をエネルギーでコーティングしちまえばエネルギー弾だってぶった切れる。
必要に応じてオンオフ切り替えなきゃならないけどな。
「だーっ!数が多い!!」
『その割にはヨユーじゃん?ほらほら、本気を見せてってば~』
[ま、ますたー…恐いのが、来る…!]
小刻みにウィングスラスターを動かして可能な限り被弾を抑えながら銀の福音へと近づいて行くが、銀の福音は俺を嘲笑うかのように着かず離れずの距離を保ち続ける。
そも、速度帯が同じでも機動力事態に大きな差がある。
俺のウィングスラスターについているスラスター数は四つ。
対して銀の福音は全部で十二…それも個別に噴かす事でPICの制御能力も相まって複雑な戦闘機動を物ともしない。
三倍のアドバンテージの差がある…三機で追い詰められれば良いが、BTドールは自我にまだ目覚めていない…。
だが、まぁ…この位の逆境は何度も味わってきたからなぁ…っ!!
素早く俺は瞬時加速を行い、一気に加速を行う。
一つのスラスターで瞬時加速を行い、それを立て続けに次のスラスターで行う…合計四回の瞬時加速を一気に行い、体にかかる負荷を物ともせずに銀の福音へと喰らい付く。
「よう、捕まえたぜ機械人形…!」
「―――!?」
もちろん、イメージ・インターフェースを用いて行うのでそれなりに意識を割く必要があるけどな。
上手く意表を付けたのか、銀の福音は腕を交差させて俺の斬撃を受け止める。
暫くの間拮抗していたが、徐々にこちら側が押し負けてしまい思い切り腕を振るわれて再び距離を開けられる。
「細工しやがったなクソ兎!」
『え~、まだまだイージーモードだよ『魔王様』?この程度で根を上げる様じゃ、ちーちゃんは相応しくないね~』
「吹くじゃねぇか、人格破綻者が!」
再び銀の鐘の猛攻に晒された俺は、足を止めることなく個別連続瞬時加速を繰り返し、銀の福音とドッグファイトを行う。
幾度も軌道を交差させ、それでも徐々にだが推力も負け始める。
再びの交差の瞬間、銀の福音の機体から紫電が走ってるのが見えた…恐らく、銀の福音のコア出力が強化されてる。
幾度もエネルギー弾を切り払っていた所為か、はたまた銀の鐘の威力が上がってるのか左手の葵の刀身が半ばでぽっきりと折れてしまう。
生みの親のブーストとか卑怯以外の何物でもないな…!
素早く左手の葵を手放し、残った右手の葵を両手で構えて体勢を立て直す。
気付けば、誘導でもされていたのか日本へと近づいてきている…やべぇな。
さっきから詩沙がダンマリ決め込んでるのは、束から攻撃受けてる所為だろう。
詩沙の抵抗力が無くなったら、隙が出来るのが目に見えてるな…。
『さってと~、モニタリングはしてるけど精々あがいてね~』
「死ね、マジで死ね!」
『え~、ラヴリー束さんが死ぬわけないじゃんか~』
束は高らかに笑った後、凄まじい衝撃音と共に通信を切る。
ありゃ、千冬に見つかったかね…?
ともあれ、銀の福音は俺と戦闘をしながら本土間近まで迫ってきている。
銀の鐘からのエネルギー弾を葵で斬り払う事はせずに、最小限の機動で攻撃を避けていく。
動体反応…『来ちまった』か…!
俺と銀の福音が斬り結んでいる地点よりも高い位置から急降下してくる白と紅…。
識別信号に白式と紅椿と表示される。
どうやら、零落白夜による一撃必殺を狙ってるみたいだな…。
作戦としては、恐らく一番安全で一番危険だ…。
だが、選択肢が限られてるのも事実だ。
「兄貴、行くぜぇっ!!」
一夏は必殺の間合いと判断したのか、気合と共に瞬時加速…同時に雪片弐型を振りかぶり、銀の福音に袈裟斬りで振りぬく。
だが、銀の福音は束によって出力が強化されている…事前に渡してある銀の福音のスペックデータよりも高い。
慢心ではない…恐らく俺が諸悪の根源。
何せ、俺が此奴とやり合ってる所為でスペックが塗り替えられちまってるんだからな。
銀の福音は嘲笑うように精緻な動きで零落白夜をひらりと避け、俺に向かって一夏を蹴り飛ばす。
「ぐぁっ…!!」
「一夏!?こんのぉっ!!」
一夏が失敗したのを見たのか、紅椿を身に纏っている箒が一対の刀を構えて銀の福音と互角に渡り合っていく。
正確には、機体性能に助けられてってところだが…。
銀の福音の意識が箒に向いた瞬間、一夏とアイコンタクトを行い体勢を立て直す。
「ガキに良い所持って行かせられっかよ…!」
「ガキの底力ってのを見せてやるぜ、兄貴!!」
箒が正面で銀の福音を抑えている間に、俺と一夏で左右から挟撃を仕掛ける。
三方向からの同時攻撃…並の操縦者では手も足も出ないが、銀の福音に限っては問題が無い。
銀の鐘…全三十六門の広域殲滅兵器が一斉に火を噴き、俺たちは堪らず後退を余儀なくされる…が…。
「くそ!何でこんな所に…っ密漁船かよ!?」
一夏は後退ではなく銀の福音とすれ違う様に前進し、戦場に迷い込んだ一隻の漁船の前に躍り出て零落白夜を振るってエネルギー弾をかき消していく。
やばい…やばいやばいやばい…!!
「箒、一夏連れて撤退だ!あの野郎ガス欠起こすぞ!?」
「此処まで来て…!?まだ、私はやれます!!」
「遊びじゃねぇんだよ!!」
俺は箒を叱り付ける様に怒鳴りながら、銀の福音の意識を逸らすために瞬時加速を行う。
残った葵の刀身は刃こぼれだらけで切れ味は期待できない。
瞬時加速の速度に乗せて、思い切り葵を銀の福音に向けて投擲。
両手にエネルギーストリングスでコーティングしようとするが、ここに来て急激な出力低下が起きる。
俺は迷わず魔力をISに送り込んで出力を無理矢理上げて、銀の鐘による射撃とすれ違う様にして銀の福音に思い切り体当たりを行う。
思ったよりも上手く魔力がエネルギーに転換できない事にイラつきつつ、更に瞬時加速を行おうとした瞬間…背後から一夏の苦悶に満ちた悲鳴が上がる。
「い、一夏!一夏ぁっ!!」
「叫んでる暇あったら一夏連れて逃げろ!!死んじ…!?」
腹が、熱い。
コアが束に掌握された所為なのか、絶対防御が働かなかったおかげで、俺のどてっ腹に銀の福音の腕が突き刺さっている。
だが、好都合…。
「もうちっと…付き合ってもらうぜ…!」
俺は、漸く捕まえる事ができた銀の福音の腕を、装甲が砕ける程握りしめて残りのエネルギーを振り絞って個別連続瞬時加速を行う。
少しでも沖へと押し戻すためだ。
銀の福音は俺から逃れようともがき続けるが、これで逃がしたらまた箒達がヤバい事になるからな…。
あぁ、いや…束がコントロールしてるだから最悪は、起こらない、か…?
魔力をISのエネルギーに転換している関係で、急激に身体が怠くなりはじめる。
恐らく、転換したエネルギーも束が良いように放出しちまってるんだろうが…。
力が抜け始めた所為か、銀の福音は俺を海に叩き付ける様にして投げ飛ばし、引き剥がすと同時に銀の鐘の全砲門を此方に向ける。
ったく…ガキのお守りをまたしなきゃならねぇのか…そう考えた所で、俺の意識は閉ざされた。
仁義なき戦い~代理戦争~(殴