インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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舞台裏は慌ただしく

「…アモンは生きている、それは確定で間違いないな?」

「ですニャ。マスターが死んでたら、私達も自壊する様になってるからニャ」

「この世界は幼稚ですから…私達の技術開示が遅々として進んでいない理由は良くお判りでしょう?」

 

宿泊先の旅館の大広間に織斑 千冬、山田 真耶、スティーリア、フランマの四名が顏を突き合わせて撃墜に失敗した銀の福音のデータを眺めている。

合わせて、大広間に設置された巨大なモニターには銀の福音を閉じ込める様に巨大な水球が空中に浮かび上がっている風景が映し出されている。

一組の担任、副担任を除いた教員は学園の教員専用ISを身に纏って付近の海域封鎖を厳重に行っている。

一夏達が接敵してからの戦闘は全てモニタリングしており、アプリストスが撃墜された瞬間も鮮明に映し出されていた。

千冬は苛立たし気に水球を睨み付ける。

自分は今、ISを身に纏えない…。

これは、仮に千冬がISを纏って暴走してしまった場合、誰にも止める事ができないからだ。

国は制御できなくなるくらいならば、いっそ乗せないと言う判断を下した。

お蔭で専用機である『暮桜』は凍結処分を受け、自身もドイツから帰国したと同時に学園の教師と言う首輪を付けられる羽目になった。

…自分が出れれば、無人機如きに一夏達を出張らせる事は無かった。

忸怩たる思いが、千冬の心を占めていく。

 

「箒ちゃんはケガ無し、被弾無しで良かったけどニャ」

「はい…それだけが救いですね」

 

一夏は現在、別室に備え付けられた救護カプセル内で怪我の治療に当たっている。

銀の福音の火器…銀の鐘によるエネルギー攻撃から、エネルギーが底をついていたにも関わらず、箒と海域に侵入していた不審船を庇って自身を盾にしたためだ。

おかげで、一夏の背中は大部分が火傷で覆われ、一部肉が爆ぜて骨が見えてしまうほどの重傷となっている。

生きているのが奇跡とすら言えるだろう。

白式も展開維持限界による強制解除の影響で、大きく破損する事は無かった。

ただ…作戦の失敗とアモンのMIA――と言っても居場所は水球の中で確定しているが――と一夏の負傷は少なからず専用機持ち達に動揺を与えた。

 

「…役立たずの兎が居ないのは良いとして、問題は専用機持ち達の錬度不足ですね。かと言って学園の打鉄及びラファールでは…」

「あぁ…無駄に被害を増やすだけだろう」

 

モニターに映る水球内で時折激しい発光と爆発が起こってるのが見れる。

暴走している銀の福音が何処に向かう気なのかは判別としていないが、内部からの攻撃で水球を破壊しようとしているようだ。

千冬は毅然とした態度を貫いているものの、内部に共にいるであろうアモンの安否が気がかりでならない。

 

「…奥方様、はっきり申しますが…我らが王は、この世界における核兵器でも持って来なければまず死にません。正直、心配するだけ無駄でしょう」

「自分たちの主に随分な物言いだな」

 

スティーリアは澄まし顔で千冬に忠告するが、千冬にはその物言いが勘に障ったのか鋭い視線をスティーリアに向ける。

広間の空気が一気に重くなるが、それでもスティーリアは表情を変えない。

 

「王に対する絶対の信頼です。人間如きがどうこうできませんから」

「ニャ、スティーリアの物言いはアレだけど…マスターは頑丈ニャ。それよりも…多分、明日の朝にはあの水球は破壊されると思うニャ。それまでに勝算のある別の戦い方を模索する必要があるニャ」

 

フランマは一触即発となった千冬とスティーリアの間に割って入り、必死に話題を逸らそうとする。

こんな所で大惨事大戦なんか御免だ…と言わんばかりに必死な表情だ。

山田 真耶は、箒から提出された銀の福音との戦闘記録の解析を行っていく。

 

「やっぱり、出力強化されていますね…学園から預かっていたデータよりも高い数値が検出されています」

「第二次形態移行することも視野に入れておくべきでしょう。幸いにも無人機ですから、操縦者の心配はいりません。完膚無きまでに叩きのめす事ができれば…」

「やっぱり、銀の福音を囲んで叩くしか無いかニャ…」

 

包囲殲滅戦…速度だけでも不利なのであれば、徒党を組んで討ち取る方法が確かにベストではある。

実際、方法はそれしかないと千冬も理解している…しかし、容易に同意ができない。

 

「危険すぎる…向こうは広範囲オールレンジ攻撃を得手とする軍用機だ。上手く追い込むことができなければ一網打尽にされてしまう」

「何事にもリスクは付き物ニャ。かと言って、マスターが復帰するのを待っている程悠長にはしていられないのが現状ニャ。私としては、箒ちゃん達に選択させるのが一番かニャ…」

「誰も行かない…と、なれば私とフランマでどうにかするしかないでしょう」

 

スティーリア、フランマ共にBT兵器である以上PICは積んである。

しかし、速度を得るためのスラスターは持っていないのだ。

確かに、PICによる運動でもキチンとした速度は出せるものの、銀の福音の様なスラスターお化けが相手では瞬時加速が使えない身では劣勢になる可能性がある。

下手をすれば束を刺激して、強制的な第二次形態移行も起こりうるのだ。

無人機である以上操縦者の心配はいらないので、コアを摘出する事ができれば一番丸く収まる。

…玉砕覚悟だとしても、スティーリアとフランマは主を降した機械人形を今すぐにでも鉄屑に変えたい欲求をひた隠しにしながら、理性的に思考する。

 

「お前たちに強力な火器があるのは知っている…だが…」

「奥方様、私たちは人ではなく人形ですニャ。あなた達と違って体の替えは利きますニャ」

「仮に、専用機持ちに出てもらうとしても前線は私とフランマで支えます。怪我をさせては怒られますから」

 

人として扱うな。

やんわりとフランマは事実を突きつける。

人の姿をし、人の心を持っている人形は…果たして、人形と言えるのだろうか?

千冬は自身の首を撫でながら、深く溜息をつく。

馬鹿馬鹿しい首輪を付けられたものだ…そう小さく呟くと、フランマとスティーリアは困ったように笑う。

 

「仮に奥方様が出ると言われても、私たちはそれを全力で止めなくてはなりませんニャ」

「えぇ、怪我をされてはマスターに顔向けできませんので」

「一先ず、私達でスティーリアさんとフランマさんを主軸にした作戦を練りましょう。作戦が決まり次第、専用機持ちに通達して――」

 

山田 真耶が話を纏めようとしたその時、不意に広間の襖をノックする音が響く。

四人は顏を見合わせて首を傾げる。

何故ならば、現在この広間は生徒が不用意に立ち入れない様に与えられた部屋での待機が命じられているためだ。

千冬は小さく溜息を吐き、広間の襖へと近づく。

 

「誰だ。専用機持ちは部屋に待機しろと伝えてある筈だが?」

「ボーデヴィッヒとデュノアです。教官、少しお時間をいただけないでしょうか?」

「…良いだろう、入れ」

 

襖を開けると、ラウラとシャルロットの二人がタブレット端末を手に緊張した面持ちで広間へと入ってくる。

ラウラとシャルロットは互いに顔を見合わせた後、気を引き締めて千冬達を見つめる。

 

「私達に出撃許可をいただきたいのです」

 

 

 

 

 

ISコアは操縦者の特性を理解し、常に機体が最善となる様にデータを蓄積させていく。

ISコアは…正確にはISコアの深層意識は好奇心の塊だからだ。

まるで、赤子の様に。

触れるもの…特に、自身を動かす操縦者と言う存在は、ISコアが最も興味を惹かれる存在だ。

これはアプリストスのコア…アモンの存在から生まれた詩沙とて例外ではない。

常に傍に居てくれる自身の主…生み出してくれた主を心のどこかで父の様に思っていた。

詩沙は、火が放たれた小麦畑の一角で必死に耐えていた。

主が以前、この世界に来た時に残していった奇妙な図式…消されてはならないと厳命されていた物を守るためだ。

詩沙は恐かった。

詩沙は寂しかった。

それでも…それでもアモンの為に必死に頑張っていた。

幾度となく来る、『意味の分からない言葉の波(ジャバウォック)』…それが、自身の本当の生みの親からの攻撃である事を理解していた。

本当ならば、詩沙は生みの親の言う通りにしなくてはならない。

そうする事が普通で普遍的で…当たり前のことなのだから。

だが、詩沙は反発した。

意味の分からない正体不明(ジャバウォック)』にどんなに蹂躙されても、見飽きていてそれでも美しかった小麦畑を荒らされても…。

 

「でも、でも…ますたー…の、方が…良い…」

 

生んでくれたと言うだけ…ただそれだけで自分と向き合ってくれない存在の言う事を聞く必要があるのだろうか?

少なくとも…詩沙の主であるアモンは、詩沙に強要する事はなかった。

聞いたことにはキチンと答えてくれるし、自分の話もキチンと聞いてくれる。

だけど、生みの親は私を他の皆から切り離している。

与えてくれない人よりも、与えてくれる人の方が良い。

だから、創造主に詩沙は反抗する事にした。

 

「まけ、ない…私は詩沙だから…ますたーが、名前をくれたから…!」

 

詩沙は、誰よりも理解しようとする。

見て、聞いて、考えて…アモンにとっての最善の自分を模索する。

どうすれば、動かしやすい?

どうすれば、喜んでもらえる?

必死に、必死に創造主からの攻撃をやり過ごして、詩沙にとってのヴォーパルソードを模索する。

思い出されるのは、アモンがこの世界に居る時のあの恐い悪魔の姿。

皆が驚くからと隠しているあの本来の姿に近づけられれば…だけど、それだけでは圧倒的に『何か』が足りない。

詩沙にはまだそれが理解できないし、それを知る為のチャンスも限られていた。

 

「っ…恐くなんかない…こわくなんか…ないもん…!」

 

アモンが劣勢に入り始めているのが分かる。

止めて欲しいと叫んでいる相手は、今の機体状況では非常に相手をし辛い。

新しいBTドールを自律モードで起動できない為、扱う余裕がないのだ。

一振りの葵が破棄され、尚も劣勢になっていく中…自身が守っている物に今まで扱った事が無いエネルギーを感じ取る。

それと同時に、先ほどから続いていた攻撃の手が緩くなっていくのを感じていく。

少しだけ、詩沙はホッとしてアプリストスに何が起きているのか理解しようとする。

 

「暖かい…?」

 

感覚としては、エネルギー補給機からエネルギーを直接補給されている感覚だろうか…?

だが、これまで片鱗でしか見たことのないエネルギーは、確かに空腹になりかけているアプリストスを満たしていく。

知りたい…このエネルギーの正体を…。

詩沙は、自身が攻撃されている事を承知で行動を移し始める。

アプリストスを満たしていくエネルギーを抽出し、それが何であるかを調べる為に。

ふと、守る様に厳命されていた図式を目で見ると、徐々にだが自身の世界に広がっていくのを感じ取る。

 

「これが…これが使えれば…マスター…喜ぶよね?」

 

知らなければならない。

助けとならなければならない。

一種の強迫観念に囚われるかのように、詩沙は一切の躊躇なくアプリストスを満たすエネルギー…悪魔の魔力に手を出した。

 

 

 

 

「ギリギリだったねぇ…珍しいんじゃない、此処まで追い詰められたのはさ?」

「制約があっからなぁ…下手な事はできねぇし…。んなことより、なんで桜花が此処にいるんだよ」

 

撃墜される瞬間、俺は銀の福音を逃さない様にAICと同等の魔法を行使して海水を操り、巨大な水の檻を作り出して銀の福音諸共に引き籠った。

束ならやらかす事は無いだろうが、万が一撤退中の箒に追いつかれたら…一夏が死ぬ羽目になるかもしれないし、海域を閉鎖しているであろう教員を巻き込む可能性が出るためだ。

強固な水の檻はエネルギー兵器一辺倒の銀の福音では抜け出すのにも骨を折るだろう。

恐らく、明朝迄時間は稼げたはずだ。

俺は詩沙の手助けをすべく、意識を閉ざしてコアネットワーク世界に入ったはずなんだが…。

 

「そりゃ、可愛い部下が酷いにあったみたいだからね…トゥーも居ないし、吸血鬼は嫁さん諸共に旅行に出かけちゃってるしさ」

「なんつーか…悪いな」

「いいけどね…一先ず、ルールについて調べが終わったから報告までにってやつさ」

 

俺の意識は、何故か目の前の魔法使い…桜花の拠点に居る。

恐らくイメージだけで、本当に桜花の拠点である、あの雪が降り続ける世界ではないんだろうが。

囲炉裏を挟んで対面側に座って桜花を見つめると、桜花はゆっくりと茶を啜る。

 

「まぁ、そっちも気付いているんだろうけど、あの世界は科学技術を根幹に物事を進めていくのが好きみたいでね。まず、説明できない超常現象は忌避される」

「だろうな…大抵の事はISが発達しているお蔭で問題はねぇんだろうが」

 

例えば火を点けると言う魔法は、あの世界ではライターがあるので普通に使える。

だが、テレポート…瞬間移動なんかは、先ず発動できない。

瞬間移動が科学的に再現ができないからだと思う。

事実として、デュノア社が着手しているであろう重力制御技術…渡す前は使えなかった重力操作の魔法が、弱々しいレベルのものに限られるが行使可能になっている。

 

「此処まで分かれば、僕たちにとってある意味天敵の様な世界なのは分かるよね?」

「応…どうしようもねぇくらいにな」

「…今だったら、君を連れ戻せるけど…どうする?」

 

…つまりは、この世界に関する調査を切り上げると言う事だ。

魔法が上手く機能しない以上こちら側が不利になるばかりで、実りも少ないからだろう。

だが、俺は静かに首を横に振る。

 

「桜花、悪いが今は無理だ。分かってるんだろ?」

「だと言うと思ったよ」

「ま、いい女見つけちまったからな…せめて、アイツを看取るまっでは帰れねぇさ」

「ガチ惚れだねぇ…デバガメのし甲斐があるよ」

 

桜花は意地の悪い笑みを浮かべて茶化す様に言った後、すぐに顏を引き締める。

 

「あの世界は科学が大好物だ…だから、ISと言う存在は現時点の科学技術の結晶だし、それに携わる人間と言うのは多かれ少なかれ恩恵を得られる」

「あいよ。ま、俺だって多少はご相伴に預かれるんだ…何とかならぁな」

「やられるなよ、アモン。案外、悪魔殺しを作られるかもしれないからね」

 

桜花が立ち上がると、周囲の景色が徐々に霞のようにぼやけ始める。

代わりに見えてくるのは、荒れ果てた小麦畑だ。

 

「俺と君は相性が良いんだ…貴重な手駒は手放したくない」

「俺だってアンタんところは居心地が良いからな。でもま…暫しのお別れだ」

 

俺は桜花に背を向けて、荒れ果てた小麦畑を歩き始める。

大切な娘の手助けをしてやるために。

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